俺、ゴブリンだったんだけどな
本当、ごめんなさい……………恋愛期待してた人には申し訳ない出来になってしまいました…………。
【俺、ゴブリン。魔王軍の下っ端やってました】の続編になります。まずは其方から宜しくです。
「ドミニク、突然だけど『旅立ちの町』に行かない?」
「へっ?でもライラあの町にはあんまりいい思い出無さそうだけど」
二人で朝食を食べていたらライラがそんな事を言い始めた。
ライラはあの町で、というかあの町の周辺にある森『はじまりの森』で仲間だと思っていた男達に裏切られて暴行を受けそうになったことがある。
だからあの町には二度と戻りたくないと思っているだろうと俺は考えていたのだけど。
「あの町から中々勇者が出て来ないから、広場にある『選定の剣』を使って勇者を捜すことにしたらしいよ。それで色んなとこから人が集まってきてお祭りムードだって」
「へぇ、勇者が………」
勇者のことなんて忘れてたなぁ、なんて思いながら俺は数ヶ月前までのことを思い出した。
「(魔王様は勇者を魔王城まで誘導して連れてきて、何をするつもりだったんだろう?)」
俺は今でこそ人間の男性の姿をしているが、つい数ヶ月前まで魔物だった。厳密には現在も魔物なのだけど、人間として生活しているからそこはノーカンだ。ライラも俺が魔物だったことはよく知っている。
まあ、それで数ヶ月前まではまともに魔物として、それも最下級のゴブリンとして生活していたのだけど、その時していた仕事が『魔王軍の兵隊』で、魔王様から受けていた命令が『勇者を魔王城まで誘導する』ことだった。
あの頃は「なんで勇者を?」と少し疑問に思うことはあっても特に気にすることはなかったのだけど、こうして人間として生活していると魔王様の命令がとても不自然に感じてくる。もしかして、「勇者は魔王である我が殺す」みたいな話だったりするのだろうか。魔王様の考えてることは俺にはわからないな。
「んで、どうする?行きます?行きません?」
1人思い出とか考え事なんかに浸っていたら、先に食べ終わっていたライラがテーブルの上に身を乗り出してきて此方の顔をのぞき込んできた。
上目遣いあざとかわいい。死ぬ。
「そうだな、それなら行ってみようか」
「ほんと?やったー!」
彼女はバッ!と椅子から立ち上がると凄い勢いでテーブルをぐるっと回って俺に抱きついてきたので慌てて今食べていたサンドイッチを皿に置いた。
抱き締めた彼女の柔らかい身体から優しい温もりが伝わってくる。
彼女のこういった突然のスキンシップにもだいぶ慣れてきた。ストレートに感情をぶつけてくるところも彼女の魅力の一つだ。少し子供っぽいところも可愛らしい。
―――ひょいっ
「わわっ、わわわっ!?」
抱きついてきていた彼女を持ち上げて膝の上に座らせる。そしてそのまま後ろからぎゅうっと抱き締めた。
「ど、どみにく………?」
「すぅぅぅ…………はぁぁぁぁぁ……すぅぅぅ」
「…………吸ってる??」
そのまま彼女の綺麗な銀髪にぼふっと顔を押し当てて息をした。最近彼女は家の周りでお花を育てているせいかお花畑みたいな甘い香りがする。
「………ヘヴン」
「……あなたもキャラ変わりましたよね」
「………ライラ、尊い…………あと20分」
「はいはい……このままですね」
見えていないけれど彼女が困ったような顔をしたのがわかった。最近はこうしてゆっくりと二人の時間を過ごしていることが多い。
俺もあれからずいぶんと丸くなったものだ。
ライラのお腹の上で重ねられた二つの手の薬指には、同じデザインの銀色の指輪が輝いていた。
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「わああぁぁぁ!凄い!凄いです!」
「あんまり離れてっちゃ駄目だよライラ。こういった混雑に紛れて悪いことをする人とか居るからね」
