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クレイヴィング・コンカラー  作者: ですの
ATTACK OF THE OUTER ENTITY
9/15

第九話 ラストドラゴンズ


一瞬の出来事だった。

セイルは気が付くと、コックピットから座席ごと弾き飛ばされ、ドラゴンの飛び交う空へと放り出されていた。

射出されて少しの間セイルは上昇を続けていたが、間もなく重力に引かれるように急激な落下を始める。


「えっ……これまずいんじゃ」


先程まで自身が乗っていた機が、遠くゆっくりと離れていくのが微かに見えた。


座席からパラシュートが展開された。

降下速度が落ち着く。


セイルは付近に別のパラシュートが展開されているのを見た。

それがあのパイロットのモノである事に直ぐに気付いたセイルは懸命にそちらに向かって声をかける。



「お、おい!! これどうしたらいいんだよ!!」


パイロットから返事は無い。

何一つ反応を示さなかった。


「くっ、クソ! 気絶してやがる!! なんて頼りない奴だ、これどうやって方向転換とかするんだ」


セイルはなんとかパラシュートを切り離そうとする。

相当な高さがあるが、それでもセイルは"外傷では死なない"という自分の特性によって、死ぬことだけは無いと踏んでいた。

しかしパラシュートの切り離しが上手くいかない。


セイルがパラシュートの扱いに四苦八苦していた間に、パイロットは眼を覚ました。

目覚めて直ぐ、自分の置かれた状況を把握したパイロットは冷静に辺りを見渡す。


パイロットはセイルの姿を視認すると、直ぐに自分達を追ってきた五頭のドラゴンの位置を探った。


パイロットが首を回し、自身の下方に目線を向ける。


「冗談だろ」


ドラゴンの内の一頭は、パイロットの真下から真っすぐにパイロットの元へ飛来してくる。

大きく口を開き、鋭い目線でしっかりとパイロットの事を捉えている。


ドラゴンはそのままパイロットの下半身を顎で捉え、勢いのまま食いちぎる。


朦朧とする意識の中でパイロットが最期に見たのは、晴天の空の真っただ中でただ青い顔をして怯えているセイルの姿だった。


セイルを恐怖が包み込む。

なんとかしてパラシュートを切り離そうとするが、やはり思う様にいかない。


パイロットを捕食したドラゴンの後に続いて、残り四頭のドラゴンも飛来してきた。


「嫌だ……!! 焼かれる!! 死にたくない!! 嫌だあああ!!」


その瞬間、パラシュートが切り離された。

セイルは座席から放り出されて、真っすぐ地上に向かって落ちていく。

だが、ドラゴンはセイルを逃さなかった。


落下するセイルの後を高速で追ってきたドラゴンがセイルの脚部を咥えた。

ドラゴンに捕らわれたセイルは成す術もなく、脚の痛みを感じる事も無く、ただ絶望に呑まれるのみだった。


四頭のドラゴンが、ゆっくりと口を開く。

セイルは無抵抗にただその瞬間を待った。


だが、突如自分を捕らえていたドラゴンが口を大きく開き、叫び声のような咆哮を上げる。

セイルは再び落下した。


セイルはなんとか空を見上げる。

ミサイルや機銃などとは全く異なる何かが、ドラゴンを攻撃しているのが微かに見えた。

無数の閃光がドラゴンに向かって降り注いでいる。


そしてセイルは垂直降下のショックで気絶した。


「セイル君、視認できました。落下のショックで気絶してるみたいです」


施設の職員の一人が、落下するセイルの姿をスコープで確認した。


「ありがとう、イェン。このまま地面にぶつかっても彼は生きている可能性もあるが、万が一という事もあるから、助けてあげよう」


シオンはそう言うと、何人かの職員と共に、詠唱を始める。

すると、セイルの落下の速度が弱まっていく。

セイルが地面に辿り着くころには、まるで浮遊しているかのような速度まで落下の勢いが収まっていた。


「さて、彼を施設に運び込もう。その後は、何が起きたかの調査だ」


「わかりました」


ジュディスが何人かの職員を集め、気絶したまま地面に横たわっているセイルを施設の方へと運び込んでいった。


シオンがその後に続こうとすると、一人の男が声をかけてきた。


「貴方達は、エルヴェン・サクセサーの方々ですな?」


シオンが振り返る。

話しかけてきた男は、どうやら先程までドラゴンと交戦していた軍の司令官だった。


「ええ。その通りです、フォード司令」


シオンはゆっくりと男の方に向き直る。


「おや、これは失礼した、貴方だったとは。いやあ、驚いた。つい先日ドラゴン騒ぎがあったと思えば、今度はドラゴンの群れが現れた。貴方達は何が起こっているのか、見当はついているのでしょうな?」


シオンはただ黙ってうなずく。


「正直、貴方達の持つその不可思議な能力があるからこそ、貴方達の言う世界の危機とやらを信じ、国は貴方達にここまでの地位と権力を与えている。それはご理解いただいていますな?」


「……もちろんです。だが、我々にはそれを阻止する力は、これまでは備わっていなかったのです。故に今日も、あなた方軍隊の力をお借りしているのです」


「これまでは、と言うと」


フォード司令官は、怪訝な表情を浮かべる。


「司令も先程のドラゴンの挙動を見たでしょう。あのドラゴン達はある一人の青年のみを狙っていたのです。その青年は先程我々が再回収しました。そして、彼こそが執行者なのです。少し"手違い"があり、我々が祖より言い伝えられたそれとは少しばかり質が異なっていますがね」


「なるほど。なんにせよ、これからどんどん今日の事のような異常事態が起こる、という認識を我々は持つべきだろうか?」


「いずれ私から、連合総会を通して発表をしましょう。今何が起きているのか、そのおおよその見解は得られていますから」


フォード指令は頷くと、その場を去った。

シオンもまた、施設の方へ歩き出す。


施設外園に展開していた軍隊は、直ぐに撤収はせず、外園周辺の捜索を行っていた。

彼らはドラゴンの死骸を見つけては、大型の運搬車に牽引し、どこかへ運び込んでいた。


シオンは遠目にその光景を眺めていた。


「今更調べたところで、恐らくもうドラゴンは現れはしないのだがな……」


シオンはそう呟くと、半壊したエントランスからエレベーターに乗り込んだ。


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