3話 状況確認は大切です。
3秒でわかる前回のあらすじ
チクーロに物陰に連れ込まれた。
※少しだけ昔話のとこの描写とか変えました!!
しまった!!龍樹をシンに変えるの忘れてるとこあった!!申し訳ございません
俺達は柱の影に立っていた。神主やスーツの人達からは見えないような位置になっている。
「さて、さっきから疑問に思ってたんだけど。色々聞いていい?」
「お、おう」
俺が暫く見つめていると、光(チクーロ?)は、問い詰めるような口調で聞いてきた。鋭い眼光は俺の目を射貫く。俺は頷くしかなかった。何この子、おっかない。
「じゃあまず、あなたの名前は?後、出身地とかも教えて」
「おう。俺の名前は冰彗 辰巳。神奈川県産まれ。15歳だ。」
「やっぱりね…。」
「な、何がだよ…?」
光(チクーロ?)はうんうんと頷いた。
1人で勝手に頭の中で完結されても分からないんだよなぁ。そんなのはどこかのメガネ坊主で十分だ。しっかりと説明して欲しい。
「私ね、最初の時のあなたの反応に違和感があったの。シンならもっとうるせぇなぁとか言ってるもの。だからもしかしたら剣を抜いた時の副作用で記憶喪失にでもなったんじゃないかと思ったのよ」
「ほうほう。それで?」
「だけどどうやら意識はハッキリしてるみたいだし、残る可能性としてはシンが演技をしているか別人と入れ替わったかくらい。シンはそんなよく分からないことなんかしないし、だとすると」
「俺がそのシンだかニーベルグだかと入れ替わったってことか」
「シン・ニーベルグよ」
なるほど、分かってきた。さっきスーツの人達が俺をニーベルグって呼んでたのは俺がシンって奴だと思ったからか。俺が中身だけ入れ替わってるなら、見ただけじゃ分からないしな。多分俺の目の前にいるこの人も光じゃなくて本当にチクーロという名前なんだろう。
…待てよ、つまり今の俺の体はシンって奴の体ってことか?
「なぁ、鏡持ってるか?」
「え?持ってるけど……。ほら、これ」
チクーロから手渡された鏡を、俺は覗き込む。やっぱりどんな顔か気になる。
しかし、そこに映っていたのは。見慣れたいつもの顔だった。服もジャージのままだし、靴も履き馴れた黄緑のスニーカー。泥汚れもそのまんま。意識が回らなかったため気づかなかったが、ポケットにはスマホも入っていた。
変わっていたのは髪の毛くらいか。前髪の上の方に、白いアホ毛が生えている。更に髪の毛の左側の1部は水色へ変色してしまっていた。
思わず俺は叫んだ。
「ちょっ、待てよ!!これほとんどいつもの俺の顔じゃねぇか!!服もそのまんまだし!!ちょっとだけワクワクした俺の気持ちを返せ!!」
ちょっとイケメンになったかどうか期待しちゃったじゃねぇか!!
