お騒がせな二人(ロゼと仲間たち)
メンバーが多くなってきたのでカップル以外とのやりとりは仲間と表示させて頂きます。
「潜入調査?」
その日浮かない表情のノゼスタにロゼとステラは話かけた。するとなにやら聞き慣れない言葉が飛び出し二人は興味を惹かれた。
「そうなんだ。どうもラーズレイの西の海域に海賊が出るらしいんだが、それが他の商船と紛れているらしくての。内部調査を頼まれたんだがの・・・・」
内部調査。ノゼスタとは縁のなさそうな仕事である。
「奪われるのは物だけでなく人もらしい。子供や女性が大半じゃな。早めに手を打たんと被害が広がる。しかし証拠が掴めんのだ」
「検討は付いてるってこと?」
ロゼが尋ねるとノゼスタは頷いた。成る程。後は決定的な証拠だけが欲しいのだ。
「なら私がその潜入調査に行こうかしら?」
興味深々で手を挙げるロゼにノゼスタは首を振って断った。
「駄目だ。お前さんは下手すると船ごと沈める可能性があるからの。断る」
「大丈夫よ?ちゃんと無抵抗なか弱い女の子を演じてみせるわ」
自分で演じてみせると言ってしまう辺り不安要素満載である。
「じゃ、じゃあ私は?」
「「駄目」」
ステラに人を騙せるとは思えない。
この辺りでカイルとホネットが三人の下へやってきた。
「何だ?なんの話をしてる?」
「今海賊船に誰が乗り込むのか決めている所よ」
「勝手に話を進めるでない!!」
もう乗り込む気満々のロゼをノゼスタは叱る。しかし全然響いていない。
「そんな話が出るくらいだから時間がないんでしょ?それにノゼスタがどうやってその船に乗り込むのよ?もし、そいつらが本当に海賊なら他の人間を労働者として船に入れるとは思えないわ。でも女は別でしょう?」
正論を言われノゼスタは黙ってしまう。
「詳しい話を聞かせてくれる?後これエルディには内緒よ?」
「何でさ?」
「あの人の事よ絶対止めるかついて来るでしょ?それじゃ潜入捜査の意味がないわ」
皆これを聞いて納得した。確かにロゼが行けば全て解決するだろう。しかしノゼスタは最後まで反対した。
「絶対にやめておいた方がいいと思うが」
「大丈夫よ。ギルドからの直の依頼なんでしょ?さっさと終わらせて皆んなでパーっと飲みましょう?」
ギルド協会から直接頼まれる依頼は普通の依頼より報酬金が高い。信頼している冒険者にのみ来る依頼である。
「わしは知らんぞ。どうなっても」
ノゼスタの呆れたような呟きにステラ達三人は意味が分からず首を傾げた。しかしその理由をその当日に知る事になる。
決行当日。
ロゼが支度をすまし出て行った後ルシフェルがロゼに会いにやって来た。ルシフェルとはロゼの仲間の神官だ。決して神官ぽくないが。
「おい。ロゼどこ行った?エルディが探してたぞ」
あれ?とステラは不思議に思った。エルディにはロゼは別の用事で今日は別行動をすると伝えてある筈だった。
「ロゼさんは仕事に行きましたよ?エルディさん聞いてないんですか?」
後ろからカイルとホネットもやって来る。ルシフェルはその言葉に怪訝そうな顔をした。三人は顔を見合わせる。
「俺と出かけると言ってたみたいなんだ。さっき初めてエルディから聞いて、あいつ嘘ついたな」
やばい。三人の顔が若干引きつった。ルシフェルはジト目で三人を伺うとステラが事の経緯を説明した。そしてルシフェルの顔を見てこれはただ事ではないと感じた。
「お前ら・・・いくら知らなかったとはいえ馬鹿だろ。ロゼがそんな所に行った事あいつに知られたらとんでもない事になるぞ・・・まいった」
ルシフェルの顔は見るからに青い。皆、何故ルシフェルがそんなに取り乱しているのかわからなかった。
「あ、あの。確かに危険ですが、ロゼさんが潜入調査するのは港にいる数日間の間ですから、間違って連れて行かれることは無いと思いますよ?ノゼスタも外で待機してますし」
「そんな事心配してるんじゃない。問題なのはロゼがその男だらけの巣窟に一人で行ったという事だ。あのロゼの見た目で男から全く目を付けられないなんて事あると思うか?」
