⒊ 孤憂勢威(1) 貴女に構っている暇は無い
「あははっ、てめぇを血祭りにしてやんよ」
屋根のタイルから伸びた針々によって滅多刺しにされた三日月斬月の残酷な姿を見て、陽気に高笑う【目刺】の少女。
「ってなんだあいつ?急にピタリと動かなくなっちまって。もしかして死んだか?」
悠人を助けようと学校へと急いでいた筈だった斬月だが、無駄な抵抗はやめたとばかりに気付いた時には何故か動きを止めていた。
だがその瞳には光を失ってはいなかった。
斬月は諦めていないのだ。
そう――、確実にここを切り抜ける方法を彼女はそれだけを視ていたのだ。
「……仕方ないですね。少し、本気を出しましょうか」
「はぁ?なんか言ったか?」
斬月は静かに目を閉じ、そして黄色と赤銅色の各目魂を開眼すると、赤銅色の目先から一匹の龍型雷獣が創り出され、厳つい顎から大きく開いた口から見せる鋭い歯で次々と屋根のタイルから出来た針々を噛み砕いていった。
針という支えが無くなり重力のままに落下し、斬月はゆっくりと何かを言いながら、彼女の身体は背中から地面に真っ逆さまに降下していく。
すると龍型雷獣が斬月の下を飛んで来て、それに合わせて彼女は両足を下に向け、ゴム底の付いた靴でタイミング良くその雷獣の背中の上へと降り立った。
「………な、なんだ、そいつはよぉ」
「これは………この力は………私の愛しき妹の……乱月の………彼女の一部を継いだその力。繋がりの力ですッ!」
斬月を受け止めた龍型雷獣は彼女を乗せたまま奴のいる方へと飛行し、口を大きく開け、飲み込もうとする勢いで急接近した。
「妹のだとか、繋がりだとか、そんなことを聞いているんじゃねぇよ。馬鹿がッ!」
【目刺】の少女は焦る様子も無く、奴は真下ー《アスファルトの道路》を目にすると、そこから斜めに龍型雷獣に向かって針状化した物体が伸びていき、雷獣の身体を次々と突き刺していった。
アスファルトは絶縁体――、つまりは電気を通さない物質に貫かれた龍型雷獣の身体は分散……、そして消滅した。
前に距離感が掴みづらい地面に対してはその力が使えないということがあったとは思うが、視線を真下に……つまりは足下のコンクリートに限りその距離感は確実に掴める故――、針を生成出来る条件として当てはまるのであった。
デタラメにそこら中を針状化させていたあの時に比べ、自分が持つ目力の使い方が分かってきたことが十分に窺える瞬間であった。
龍型雷獣が消滅し、足場を失った斬月は華麗に受け身を取って無事に地面の上へと着地した。
「……成る程。どうやらあの時に比べ、能力の使い方に慣れてきたとお見受けする」
「はぁ?何様のつもりだよ」
「……そうですよね。これはすいません。私なんかがあのような出過ぎたことを申してしまい、気を悪くしましたよね」
「ちょっ……何なんだ、おめぇ?今度は打って変わって消極的になっちゃって。情緒不安定ってやつ?調子狂うんですけど。つーか、気持ち悪っ」
「……調子狂うですか。確かにそうみたいですね」
「なっ…………ぎぃやぁぁあああああああああああぁぁぁぁ――――ッ!」
気付けば背後からバチバチッと火花が飛び散る音が聞こえ、光の速さで襲い掛かる一匹の雷獣――、その姿はさながら中国神話で知られる麒麟とも言えるフォルムをした雷獣の接近に反応が出来ず、一瞬にして高出力の電撃の餌食にされた。
あの感じからして今回は少しはやるかと思われたが、前回と同様に呆気なく彼女にやられ、まるでヒーローの悪役のような定められし生粋のやられ役の如く、奴はまたも斬月にやられたのだった。
奴が電撃によって気絶し動かなくなったその隙に麒麟型雷獣は口を使って唯一の左目を器用に抜き取ると、それを斬月の手元にゆっくりと落とし、そして麒麟型雷獣は役目を終えたかのように消滅した。
「貴女に構っている暇は無いのです。ここは一刻も早く、ゆうとの元へ行かないと。何となくですが、どうにも嫌な予感がしてならないので………」
身体に刺さった中途半端に欠けた針を綺麗に抜き取って適当にそこらへと放り捨てると、針は欠けた屋根のタイルへと姿が戻り、それはそうと忘れずに目魂をすぐに拾い上げると、斬月は女の勘とでも言うべき己の直感力に従い、先を急ぐように悠人のいる高校へと足を進めるのであった。




