アドバルーン
本作品にはグロテスクな表現が含まれております。
珍しいな。俺は空を見てそう思った。実際は珍しく無く、俺が気にしてないだけなのかも知れない。しかし、俺の率直な感想がそうだ。俺が見たもの、それは、アドバルーンだ。空に浮かぶ真っ赤な球体。遠目に見れば浮遊しているに見える。する事も特に無い俺はアドバルーンを下から見てみようと思い、その方向へ歩き出した。大きさからして、そんなに離れてはいないだろう。
俺は色々な事を考えながら歩いた。まずはアドバルーンを上げている店についてだ。大方パチンコ屋かデパートだろう。パチンコ屋なら新台入替のときに上げるらしい。デパートの場合は新しく出来たか、セールでもしているのだろう。ただ、そこまで深く追求する必要も無いので、俺の脳内の議題は、今夜の夕食や友達と遊ぶ予定など、至って平凡な内容となった。自分が主役の美少女との出会いから始まる冒険活劇…などという思春期男子にありがちな妄想もした。
大通りに出て、住宅街に入り、コンビニで安いジュースを買い、公園の側を通りすぎると、目的地へと着いた。
そこは、何かの建物の廃墟だった。ひび割れたアスファルトには雑草が生え、外壁の塗装も落ち、敷地はロープで封鎖されている。建物の大きさや、駐車場の様なスペースがあることから、大きな店か何かだろう。ここでおれは矛盾に気付く。この建物は最近潰れたものでは無く、少なくとも十年は放置されている。そんな印象だ。だとしたら、何故アドバルーンが浮いているのだろうか。閉店時からこのまま、と説明出来るが、アドバルーンは俺の近所から見える。生まれてから十数年間引っ越していない俺が、今まで気づかないのは少しおかしい。では、誰かがイタズラで上げたのだろうか。他に理由があるかも知れない。しかし、俺にはここで限界だった。何となく俺はアドバルーンを見上げて見た。そして、目を疑った。
それは、真っ赤な肉の塊、そう表現するのが適切だろう。球体の表面には血管の様な管が確認でき、所々から臓器の様な物体も見える。更に、その球体からは、人の手足の様な物も数本………
俺は恐ろしくなって近くの電柱から様子を伺うことにした。すると、6歳位の女の子が、廃墟へと近付いて行った。俺は女の子に駆け寄ろうとした。しかし、動けず、黙って見ているしかなかった。
球体から触手の様な物が垂れ下がってきて、女の子の前で止まる。女の子は危険な物だと知らないのか、珍しそうに触手を見つめている……
それが最期の姿だった。触手は女の子の首に巻き付き、その小さな身体を地面に何度も叩きつけた。女の子の首は千切れ、胴体からは内臓が零れ落ちている。触手がもう一本垂れ下がり、胴体と首を回収する。俺は自然と目線を上げてしまった。上空に浮かぶ肉塊に丸く穴が空き、その中にかつて女の子だったモノを放り込む。捕食行動だろうか。辺りに濃い血の臭いが立ち込めてくる。
俺は走り出した。文字通り脇目も振らずだ。途中車に轢かれそうになりながらも走り続け、コンビニのトイレに駆け込む。そして、吐いた。便器に胃の内容物をほとんど吐いた。
数分経って落ち着いてた俺は、外に出た。恐る恐る空を見上げると……あいつは、肉塊はもういなかった。どこまでも、青空が続いているだけだった。あれが、何だったのか、白昼夢を見たのか、何らかの原因で幻覚を見たのか、それとも事実だったのか、それは永遠に解らないだろう。
読んで頂きありがとうございます。この話は、自転車に乗っているとき、近所のパチンコ屋のアドバルーンを見て思いついた話です。もしかしたら、この怪物は実在するかも知れませんので、注意したください。
感想お待ちしております。