⒋ 姉弟(3) 目神は他にもいる?
それから斬月の魂は無事に元の肉体へと舞い戻り、身体を起こして彼女は命落とした場所にて目を覚ました。
「……此の場所、そうか蘇生を功して…………」
そう呟きながら、現世で意識を取り戻した彼女。
「……乱月…………」
ふと名前を口にして横を見ると、そこには彼女の亡骸が転がっていた。
彼女も彼女で、一人の神様のある蘇生手段を試みたのだろうか?
それは分からないが、おそらく彼女はもう……
「一生涯……大切にしますから………」
斬月は御妹に手渡された二つの輪っかの紐を大切にすることを誓うと、この時代――人が亡くなると〈風葬〉ー“決められた地で亡骸を野ざらしにする”という、現代では考えられない処置が行われており、この近くの風葬地まで彼女の亡骸を担いで歩き出した。
そしてとある平地にて乱月の亡骸をゆっくりと下ろすと、斬月は腰を落としてその亡骸の前で合掌。
何も言わずに立ち上がり、後ろを向いてその場を立ち去る斬月。
「……ずっ……ぐすっ……………」
誰が見る訳でもない泣き顔を隠すように、亡骸の方を振り返ることなく、ただただ前を歩き続けるのであった。
……それからの彼女は、凄まじい成長をしていった。
あれから故郷へと戻ることなく、黙々と独自に生き残る為の力を磨き続けていった斬月。
とある里に建てられた根城の城内にて――
今宵も又、一人また一人と武人を殺生していく。
「此は久し……どうです元気でしたか」
「そんな……お前確と此の手に討ったに違ゐなゐ筈………。其れどういうことか其の姿変わらずして…………ぐあぁぁああああああぁぁぁ――――ッ!」
ある日の晩には、斬月を背後から刺し殺した元武士ー時の流れに応じて今や武将にまで上り詰めたその人物をも討ち取り、彼女の勢いは止まることを知らなかった。
誰かに仕える忍としての生き方はとうに捨て、ただひたすらに自分を救ってくれた御妹の分まで生き続けることだけを志とし、その障害となる者を次々に殺していく日々。
そんな生き方をし続けていけば、自然と増えていく敵の数。
だが斬月はそれに怯むことなく、果敢に立ち向かい、そして全てを殺した。
次第に永遠に老けないその容姿と心臓を刺しても死なない不気味さに、一部の人間からは“生霊”と言う異名で恐れられる存在にまでなっていた。
時代はどんどんと移り変わり、平安から鎌倉、鎌倉から室町へ、室町から………と―――。
時代が変わろうと、若くして命落とした斬月の体力は衰えることを知らず、そればかりか歴戦を繰り返す内に鍛えに鍛えられ、御妹の背中を追い掛けていたあの頃とは比べ物にならない強さを手にしていた。
……そして現在――
彼女はそうした苦難を、人の何倍も何十倍も乗り越え、ここに至るのであった。
少しの間――、苦い思い出に浸っていた斬月だが、思い出の品ー《二つの黄ばんだ輪っかの紐》を懐にしまい、木の上から静かに飛び降りた。
そもそも木の上でそんな思い出に浸ることは変わっていると思うが………、安全に目魂主に遭遇しない場所を考えてみると木の上というのは普段の生活において、特に人が目にしない場所であり――、尚且つ、生い茂った葉は姿を晦ますのに優秀な働きをしてくれる為、結構優秀な隠れ場所であるのかもしれない。
あの頃の武将暗殺の時も、木の上で待機していたものだ。
「本日も生きて、妹の乱月に償いを」
誓いの言葉を掲げ、彼女は目魂主探しに移動するのだった。
……そして、その背後に忍び寄る二人の人物。
「しっかし、ヘアム様も悪いお人だねぇ~。
絶望の始まりとも言えるゲーム宣言がなされた記念すべきあの日――、協力者の存在を目魂主に公表していたみたいだけど、まさかその存在が一人では無かったどころか《目魂主リスト》にすらその存在を公開していない隠れた目魂主がいるって言うじゃん。その一人が君な訳だ。……ねぇ、乱月ちゃん?」
「そうですね……」
「どしたの、元気無いじゃん?まっさか、実の姉の顔を忘れちゃったとか?」
「いえ、あねぎ………姉さんに隠し事をしておられることに対して、ほんの少し罪悪感が拭い切れないと言いましょうか……………」
「何、言っちゃってんの?君が先に言い出したことじゃん。
自分が生き返ったことをそこの姉さんに言わないで欲しいって目神様に頼んだの。何でもそれが姉さんの為になるから……だっけ?
……確かに、頼りになる人がいない状況の方が、生き抜く力を身に付けやすいしね。――でも、感謝して欲しいものだね。
なんたってそれを頼んだって、目神様はヘアム様じゃなかったんだから、私がヘアム様に説得するのにどれだけの時間が掛かっちまったことか。
……だって、目神様ってのは、ヘアム様を含めて三人………いや、三柱いるんだからねぇ〜」
【Q&A:三日月斬月編】
Q.お金を携帯していなさそうな斬月なのに、手裏剣や蜘蛛糸素材のマフラーはどのような経由を介して手にしているのですか?
A.確かにその部分は前回の物語で語られてはいませんでしたね。
実を言うと、消耗品である手裏剣はその昔生まれ故郷に居た頃は手裏剣を手に出来るツテがあった為、当時は気にせず使っていたが……いつまでも生き続ける身になってしまってからというもの、時代が進むにつれてそう簡単に手に出来なくなり、ある人物に出会うまで不格好ながらも研磨しながらだましだましに同じ物を使い続けていた経緯があります。
マフラーに関してはきちんとお金を支払って手に入れた物であり、長い年月を生きてきた中、様々な任務に当たりながら時として余裕があった時など、潜入した屋敷から小判をちょろめかしたり……
そうしてある時、質屋で換金して手に入れた有り金をはたいた結果手にしたそれは――、実は比較的最近になって手に入れた品であったりします。




