1、Get Ready
初投稿……です、多分。
不定期ですが宜しくお願い致します。
小さい頃から綺麗な景色が好きだった。
夜の空を眺めてその先に何があるのだろうと心を躍らせた。だからだろうか、子供の頃は宇宙が舞台のロボットアニメやゲームが好きだった。
水に関する物も好きだった。雨、雪、海。雨に濡れた街には何気ない美しさがあった。一面銀色の世界に心を躍らせた。紺碧で覆われた未知の世界に浸るのが大好きだった。
……まあ、そこから戦艦とか飛行機とかも好きになったんだが。
それは多分、ある程度大人になり掛けて、金銭を稼ぐようになり、かつ行動範囲が広くなったから本格的にのめり込んだと思う。溜めた金でバイクとカメラを買って、フラッと綺麗な景色を追い求めて、色々とやりたかった事をやってみた。
お堅い仕事をしていた親は放浪する息子をさぞや嘆いた事だろう。
思い返してみると、浪漫を追った人生だった。普通じゃない感性だとは分かっていたから、大分葛藤したし、随分と恥も掻いた。普通というレールから外れていく程に年上の友人ばかりが増えた事は中々興味深い事実だったと思う。
浪漫とは何か。その答えは人それぞれで議論は尽きない事だろう。俺にとっては綺麗な物と、格好いい物が浪漫という名の絶対正義だった。
「ドリルとパイルバンカーは浪漫だよね」
「いい趣味だ。だが、ゼロ距離射撃と全弾フルバーストも浪漫だ」
「君は射撃系の方が好きなのかい?」
「不沈艦と浪漫砲が俺の中で最上級だな。特に浪漫砲は伊達に浪漫が付いている訳ではないと思う。自分でも馬鹿だとは思うけど、想像するだけで魂レベルでテンションが上がる」
「わかる。超わかる」
だが、この状況はなんなのだろう。同好の士に会った時は語り明かしたくなる程嬉しい。だが、死んだあと、辺り一面が雲の上のような光景の中、神と名乗った男とこんな話をしている状況は、それどころじゃないだろうという感想が思い浮かんでくる。
……まあ、疑問に思った所でやめるつもりは無いんだけど。
「はぁー……いいよね。浪漫武器……近頃は効率がどうかとか、ありえねぇって端っから否定するつまらん者ばかりで、骨董品扱いだけどさ」
「浪漫は生き様だ。実用性が皆無だろうと、扱い辛かろうと、“浪漫”という不器用な生き様は金じゃ買えねぇんだよ」
「格好良いね。君は。引き取って正解だったよ」
神様がフッと手を揮うと、何も無かった場所にテーブルとそこに置かれた2杯の茶が置かれた。
「今のその言葉がファッションだけじゃ無いって知っているから、余計格好良いと思うよ」
「……そうか?」
手渡されたその茶を一口。香り、味共に最高級。人生で一番美味いと思うほどの紅茶だ。人生を終えてから味わう事になるとは皮肉だな、と思う。
伊武天志。享年19。丁度帰ってきていた地元の繁華街で通り魔が暴れる現場を目撃し、その犯人を取り押さえた後死亡。途中からカッとなって死ぬその時までの詳しい事は憶えていなかったが、神様から特別にと見せられた最後の時の映像は……うん、凄くバーサーカーでした。致命傷になった胸の傷を始め、あちこちをダガーのような刃物で刺されながらも、犯人をボコボコに殴り倒してました。
……まあ、死者は俺だけだったのが救いだけどさ。
だが、一つだけ見てよかったと思う物もある。自分の葬式の映像だ。まあ、貴重な経験だと思うんだが、警察の機動隊に所属していた父と刑事の母が俺の出棺の際に涙を流しながらも胸を張って敬礼で見送ってくれた場面だ。好き勝手した挙句早死にした親不孝者だったけど、せめて2人にとって胸を張れる息子だった事が誇らしい。それに、両親だけじゃ無くて多くの人が泣いて惜しんでくれた。
死んでから自分の価値に誇りを持てる辺りが何とも俺らしい所ではあるが、それは確かに救いだった。
「この魂を引きとって何をさせるつもりだよ」
「話が早くて助かるよ。その誇り高い魂を見込んで色々お願いしたい事があるんだ」
神様がサッと手を払うと、虚空に世界地図のような物が現れた。ようなもの、というのは俺の知っている世界地図とは似ても似つかない配置だからだ。その地図にはいくつかの光点が示されていた。
「これは私たちが管理している世界の見取り図だ」
「私たち?」
「君のいた世界と同じさ。この世界にも複数の神がいる。私はその代表であるが、一柱にすぎない」
「初っ端からアブラハムの宗教全否定なんだが大丈夫か……?」
と言っても、俺自身はキリスト教でもユダヤ教でもイスラム教でもないけど。
「一柱の神で世界を統べる事が出来たとしたら、その世界はこう呼ばれるだろうね――ディストピア、と。まあ、ここで宗教論を、それを神である私の口から語る気は無いんだ。だからそういうものだ、と思ってくれ」
「……オーケー。続けてくれ」
