⒋ 分目(6) 備えあれば憂いなし
保呂草未予はスクラップ場で壮絶な光景を目にしていた。
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひぃ~!消しちゃって、消しちゃっていいんだよなぁあああああああああぁぁぁぁ―――ッ!」
魔夜が興奮気味になって可笑しな奇声を上げると掛けていた眼鏡を手に取り、それを雑に放り投げた。
魔夜の目魂が――、顔を出す。
逆三角形のような形をした瞳孔に、灰色の瞳が姿を現した。
だが、彼女が眼鏡を外すタイミングで先に苴枝が目魂を開眼。
根を伸ばした双子葉植物の芽のような――、《二枚の葉に別れた子葉のようなシルエットの形をした瞳孔に、黄緑色の虹彩をもった目魂》が開かれる。
直後――、真下に生えた一本の子葉へと苴枝は視線を変え、その一点に着目する。
すると、見えないところでその植物の地下茎が急激に成長。
地面の下から蔦を伸ばし、魔夜が目魂を開眼したタイミングで彼女の足に巻き付いた。
「チッ、何なんだこの蔦はよぉぉ!」
そう言って魔夜は、急激に成長したヤブガラシの蔦にギロッと蛇のような目をして睨みを効かせると、どういう訳かその蔦は一瞬にして消失した。
この一連だけで二人の能力を理解した未予。
(蔦が現れたタイミング―――、あれは……そばかす女が真下に生えた植物を目にしてからだった。
おそらく彼女の能力は目で見た植物を急激に成長させ、それを意のままに操ることが出来る力。対してメガネは視界に入ったものを消失させる能力。
だがそれだと目魂を開眼した時点で、周囲の廃車を消してしまう筈………
――いえ、植物と廃車の違いを考えると、メガネの本当の能力は命が宿っているもののみを消失させる力なのでは?
それなら一瞬睨んだ時に視界に入ったであろう、彼女の服や靴の一部が消失しなかったことに合点がいく。……生命の死滅………【生命視滅】と名付けようかしら)
どうやら魔夜の消してやる発言は、彼女の持つ能力から来ていたようだ。
「うわッ!蔦が一瞬にして消えちゃったよ!」
「彼女のさっきの力―――、忘れもしないあの晩の日の集まりで多くの人が消失していった現象と良く似ておる…………」
苴枝と一緒にいた連中が魔夜の力のことで話している間には、すでに魔夜と苴枝の生死を賭けた二人の闘いが始まっていた。
「今度こそ消してやるよぉぉおおおおおおおぉぉぉ――――ッ!」
「誰がテメェのような女にヤられっかよ。この凶変者がぁぁあああああああぁぁぁ――――ッ!」
苴枝は自身が消されないように能力を使って、すでに急速成長させた植物の壁を作り出していた。
「消えろ消えろ消えろぉぉおおおおおおおぉぉぉ――――ッ!」
消失しては増殖し、また消失しては増殖しての繰り返しで一向に能力者を捉えることが出来ず、イライラする様子を見せる魔夜。
対して苴枝も、自分の姿が映らないように壁を作るのが精一杯で反撃出来ずにいた。
「さえむんのピンチは私が打開しちゃうよぉ~♡」
「私も助太刀します」
すると奥で控えていた苴枝の連れの二人が互いに目魂を開眼し、その能力を解放した。
先に勢いだけで出て来た小柄な少女が一台の廃車を目にすると、その巨大な鉄の塊は独りでに宙を舞い、魔夜の方へと直ちに落下していった。
魔夜は舌打ちをすると、すぐにその場から離れようと身体ごと突き出すようにして大きく前に向かって腹打ち覚悟のジャンプをした。
瞬間――、さっきまで魔夜のいた地点で爆発が起こり、風圧に備えてピタッと身体を地面に張り付いていた。
どうやら車の中にガソリンが残っていたようで、特撮さながらの爆発力であった。
ちなみに未予は事前にそうなることを視ていたため、予め安全地帯へと避難していた。
「ものを浮かす能力とは厄介ね」
すっかり人任せな未予が人ごとみたいに言っていると、再び彼女は近くの廃車を魔夜に飛ばしていった。
「影からコソコソ攻撃してきやがって、こんなんじゃあ埒が明かねぇ」
「いいえ、チェックメイトです」