しかし、チクーロは訳が分からないという顔をする。
「え?私がよく知っているシンの顔よ?服と髪の毛は剣の光に包まれた時に変わってるけど」
「えぇ…。一体どういうことなんだよ…。こんな偶然ってあるもんなのか…?」
世界には同じ顔をした人が3人はいると言う。その事を考えれば可能性が無いわけじゃないけど…。何だか心の中に蟠りが残る。例えばそう、アジフライの骨が喉に突っかかった時のような。別に実害があるわけではないが、とても気になる。
と、鏡を見ていてふとあることに気付いた。今の事態の原因となった剣が、どこにも見当たらないのだ。
「ってかチクーロ、あの剣はどこいったんだ?」
「クロでいいわよ。あの剣なら、貴方がシンと入れ替わる時に光の粒になって体の中へ入って行ったわ。まるで貴方と一体化したみたいに」
「つーことは、今は俺の体の中にあるということか…。フム。」
もしかすると、この状況を作った剣を調べれば何か分かるかもしれない。どうにかして体から引っ張り出さねば…。
俺が好きな冰彗家に伝わる昔話の中で、主人公が使っている剣──…というか刀が主人公と一体化しているシーンがあった。その主人公は刀を顕現させる時に手を前に掲げ、刀の名前を叫んでいた。もし今の俺がそれと同じなら、同じ方法が使えるかもしれない。
俺は漫画のポーズを真似て手を前に突き出す。日本でやったら確実に厨二病とか言われそうな感じだ。
…だ、大丈夫だよな?この人本当に光じゃないよな?もし身内に見られてたら恥ずかしすぎるんだが…。
「…ねぇ、なんで手を前に突き出したまま固まってるの?まだ話さなきゃいけないことがあるんだけど」
「な、何でもない‼確か剣の名前ってバルムンクだよな?」
「ええ、そうだけど…」
「よし」
俺は手の先に力を籠める。小さい頃、某人気バトル漫画の必殺エネルギー波を出す真似をしていたのと同じ風に。気分は金髪のベジタブルな人だ。なんだか心なしか手が光ってきた気がする。
「顕現せよ‼バルムンク‼」
「…」
「………」
「……………」
何 も 起 き な か っ た 。
「………何をやってるの?」
「あぁぁぁぁハズイハズイハズイハズ過ぎて恥ずか死するうぅぅぅぅぅ‼」
徐々に冷めていく空気と絶対零度のクロの視線。俺は耐え切れずに頭を抱えてしゃがみこんだ。
もうやめて‼辰巳のライフはゼロよ‼
…しかし、一体どういうことなのだろうか。何か出そうな感じはしたんだけど。何かが違うような…。
「何かが………ッ!!そうか!!分かったぞ!!」
「今度は何よ…。ビックリするから急に叫ぶのやめてくれない?」
急に叫ぶ俺に、クロはビクッと肩を跳ね上げた。しかしそんなことを気にしている場合ではない。俺は続けて思い付いた考えを話す。
「なぁ、俺がどこで剣を抜いたと思う?」
「そんなの知る訳ないでしょ……あっ!!」
「そう、剣を抜いたのはここじゃない。俺が抜いた剣はバルムンクじゃないんだ」
ならば俺が抜いた剣は一体何なのか。そう考えた時、俺の頭に浮かんできたのは俺が好きなあの物語。小さい時にばぁちゃんが語り聞かせてくれた冰彗家に伝わる昔話。
昔昔ある所に、農家をやっていた1人の青年がいた。しかし何年も続く酷い日照りによってなかなか作物は育たない。収入はほとんど入らずとても貧しい暮らしをしていた。
そんなある日、突然空から一体の蒼い龍が降ってきた。その龍はまだ若い水の神だった。しかしその体はボロボロでほとんど瀕死の状態。慌てて青年はその水龍を介抱した。
青年が何故そんなにボロボロなのか尋ねると、水龍は火の龍にやられたという。どうやら日照りが続いていたのもその火の龍のせいのようだった。
話を聞いた青年は火の龍を倒すことを決意する。その事を水龍に話すと、水龍は「ならば私が刀となって力を授けましょう」と言って一振の蒼い刀になり、青年と同化したのだ。
青年はその蒼い刀と水龍の力で火の龍を討伐し、畑に潤いが戻ることとなる。
その時の蒼い刀の名前。それは―…。
「娑伽羅」
そう呟いた途端、手から光の粒が溢れ出てきた。それは俺の前で寄り固まって形を作る。
「な、何!?」
目の前に現れたのは一振の蒼い刀だった。昔話で聞いたのとほとんど同じだ。しかし、刀身の先が少し黒に染っていて柄には僅かに白く光る布のようなものが巻きついている。布には何やら古代文字のようなものが書かれている。
俺はシャガラを手に取ろうと手を前に伸ばす。
と。
俺の手が触れた途端再び剣は形を変えた。
一旦光の粒となり、再び体を構成する。その時に、激しい光を発した。
「また!?」
思わず俺とクロは目をつぶる。
一瞬で光はおさまり、俺はゆっくりと目を開けた。そこにあったのは―…。
「えぇっ!?光!?」
俺と同じ学校指定ジャージを着た幼馴染だった。
すいませんでした。
僕から言えるのはそれだけです。