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⒊ 武視(1) 布都部島へ

 日本列島に位置する岐阜県のとある鍛冶屋でのある日のこと――


「さぁて、こいつで………よし、完成だ!」


 丹精(たんせい)込めて磨きに磨いた、(つや)やかで鮮麗(せんれい)された二つの小さな刀身を光に当てながら、その状態を確認しどうやら納得のいくものが出来た様子を見せる、若き刀匠(とうしょう)ー『稀街栞奈(きまちかんな)』。


「そんじゃあ刀の方は出来たことだし、お次は(さや)の製造に取り掛かるか……と言いたいところだけど――

 わざわざ私に頼んで来たとなると、あいつが普通の鞘なんて万に一つとして望んでもいない筈。

 お金は多く(はず)むって言ってたから、この機会に作ってみたかったものでも作るとしようか」


 そう言って彼女は、何やら設計図らしきものが描かれた模造紙が何枚にも木製の机の上に重ね置きされた、なんともごちゃごちゃとした設計室の中へと移動した。


「えーっと、あれは何処(どこ)にやったっけ?」


 重ね置きされた模造紙の中からお目当てのものを探し出そうとする栞奈。


 すると程なくして一枚の模造紙を掴み取り、それを両手に持って高く広げた。


「よっしゃ、見つけた!これを作ってみたかったんだよ」


 お目当ての設計図を見つけた彼女は、それを軽く丸めて片手に持ち変えると、その部屋の壁にいくつか刺さった状態で、放置されていた画鋲(がびょう)をもう一方の手で四つほど掴み取ると、設計室を後にした。


 再び作業室へと戻るなり、(かま)などが置かれた、いわゆる火の元には近付けないよう、少し前に刀を磨いていた箇所(かしょ)の壁に例の設計図を張り付ける。


 まずは、ブシュラが指定していた刃渡り十五センチほどの刀身が(おさ)まる長さにまで木の板をカット。


 その板を四枚用意すると、今度は工具棚から一つの(かんな)を取り出し、それを使って板全体を平らにしていく。


 平らになった四枚はそれぞれ二枚ずつ重ね合わせることで、鞘の原型が二つ出来る訳だが、重ねる前に空洞を作らなければ、刀を収めることは不可能。


 そこで重ね合わせる二枚の板を、刀身の二分の一の深さにまで掘っていく作業を鞘二つ分渡って(おこな)っていく。


 ある程度まで掘ったら刀身に油を塗って板を合わせ、板に油が付いた部分を削り落とし、小刀の出し入れがしやすいようその作業を何度も繰り返したのち、スムーズな抜き差しを可能とした至高(しこう)の木の板を四枚作り出す。


 そして二枚の木の板を接着し、鞘の完成!……では無く、刀にとって大事な刀身を固定する(はばき)と言われた、刀身の手元部分に存在する金具を(おさ)める空洞(くうどう)も作っていく。


 今度こそ、小刀の容器としてのあり方が完璧となった鞘を形作るべく、続飯(そくい)と呼ばれた()――、いわゆる“のり”で接着し、乾くまで(ひも)で縛り、木の(くさび)を刺して良く締める。


 そうしてやっと、鞘自体は完成したのだが、普通の鞘を作っただけでは彼女が作りたかったものとは言えない。


 ここから壁に張った設計図の出番である。


 何やら細かく描かれているが彼女は戸惑うこと無く、普段から鍛えられている持ち前の腕と若さ(ゆえ)の判断力で、ただの木の筒だった鞘が見る見るうちにその姿を変えていく。


 ここまで休憩を(はさ)みながら作業し続けていたが、その作業スピードはかなりのものだった。


 思わずその道の職人でさえ見入ってしまう程の手際の良さは、確かに若くして刀匠(とうしょう)と言われるだけの力量である。


 そうして変わった二つの鞘が完成した。


「こいつは最高にイカしたものが出来たってもんだ。……さてと、私の仕事に大変ご迷惑を掛けてくれたこいつの依頼人には、直接文句を言ってやんねぇとな」


 二振りの刀を鞘に(おさ)め、白い布を巻き納品用の木箱の中へとしまうと、作業疲れで重くなった腰をゆっくりと上げた。


 再び工具棚を開け、中から何故(なぜ)か肌を守る為の防暑(ぼうしょ)防寒(ぼうかん)クリーム:NEMTD(ネムテッド)AC(エーシー)の容器が出てくると、それを開けて顔に両腕に両足と塗りたくったのち、近くの壁に引っ掛けられた外出用のNEMTD(ネムテッド)PC(ピーシー)を羽織り、それと一緒に車のキーを持ち去って行く。


 外に出た彼女は〈鍛冶屋稀街〉という文字が書かれた軽バンへと乗り込み、一般的には知られていない布都部島(ふつべじま)へと続く、特殊船(とくしゅせん)が待つ港へと車を走らせるのだった。

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