そう言って――、最後のお仲間が《瞳の8割以上を占める大きさの瞳孔をした、開眼前と同じく濃褐色の虹彩をした奇怪な目》をカッと見開き空中に浮かぶ廃車を目にすれば、車体は瞬く間に倍の大きさにまで巨大化する。
「おいおい、嘘だろ………」
彼女の――目で見たものを巨大化させる能力を前に、万事休すの魔夜。
そして巨大な廃車は地面に落下しド派手な衝突音を響かせながら、転がること三回転。
凄まじい土煙がその場を舞い、煙が晴れるとやがて一人の人間の姿が確認された。
「……何故だ、何故奴が下敷きになっていない!まさか後ろのお前が何かしたのか?」
あの状況でどうして自分が生きているのか訳が分からず、呆然と見上げたまま立ち尽くす魔夜の後ろを立つ人物ー『保呂草未予』に理由を問う苴枝。
「そうね。一つ言うとすれば、さっきの状況をどうにかできる仲間がこちらにはいるってことかしら?」
「……ぜぇ、ぜぇ、何言ってんだよお前は。こちとらバイト中だってのに、サポートしてやって欲しいとか言って電話してきやがって。
おかげで俺は無理を言って急いで抜け出して来てみれば、なんか巨大な車が浮いているのなんの。
来て早々未予にはそこの背丈の小さい女から目力を拝借して、その力で車の落下ポイントをずらせだとかなんとか、無茶言ってくれちゃって。――俺に頼るのも良い加減にしろよな」
未予の後ろから現れたのは、疲労困憊の状態で何やらぶつくさと文句を言う、他ならぬ目崎悠人であった。
これは数分前のこと――
休憩に入った悠人がふと右腕に取り付けられたEPOCHの腕輪部分が赤く点滅していたことに気が付く。
この発光現象はEPOCHならではの通知手段の一つであり、バイブレーションに代わるシステムであった。
もちろん音による通知手段もあるが、仕事中に鳴り出してしまってはバイト初日にして先輩店員達に目を付けられてしまう。
それは働き手として正すべきマナーであり、真面目な悠人はこの通り心得ていた。
何事かと彼は慌ててEPOCHを起動すると、そこには一件の着信履歴が表示されていた。
それが未予からであることを確認した悠人は一言、店舗リーダーに断りを入れてスタッフ用トイレに駆け込み、すぐさま未予に電話を掛ける。
「もしもし、未予か?俺、今日からバイトだって伝えた筈だが、何でこれまた急に電話よこしてきて………」
『あら、そうは言っても掛け直してくれるのね。……何て、そんな貴方の行動予測は既に視えていたけれど』
「いやいや、そんな人のこと見透かしていましたアピールを聞く為に電話した訳じゃないんだが………それで?本題は一体何なんだ?」
『そうね。そんな話をしたくて電話を掛けた訳じゃないわ。
……目力の上下比較話はそれとして、このままだと彼女、危ない目に遭うわ』
「彼女って……まさか未予と一緒にいる裏目さんって子のことか?」
『ええ、そうよ。彼女は私に実力があることを見てもらえるよう、一人で目魂主と闘う訳なのだけれども、その対立する目魂主の手……いえ、目によって巨大な車の下敷きになってそれで…………』
「……おいおい、そんなことって嘘だろ?そうなる未来を視たって言うのなら、わざわざ離れた場所にいる俺にそのことを伝えるより、その場にいる未予自身が助けようと色々、手を回せばそれで………」
『良いかしら。どんな能力にも相性が存在するものよ。
確かに――私の【未来視】は優秀な能力だけれども、それで視たこれから起こる事象を前もって伝えてしまっては、実力を計ると言っているのに助言をするのは彼女のプライドを潰すことになる。
かと言って、私自身がその場に参戦して、その時になったら助けようとする動きをとってしまっては、私は手を出さないけどなんて言った手前、それこそ本末転倒よ。
流石に私の持つ能力をもってしても、助言することも動くことも一切行なわずに、誰かを助け出せる力は持ち合わせてない………そこで貴方の持つ能力が出番、と言うことよ』
「……何か、良いように言いくるめられている気がしてならないんだが…………
だぁーもうッ!前もって人が死ぬことを耳にした手前、揚々とバイトなんか出来る筈無いだろうがッ!