確かにそうだ。かなり危険だ。
「お前ら、エルディが魔人なのは知ってるな?魔人が嫉妬深いのも。だがそれがどれほどのものか知らないな?」
確かにエルディのロゼに対する態度はちょっと度を越していると思う時はある。しかし異常かと言われればそうでもないと思う。ホネットは恐る恐る聞いてみた。
「確かにエルディはロゼにベッタリだし彼女しか目に入ってないのは分かるけど、今までそれで問題だと思うような事態にはなってないよ?何が問題なの?」
「それはロゼが手元にいたからだ。それに問題になる前に気づいてロゼか俺が対処してきた。だから大丈夫だっただけだ」
「具体的にこれがエルディにバレたらどうなるんだ?」
ルシフェルは眉間を押さえて唸り声をあげた。相当やばそうな予感に益々三人の顔が硬直する。
「恐らく。海賊は壊滅。加担したお前達もロゼも激怒したエルディに地獄の猛特訓を強制的にさせられるだろうな。だがそれはロゼに全く何も無かった場合のみだ」
え?これ以上の制裁が?逃げたい。
「もし、あいつに指一本でも触れたなんて事になったら何人死人が出るか分からない。あいつは普段とても温厚だがロゼが絡むと変貌する。それが魔人の性質なんだ。現にあいつは昔騎士だった時それで一人殺してる」
婚約者だったロゼを嵌め乱暴しようとしたのだ。その結果エルディはその男に容赦なく制裁を加えた。
「その男と決闘になった時、褒美を受けない代わりにその男を殺す事を望んだそうだ。その結果その男がどうやって殺されたかわかるか?」
凄く嫌な予感がする。三人は息を飲んで続きを聞いた。
「その男は声を出せないよう喉を切り裂かれ、腕を切り落とされた。そして泣いて逃げようとする男の首に容赦なく剣を振り下ろしたらしい。これがどういう事か、わかるよな?」
三人はようやく事の重大さが理解出来た。
もし、本当に万が一にでもロゼが男達の手に落ちてしまう事態になった時に怒り狂ったエルディが何をするのか恐しくて想像もしたくない。
「急いでロゼを連れ戻す。エルディが勘付く前に動くぞ」
三人は慌てて準備に走り出した。
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「呆気なかったわね。中に入ってすぐ誘拐された人達を見つけるとは思わなかったわ」
その頃ロゼはそんな事になっているとも知らずあっと言う間に依頼を解決していた。
船員に短期間でいいから何か仕事をくれと顔を出して言うとあっさり了承され中に通された。その途中、運良く妖精が一匹いたのでこっそり中の事を聞くとやはり誘拐された人達が中に監禁されていたのだ。そのタイミングでロゼは外で待機していたノゼスタに合図を送った。外では自警団も控えていた。
通された部屋には船長らしき男が鼻の下を伸ばして待っていた。後はその男と二人きりだったのでさっさと眠らせ、中の人達を解放してそのタイミングで自警団が中に飛び込んで来た。一件落着である。
「本当に何事も無く終わってよかったの。しかし、エルディにバレたらどうするんだ?」
「このまますぐ帰れば大丈夫よ。念の為あなたの名前は出してないわ」
そう。ロゼはノゼスタの名前から仕事内容がバレるのを懸念しルシフェルの名前を出した。しかしそれがいけなかった。何も知らないルシフェルがタイミング悪く来てしまったのだ。
「ロゼ!」
そんな二人目指して向こう側から何やら見慣れた者達が走って来る。その中の一人を確認しロゼは顔色が悪くなった。
「まさか。お前さんルシフェルの名前でも出したのか?」
「・・・・・・・・ええ。彼、ルシフェルの事、結構信用してるから」
まずい。これはエルディに嘘がバレたみたいだ。そしてみんなのあの焦りよう。ロゼは現実逃避した。
「今逃げたらどうなるかしら?」
「無駄じゃな。地の果てまで追いかけてくるのだろ?」
分かりきっている回答が返ってきてロゼは諦めた。ここは素直に謝ったほうが被害は少なそうである。
「ロゼさん!仕事は!?」
「何事もなく無事に終わったわ。今自警団に海賊を引き渡したとこ。その様子だと、間違いなくバレたわね?」
