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その1☆この状況、告白以外有り得ないと思った奴出てこい!いたら殴ってやる!!

「あ、あのさ。アタシに何かおすすめの本、教えてくんない……?」


下駄箱レター、放課後、屋上。


告白以外有り得ないと思っていたそこの諸君。それこそ有り得ない妄想だ。陰キャの考えだ。


それを理解しているが故に、俺は何の覚悟も決めず指定場所へと向かった。


「おすすめの、本?」


血の色よりも朱色に近い空に、梅雨独特の少し湿り気のある空気。

風は生暖かく、正直長い間外に居ようとは思わない。


「うん。ホント、迷惑だったらゴメン」


だが、目の前にいる女子生徒の言葉を最後まで聞き、質問に答えるまで俺は帰路につくことが許されないのだ。


ああ、どうしてこうものこのこ来てしまったのだろうか。自分の愚かさが憎い。


「い、いや、迷惑では無いが同性に聞いた方が良くないか」


そうやって後悔しようにも、たかが陰キャの分際で、陽キャの権化ですらある相良の言葉を無視するような所業、出来るわけ無いのだ。


「い、いやだってさ……」


まあ、そんな理屈抜きにしても俺は相良の誘いを断れはしなかっただろう。


相良は今日、俺に初めて話しかけてきた。


そして俺は、今日初めてクラスの女子と会話をした。


詰まり、素直に嬉しかったのだ。


校内ヒエラルキーをものともせず、最底辺の俺に話しかけた。それだけでも尊敬に値する。


「その、アズマってアタマいいじゃん?だから、アタシのと、友達よりはいい本教えてくれると思って」


腕を後ろで組み、困ったような笑顔を見せる相良。何かを誤魔化している感じだ。


金髪を高い位置で結ったツインテールに、短めのスカート。夕日の逆光によって、神々しいオーラを放っているようにも見える。


思春期男子のようなことを言うが、恐らく夕日の下の相良を見たのは、俺がこの学校で初めてだろう。独り占めだ。


「だからさ、休み時間に読む本、教えてくれたらなーって」


八重歯を覗かせて笑う相良は、実に高貴だった。天使のリングと翼を幻視してしまう程に。


「ああ、そんなことか。わざわざ呼び出さなくてもよかっただろうに」


「そういう訳にも行かないの……」


おっと、そんなこと発言は不味かったか。


さっきまでとは一転して、悲しげな表情をしている。


こんな時は、どんな言葉をかけるべきだろうか。対人ステータスの努力値振りが圧倒的に足りていない俺には検討もつかないぞ。


「まあ、なんだ、俺は人の沢山いる場所が好きじゃないから、都合は良かったが」


右手でわしゃわしゃと頭を掻き、一歩下がりつつそう言う。


自分の行動をいちいち実況するってのもおかしな話だが、それくらい考えていないとまずいことを口走ってしまいそうで仕方がない。


恐る恐る顔を上げてみると、当の相良は口をぽかんと開き、目をぱちくりさせていた。


「そ、そうなの?」


「おう。それで、どんなジャンルの本が好きなんだ?」


情けないことに、これ以上同じ話は続けられない。話題転換をすべく、強制的に本筋に話を戻した。


「あ、それなんだけどね。気になってるのがあって……」


「なんだ?」


「カミサキがボロボロに言っていたライトノベルってやつなんだけど。読まない方がいいって言われると、余計に読みたくなって」


カミサキ、神咲というのは俺のクラスメイトの一人で、下の名前は彩斗という。

俺とは違い、容姿端麗で人当たりもいい。


勉強と運動は負けてないと思ってるので、敢えて何も言わないことにしている。言及はしないで貰いたい。してはいけない。したら殴る。


だって、運動部エースに加えて陽キャとかもうチートキャラじゃん。

勉強とかでは絶対に超えられない壁があるじゃん。


俺の愚痴もどきの嫉妬は置いておいて……

自分で嫉妬と自覚してるのが尚のこと悲しいのも置いておいて……


何故、彼はライトノベルを否定したんだ?