歴史上、世界で一番人を殺した議題だしな。
「かつてこの世界はこの世界を何分にも分けてしまった大乱があったんだ。それこそ、この世界は一度文明的に滅んだ事があると言っていい。我々神は基本的に世界に不干渉な存在だが、その時ばかりはかなりの介入を行った」
「壮大な話だな……」
「神が矮小な話をするものか」
浪漫について熱く語っていたのは……矮小な話では無いな。
「君には我々の代行として色々お願いしたい事があるのだが、メインとして、その時に私たちが世界に遺してきた『聖遺物』と呼ばれるあの世界にそぐわない力を持った武器や遺物を回収して貰いたいのだ。そのほとんどが眠りについていて、問題は無いのだけれども、そのものが少々活動期に差し掛かっていたり、人間界でもそれら聖遺物を探そうという機運が高まりつつあるんだ」
「何でそんな物を放置していたんだ。まさか、」
忘れていたんじゃないだろうな、と言おうとする前に神様は軽く手を振って遮った。
「まさか。遺してきた物にはそれぞれ意味がある。たとえば、封印の触媒……とかだったりね」
「ヤバい気配がビンビンしてきたァッ!」
何を封印しているかにもよるんだが、まさかかつて世界を滅ぼした“何か”を封印しているとかそういう話ではないと全力で願いたい。
それに、この浪漫主義の神様が遺した物なんて、どうぜ超兵器に決まっている。それだけに他の者の手に渡ったら困るという事情もわかるんだが……。
……まあ、『魔王を倒せ』とか、あまりにも陳腐で無理な話じゃなかった事は救いだけど。
「まあ、私たち自身が動くほどの事態でない時点でお察しなんだろうけど、それは多少の脅しも入っているよ。ただ、少し手を打っておきたい事態だってことは理解してくれ」
「成程なぁ……で、そこら辺の事情ってもう少し語れないのか?たとえば、封印の……触媒?とかを回収しても大丈夫なのか、とかな」
「封印については土地由来の物じゃなく、その物体そのものが封印なのだから回収してメンテナンスを行う事も可能だよ。他の詳しい情報は受けてくれたら順を追って、ね。話すと長くなる」
神様の話の口ぶりから、一筋縄ではいかないのだろう。そして、彼は明確に口にはしていないが『敵』がいる事も匂わせている。けど、だけど、神様の口調は一貫して真摯だ。神様ならば“命令”すればいいのにな。
「あと、神という立場上、色々と声が届くんだ――助けてくれ、とね。そういう声にも代わりに対応してもらいたい。聖遺物を求める機運が高まった理由もそこら辺にあるだろうし」
「まあ……断った所でどうなるかもしれないし、今の所断る理由は無さそうだけど、なんで俺が、っていう根本的な疑問は尽きないな。なにせ、俺は基本的に馬鹿だ」
「ああ……うん、そこに関しては自覚があるだけいいよ」
残念な事に頭が悪い類の馬鹿では無いから、話は大筋で理解は出来た。何故俺だという疑問はあるがこの際はどうでもいい。グダグダぬかす前にやってから後でたっぷり後悔するのが俺が俺である所以だ。
色々と漢魅せた直後という事もあって、イケメン度が爆上げされている気がするが、何度でも言おう。
俺は基本的に馬鹿だ。
卑下している訳でも無く、純粋にこう色々と後悔というか黒歴史がだな……。
「君を選んだ理由は勿論ある。ちゃんと裏も取ったし、多少は調べさせてもらった。丁度この時期死んだ人間で君の魂が私たちとの親和性が高かったとかちゃんと色々理由はある。それに、君は英雄的な死に方をしたのかもしれないけど……まだ燃え尽きた訳じゃないだろう?」
「……ああ。まあねぇ。ただ、荒事のお願いならば、もっと適性のある奴はいるだろ?」
「確かにいるよ。軍人や戦士といった類の人間は君の居た世界に限らずどこの世界にも幾らでもいる。でも君がいいと思ったんだ。安心してくれ」
何でそんなに買ってくれているか謎だ……俺の腕なんてしいて挙げられるとしたら、剣道二段と、中学時に柔道全国制覇した事ぐらいしか無いぞ。身体がそんなに大きくならなかったという大きな理由もあるけれども、趣味の為にどちらも一線から引いてるし。
「そりゃどうも。そこまで言うなら、もしここに戻ってきた時には言ってやるよ、『恥の多い生涯を送ってきました』と」
「恥の多い生涯を笑い飛ばしてきた子がそれを言ってもねぇ」
クソ、折角、賢く見えるセリフを言ったのに、見透かした事言いやがって。笑い飛ばせなかった事なんて幾らでもあるわ。
「まず君にはその世界で依頼を遂行するに必要なアレコレを渡す。渡す物は三つ。戦いぬく力、生き抜く為の知識、日常の保障だ。勇気と知恵と良心は自前でなんとかしてくれたまえ」
「自前で用意できるかはちょっと怪しいな」
「まあ、君なら大丈夫だと思うよ。行動力がある事は見てきたから知っている。それに、『勇気はあります』『知恵はあります』『良心もあります』と簡単に言ってくれるよりはよっぽど信頼できると思うよ」
