⒍ 洞視(8) 目崎悠人?
「駄目ね。この辺りだと目魂主と出会える可能性が視えないわ」
「では、もっと遠くに行ってみましょう」
その頃、未予&魔夜組はというと、この通り目魂主探しの真っ只中にいた。
時折――、未予は二重丸型の瞳孔にアメジストのような神秘的な紫色の瞳を開眼し、その瞳に宿る【未来視】で視ていく手掛かりを頼りに目魂主を捜索していると、ついにその所在を突き止めることが出来たのか、魔夜にそのことを告げる。
「見つけた――。この先を左に曲がった先のT字路で一人の目魂主と遭遇する筈よ」
未予が口にした通り、T字路の曲がり角に差し掛かった瞬間――、確かにそこに人の姿があった。
「えっ?あれって、目崎さん?」
何だか見覚えのあるような無いような……、白髪で短髪の一人の人間が前を歩く姿を目撃する。
ズボン姿のボーイッシュな格好をした人物の背中がどんどん小さく遠退いていく。
「待て!そいつは――」
「……えっ?」
その者は魔夜の第一声に反応したのか突然、後ろを振り返ると、蛇の目のような縦に長細い形を持った瞳孔に目映い黄色い瞳を輝かせ、振り向きざま視線が合うと魔夜の身体が何故か一瞬にして石化した。
それはまるで目を合わせた者を石にしてしまうと言われている、ギリシャ神話の怪物ー“メドゥーサの呪い”を彷彿とさせる現象が目の前で起こった。
「……最悪ね、ここまで視たままの通りになってしまった。実に厄介なことになってしまったわ」
直前に【未来視】を視ていたことで自身の石化を予見していた未予は、すんでのところで視線をズラし、魔夜と同じ《全身石化》の運命を辿るような、一番最悪な状況になることだけは何とか回避した様子………だが、
魔夜の目崎さん発言に一瞬反応してしまい、目線をほんの数秒――、奴に向けてしまったが為に、あろうことか左側腹部と右腕の二ヶ所が中途半端に石化してしまっていた。
先に起きることを知っていただけに、魔夜の声に反応して反射的に動いてしまったことには己の注意不足を酷く痛感させられる。
あの場で魔夜を助けようにも、もはや彼女が声を掛けた時点で二人一緒に回避出来る猶予が無かったことは明らかであり――、
一方だけでも逃れることさえ出来れば、石化を解く突破口を見出す為に、頭を――、脚を――、目を――働かせて、何かきっかけになる行動を起こすことが出来るかもしれないというもの。
今はまずこれ以上――、石化になることを防ぐ為、目線をその者の膝下ぐらいにまで下げ、相手の目を見ず動きを警戒している。
「Wow!貴女なかなかやりますネー。この初手を逃れた人は貴女が始めてでース」
「それはどうも……とでも言っておきましょうか」
振り返った相手の顔立ちは日本人離れしており、悠人とは似ても似つかない西洋人顔をした女性の姿があった。鼻先が高く鼻尖がツンと突出した整った鼻筋をしており、顎の形状に至っても日本人と比べて角張っており、全体的の凹凸が大きくはっきりとした顔立ちをしている。
未予は一瞬だけ視線をその者の顔に向けてしまっていた際に、そのくらいの情報量は確認することが出来ていたのだが、そんなことはどうでも良い。それよりもあの厄介な能力者をどう対処すべきか、彼女はそれしか考えていなかった。
(……仮にも、目を合わせず直感で奪うことが出来るなら、これ幸いなのだけど………早い話、奴の厄介な目力を拝借して無力化出来てしまうあの男の手を借りることが出来たら良いものを――、
いくらこの場にいない男の力を頼ろうとしても、無理な話だわ。従ってここは…………)
未予が出した答え―――、それは逃げの一手であった。
全身石化状態の魔夜を置いて逃げ、目の前の相手方とは反対側の後ろへと引き返し、迷いなく走って行ってしまった彼女。
近くの角を曲がる未予の姿を最後に、その者の視界から消えていった。
「Oh,逃げられましター。ですが、この通り一人捕らえることが出来ましたので、結果all rightでース」
特に未予を追おうとはせず、その者は全身石化した魔夜の背後に回ったかと思うと――、
魔夜の右目だけを部分的に石化解除させると、一瞬だけ視界を半分取り戻したことにも気が付かせないほどに早く、眼鏡をものともせず、僅かな隙間から彼女の右目を滑らかな動きで下から上へと引き抜くように抉り取った。
「Eye catch!」
そうして眼球を一つ抉り取ると、ダジャレじみたくさい決め台詞を吐いた彼女。
どうやら奴の能力には相手の目魂を回収し易いよう、《自分の意思で石化を解除、もしくは今のように部分解除させる》といった、上手い事都合の良い力があるようで――
口は石化したままの魔夜はどんなに痛くても叫ぶことが出来ず、未だかつてない痛々しい静寂な略奪がそこにはあった。
「OK.では、もう一つ貰っちゃいまショウ!」
同様にもう一方の眼球も抉り取ろうとしたのだが、そこで予想外の邪魔が入った。
荒息一つ立てることなく、疲労をみせない未予がその者の背後を取り、がら空きな喉元を狙って石化していない左手で親指一本貫手を決めると、奴はよろめきすぐに足を崩した。
喉をやられ何度か咳き込んだのち、奴は辛うじて声を発した。
「Why?貴女は逃げたハズ………」
「厄介な能力を持った相手と真っ正面から闘い合いたくなかっただけよ。
さて、これで貴女は動けないわ。その命を絶つ前に私たちの石化を解いてくれないかしら?」
「No……」
「それなら逃げられないように貴女をどこか人気の無い場所に拘束したのち、これを何とかしてくれそうな仲間の元へと行くことにするわ」
未予がそう言ったのを最後に、奴の意識は徐々に薄れ始め……、そのまま頭を項垂れるようにして倒れていった。
貫手が効いてきたことを確認した未予はT字路の真ん中に置かれたマンホールを退かし、気絶した奴を地下へと運んで行くのであった。




