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⒉ 真目(7) どうしても私の目を奪うって言うの?

 時刻は十六時ちょっと過ぎ。


 紫乃と麻結の二人は同じ道を……古民家(こみんか)数軒(すうけん)建ち並ぶ、紫乃が学校から帰る時に普段なら使用しない静かな通りを歩いていた。


 万が一にも彼女が一人で帰った際にどこかで兄さんと出会ってしまい、例の隠し事をバラされてしまわぬよう、こうして昨日から一緒に帰っているようにしているのだ。


 念には念をと、紫乃の行動力は(すさ)まじいものだ。


 だが、昨日はこの通りを(あゆ)まなかった。


 何故(なぜ)、今日はこんな場所を………


 この辺りは人が住んでいるのかいないのか、三年前からこの島で暮らしている紫乃でも良く知らない不気味な地域。


 唯一知っていることとすれば、この場所は布都部島(ふつべじま)のちょっとしたホラースポットとも言われており――、


 なんでもこの辺りで暮らしていた老人達が亡くなったことを誰にも知られぬまま、それらの腐敗(ふはい)死体が転がっているとか(なん)とか………


 とにかくそんな(うわさ)もあって、この辺りを通る者はあまりいないのだが、中学生ぐらいの………それも女の子であるにも関わらず、二人は特に怖がる様子もなくどんどん先へと進んで行く。


 すると、麻結は紫乃の一歩前に出ては突然、身体をぐるりと後ろに向き直り、口を開いた。


「この場所良いわね、人気(ひとけ)も無いし《ピヤー ドゥ ウイユ》を(おこな)うには打って付けだわ」


「まさか今日――、通学路を通らなかったのは、こういった場所を探す為………」


「あはは、バレちゃった?そろそろ紫乃ちゃんを楽にさせようと思って」


「どうしても私の目を奪うって言うの?」


「紫乃ちゃんが嫌と言っても、私はやるよ。こういうのって、チャンスがある時に動くべきだと私は思うからねっ!」


 そう言うと両手を紫乃の目の前に広げ、目魂(めだま)を抜き取ろうと動きに出た麻結。


 紫乃は危機を感じて数歩後ろに下がり、その手を(のが)れた。


「逃げないでよ、紫乃ちゃん。痛みは一瞬だって。親友であるこの私が《ゲーム》という地獄から解放してあげるから」


 そう言って、再び紫乃の目を(えぐ)り取ろうとする麻結。


 紫乃は再び()けると、声を大にして言った。


「やめてよ、麻結ちゃん!私はそんなの救いだと思ってない。

 私は兄さんが……兄さんと一緒に何気ない日常を過ごすことが一番幸せなの。

 だからどんなにこのゲームが苦しくても、兄さんと二度と出会えないことに比べたらマシよ」


「紫乃ちゃん、そういうことじゃないでしょう?………空気読んでよ」


(なん)で!?そんなのって変だよ。

 本当の親友なら、相手が望んでいないことを強要(きょうよう)させたりなんてしないよ」


「良いから素直に奪われて………奪われろって言ってんだよぉぉおおおおおおおおおぉぉぉぉ―――ッ!」


 突如――、麻結は悲鳴じめた奇声を上げながら、彼女に飛び掛かった。


 紫乃は麻結の突然の奇声に一瞬だけビクッと身体が反応してしまい、動きが遅れるもなんとか(かわ)すことには成功した。


 だがこの時――、紫乃は躱そうと(あわ)て過ぎていた。


 あろうことか地面にあった手頃な石に足を取られてしまい、尻餅をついてしまったのだ。


「しまっ……」


「チャ〜ンス!」


 麻結はぐるりと方向転換すると、目魂(めだま)を開眼。


 凹型の瞳孔に鬱金色(うこんいろ)の瞳をした目魂(めだま)(あら)わになった。


 目魂(めだま)が開眼されたことで麻結の両目は(わず)かに発光し、紫乃は思わず視界を両腕でおおった。


「その手は邪魔(じゃま)だって紫乃ちゃん。良いから私の目を見なさい」


 そう言って、強引に腕を引っ張って退()かそうとする麻結。


 紫乃はその一言で絶対に目を合わせてはいけない――目を合わせることで能力が発動されることを(さと)り、両目を(つむ)ってなんでかんで視線を合わせないよう、必死に抵抗した。