ライラが言っていたとおりに久々に訪れた『旅立ちの町』は沢山の冒険者や観光客で賑やかになっていた。
至る所に露店が並び、焼きそばや串焼きなんかの美味しそうな匂いが漂ってくる。
正にこの町は今、お祭りムードだった。
「もー、私を子供扱いして、そんなに私が心配ですか?」
俺が呼び止めるとくるりと振り返ってニイッ、と悪戯っぽく笑ってみせるライラ。
「ああ、心配だよ。本音を言えば一瞬だって離れていて欲しくない」
そう言って彼女の腰に腕を回して抱き寄せると、彼女は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いた。
「ドミニクさんの愛が重いです」
「そうかな?これぐらい普通だと思うけど」
数ヶ月前の俺がこの状態を見ていたら『いやいや異常過ぎるだろ』とツッコんでいたことだろう。
ライラが酷い目に遭わされるのはもう見たくないんだ。だから一時だってライラと離れたくない。
これだけの人が集まっていると、人混みに紛れて悪さをするやつが居ないとも限らない。だから俺は彼女の腰に回した腕にぎゅっ、と力を込めた。
そんな俺の様子に、ライラは少しぴくっと動いた後にくすっ、と笑う。
「この指輪も、ですよねぇ」
彼女はそう言って左手の薬指にはめられた指輪を感慨深げに眺めた。
俺が彼女と結婚した時に贈った指輪だ。
一見すると普通の指輪に見えるだろうが、この指輪には俺の魔力が籠められていて、ライラの身に何か起きたときはその魔力が自動でライラのことを守るようになっている。その上ペアとなっている指輪をはめていれば、お互いの居場所が何時でもわかるようになっている。
更にこの指輪、見た目はプラチナの指輪だけど、使われている金属はプラチナよりも貴重な『龍金』だ。龍金は本来は武器や防具なんかに使われる非常に硬い金属だ。故に耐久性能もバッチリ。
ライラを守るためだけに古い知り合いに頼んで作って貰った溺愛仕様の結婚指輪なのだ。
「ささ、ドミニクさん早く広場まで行きましょう!もう選定の儀は始まってますよ!」
調子を取り戻してきたライラが俺の腕を引っ張ってぐんぐんと進んでいく。
町の中央広場へと近付くにつれて、だんだんと人の数が増えてきた。
「うおおおおおお!いけぇぇぇボォォォォブぅぅぅ!」
「ふんぬぬぬぬぬぬ!!」
賑やかな中央広場。
その真ん中でニコニコと穏やかな笑みを浮かべた神官の男性が見守る中、台座に突き刺された剣を引き抜こうと顔を真っ赤にしたボブが居た。
ボブとザイルのコンビを見るのも久しぶりだな。
彼らの後ろにもたくさんの人々が並んで待っている。選定の剣に挑戦する人々の列だ。
「んん~、駄目っぽいですねぇ。次の方~!」
「ま、まだだ!まだぁぁぁ~~~~」
神官さんがニッコリと微笑んでパチン!と指を鳴らすと後ろに控えていた筋骨隆々のもはや神官とは思えないような肉体の神官が二人現れて、ボブの両腕をガッシ!と掴んだ。
「なっ、何をするダァァーーーーーッ!」
「ボッ、ボブぅぅぅぅぅ!」
じたばたともがくも、そのままギャラリー達のもとへと連れて行かれるボブ。気合いだけで勇者にはなれないのだ。
「しかし………凄い聖の気だな。流石は選定の剣だ」
「あれそのまま聖剣として使っちゃうらしいもんねぇ」
台座に刺さった煌びやかな剣は魔の強い魔物なら触れただけで卒倒しそうな程の聖の気を放っていて、魔の者としての力が弱い俺でも近寄りがたい。
ちなみにあのにこやかな神官さんから放たれる聖の気もかなりえぐいことになっている。
「ふんぬおおおーー!」
「あちゃ~、駄目ですねぇ。ハイ次どうぞ~♪」
「ぬわぁぁぁーーーっ!」
また挑戦者が筋骨隆々の神官?に連れられてギャラリーの中へと引きずりおろされていった……。
神官さんの笑顔が怖い…………。
