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生きる

作者: 暇太郎

外はすげぇ雨が降ってた。

雷もすごい鳴ってる。

雷が鳴ったら梅雨の終わりだ、なんて話をどっかで聞いたことがあるけど、ありゃ嘘だ。

6月9日、梅雨入りしたばかりだし。


もそもそと布団から起き出して、PCをスリープから起こす。


今日も一日ゲームです。




俺はニートだ。

仕事はしていない。いや、たまに手伝い程度で体は動かすけど。

ニートになる前は、10年くらいで7~8軒の飲食店で働いていた。

大体の勤務先が、半年程度で俺を店長にしようとする。あんな割に合わない役職はご免被るので、のらりくらりと躱して、潮時になると辞める。

居心地がいいと2年くらいお世話になるけど、大体1年もすると辞める。飽き性なのだ。

無駄にいろんな業態で働いてきたおかげで、転職先にはあんまり困らない。

いまニートなのは、(俺の中で)貯まりに貯まった代休の消化である。

業界全体がブラックだから、休みなんて週に一日程度しかない。たまには数か月休んだっていいじゃない。


人生の休みを取ったはいいが、だからといってやることもない。金もないし。

なんで、俺はひたすらゲームに没頭した。

ゲームは昔からずっとやってる。物心ついたときにはなにかしらのゲームをやってた。

俺からゲームを取ったら、多分死ぬ。

数年前、酷い失恋をして気分がどん底まで落ち込んだ。それも、らしくなく1か月以上。

こんなことはなかった、そんなにあの人を愛したのだろうか、と思ったけどそうじゃなかった。その時期、ゲームをしてなかったのだ。

ってことで、ネトゲを始めたらすぐにその女性との事は忘れた。


現実逃避?違うね、精神安定剤なんだ。


そんなこんなで、今日もゲームを起動する。


このゲームはダンジョンに行くのに組むパーティをオートマッチしてくれる。

日課になったダンジョンでオートマッチをする。


あれ、おかしいな。普段ならすぐマッチングが終わるのに、今日はなかなか集まらない。

どうしたニート共。自慰でも捗ってるのだろうか。


マッチングが終わるまで暇なので、ニュースサイトでも見ることにした。

現在ニートとはいえ、飲食業に戻るつもりなので、お客さんとの話のネタは仕入れておきたいし。


ニュースのまとめサイトに行くと、なんか変なことが書いてあった


『隕石衝突』『地球滅亡』なんて記事タイトルがたくさんある。


あれ、このサイト冗談系のサイトだっけ・・・?


大手のポータルサイトに行ってみた。


え、まじなのこれ。


慌ててテレビをつけると、今朝がた行われていたらしい首相の記者会見の映像と、キャスターの「パニックにならないでください」「落ち着いて行動してください」と繰り返している。