ああ、もう分かったよッ!で、彼女を助けるための前行動は当然考えているんだろうな?」
『言うまでも無いわ。その為に貴方には――』
そうして未予に魔夜を助ける為の前行動、現場に着いた彼が長々と言っていた内容のことを話すのであった。
連絡を寄越した理由を知った悠人は、店長にどうにかこうにか適当に訳を言って、店を飛び出し――今に至る。
「なっ、このような男一人にあの状況を打破されたとでも言うのか」
「あー、この人の顔ならリストで見たことがあるよ。それにしても、こうして生で見るとその髪ってなんというか微妙過ぎる白さだね」
「顔も写真以上にパッとしませんね」
苴枝とその連れが彼の顔を見るなり、次々と思ったことを口にしていく。
「なぁ、未予。何で俺はあいつらに、そんなことを言われなきゃいけないんだ?」
「それだけ、冴えない男に見られているってことじゃないかしら?」
「余計なお世話だよ。……ったく、俺はこれにて失礼させてもらうぞ」
「ええ、構わないわ。突然の冴えない男の登場で今の相手には、メガネに対する注意力が削がれている。これなら彼女一人に任せても大丈夫でしょう」
「メガネって、まさか彼女のことか?」
「何か、言いたいことでもあるのかしら?」
「いいや、相変わらずだなって思っただけだよ」
未予と悠人がそうこう言い合っている間に、魔夜は早急に反応。
彼に視線が向いているこの状況を逃す訳にはいかないと、未だ良い活躍を見せていないどころか、ピンチを救われてしまう始末にいた彼女は――、
すぐにでも苴枝の仲間の一人である巨大化能力者を視界に捉えると、その者の肉体は一瞬にして消え去った。
後に残ったのは奴の血が付いた衣類やEPOCH、それと二つの目魂のみ―――。
突然の仲間の死の衝撃に際し、苴枝と浮遊能力者はそのあまりの恐ろしさに血相を変え慌てて逃げ去って行った。
気付けば悠人もいつの間にかいなくなってしまい、今頃スーパーに向かって走り続けていることだろう。
魔夜は投げた眼鏡を拾い上げて掛け直し普段の目に戻ると、地面に落ちた二つの目魂を手に取っては片方を未予に渡した。
そこにはさっきまで表立って出ていた筈の気性の荒い性格性がまるで嘘のように、温和で物腰が柔らかい人柄をした魔夜がそこにいた。
「すいませんでした、保呂草さん。先程は一人で平気ですと言いながらも目崎さんに助けられてしまっては、さぞがっかりしましたよね。
これではとてもじゃないけど、お二人と手を組む資格は………無……」
「あら、何を言っているのかしら?」
魔夜が最後まで言わずして、未予はそう言って口を挟む。
「消失能力だなんて強力過ぎるくらいだわ。
ただ確認の為に聞くけれども、その能力は視界に入った生命体を消失させるってことで認識して良いのかしら?」
「そうですね。一つ補足をすると私の能力の発動には少し変わった点がありまして、単純に視界に入れば良いのではなく、裸眼で直視することであの力が発動されます」
(まぁ、本当は………生命体だけを消失してしまうその能力の性質上、破壊対象にならない鏡を通じてそこに反射して映った生命体も消失させることが出来る訳だが、何もそこまで馬鹿正直に手の内を全て明かす道理も無いからな。
所詮は奴も同様、自身の能力の全てを明かすことはしないだろう。いついかなる時も命が懸かっている以上、腹の内は見せないに限る)
「ああ、それで先の闘いでは眼鏡を外していたのね。
なら、普段からそこに気を付けさえしていれば結論、能力の部分において申し分無い力であったと称賛――、大いに手を組む価値があると言って良いわ。
後であの男にも伝えておかないと……そう言う訳だから、これからも大いに期待しているわ、メガネさん」
「あ、はいっ!こちらこそ、よろしくお願いします」
そうしてこの日、未予達の元に記念すべき一人の共闘者が加わることになったのであった―――。
当初の構想ではここで呼び名が『伊達メガネ』になる予定であったりなんかしていました。
彼女の人格面のエピソードは追々書いていきますので、今後をお待ち頂ければと思います。
〈能力解説〉目力:【巨眼】
目で見たものを巨大化させる異能
瞳孔の大きさが一回りも二回りも大きいことが、何よりの特徴である。
情報提供者:M.K.
両親がそこまで背が高い訳では無かっただけに、小学校高学年の頃には両親を越してしまった自分の背の高さに強いコンプレックスを抱いていた少女。なお、その身長は175cmあったという。
ー 高目 京來(14) 死游離脱 ー