―――くいくい
不意に袖を引っ張られた。
「ねーねー、おにーちゃんはちょうせんしないのー?」
誰だろう……?小さい男の子だ。
話しかけられたのにぼーっとしてるのもなんだと思い、何か話そうとしたら少し離れたところから母親らしき女の人が慌てて走ってきた。
「すいません!ウチの息子がご迷惑をかけて……」
「あ、いえいえ、全然気にしてませんよ。俺たちもまだ見てただけでしたし」
「そんな、彼女さんとのデートのお邪魔をしてしまって申し訳ないです……」
「私の方も全然気にしてませんし大丈夫ですよ。それに―――」
ライラはそう言うと嬉しそうに左手を見せた。
「えへへ………実はもう夫婦なんです」
「………まぁ!」
「すごーい!ぴかぴかー!」
左手の薬指にはめてある指輪を見て男の子のお母さんが顔を赤くした。ライラはまだ若いし、俺も見た目だけなら若いので夫婦だとは思わなかったらしい。
「と、いうことは、ご夫婦で観光に?」
「そんなところですねぇ」
「いつもは何もない町なんですけどねぇ。このお祭りの間だけでも楽しんでって下さいね!」
「またねー、ばいばーい!」
彼女は男の子の手を引っ張って去っていった。
男の子も元気に手を振っていたので此方も笑顔で手を振り返す。無邪気な子供はやっぱり可愛いものだ。
そして視線をライラに戻すと――
「ねぇ、ドミニク……?」
「………何かな?」
―――実に、悪い顔をしていた。
「ドミニクさん、聖剣チャレンジしません………?」
「ライラ……?本気で言ってるのかい?」
「本気ですけど………?」
「僕の正体、知ってるよね?」
「もちろん」
彼女の笑みがどんどん深まっていく。
成る程、俺は逃げられないらしい。
「………離れたくないんだけどな」
「我慢して下さい」
「…………はい」
思わずシュンとしてしまう。俺、人間ならもう30過ぎなのにな…………。
「まぁまぁ、あれぐらいの人数ならほんの十数分で終わりますよ~」
「……ちゃんと俺から見えるところにいてくれる?」
「大丈夫ですよ、居なくなったりなんてしませんから!」
ライラに抱き締められて頭を撫でられる。
普段なら至福の一時、だが今の俺はライラと十数分も離れていなければいけないことの悲しみと心配が勝っていてそれどころではなかった。
「うん……行ってくる」
「行ってらっしゃーい♪」
とぼとぼと列の最後尾に列ぶ。
列…………長いなぁ。
「ふぐぐぐぅぅぅぅぅ!」
「ハイ、アウト~♪次どうぞ~♪」
「ぐわぁぁーーーーっ!」
また一人脱落した…………。
「ドミニクさ~ん!頑張って下さ~い!」
「頑張れって……俺が頑張るのは違うだろ…………」
聖剣が持ち主を選ぶんだから俺が頑張ってどうするよ。
そんなツッコミをギャラリーの最前列まで出て来て声を張り上げるライラに心の中でした。
「はい、じゃあ剣の柄を握って下さいね~」
「…………はい」
俺は聖剣の柄を握り締めた。
うっ………なんか、違和感。綺麗な柄のはずなのに、イボみたいなものがくっついてウネウネしているような感覚がある。
これ多分聖の気のせいだ。俺の魔がそこまで強くなくて良かった。俺の魔が強かったらこれだけで気絶してたね、多分。
俺が変な顔をして聖剣を握っているのを後ろに並んでいた黒光り筋肉ダルマが面白そうにニコニコと眺めているのがよくわかる。此方から見えているわけではないけれど。
「(握ってはみたし………一応こいつを引き抜いてみようか)」
魔物である俺に聖剣が反応する訳がないと、俺は柄を握る腕にぐっ、と力を込めた。
そして、それを引き抜こうとし―――
―――ズルッ…………
「………………………あ?」
おい、今なんかズレたぞ。ズレたよな?
いやいやいや、有り得ん。俺は魔物だぞ?間違っても聖剣が選んで良いような存在じゃない。
気の、せいだよな?
