ロゼの失態(エルグレド)
あの時のエルグレドの心情です。
エルグレドはその夜。リュカから渡されたダンゲの尋問内容を読みながら腹わたが煮えくり返りそうな自分の感情を必死に抑えていた。
そこにはあの部屋での出来事も、事細かく書いてある。
エルグレドが踏み入った時ロゼの服は引き裂かれ彼女の足は大きく晒されていた。
そして、それらにダンゲは触れたのだ。
ギシリッ
自分が座っていた椅子の手すりがエルグレドの握力で軋んだ。
(許さない)
エルグレドは無意識に頭の中で何度もあの男を切り刻んだ
(絶対に・・・・この手で・・・)
この時。
彼は自分が何を考えているのか理解していなかった。
それは普段の彼であれば到底考えつかないような内容であったのに。
そんなエルグレドの部屋の扉を叩く者がいた。
もし、何時ものエルグレドであれば、これを無視出来たに違いなかった。だが彼は扉を開けた。
「・・・・今日は会わないと言った筈だが?」
そんなエルグレドの言葉にロゼは困ったような笑みを浮かべた。
それを見てエルグレドの心は苛立った。
(何故笑っていられる!!)
襲われてロゼであろうと怖かった筈だ。
それなのに、エルグレドが抱き上げた時。彼女は自分ではなく真っ先にエルグレドの心配をしたのだ。
それが酷く苛立たしい。
「話があるなら部屋に入れ」
心の片隅でもう一人の自分が駄目だと言っている。
だがエルグレドはロゼを部屋に入れてしまった。
「今日はごめんなさい」
心臓がすごい速さで鼓動している。
エルグレドは自分が何故こんな状態であるのか理解出来なかった。
「それは何について謝っている?」
あの場から、自分から逃げ出したことだろうか?
しかし彼女が口にしたのは、エルグレドが今最も聞きたくない者の名だった。
「ダンゲのことよあの男に油断して・・・・」
その瞬間。エルグレドの思考は真っ赤に焼き尽くされそうになった。身体が勝手にロゼに向かって行く。
ロゼは驚いて後退りしている。
しかしその背後は壁で逃げられない。
彼女の前まで行き困惑する彼女に構いもせず力一杯壁を叩きつけた。
「あの男の名を呼ぶな!!!」
ロゼの瞳が大きく開かれエルグレドを見つめている。
しかしエルグレドは我慢出来なかった。
「走って逃げ出す程俺との婚約が嫌だったなら何故俺に近づいて来た!」
(俺でいいと言ったのに、お前は自分から逃げ出した。)
「エルグレド・・・」
その時エルグレドはロゼの瞳に、エルグレドに対する怯えが含まれている事に気がついてしまった。
「そんな眼で俺を見るな!」
ビクリッとロゼの身体が震えだす。
(嫌だ。お前まで俺を恐れるのか。そして離れて行くのか)
エルグレドの心が真っ黒に染まっていくようなそんな感覚になった時。その言葉はエルグレドの耳に飛び込んできた。
「嫌いにならないで・・・・」
その言葉は幼い少女のような今にも泣き出しそうな声だった。
彼女が恐れているのは自分がロゼを拒絶すること。
彼女は嫌で逃げ出したのではない。
ただ不安だったのだ。
そう考えが及んだ時。
エルグレドの内側で狂おしい程の歓喜が湧き上がった。
エルグレドはその衝動のまま彼女を押し倒し言い訳をしながらロゼに触れた。
ベッドの上で彼女は驚くほど艶っぽい表情でエルグレドのキスを受け入れた。
「う・・・ぅん」
驚くほど柔らかい彼女の太ももを撫であげながら焼け付く意識の中で・・・何とエルグレドは正気を取り戻してしまった。
(・・・・・・・・・何をやっているんだ俺は!!!)
彼女の首筋に唇を押し当て暫くどうしようか考えてみる。
(・・・・・誤魔化そう)
無駄に20年生きてきた訳ではない。
ロゼとは恋愛経験値が違いすぎた。
ロゼはまんまとその日エルグレドに誤魔化された。