1話 剣があったので抜いてみました。
3秒でわかる前回のあらすじ
シャトルを拾おうとしたら剣を見つけた。
そこには剣が刺さっていた。
「なんだこりゃ!?」
思わず俺は叫んだ。そして同時に、ある感情が湧き上がってくる。
「抜いてみたい…」
なんせどこかのゲームで見たような剣そのものなのだ。もしかして抜いたらチカラに目醒めるとかそういう展開になるかも知れない。
男ならワクワクするものだろう。
しかし、俺は伸ばしそうになった手を引っ込めた。
頭の中のもう1人の俺が語りかけてくる。
「普通に考えてそんなことあるはずがない。ここは別にゲームやラノベの世界じゃないんだ。どうせどこぞのモ〇タリングとかに違いない」と。
もしそういったドッキリ企画だったら、大恥をかくに決まっている。家や学校でネタにされ、「見ろよ、あいつがチカラに目醒めるとか思い込んでノリノリでドッキリに引っかかった奴だぜ」とか「プギャーwwザコww」とか言われること請け合いだ。
そんなことになったらもう学校になんか行けない。恥ずかしすぎて自宅を守護する仕事につくことになってしまう。
…—やべぇ、冷静に考えたら悲惨な結末しか思いつかないんですけど。
そんなことを思っていると、頭の中にまた俺が出てきた。さっきの奴とはまた別の俺だ。
「いやいや、それこそそんなことあるわけないでしょ。こんな引っかかる人が少なそうなところにドッキリ仕掛けるか?普通の人ならこんな洞穴入ってくるわけないだろ」と、反論してくる。
確かに。普通に考えてみたら引っかかる人が少ないところにドッキリなんて仕掛けるわけないよな。多分俺がここにシャトルを取りに来なかったら誰も入ってこない気がする。しかもこの町は近年少子高齢化が進んでいるところだ。もし老人が来たとしても首を傾げるだけだろう。
いや、でも—…。
そんな感じで表情をコロコロ変えながら逡巡していると、洞穴の入り口で物音がした。ビクッとしながら振り返る。
そこには、若干引いた感じの表情をした光が立っていた。
「ど、どうしたの?そんな変な顔しながらウロウロと歩き回って…。なんか危ない人みたいだよ?」
「ん?なんの事かな?見間違えじゃない?」
今後の俺の評価のためにも、俺はしらばっくれることを選んだ。親友に危ない人と思われるとかマジで終わってる。そんなことしたら恥ずかしすぎて自宅を守護する仕—…(ry
「えっ、でも…」
「そ、それより見ろよこれ!!なんかどっかのゲームみたいな剣が刺さってるぞ!!ビックリだな!!」
尚も追求しようとする光の意識を向けるため、急いで話を逸らす。
思った通り光は剣の話に食いついてきた。
「え?ホント?」
「ほら!!ここだよここ!!なんか台座みたいなのあるだろ!?」
俺は洞穴の中に光を連れ込んだ。剣を見せると、やはり光も驚いた声を上げる。しかし、その後の反応は俺と違っていた。なんと何も考えずに剣の柄に手をかけたのだ。
「な、何やってんだお前!?それを引き抜いたら将来は社会のゴミコース一択になっちまうぞ!?」
しかし、光は心底不思議そうな顔をする。
「え?何言ってるの?普通剣を抜いたら勇者とかになるんじゃないの?」
そうだった。光は昔からこんな奴だった。何も考えずに行動をすぐ起こしてしまう。人によっては行動力の化身と言うだろうし、勿論俺もそういう所を尊敬しているが…。同時に何度も痛い目にあっているのだ。
新作のゲームを買って帰りのバスのお金がなくなり歩いて帰るハメになったり、お腹が膨れてる女の人に席を譲ろうとしたら「いや、私別に妊婦じゃないんですけど…」と言われて微妙な空気になったり…。
人の悪い所は裏を返せばいい所なんて言うけれど、その逆もまた然りなのだ。いい所は同時に悪い所でもある。
…まぁ今回の場合は俺の考えすぎな気がするけど。
「んんんんんっ!!」
手にグッと力を込めて剣を引き抜こうとする光。しかし、剣はビクともしなかった。
「はぁっ、はぁっ。ダメだ。1ミリも動かないや。やっぱり勇者的な人じゃないと抜けないのかな」
疲れて諦めたのか光は剣から手を離した。光には適性がなかったらしい。いや、もしかしたら元々抜けないような構造になってるのかもしれないけどさ。
「やっぱそんなもんか」
「じゃあ辰巳もやってみてよ」
こりゃ俺も無理そうだなと諦めて溜息をつくと、光は俺にムスッとした表情で言ってきた。
えぇ…。いくら非力な光と言っても全く動かなかったんだぞ?俺に抜ける訳ないじゃないか。
しかし、光はそうは思っていないようだった。それっぽい事を言って説教してくる。
「最初から頭ごなしに出来ないって決めつけちゃダメだよ。僕らには可能性ってものがあるんだから。それに、いつも僕が出来ないことは辰巳が出来てたじゃん」
いや、そうは言ってもだな…。光が空を飛べないのと同じように俺も空は飛べないんだぞ。俺はなんでも出来るわけじゃない。むしろ出来ないことの方が多いハズだ。
しかし、光の目は異論を認めていなかった。コイツ、たまに強情な時があるんだよな…。こうなったらもう何をしても考えを改めないだろう。
「しょうがないな…」
俺は再び溜息をつき、剣に手をかけた。
この時俺は殆ど諦めていた。
考えたら俺みたいな普通な奴に勇者の剣が抜ける訳がない。別に俺は勇者じゃないのだから。いつも嫌な事から逃げてばっかりで。考え過ぎて行動できなくて。全く”勇敢な者”じゃない。むしろ光の方が勇者にふさわしいとさえ思っていた。
しかし。
そんな俺の考えに反し剣は少しの力だけで持ち上がってくる。
俺の心臓の鼓動はどんどん早くなっていく。
「あれ?これ少し動いてない!?」
凄い凄いと手を叩いて喜ぶ光。
しかし、俺は喜んでなんかいなかった。頬に汗をかきながらこの後のことについて思案する。
本当に俺が勇者になるのか?そんなことになったら学校とか行けなくなるんじゃないのか?敵みたいなものが出てきてこの町が破壊されたりするんじゃないのか?そんなことになったら—…。
そして。
遂に剣が台座から抜けた。
「うぉぉぉ!?抜けちまった!?」
叫んで剣を掲げる俺。
すると、突如として剣から眩い光が溢れてきた。
目もくらむような強い光。
太陽よりも明るいそれは、僅かに温もりをもって俺と光をのみこんでいく。
…—途切れそうになる意識の中で、俺は光の中に黒い影を見た気がした。
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最後の方のところを少し変えさせて頂きました。