思わず冷や汗が流れてくる。
ちょっと力を入れて腕を動かしてみる。
―――ガリ……ガリガリ…………
おおぅ………台座削れてるじゃないか……。
これは…………その、アレだな。パントマイムで乗り切ろう。
「ふっ!………ぐぬぬぬぬ」
全力で聖剣を引っ張るも、抜くことが出来ないごく普通の青年を装う俺。全身の筋肉に力を全力でこめて顔まで赤くさせるという名役者ぶりだ(当人比)。
その状態を30秒ほどキープすると、俺は聖剣がぶっ刺さってる穴に無詠唱で『アイス』を発動して凍り付かせた。
よし、これで問題ない。後ろのおっさん、俺の代わりに勇者たのんだぜ。
「………ハハハ、抜けませんね」
「ん~?もう少し頑張ってみてはいかがです~?」
如何にも普通の青年といった風に誤魔化してみせたのに、さっきまでバッサバッサと挑戦者を落としていた神官さんがやけに嬉しそうに続きを促す。
やめて、そんな期待した目を向けないで。
「いやぁ~……や、やっぱりもう止めようかなぁ……なんて………」
くるりと方向転換して台座から降りようとして―――
――――ガッシリ。
「勇者様」
「お戻り下さい」
「あ、あの……………?」
笑顔の筋肉ダルマ神官二人に両腕をガッチリと捕まれてしまった!ドミニクは逃げられない!
「諦めな、兄ちゃん……」
ポスッ、と後ろに並んでいた黒光り筋肉ダルマおっさんに肩を叩かれ、『やれやれだぜ』といったような顔をされた。
―――ガタ……ガタガタ……………
変な音がする…………。
具体的に言うと、地面に刺さった物が勝手に動いて抜けそうになってるような音が…………。
「う、嘘だろ……?お前、聖剣だろ…………?!」
――――ガタガタ!ガタガタガタガタ!
「おおおー!皆さん!勇者様が現れました!黒髪の彼です!勇者様です!」
実に嬉しそうな顔になって大声で観衆に向かって宣言する神官さん。
「流石わたしの夫のドミニクさんです!絶対やらかしてくれると思ってましたーっ!」
観衆の最前列で大喜びしてぴょんぴょん飛び跳ねるライラ。流石は聖女様だな。勇者が誰かちゃんとわかっていたのか……………って感心するところじゃないだろッッ!
どうするんだよ俺ッッ!ゴブリンだぞ!?
――――ガタガタガタガタ!バキバキバキ!
俺の『アイス』の拘束を解いて台座をぶち壊す聖剣。凄まじい輝きを放って俺へと向かって飛んでくる。
アレはヤバい!死ぬ!浄化されちゃう!
「う、うわぁぁぁぁ!来るなぁぁぁぁ!」
俺の目の前まで飛んできた聖剣は『俺を使え』と言わんばかりに柄の方を俺に向けてきた。
でも仮にも魔族である俺には聖剣の全力は流石にきつく………。
「あひゅっ…………」
―――どさぁ……
「ドミニクさーん!??」
俺は聖剣の聖の気にあてられて呆気なく倒れた。
どんなに魔の者としての力が弱くても伝説級の化け物じみた聖の気には俺の体が耐えられなかったのだ。
観衆の中から慌てて駆け寄ってくるライラと『あ、アレ?』と言って首を傾げている神官さんが見えたのを最後に俺の意識は闇へと落ちた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ギャハハハハ!俺様はカスダモン特戦隊四天王が一角!『デュラン・コドワ――――って、ちょっ、待っ、どわぁぁぁぁぁぁっ!」
「邪魔じゃボケぇぇぇぇぇぇいッッ!」
――――ズドォォォォォン!