「馬鹿かお前は。なんで正直にエルディに言わなかったんだ。バレるリスクを考えれば反対されようが邪魔されようがよっぽど良かっただろうに」
ルシフェルは怒っている。当たり前だ。一番の被害者である。
「それでわざわざ皆んなで駆けつけてきたの?貴方達こそ馬鹿なの?」
「また、散々な言い草だな。最悪な事態を考えて飛んできたんだろうが」
カイルが不服そうに声を上げる。だがこの段階でホネットはロゼの言葉の意味に気がついた。
「しまった。僕ら本当に馬鹿だ」
「「?」」
焦るあまり気がついてなかったが皆んなでここに来てしまったのだ。
「本当に。お前達はわかりやすくて助かる」
背後からドスのきいた声が全員の耳に入って来た。
勿論彼である。
「慌てて出て行くからつけてみれば・・・ロゼ。随分一人で楽しんだみたいだな?」
「た、楽しんだなんて。ちょーっと人助けを手伝っただけよ?」
皆汗ダラダラである。エルディは無表情のままロゼの前にやってきて一瞥すると彼女の顎を掴んだ。
「何もされてないな?」
じっとロゼの瞳をのぞき込む。彼女が嘘をついてないか確認しているのだ。ロゼは笑って答えた。
「さぁ?どうかしら?」
皆がロゼの言葉にギョッとした。お願いだから問題を大きくしないでほしい。
「そうか。ならお仕置きだな」
エルディはロゼの腰に手を回して自分に抱き寄せるとロゼの顔を上に向かせ深く口付けた。
ステラは思わず後ろをむいてカイルとホネットの目元に手をやり見えないようにした。
ノゼスタとルシフェルもやれやれと他所を見ている。
エルディは散々キスして少し気が済んだのかロゼを解放するとロゼの顔を見て溜息混じりに呟いた。
「こんな事しなくても、したいならしたいと言えばいつでも応じるが?」
ステラ達にはちょっと理解し難いそのセリフにノゼスタとルシフェルとロゼが今度は狼狽えた。
「んなぁ!?何を!」
「なんだ。振り回されたのは儂等なのか?」
「おいおい。マジで勘弁してくれよ」
真っ赤になったロゼをエルディは構わず担ぐと。淡々と周りを見渡してから何でもない事のように皆に告げた。
「あまりコイツを甘やかすな。そして簡単に振り回されるな。俺達は一旦抜ける。今からロゼに説教しなきゃならないからな。安心しろ、お前達にも迷惑かけないよう、じっくりお仕置きしておいてやる」
そう言って口の端を上げたエルディの顔に皆何やら背筋がゾッとしたが何も言えなかった。担がれているロゼは真っ赤になって口をパクパクさせている。
「・・・・・ロゼ。諦めろ。お前が悪い」
ルシフェルは可哀想なものを見る目でロゼに言った。ロゼは目を見開いてプルプルしている。
反論する間もなくエルディに連れて行かれるロゼを見送りながら皆内心安堵した。
(((よ、よかった。こちらに被害が来なくて)))
薄情である。しかし自分の命にはかえられない。
「でも、エルディが言ってたのってどういう意味だろう?」
ステラがぽろっとこぼした疑問にノゼスタは首を振ってそれ以上詮索するなと釘を刺した。
「知らなくていいこともあるんだ。あの二人は放っておくといい」
「馬鹿らし」
「まぁ無事にすんだならいいか。帰るぞステラ」
ゾロゾロと皆が帰る中ルシフェルだけが浮かない顔で二人が消え去った方を見ていた。
(全く。ロゼの奴分かってんのか分かってないのか・・・もっと気をつけてほしいんだがな・・・)
皆何事も無く帰って行ったがこの後ロゼが大変な目に合うことをルシフェルだけは知っている。彼はロゼも心配なのだ。
(もう二度とあんな風に死んだりしないでくれよ)
「ルシフェルー!行くよー?」
「おーう!」
数日後、現れたロゼは一件何でもないようであったが若干エルディと距離を取っていた。ステラは怖くてその事を聞くことが出来ず周りも気が付かない振りをしていたので自分もそれに従う事にした。ステラも思っていることを直ぐに口に出さなくなっただけ大人になったものである。
その日をきっかけにロゼ一人での仕事は舞い込んで来なくなった。