ギルドに行こう! ロゼ×エルディ
ラーズレイ
そこは数々の冒険者を斡旋輩出する大きな街である。
ここに来ればありとあらゆる情報や物、そして労働力が手に入れられる。
その日。冒険者のロゼは相方であり恋人のエルディとこの街に足を踏み入れた。
「凄い人だな?こんなに人がいるところを見たのはガルドエルムの祭り以来だ」
エルディはこの街に来るのは今回が初めてだ。
実は今回そのエルディの冒険者登録の為にここに来た。
冒険者登録と言うのは外で冒険者の活動をするのに必要な手続きである。
冒険者は勝手に出来る職業ではないのだ。
「いくつか登録項目のチェックがあるから少し時間がかかるかも」
「意外としっかりしてるんだな?」
「そうね。まぁ基本どんな仕事をしようと自由だし放置なんだけど。これだけは絶対にしておかないと面倒な事になるのよ。後で見つかってギルドにその財産を没収されたりね。ギルドに目を付けられたら中々厄介よ。なんせ世界各地から腕のいい冒険者が集まるのだからそいつらに死ぬまで追いかけられる事になる」
それは確かに面倒そうだとエルディは思った。
「エルディは自分が魔人である事隠すつもりは無いのよね?」
この地の人々は魔人と滅多に出会わない。
魔人はイントレンスを故郷にしている。
そこから出ることは滅多にないのだ。
「特に言うつもりもないが隠す気もない。もし向かって来るものがいたら倒すだけだ」
実にシンプルな回答である。
エルディは魔人である。
本人は長い間その事を知らずに人間として生きてきた。
そう。魔人は人間との見分けが付きにくい。
「多分最初の登録で貴方の種別が分かると思うからどうするか迷っていたのだけど。それならいいわ」
「そんな事まで分かるのか?」
「まぁね。ここはありとあらゆる仕事を繋ぐ場所でもあるから。依頼主が指定してくる物にそういうのも含まれるのよ」
ようは種族差別的なものである。
人間には頼みたくないとかコルボ族には任せられないとか下らない思い込みや不信感も関係している。
「まぁ私はここでは長いからそれなりに顧客が居るしエルディが魔人だからって旅費に困る事は無いわよ?装飾技師でもあるしね」
エルディは顔を顰める。
一方的に養われるのは御免被りたい。
「さぁ着いたわ。入りましょう?」
そこは王宮程の大きな建物だった。
綺麗に整備された門をくぐり中に入るとその中はさらに広く手前には沢山のカウンターが並びそこに人々が列を作っていた。
「・・・・・・・・・凄いな」
エルディは正直に呟いた。
ロゼはうんざりして頷いた。
「とにかく並びましょう。モタモタしてたら日が暮れてしまうもの」
この最初の受付でまず物凄い時間がかかる。
ロゼがここに来た時はわずか11歳の時だった。
この大行列を眺め呆気にとられたことをいまだに憶えている。
とにかく順番を待って必要な情報を伝えるとエルディの腕に腕輪が付けられた。
「ではこのままあの部屋へ入って下さい」
その部屋はあまり人が並んでいなかった。
二人は首を傾げる。
「ここって確か最後に入る部屋ではなかったかしら?」
ロゼは自分の記憶を手繰り寄せ当時の記憶を思い出す。
「人が多いから振り分けてるんじゃないか?」
そんな事を言ってるうちにエルディの番が回ってくる。二人は部屋に通される。ロゼは付添人ということで部屋の後ろで様子を見ていた。
「さてさて・・・貴方はエルディと申されましたな」
その部屋には茶色のローブを着た皺だらけの老人と傍には同じくローブを羽織ったこちらはまだ若そうな女性が立っていた。
そしてこの部屋の中には沢山の"アガス"と呼ばれる結晶体が敷き詰められていた。
「貴方を最初にこの部屋へ通したのは他の項目は意味を成さないからでございます。この建物には入っただけで種族分けが出来るように仕掛けを施してあるからです」
エルディとロゼは目を合わせた。
つまりエルディが魔人だとすぐ分かったのだ。
「純血の魔人にその力で剣を一振りされてしまえばこの建物はすぐに崩れ落ちてしまうでしょう。まぁ人間だからとてそんな事が起きないとは限りませぬが・・・」