 だが、それをいつまでも続けていたところでなんの解決策にもならない為、紫乃はここで()けに出た。


 麻結が自分の両腕を退かそうとそっちに集中している間に、紫乃は目を閉じたまま目の前を――彼女の隙だらけなお腹を両足上げて強く蹴り飛ばした。


「ごはっ……」


 中学生の女の子らしからぬ鈍い声が発せられると、足をよろつかせ一瞬だが自分の元を離れた麻結。


 紫乃の両腕を(つか)んでいた手は蹴られたお腹をさする手へと変わり、自由になった彼女は急いで後ろへと走った。


「あいつ、思いっきり蹴りやがって。絶対に逃がすものか!」


 麻結は慌てて彼女の後を追った。


「ハァ、ハァ、ハァ…………」


 紫乃は後ろを見ないようにひたすら走り続ける。


 だがその様子は少しおかしく、何かを探すようにキョロキョロと左右を見る素振りがあった。


 そして古民家集落の周りを走り続けていた紫乃は、壁面が緑化したこの場所一番の歴史ありそうな引き戸タイプの玄関扉がある古民家の中へと逃げ込んでいく。


 彼女が入っていくところを確認した麻結は、似たような長さをした木枝を何本か拾い上げると、中へと入り内側から戸を施錠(せじょう)したのち――


 引き戸が()し合わせしたことで出来た扉の出っ張り部分とケーシングとの間に、例の拾った木枝を等間隔(とうかんかく)に横向きで押し込み、出入り口に厄介な妨害柵(ぼうがいさく)を仕掛けた。


 すると室内の方へと視線を変え、子供とかくれんぼをするお父さんのような仕草で口を開く麻結。


何処(どこ)にいるのかなぁ、紫乃ちゃん?出て来ておいでぇ〜」


 そんな紫乃はと言うと、この家の部屋を片っ端から入っては()、入っては出を繰り返し、やはり何かを探している様子だった。


「――早く顔を出してごらん」


 奥で麻結の声が聞こえると、紫乃はまだ入っていなかった浴室(よくしつ)へと駆け込んだ。


 こうなったらカビだらけの風呂フタを開けて、汚いバスタブの中に隠れようと行動に出た紫乃だが、そこにはすでに()()がいた。


「こ、これは………」


 紫乃の視界の先にあったもの、それは腐った()()()()だった。


 骨格に沿()って痩せ細った死体が目を開いた状態で転がっているといった状態である。


 それを見た紫乃は、何故(なぜ)だか急に歓喜(かんき)し始めた。


 まさかこれが彼女の探し物だったのか?


 (はた)から見れば、紫乃は何か精神的におかしい子なのかと思ってしまうだろう。


 そして紫乃の両目が一瞬だけ光ったような、そんなことがあるような無いような時――、奴は現れた。


「みぃ~つけたぁー!」


 浴室の扉が(わず)かに開かれ、顔を(のぞ)かせる麻結。


 鬱金色(うこんいろ)の瞳はついに()()()(とら)えた。


「やっだぞ…っで、なんだごの()()は?」


 麻結の能力ーそれは目を合わせた者の身体に宿っていた筈の精神を抹消(まっしょう)し、その器に自らの精神が入り込むことでその存在に成り代わる力:【精神移瞳(セイシン・イ=ドウ)】。


 抜け(がら)と化した肉体から元の目(干からびた目)が弾け飛び、空いた眼窩(開孔)からにゅるりと鬱金色(うこんいろ)(目魂)が顔を出す。


 何処(どこ)となく既視感を感じる異能は、目崎悠人がゲームに立ち上がったまさに彼にとってのデスゲーム生活の原点(地獄のサイクル)とも言える、初めての目魂狩(めだまが)りをした目魂主(プレイヤー)であった百目鬼瀬良(どうめきせら)が扱う《精神廻替(エクスチェンジ)》の力に近しいものを感じる。


