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クレイヴィング・コンカラー  作者: ですの
ATTACK OF THE OUTER ENTITY
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第十二話 最後の希望


地下九階、ドラゴンもどきを封印したドームの巨大な扉の前にシオンを初めとしたBクラス職員が集結していた。

扉へと続く長い通路の先からセイルが向かってくる。


「奴が来た、始めるぞ」


職員達が碑石の欠片を手に持ち、詠唱を開始する。

通路に光の壁が形成され、セイルの行く手を阻んだ。


「……あのさぁシオンさん。こんな程度の防護壁で俺はもう止められないんだよ。アンタわかってねえらしいが、俺はもうアンタ達が共有していたエルフの術の知識をもってるんだぞ? そして」


セイルが右手を前に伸ばし、掌を光の壁にあてがった。

すると、瞬く間に光の壁は融解し、消滅してしまう。


「……俺はこの術を一人で使いこなせるんだ」


「それは、君の力では無いだろう。知識も君のものでは無い。それに君は執行者とは言え元は我々と同じヒューマンだ。本来、執行者は本質的な部分は元の種族から引き継ぐ。たしかに魔力は多少は増幅するが、君のそれは余りにも異常だ。それが意味するところがわからないのか?」


シオンの言葉を無視してセイルが歩み寄ってくる。


「……ニュー曰く、他の世界からこの世界へ漏れ出したエネルギーの一部を俺は引き出せるんだそうだ」


「自分で言っていてわからないのか? もはや君は執行者では無い。この世界に干渉する異変そのものに身を委ねているんだぞ。君や監視者が排除しなければならないはずのモノに魅了されているのだ」


「……ほんと、シオンさん、アンタだけ不自然だよな。ヒューマンにしてはやたら魔力もあるし、執行者や監視者に関して、他の職員の知らない事をアンタだけ知ってる」


セイルはシオン達の元へ向かって歩き続ける。

シオンはセイルの言葉に少し動揺を見せた。


セイルは話し続ける。


「この階層に来るまでの間に、俺がとり込んだ奴らの魂の記憶を色々と漁らせてもらったよ。この下の階、お前以外の誰も入れないらしいな」


「……何が言いたい」


セイルはシオン達のほんの数メートル先まで来るとようやく立ち止まり、改めてシオンに向き直った。


「……ニューはエルフの世界の監視者を喰い、その力をとり込んだ後、いくつかの世界も手にかけたって言ってるよ。そしてこの世界に来て、俺を執行者として生み出した。それなら、この世界の監視者は何をやっているんだろうな。俺とニューという異物が正に今このヒューマンの世界の征服に動き出しているというのに」


「……いいかセイル君、ニューの言葉に耳を貸してはいけない。今まさに世界には前代未聞の異変が起きているのだ。ドラゴンの大群の出現は、単なる異世界との偶発的な交差等では無い。これから本当に始まる世界の融合の前触れに過ぎない。それを止めるには君の力が必要なのだ」


「人任せにするのは良くねえよシオンさん。この世界の真の執行者であるアンタがそんなんだから、混乱が起きてるんじゃねえのか?」


イェンを除く職員達がざわめきはじめた。

シオンは職員達を制止した。


「……確かに私は執行者だ。フィネリアがこの世界へ来た時、彼女は外なる存在の脅威に対抗する為、捨てられた世界の数々を護る為に人間世界の監視者と同盟を組んだ。そして人間の執行者として私が選ばれた。フィネリア、あの偉大なエルフの執行者の元で私は多くを学んだ。そしてエルヴェン・サクセサーを創り出し、その脅威に備えたのだ」


シオンはこの話を職員達に向けて語っているようだった。

セイルはシオンの語った内容を聞くと声を上げて笑った。


「おいおい、肝心なところを隠すなよ。そのエルフの世界の執行者を手にかけたのはアンタだって事を。そして、外なる存在を封印する為に創られたこの塔に、あろうことかこの世界の監視者を閉じ込めたんだ。そうやってこの世界の支配者になろうとしたんだろ?」


「だが今は違う。私は自分の過ちに気づいた。そして、真にフィネリアの意志を継ぐべく生まれ変わったのだ。故にこの世界は我々の手で守り抜く。今この場で君という異物を取り除く事でな」