その老人の言葉にロゼは居心地悪そうに肩を竦め天井に目線を逸らした。
絶対にやらかしたな。エルディはジト目でロゼをみた。
「それに貴方の出自は知れております。エルグレド・ファイズ。まぁ有名な国の騎士ですからな。追っ手も数人おりますゆえ」
二人はこれにも驚いた。
そんな情報なんの対価もなく与えるなど今まで例がない。ギルドは仲裁人。誰の味方にもならないのだ。
「勘違いなきよう。これは今から貴方の力を正しく視る為必要な確認作業のひとつです。ではエルディ。剣を抜き持ったまま目の前の"アガス"に乗せてくだされ」
言われたまま剣を乗せるとたちまち周りの結晶が光を放ちその光を黒い渦が囲い混んだ。
ロゼはそれに眼を奪われた。
(綺麗)
これは魔人特有の黒魔術である。
「・・・・貴方は聖、闇どちらの力も強い。そして珍しい事に非常にバランスが良い。恐らくそれは貴方が闇の属性を呪いではなく剣技に使っておるからですな」
老人はじっと結晶を見つめさらに言葉を重ねた。
「聖魔術は確かに強いが貴方は回復魔法はほとんど扱えはしないでしょう。諦めた方がいい。しかし貴方にしか使えない術があるようですな?」
そう。確かにある。
「魔を払い。人々のほんのささやかな幸せを増幅させる事が出来、この地にその"記録"を残す。ガルドエルムに定められた儀式のひとつ"祝福"」
この地に記録を残す?二人は初耳である。祝福にそんな役割があるとは。
「貴方がこれを使えば救われる者もいるでしょうが、これは隠された方が宜しいでしょう。貴方は力が強すぎる。それが知られれば益々貴方は狙われてしまうでしょうな。まぁ貴方を狙った所でどうにもなりはしないと思いますがな?」
老人はふぁふぁふぁと愉快そうに笑っている。
なんだかやけに楽しそうだ。
「貴方はそのまま剣をお使いなされ。相性が一番良い。旅をしているうちに貴方に合う剣がきっと見つかるでしょう」
一通り見てもらうとエルディは剣を鞘に納めた。
「しかし最近このギルドには有望な人材が集まって来ますな?今年はもしや当たり年やも知れませぬ」
それは、エルディ以外にも強者が来ているという事だろうか?それは気になるとロゼは思った。
「貴方のギルド登録はこれで終わりです。旅立ちなさい。ラーズレイのギルドは冒険者をいつでも迎え入れる場所です。貴方がたが冒険者であるかぎり・・・」
傍らの女性がエルディの腕輪を外すとそれはたちまち粉々になり次の瞬間には文字に変化して老人の抱いていた水晶に吸い込まれた。老人はニヤリと笑いエルディの冒険者ランクを告げた。
「貴方の冒険者査定はSS1。これをもってギルドの仕事をされるがよい」
二人が建物から出ると辺りはすでに夕方になっていた。
ロゼはうんざりしながらエルディを見た。
「なんだ?変な顔をして」
エルディは全く訳が分からない顔をしている。それは当然なのだがロゼは初っ端から頭が痛くなってきた。
冒険者にはギルドのランクがある。
戦闘能力が記号のAから始まりSが最高ランクである。
そして数字はギルドの仕事をこなす度少しずつ上がっていく。これは1〜10までだ。それ以上は上がらない。まあこれが1なのは当たり前なのだが。
(SS・・・・SSって)
普通の人間なら大体上がってもFランクかG辺りである。
ロゼは魔力量が特殊なのでSランクでも不思議ではないのだが。その彼女さえSで止まっている。なのにSSってなんだ。限界を突破している。世界が滅びるレベルである。
ロゼはルシフェルが自分達を連れてきた時のあのげんなりした顔を思い出した。
今なら彼の気持ちがよく分かる。愚痴りたい。
「ロゼ?何を考えている?」
「いや・・・今、無性にルシフェルに会いたくなったわ」
「・・・・・・・・・・・・・は?」
自分の思考に気を取られていたロゼは自分の失言には気付いていないようだった。
この後。訳も分からずエルディのご機嫌伺いをする羽目になるとはつゆ知らずロゼは夕陽が沈む地平線の彼方を疲労の眼で見つめたのであった。