 事実――、これは《ゲーム概要》には記載されていない情報だが、いくつかの目魂(めだま)には相対して《互換性》のある目力を身に宿した目魂(めだま)が確かに存在する。


 麻結が使う目力はまさにその互換性にあたり、創造主ヘアムが一度創り出した目でどうにも自身のお眼鏡に(かな)わなかった目魂(めだま)はもう一度創造することがあり、このように似たような能力が宿る目魂(めだま)が他にもいくつか存在する。


 そうして先に創られ気に入らなかった目魂(めだま)はヘアムの間で《失敗品》と呼ばれている。


 つまりは麻結の持つ目魂(めだま)は《成功品》とされている筈だが、それを(あつか)う彼女は失敗したようで……


 確かに人の目は捉えたものの、その人の目は人の目でもバスタブの中に放置されていた()()()()()()の方を目にしてしまったのだ。


 ()からびた身体はどうにか《目魂(めだま)》という生命エネルギーのおかげで生きている始末――。


 これは決して麻結がドジだからでは無い。


 紫乃の精神を抹消する筈があの時――、腐敗死体はまるで紫乃のことを(かば)うかのように、ひとりでに前に出たような動きがあったのだ。


 死体が動くなんて現象――、それこそ目力のような異能の力でも働いてない限り、起こる筈が無いこと。


 まさにそれが紫乃の目力めぢからー目にした亡骸(なきがら)を意のままに操ることが出来る能力:【死霊術視(ネクロマン=シー)】にあった。


 あくまで紫乃は自身の目力にあったものが発見したからこそ、彼女はあのような反応をしていたのだ。


 紫乃はそんな目力で一時的に危機を回避したが、それ(ゆえ)に麻結の精神が腐敗死体に乗り()わったことで彼女は驚きを隠せなかった。


「し、死体が(しゃべ)っ………ってまさか麻結ちゃん?」


「麻結?誰だ………。ぞうが、前の身体の名だな」


 ガラガラの声で話す腐敗死体。


「何を言って…………」


 と、紫乃が問い掛けようとしたその時――、奴はクシャクシャの(まぶた)をどうにか動かし、この身体での鬱金色(うこんいろ)目魂(めだま)の開眼に成功した。


 瞳から漏れる(わず)かな光を紫乃は見逃さず、いち早く異変に気付いた彼女は急いで浴室から退出した。


 奴は追いかけようにもこんな身体では足を動かすこともままならず、紫乃の死霊術視(ネクロマン=シー)】が見えない糸で死体を動かす操り人形なら、【精神移瞳(セイシン・イ=ドウ)】は自動人形のようなもの。


 引っ張ればなんだって動かすことは出来るが、その身体に乗り移るということは(なん)とかして自力で動かさなくてはならないということだ。


 どうにかしてこの身体から解放すべく奴が目を付けたのは、グルグルと上を飛び回る一匹のハエだった。


 目魂(めだま)の驚異的な視力でハエの眼球を(とら)えると、【精神移瞳(セイシン・イ=ドウ)】し今度は鬱金色(うこんいろ)の瞳をしたハエとなった。


 人間には無い羽根を動かすのに苦戦を()いられながらも、フラついた飛行でなんとか浴室を抜け出すことには成功した。


「ちょっ、こんなの仕掛けていただなんて…………」


 玄関扉に付いた紫乃は出入り口に作られた妨害柵(ぼうがいさく)を前に困惑気味の様子。


 仕方無く別の脱出に出ようと、リビングに移動した紫乃は、(ほこり)(かぶ)る覚悟を決めてダイニングチェアを両手で持ち上げ、勢いよく一枚の窓を叩き割った。


「げほっ、ごほっごほっ……がはっごほっ…………」


 紫乃が壮大(そうだい)()き込むこと、十秒。


 適当にガラス破片を退()けると、窓枠に身を乗り出し外に出た。


 そうして鬱金色(うこんいろ)の瞳をしたハエがリビングへとフラつきながら入っていった時にはすでに遠くへと逃げられ、それでも奴は必死に羽ばたかせながら紫乃の後を追うのだった。


(……逃げられると思うなよ………)

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