微妙な二人(エルディ・ファイ)
それはたまたまファイと二人きりになった時。
エルディはロゼが帰ってくるのを待ちながら剣の手入れをしていた。そこに珍しくファイが声をかけてきたのだ。
「おい。ロゼどこ行った?」
ファイはロゼの従姉妹で姉妹の様な関係である。
エルディも何度か会った事があったが始めて対面した時、凄く睨まれてからほとんど無視されている。多分嫌われているのだ。
「カスタモニカだ。足りない装飾を譲って貰いに行った」
「ふーん。お前がロゼから離れるなんて珍しいな?」
そのまま居なくなると思いきやファイは向かいの縁に腰掛けた。何だ?今日は機嫌が物凄くいい日なのかも知れない。エルディは気にするのをやめて剣の手入れを続けている。
「別に、いつもくっついている訳じゃないぞ。お前も一人か?サナは?」
「知らね。アイツたまに姿消すんだよなぁ〜その隙にトンズラすっかな?」
「それで後々困るのはお前だろうな?」
ファイが良いことを思いついた!みたいな顔をしたのでやんわり突っ込んでおいた。ファイはそれは思いっきり聞き流した。
「お前見かけるたびに手入れしてるよな?楽しいのか?それ」
「楽しい楽しくないではない。必要だからやっている」
エルディは呆れた顔でファイの剣を見た。
ファイの剣は・・・ボロボロである。
「お前は・・・よくそれで戦っているな?そのうち折れるぞ、それ」
ファイが使っている武器は女性が扱うにはかなり難しい大剣である。エルディは手を差し出すと剣を渡す様示した。
「修理に出すまでの応急処置だけしといてやる。貸せ」
ファイはそれに一瞬沈黙した後だるそうにそれをエルディに渡した。エルディは丁寧に剣を鞘から外すとじっくり眺めてファイを見た。ファイはそっぽを向いている。剣の汚れを落とし緩んでいる箇所を固定しておく。
「これは、魔剣だな」
エルディはボソリと呟いた。ファイは少し驚いた顔でへぇ?と笑った。
「何で分かった?」
「ロゼの短剣もそうだが。武器から意思が感じられる。多分精霊や妖精に近いのかも知れないな」
そう言って隅で隠れている妖精達に目をやる。
ファイはダービィディラルである。彼等は自分の意思とは関係なく妖精に好かれる存在である。
しかしファイは妖精にあまり・・・優しくない。
「そうなんだよ。だから普通の武器屋じゃ見てもらえない。すげえめんどくさい」
成る程。それで放ったらかしか。ファイらしい。
エルディは笑ってその剣に手をかざした。
そのまま目を閉じて自分の中の黒魔力をその剣に移していく。すると剣は欠けた物が修復していき輝きを取り戻した。エルディは目を開けるとそれを鞘に戻しファイに返した。
「機会があったら柄をお前の手に合うサイズに直してもらえ。そうすればもっと扱いやすくなる」
「無償で餌をやるなんてお人好しだな。相変わらずそうで反吐がでるぜ」
何故か悪態をつかれたエルディは、しかし気にすることなく自分の作業の続きを始めた。いちいちファイの言うことを気にしていたら疲れてしまう。
「アーシェは・・・」
しかしファイから出てきた名前に思わずエルディの手が止まる。アーシェとはエルディの本当の名前である。彼が知らない自分の名前。
「お前と違っていつも穏やかに笑っていた」
エルディは普段無表情である。あまり笑わないしどちらかといえば仏頂面である。昔に比べれば大分それもマシにはなったが。
「だが、あのロゼを見る目は異常だった。ロゼは全く気づかなかったしアーシェも隠していたが、周りはすぐに気がついて、そのお陰で私が側にいない時にロゼが村人から嫌がらせをされる事が減ったんだ。一度本気でアーシェを怒らせて村の子供がアーシェに脅されてから」
淡々と話すファイの話に疑問が湧き上がる。アーシェという人物は穏やかだったと聞いていたからだ。自分の事だが。そしてロゼを見る目が異常だったとは・・・・。
「何も知らずに懐くロゼをそれはそれは上手く囲い込んでロゼが自分だけを見るよう巧みに操作していた様子を私はいつも側で見せられてたんだ。そんな奴がロゼから離れて居られるなんて想像できないだろ?」
薄々気づいていたがやはりファイはエルディがアーシェだと確実に気づいている。
それはそうだ。彼女は唯一三人が出会った頃の記憶を鮮明に覚えているだだ一人の人物だ。ロゼもエルディも記憶を失ってしまっているのだ。
「良かったな。覚えてなくても結局お前は一番欲しかった物を手に入れた。大分遠回りだったみたいだが結果が良ければそれでいいだろ?」
エルディが顔を上げるとファイは剣を担いで立ち上がる。
「剣の礼だ。ロゼには言うなよ?」
ファイはそのままどこかへ行ってしまう。
一人残され剣をしまってエルディは一人目を閉じてしばし動かなくなった。そしてゆっくりと前のめりに倒れ頭を抱えた。
(俺は・・・・一体どれだけ・・・)
いくら魔人の本質だと言ってもこれはない。自分自信に焼きもちを焼くなどと。
(しかも異常って一体どんな目でロゼを見てたんだ。当時10歳のロゼ相手に!)
本気で自分が恐ろしい。
間違いがなくて良かったと思う。
余計な爆弾を落としていったファイにエルディは余計なことをするんじゃなかったと後悔するのであった。