「駄目って言われると読みたくなるのは凄くわかる。で、ライトノベル略してラノベのどこが駄目だと言われたんだ?」


「それは……、不純異性行為とかえ、エッチな展開とか、主人公が負け組とか言われたんだけど」


「言い方に酷い偏見が……」


頭が頭痛で痛くなってきたぞ。酷すぎる。


「やっぱり、偏見なの?アタシもおかしいと思ったんだけど」


顎に手を当てて悩む素振りを見せる相良。そんな姿さえ絵になっている。


「中には、素晴らしい話もあるんだけどな。今度一冊貸してやるから、神咲に見つからないように家で読めよ?」


返事が遅いものだから、何かまずいことを言ってしまったのではと不安になる。流石に〜よ?は強引すぎたかしら。


「え、ありがとう。でもいいの?」


「別に、指垢が染み付くほど読むつもりも無いだろ」


「そ、それは当たり前だし!なんか例え汚いし!」


本気じゃない怒り方、滅茶苦茶眼福です。手を下に伸ばしてぷんすか湯気を放出している。


「明日学校に持ってくるから。じゃ」


このままセーラー服相良を眺めていたいのも山々だが、日が沈みかけているため家に帰らなければならない。ご飯も用意しないきゃならんしな。


「あ、あの!今日はサンキュ、明日ね!」


今までに比べて少し大きめの声。クラスでも中々耳にしない声量だ。


というか、放課後女子と話しただけで何舞い上がってるわけ?


俺ってもしや、馬鹿なんじゃないのか。





「煩悩退さぁあああああんッ!」


ガシャアアアアンッ!!!


と酷い音を立ててサンドバッグが揺れ動く。俺は右拳を振り抜いたまま固まった。


「兄貴、うるさいぞ」


ベッドにいるのは我が妹。これはまずいところを見られてしまったようだ。完全に目が引いている。これ他人ですよって顔してる。


「す、すみません」


嫌われたら泣けるので、大人しく謝ることにした。


「いつもに増して荒れてるけど、どうかしたのか?」


「金髪のギャル風美少女に呼び出されてな……」


「呼び出されてな……?」


「おすすめのラノベを貸す約束してしまった」


今思い出すと、明日ラノベ持ってきてやるよとか会う口実にしかなってない。俺、そんなにあの金髪さんに会いたかったのか?


いやいやいやいや、青春なんてもの謳歌してどうする。いつでも特別でいられる二次元に浸るのが俺って人間だろ。


「え、それはチャンスというやつでは?」


「昔からサブカル系のお話をできる異性の友達は欲しいと思っていた。だが、彼女が好きなのは神咲彩斗ただ一人だろ」


「確かに、想い人がいるなら誤解を招くような真似はしないな。例えそれが友情であったとしても……」


藍はそう言うと、軽く勢いをつけてベッドから降りた。手には携帯用ゲーム機が握られている。


「ま、声を聞けただけでも感謝しないといけないんだろうな。俺は所詮ただのボッチ……」


相談相手が妹しかいないこと自体、俺の孤独さを表している。藍は良い奴だし可愛いし、部屋を片付けられないことを除けば殆ど理想だ。だが、血縁関係。


「兄貴ってさ、そうやって青春を否定しまくってるけどたしか中一か中二くらいの時、努力値振りだー。努力値で青春が決まるー。とか叫びながら色々やってなかったか?」


うぐ、藍のやつ中々苦い思い出を持ち出してくるな。


「ゲームに影響されただけだよ。もしかしたら経験値でなんとかなる世界なんじゃないかとかとち狂ったこと考えてた」


「それで、実際役に立った?」


「進学や喧嘩にな」


「青い春は?」


「無効だよ無効!?クラスの中心人物が文武両道だったからいけると思ったのに!」


陽キャやリア充と文武両道はイコールでは繋がらなかった。彼らが有する能力に、たまたま勉強や運動が組み込まれていただけで別にできるからと言って仲間に入れるわけじゃない。


「オーラだよ、オーラが違うんだ」


「オーラねぇ。藍も分かるよ」


「お兄ちゃんのボッチ遺伝子受け継いでたらごめん」


「学校なんて友達いても行かないから大丈夫。藍には関係が無い」


そう言い切ると、藍は再び視線をゲーム画面に戻してしまった。なんでも、今年最高のヒロイン攻略中だとか。


ゲームやアニメに出てくるヒロインって、どうしてああも暴論をのたまうのだろうか。俺だったら、無条件で殴ってしまう自信がある。


まあ、暴力暴論系ヒロインやお嬢様ヒロイン、幼馴染ヒロインにも性格の良い奴はいるのだが。一年に一人見つかればいいほうだと思う……


「あ、そのギャル系美少女に貸すなら泣ける恋愛ものか笑える学園ものが言うと思う。」


「そうだな。最初は感動でアプローチを仕掛けてみるか!」


「やっぱり、そっちの道に引き込もうとしてる」


ハマってくれれば仲間が一人増える?的な……

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