ジャラジャラと呪いの装備がくっつけられた聖剣(呪いで聖の気を相殺しないとまともに使えない)の腹で横凪ぎにぶっ叩かれたモヒカン野郎が遠い山へと飛んで消えていった。
その様子を見てライラが手を合わせて祈りを捧げた。
彼の魂が来世では救われますように、と。
「なんでこんなことになったんだろうな」
俺はスイングしたあとの状態で固まったままそう呟いた。
こうして敵を倒した後って妙に心が落ち着いてくる。賢者タイムってやつだ。
あれから俺はあれよこれよと言っている間に勇者に祭り上げられ、ライラはライラで聖女の力を見せつけまくり、結果として町の人々に見送られて魔王討伐の旅に出させられることになった。
俺とライラが同時に現れたことで、教会の神官たちは『聖女を捜す手間が省けた』とホクホクだった。
人間の教会といえば欲望渦巻く魔境みたいな所だと思っていたのだが、俺の知らない内に随分とホワイトな職場に変貌していたらしい。腐った脳味噌のクズ共が一掃されたのは良いことだ。
そして出来れば勇者の任も無くして欲しかった。
『世界を救うため』とかそういうのいいですから、スローライフさせて下さい。
「えへへ………ごめんなさい♪」
ぼそり、と小声で嘆いた俺にライラは『てへっ☆』と言わんばかりに舌を出してウインクしてきた。
この確信犯め。仕返しとして馬鹿になるぐらい可愛がってやるから覚悟しろ。
「本当。先輩、ライラさんにデロデロっスよね~」
「常に半分液体のお前に言われたくない」
「へへっ、俺はデロデロじゃなくてプルンプルンっすよ。自慢の弾力っス!」
あと何故かスラリオンがついてきた。
彼曰く、『人間と結婚するなんて先輩は凄いっス!あり得ないっス!だから俺もついて行くっス!』ということらしい。意味不明だ。
そのおかげで町を歩く度にスラリオンを見た町民がぎょっ、として『俺は悪いスライムじゃないっスよ!』とスラリオンが反応して二度ぎょっとされるという事態が連続している。
町民達は最終的に『勇者様と聖女様のスライムなんだから人語が話せて当たり前だろう』という結論に至ったらしい。勇者と聖女万能過ぎだろ。
「それにしてもこの町おかしいよなぁ。なんで町に入ってからこう何回も襲われてるんだ?」
「カスダモン特戦隊っていうのがそもそも全然知らない名前ですからね。この町で何が起きているんでしょうか」
さて、俺たちは始まりの町を出て魔王城の方角へと歩き続け、3つ目の町である『ヤクザシティ』についたのだけれど何故かモヒカンやらオールバックやらに襲われる。
あとやたらと貧乏人が多い。
町に入って少しして、貧乏そうな家のとこの女の子が借金のカタに奴隷として売られそうになっていたところを話を聞いたらかなり理不尽だったので助けたのだが、それが拙かったのだろうか。
両親にはとても感謝されたのだけど。
「先輩、また来たみたいっスよ」
「ネズミみたいにどんどんわいてくるな………」
スラリオンの言うとおりにまた路地裏から今度はオールバックと七三分けのおっさん達がドスを片手に襲いかかってきた。
「「歯ァ、食いしばれやオラァァァァッ!」」
「カオスだな」
「ですねぇ」
聖剣を一振り。
――――ドゴォォッ!
「「ズビズバァァァァァッ!!」」
聖なる力とかもう関係なく物理でぶっとばされたヤクザ?達が奇妙な叫び声を上げて遙か彼方へと飛んでいく。
これで40人ぐらいは空に消えていったのだけど、いったいこれだけの人数はどこから沸いてくるんだろうか。
その答えは意外と早く見つかった。
「先輩、なんかあっちの方騒がしいっスよ」
「大きな建物が見えるな………行ってみようか」
なんだかギャーギャーと騒がしい声がする。
その沢山の声がする方へと歩いていくと、大きなお屋敷の前にやせ細った住民達が大量に押し寄せて門や柵をガタガタとゆらして中へと押し入ろうとしていた。
屋敷の中からは、オールバックやモヒカン、七三分けのおっさん達が大量に出て来て町の住民達を追い返そうと殴ったり蹴ったりしている。
「もう我慢ならん!クズイ組をぶっ潰せぇぇ!」
「カネ返せぇぇぇぇ!」
「食いもんよこせぇぇぇぇえ!」
「お前等の悪事を国中に広めてやるー!」
「黙れ雑魚共が!」
「お前たちは黙って借金返しときゃあいいんだよ!」
「ザッケンナコラー!」
「ブッコロシタルデオラー!」
成る程、ここかぁ。
ここからおっさん達がわいてきてたんだな。
「ドミニクさん………あのままじゃ拙いですし、ちゃっちゃと終わらせちゃいません?」
「そうだな。どういうことなのか話も聞かないとだしな」