「手厳しいな」
真面目な話、色んな意味で手厳しいと思う。力をくれる、知識をくれる、身の保証をしてくれる。だけど、そこから先は自己責任だ。神様が言っている事は当たり前のことだが、その当たり前の事をハッキリと言ってくる分、いざという時どんな態度を取られるかという事がまざまざとわかる。
それに、どれだけ俺が話を横道にずらそうとも、決してズレてくれない。
「それで、話を戻すけど、その新たな人生の中で、君には我々の依頼を遂行して欲しい。まず、君の身柄は神託と共に私を祀る神殿へと送る。そこを基盤にして動き回ってくれ」
「……わかったよ。その指示というのは、神殿経由で来るという認識でいいか?」
「いや、意志疎通は君へのパスを直に繋ぐ。多くの人に広めたい類の話ではないからだ。周りの協力が必要という場合は神託を降ろす。詳しい情報も閲覧できるようにしておこう」
神様が手をかざすと優しい光が俺を包んだ。確かに何か自分じゃ無い物が流れ込んでくる感覚がする。
「わかりやすくしてみたよ。意識して念じてみれば見えるはずだ」
「いや、わからねーよ」
ツッコミつつも意識して念じてみると、神様が地図を浮かべたように、何も無い虚空にスクリーンのような物が現れた。そこには地理や世界の情勢など必要な事が載っている。成程、知識といっても頭に直接たたき込んでくれる訳じゃないんだな……既読スルーへの対策は完璧じゃないか。
これは後でしっかりと読みこんでおこう……。
「言語についても問題無いようにしてある。筆記も普通に君の言語を書けば大丈夫なはずだ」
「それは助かるな……」
「それと、だ」
もう一度神様が手をかざすと、再び俺の身体が光に包まれる。身を包んでいた血塗れシャツとジーパンのラフな姿から、どこかスーツと軍服を思わせるタイトな装束と白いコートに身が包まれ、足元はブーツ。左手にはやや大きめのリヴォルビングライフル。
……浪漫だ。安い男だと自分でも思うけど、こういうのに弱いんだ。それに、この先、まだ見知らぬ土地を旅する事が出来ると思えば……。
使命的な物がある事だけは引っかかるが、目的が無い旅よりは多少の目的があった方がいい。
「そのままの格好というのもね。あまりゴテゴテした格好は私の趣味でも無いし、君の趣味でも無さそうだ。それに思った通り君は白が似合う」
「これはアンタの趣味か?」
「勿論。向こうは君のいた世界と違ってやや暴力的だ。君の武器を……と思った時に先ほどの会話を思い出したのさ。見た目はそれだけど、中身は君の大好きな大火力だと思ってくれていい」
「いい趣味だ……」
リボルバー型のライフルは排熱の問題などから姿を消した骨董品だ。リボルバー×ライフルという時点でもう卵かけごはん並の最強の存在感を感じるが、実際には産廃だったという。現代では姿を消しているのがその証左だ。
「普通に特殊な弾を討つ事が出来るんだけど、一つ面白い仕掛けがあってね。何も入っていないその状態のまま、試しに撃ってご覧」
神様が指差した方角に向けてリヴォルビングライフルを構える。そのまま撃鉄を上げると、身体のあちこちから銃へと力が流れていったのがわかった。力が集束していく何とも言えない感覚がわかると思わず獰猛に笑みを浮かべた。
「言うならばそれは弾が無い状態で発動する高火力モード。君が今漲らせているそれが魔力という奴さ」
「サイコーじゃねぇか」
「溜める間は無防備になってしまうのが難だけど――それがいいんだろ?」
「勿論」
集束し、目に見える程濃密になっていくそれを前に笑みを深める。自分から流れた魔力だけじゃ無い。自分を中心に渦を巻くように周りからの力も集束していく。
「行くぜ」
トリガーを引くと、バシュゥッと空気を引き裂く轟音と共に一筋の極大な光線が放たれた。その軌道に沿って大地を覆っていた雲が完全に千切れ、そこから遥か下に大地が見えた。
それと同時にゴソっと身体から一気に力が抜けたような気がして、思わず膝を付いた。まるで長時間走ったみたいにブワッと汗が噴き上がり、急に息苦しくなって全身が酸素を奪い合う。
「どう?」
「使い勝手……悪、過ぎ」
心躍る威力だったが、今この身体を取り巻く状況を考えるとそう何度も使いたいとは思えないシロモノだ。二日酔いでトライアスロンに挑んだような……そんな酷さ。だが、浪漫だ。
「気に入ってくれたようでなによりだよ。その他使い方については、先ほど君が開いたスクリーンで見えるようにしておこう」
普段使うであろう、弾が入った状態での使い方のこのオマケ感。
「では、落ち付くのを待って、もう少し話を詰めるとしようか」
中々容赦のない生真面目で不真面目な神様の態度に、少しだけ話に乗った事に後悔をした。