⒈ 目交(4) 転校生
これは、島へと降り立った子供連れ夫妻が会社に挨拶をした次の日のことである。
午前八時三十五分。いつもならホームルームが始まる時間だが、悠人のいるクラスで担任を勤めている柊恭次郎先生が入ってくるなり、第一声にこんなことを言い始めた。
「お前ら、席に着いてるか。突然だが、今日この教室に転校生が入ってくる。ほれ、来ていいぞ」
ガラガラと扉を開ける音が聞こえてくると、廊下からアームウォーマーをしたベージュ色の髪の少女が一人、姿を現す。
静かな足取りで先生の横まで移動すると、彼女は自己紹介を始めた。
「“夢を見る華やかの華”と書いて、夢見華って言います。その、よろしくお願いします」
「アイシー、さっき言った漢字を映してくれ」
当たり前のように柊先生が目の前の黒板………もとい、『AI-SEE』と呼ばれる人工知能(名前の由来は相手の話を理解した時に用いる『I see』と『AI』を掛けた言葉から来ていると言われる)を搭載した電子版にそう指示をすると、声に反応して自動的に電子文字で彼女の名前が映し出された。
今時の授業風景は、先生が話をしながら黒板に字を書くのでは無く、話した言葉を黒板が字として表示してくれるようだ。
何でも生徒が持つ端末とも連動可能らしく、端末内で書いた生徒の回答を電子版に映すなんてことも出来るのだとか。
ペーパーレスにもなるからと、この学校だけに限らず、世界中の学校でも進んで導入されているという。
今やノートを取る授業風景も見なくなったと思うと、如何に昔と違ってデジタル社会と化しているかが良く分かる。
「この島で転校生なんてのは珍しいとは思うが、夢見さんは両親の転勤でしばらくこの学校に通うことになった。皆、仲良くしてやってくれ」
「「「はーい!」」」
クラス一同、快く返事をした。
「夢見さんの席は窓際の一番後ろの席だ」
「分かりました」
と言って、彼女が座った席は悠人の左隣であった。
彼女は隣に座る悠人の方を向き、何気なく会釈するのだが、彼の顔を見て何かを思い出す。
「あれっ、もしかしてゆっと?」
「ゆっと?……あっ、俺をそう呼ぶってことは、まさかあの華ちゃんか?」
「そうだよ、久しぶりだね。でも、最初は分からなかったよ。昔の黒髪だった記憶しか無いから、白髪になるととこうも違って見えるんだね」
「これはその、なんと言うか………」
とてもじゃないが、多くの人が密集するこのクラスにおいて、人前で白髪になるまでの経緯を言えるはずもなく、彼はどうしたことかと一人で戸惑っていると……
「おい、そこうるさいぞ。ほれ、さっさと授業に入れ」
「「すいません」」
先生のその言葉に助けられ、二人は静かに前を向いて授業を受け始めるのだった。
【おまけ】
授業中、どの先生も口にしがちなAI-SEEに対する命令
「アイシー、さっき私が話したことを要約してまとめて」
生徒達に向けてメモを取らせる時によく用いられる。