シオンは素早く自身の持つ碑石の欠片を取り出すと、それを握った手で空中に何かを書く。

それを見たイェンが素早く詠唱に入り、職員達も急いでそれに続く。


セイルは咄嗟にシオンに向かって飛びかかろうとするが、直後にシオン達の魔法によって齎された凄まじい衝撃に見舞われ、後方に吹き飛ばされた。

だが、一瞬で体制を立て直し、再びシオン達に向き直るセイル。

間髪入れずにセイルも詠唱を行うと、セイルの両手に光の槍が出現した。


それを見た職員達も素早く攻撃の詠唱に入る。


職員達はここの魔力は一般的な人間と等しい。

つまり絶望的にエネルギーが不足しており、互いに碑石の欠片を通してエネルギーを共有させることでエルフの術を半ば強引に発現させている。

職員達もまた、セイルに対抗するように光の槍を発現させ、迎撃態勢に入った。

シオンとイェンは後方に素早く下がり、セイルの封印の準備に入る。


セイルは一気に職員達に向かって突っ込む。

職員達は襲い掛かってきたセイルに対して容赦なく光の槍を突き刺していく。


しかし、セイルにはまるでダメージが通っていない様子だった。

職員達の攻撃など意にも介さず、セイルはひたすら目に映る人という人に襲いかかり続ける。


群雄割拠、と言えば聞こえは良いかもしれない。

だが、その実態は一方的な虐殺に等しかった。

セイルの肉体が獲得した正常化の力は、エルフの術に対しても効果を発揮していた。


「駄目だ!! 光の槍ではコイツを止められない」


「は、はやくこいつを封印してくれ!! イェンさん!」


「まだ、あと少し時間を稼いでくれ……!!」


イェンとシオンは詠唱を続ける。

その間も、セイルの攻撃によって次々と職員達はなぎ倒されていく。


その力量差は理不尽さすら感じさせるものだった。

セイルは魂を奪う毎にその力を増していく。


最初、両手に光の槍を形成して攻撃を行っていたセイルは、魂を奪う毎に瞬時に用いる術のバリエーションも増やしていった。

今や詠唱すら必要とせず、次々とエルフの術を繰り出せるまでになっていた。

セイルは今や白炎を身に纏い、人間離れした脚力で縦横無尽に舞い、両手から無尽蔵に光の杭を放ちながら、職員達に迫る。


一方で職員達はその数を着実に減らし、それに伴い集団詠唱の力も弱まってしまう。

生き残った職員達の間に決定的な絶望の感情が生まれようとしていた。


「今だ!! 奴から離れろ!!」


だが、その時イェンが叫んだ。

そして職員達が一斉にセイルから距離をとる。


セイルは職員達に追撃をしかけようとした。

だが、直後に何か強力なエネルギーに包囲されてしまう。

それは強力な結界だった。


セイルは形成された結界を破壊しようと試みる。

白炎をぶつけ、巨大な光の槍を突き刺そうとするが全て弾かれ突破できない。


「セイル君、これは知らないだろう。これはエルフの術では無いからな」


「……何をした、シオン」


シオンとイェン、そして生き残った数人の職員達がゆっくりと拘束されたセイルの元に近づく。


「これはね、セイル君。執行者にとっての言わば切り札のようなモノなんだ。自らの過ちで主である監視者を封印し力の供給が限られた私は、こうやってイェン達の力を借りないと発動すらできないのだが。これは本来ノスフェラトゥという種族を封じる為に生み出された術だが、こうして君のようなイレギュラーを封じ込めるのにはとても有用だ」


シオンは勝ちを確信していた。

そしてシオンはドームの扉に近づき、扉を開こうとする。


だが、セイルの押し殺したような笑い声がそれを制止した。


「……なんだセイル君、君が手にかけた職員達の持つ知識で、これを突破する事は不可能だぞ」


「たしかにそうらしい。俺には無理だ。だが、こうしたらどうなるんだろうな」


セイルはそういうと、徐に光の短剣を右手に形成する。

そして、自らの頭部にそれを突き刺した。


直後に結界の中でセイルの肉体が急速に崩壊を始め、人の姿を失っていく。

夥しい数の触手が生え、結界の中で窮屈に蠢き回る。

そしてこの世のものとは思えない叫び声を上げた。


「……外なる存在を解放させたか!」


シオンはこのセイルの行動も予測していた。

だが、この結界魔法は外なる存在の力をもってしても決して破れないと踏んでいた。

それは、この塔の地下に人間世界の監視者を封印したものと同種の魔法だった為だ。


かくしてシオンの目論見は淡く崩れ去る。


結界が次第に引き延ばされ始めた。

それはまるで空間ごと歪めているかのような光景だった。

職員達は動揺し、結界から身を引く。


結界の周りの空間はどんどん歪さを増していく。

異常に引き延ばされた結界に、遂にとても小さな綻びが生まれてしまった。


まるで圧縮させたビニールホースから噴き出す流水のように、その小さな綻びから触手が溢れ出る。


職員達が一斉に退避しようとするが、次々と触手に絡めとられていく。

そして結界を完全に破り、遂にそれは外に這い出てきた。


背中から肉塊で形造られた木のようなものを生やし、そこから枝を生やすようにして更に多くの触手を形成する。


「逃げてくださいシオ」


イェンは最後まで言葉を紡ぐ前に、触手に捕らえられ、他の職員と同様に、セイルだった存在に飲み込まれる。


そして遂に、それはシオンの眼前に迫った。

シオンは初めて、本心から恐怖した。

凄惨な光景に慄いたからでは無い。

命の危機を感じたからでも無かった。


その存在から、シオンは明らかに別種の力を感じ取っていた。

第十四番目の使徒が創りあげた世界のどこにも在ってはならないはずの力を、シオンははっきりと認識した。

気がついた時、シオンはそれに対して跪いていた。


「……私が間違っていた。どうか、どうか私を貴方の眷属に。私は貴方の力になります」


それは、シオンに手をかけようとはしなかった。

触手はゆっくりと肉塊の木へ還り、やがて肉塊の木は崩壊し、人の姿を形成していく。


「……ニューに頭を垂れたのか、お前。無様だな」


セイルの声に、シオンは恐る恐る顔を上げた。

セイルは近くに落ちていたローブを拾い上げ、それを身に纏う。


そしてシオンに向き直る。


「正直また意識を暫く失うものかと思っていたんだけどさ、面白い事に今回はニューの意識に俺の意識が同調してる感覚があったよ。きっと俺が魂の取り扱いに慣れてきたんだろうな。さて、シオン。俺はある事を思いついた。俺の力になってくれるんだろ?」


シオンはただ黙って頷いた。


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