⒉ 処憂餓威(1) あの時の女
時は昼休み終わり近くの時間、ほとんど午後一時に近い時のこと――
眼清神社周辺の竹林にて、三日月斬月は右手に愛刀の【孤月】、左手には妹のかつての愛刀である【新月】をその手に持ち一人、双剣での実践的な素振りをしていた。
『―♪』
そんな三日月斬月の元に、一本の電話が掛かってくる。
着信音と共に着信パネルが投影され、彼女はそこに表示された発信者の名前を確認すると、すぐに応答ボタンをタッチした。
すると画面は切り替わり、発信者である《目崎悠人》の顔が表示された。
「……どうかしましたか?」
『ああ、良かった。斬月さん、電話に出てくれて。今って時間、空いているか?』
「……何かお困り事でも?」
『ちょっとした目魂主のグループに目を付けられてしまってな。
厄介なことに、その人達は敢えて危険になることを避け、確実に目魂の略奪成功を図ろうと、相手が一人でいる時を狙って襲い掛かって来る。
情けない話だが、俺一人の力でどうこう出来る相手じゃない。助けが欲しいんだ。
場所は俺が通っている、【布都部高校】という名前の学校。
他の仲間のメンバーは皆、その学校の生徒達だから、そいつらにいつ狙われても可笑しくは無い。
出来るだけ慎重に、人に気付かれないよう、忍びらしく隠密………に、外から様子を見て、タイミングを伺って助けに入って欲しい。
この状況では唯一警戒されていない、(学校)部外者である斬月さんにしか出来ないことだ。頼まれてくれるか?』
「……私にしか…………ですか?」
『そうだ。これは斬月さんにしか、頼めないことだ』
「……そう………ですか。私しか…………………えへっ、えへへへへっ」
『大丈夫か?何だか嬉しそうに笑う声が聞こえたんだが?』
「……だ、大丈夫です、はいっ!」
『そうか?大丈夫ならそれで良いのだけれど………。
取り敢えず、高校の周辺地図と念の為に学校の外観の写真――、それとリストに載っている、メンバーの一人一人の顔写真を送っといたから、それを頼りに今から来てくれ。待ってるぞ』
そこで通話は切れ、プツンッと画面は消失した。
斬月は両の刀をそれぞれ鞘に仕舞うとすぐにメールを開き、布都部高校周辺の地図を表示させると、それを頼りに移動を開始した。
歩いていると、そこそこの高さはある建物を発見し、斬月は一度高いところから大まかに場所を確認しようと、建物の屋根の上に難なく飛び乗っていった。
「ええと……この外観の建物はあそこに見えますね。でしたら、あっちの方向へと進めば良いのですね」
学校の写真を提示し、目視で目的の場所を確認してしまうと、最早地図を表示させる必要もないとEPOCHの電源を切り、屋根から屋根へと飛び移りながら真っ直ぐに学校へと向かって行った。
「あれは………」
斬月の滑走していく姿を見た何者かが口を開く。
瞬間、その者は突如として瞳を光らせると、斬月に向かって何か先の尖った物体が急速に迫って来た。
タイミングにして、目の前の屋根の上に飛び移ろうとジャンプした瞬間である。
空中では避けようが無いと思われたが、流石は歴戦を潜り抜けてきた忍びと言ったところだろうか。揚々と軽快な動きで障害を難無く切り抜ける。
身体をぐるりと回し、上手く狙いから外れると、そこから立て直して近くの屋根の上へと着地を決めた。
「何者!」
斬月はキョロキョロと周辺を見回し、襲撃してきた相手の存在をその目で捉えようとする。
「あれあれ?酷いこと言うじゃん。前にウチの目を一つ奪っといて、何者とか言っちゃって、能力まで見せといて忘れちゃうとかマジのお馬鹿さんって奴ぅ?」
声のした方へと視線を向けると、そこには悠人のバイト先であるスーパー前にて、かつて斬月に右目を奪われた双髪の少女――、【目刺】の目力を使用する目魂主の姿があった。