どこらへんまでが勇者の仕事なのかは知らないけど、見てしまったものは放っておけない。
俺とライラ、そしてスラリオンはお屋敷へと突撃していった。
「「ブッコロシタルデオラー!!」」
また増えた…………何人居るんだこのおっさん達は………………。
「皆の者ぉぉぉ!宴じゃぁあぁぁぁぁ!」
「「わっしょい!わっしょい!」」
ガリガリにやせ細った町民たちが太鼓の音に合わせて叩いて踊り狂う。
其処は正にカオスだった。
「俺………もう勇者辞めたい…………………」
「まだ一ヶ月も経ってませんよ?」
「おうちかえりたい」
助けた人たちが喜んでくれるのは嬉しい。
だけどこうして人助けの旅を続けていく内に俺の中の何かがゴリゴリと削られていくのを感じていた。
さて、あのおっさん達だが、彼らはこの町を支配していたギャング『クズイ組』の構成員だったらしい。
クズイ組は汚い手口で町の住民たちを陥れ、そして生活もままならなくなった彼らに高い金利で借金をさせるといったことを繰り返していたそうだ。町長はクズイ組とグルだったらしく、今ではクズイ組の組長と一緒に中央広場に立てられた十字架に磔にされている。構成員達は鎖のようなものでぐるぐる巻きにされて地面に並べられていた。そしてその周りを町民達が踊り狂っている。彼らの正気もおそらく今日一日保たないだろう。精神が壊れるのも時間の問題だ。
クズイ組では他に『人身売買』『麻薬取引』『魔物取引』など数え切れないほどの悪事を働いており、『カスダモン特戦隊』はクズイ組でも精鋭のみを集めたグループだったようだ。
弱かったけど。
「皆であのクズ共の正気をゴリゴリ削ってってやるっスよ!」
「「ピキィィィーーーーッ!」」
主にサポートの面で地味に活躍したスラリオンも楽しそうに踊って(?)いる。助け出した魔物達、と言ってもスライムしかいなかったのだが、彼らも一緒になって磔にされた町長と組長の周りを跳ね回っている。
スライムしか居なかったというのは、スライムは人間の貴族なんかにペットとして高値で売れるかららしい。俺達魔物からすれば、人間をペットにするようなものだ。俺にそんなことは出来ない。
そんな捕らえられた魔物達を救えるというのは勇者になって初めて良かったと思えた。
聖剣は俺にとって呪いの品でしかないからいらなかった。あと魔王様を倒す気も今のところ全く無い。
「「わっしょい!わっしょい!」」
「「ぴきー!ぴきー!」」
ああ………ギャングの屋敷から謎の神輿が運び出されてきた。
町民達はそれを見て『ありがたやー、ありがたやー』と土下座している。
台座の部分に『ねぶた』って書いてある…………人間の考えることは相変わらず分からない。
喜んでくれるのはいいけど頭が痛い。
「うぅ………ライラ、俺もう家に帰りたい」
「ドミニクさんは勇者なんですから、泣き言は駄目ですよー」
「ライラぁぁ…………」
殺伐(?)とした旅の中でライラだけが俺の癒しだったとだけは言っておこう。
ドミニク
元魔王軍所属のゴブリン。今は人間として暮らしている。聖剣(呪いの品)に選ばれて何故か勇者になってしまった。聖剣は呪いの装備をくっつけておかないとロクに使えない。というか聖の力とか発動できない。
人助けは好きだけれど最近自分が勇者になったせいもあるのか人々の反応が凄くて自分の中の何かがゴリゴリと削られていっている。
ライラ
ドミニクと結婚した元冒険者の女の子。聖女だったことが判明。ドミニクが勇者に選ばれるのはなんとなくだけどわかってた。選定の儀も最初は見るだけでいいかなぁと思ってたけど、男の子の言葉でなんか吹っ切れた。
スラリオン
プルプル、俺悪いスライムじゃないっスよ。
何故かドミニク達についてきた後輩スライム。現在の目標は綺麗なお嫁さんを手に入れた隊長やドミニク先輩みたいに綺麗な色ツヤのスライムのお嫁さんをゲットすること。勇者になったドミニクの手伝いをしているうちに少しずつだけと強くなってきた。ぷるんぷるんの弾力が自慢。
ザイル&ボブ
仲良しの冒険者二人組。ボブのみが勇者選定の儀に挑戦、結果惨敗しゴリマッチョの僧侶に両腕をガッチリと掴まれることに。今度は別の町で行われる『聖戦士選定の儀』に挑戦してみようかなと二人で考えている。
カスダモン特戦隊
四天王をトップとしたクズイ組の最高戦力。しかし、ドミニクに瞬殺された。四天王も話では一人しか出て来てない。本当はあと三人屋敷の中で待ちかまえていたのだけど割愛された。
今度こそまともなの書きます。(´・ω・`)