どうやらマジらしい。

全然把握できないので、コーヒーを入れて、タバコを一服。余りにも現実味がなさすぎる。

一服して落ち着いたので、情報収集に努める事にした。こういうとき、情報は全てに優先するのだ。


テレビをつけつつ、大手マスメディアや科学・天文学関係のまとめサイトを大量に開いていく。

アクセスが集中しているのか、インフラに問題があるのか、全てのサイトが重い。イライラするなぁ。


途中で食事をとったりして、ほぼ一日かけて以下のような情報を得た。


今から1年後、巨大な隕石が地球に衝突するコースをとって接近している。

軌道計算上、外れることはほとんどない。衝突確率は80%程度で、日を追う毎に増していっている。

隕石のサイズは、恐竜が絶滅した原因とされる隕石の3倍にあたり、質量は予測で約4倍。

地球に衝突した場合、地球に存在する全生物が死滅する。

約半年後、大国の保有する核兵器の大半を用いて破壊する計画が進行中だが、成功率は1%程度。



俺は映画が好きだ。だから映画をよく見る。ディザスター系の映画も好きだからよく見る。

俺はSFが好きだ。ハードSFからサイバーパンクまでよく読む。ディストピア物が特に好きだ。

俺はラノベもたまに読む。あんまりたくさんは読まないけど、たまに読む。

男の子らしく、戦車や戦闘機も好きだ。サバゲーとか昔よくやった。

割と妄想癖もある。毎晩寝る前に可愛い女の子を侍らせてーなーと想像しながら寝るし。

ようするに、ごく一般的なニートなのだ。

危機管理能力も即応能力もない。一般的な平和ボケした日本人だ。


だが、情報収集と整理に丸一日費やしたおかげで、冷静だ。いや、現実味がなさすぎるから頭が追いついていないのか。

昼に起きて、気が付けば朝方だった。

両親はいないので連絡しなきゃいけない人たちはいない。友人も僅かだから、連絡が取れるうちに連絡を取った。

彼ら彼女らは、状況がよくわかっていなかったようなので、変な気を起こさないよう、残り一年楽しく過ごせと伝えた。

俺もそのつもりだ。


考えてみて欲しい。来年のいまごろ、お前死ぬから。とか言われたら、最初は理解できないだろう。それが世界規模だ。

俺は、世の中の他の人たちが理解できるまでに準備を整えることにした。


マスメディアの報道は日々繰り返される。新聞やテレビ、ラジオでは「パニックになるな」「落ち着け」と連呼している。

これは絶対に逆効果だ。というか、発表した時点で悪手としか思えない。

人々が状況を理解し、パニックに陥るまでもって3日。早ければ今日中にも局所的にパニックが起きるだろう。

時間はお昼前だった。俺はたまに暇つぶしで見る、渋谷のスクランブル交差点のライブカメラを見る。

普段より明らかに人が少ないが、パニックにはまだなっていない。いまのうちだった。


近所のスーパーやコンビニへ行って、保存食をメインに食材を買い集める。

銀行に行ってありったけのお金を引き出す。金は価値があるうちに使い切らないと、ただの紙切れになる。

略奪なんて考えるのはもっと後の話だった。




二日後には世界中がパニックに陥った。





発表から3か月後

世界はまるで地獄だった。




発表から半年後、大国の核を撃つ計画は、ほとんどなんの効果もなく失敗に終わった。



それから一か月後、世界は知らないが、少なくとも東京は落ち着きを取り戻した。

怒りや恐怖といった、負のエネルギーを元にした行動は長続きしない。対象がないならなおさらだ。

負の感情を一通り吐き出したら、あとは穏やかになるらしい。

うちの近所でも、食糧を分け与えたり、公園での炊き出しが毎日のようにみられるようになった。

俺は飲食店勤務だったので、手伝いもよくした。余っていた保存食も、最低限を残して提供した。

しかしなぁ、いくら本職とはいえ。奥様方の手際の良さには負ける。すげぇなぁ、かぁちゃんたち。


インフラも辛うじて生きていた。上下水道や電気、ガスはまだ使える。

インターネットも国内に限っては生きていた。地方の人たちの現状は、東京よりもマシのようだ。


政府は崩壊した。経済もとっくに崩壊した。物流もない。

交通インフラは整備する人がいなくなって、急速に崩壊していった。

一般道はまったく使われなくなった。というか、道路が車で埋まっていて使えない。

高速道路も事故車が放置され、通行できない。


地方ならいざ知らず、東京には自給自足が出来るシステムがまったくといっていいほど無い。

物流が止まった時点で、1年どころか3か月も持たないうちに食糧が尽きるだろう。

だから、分け与えた。

実情はみんなわかってた。でも、争って死ぬよりも、手をつないで死んでいきたいと、そう願っていた。



俺はというと、どうせ死ぬんだから、恥にもならんだろうとかなり吹っ切れていた。

自暴自棄になったわけではないと思っていたけど、今から考えたら自暴自棄になっていたんだろう。




ご近所さんの可愛い女の子をかたっぱしからナンパしていた。

死ぬ前に、毎晩寝しなに妄想していた俺の夢を実現させるんだ!どうしても!

俺は元々ストライクゾーンが相当広い。一見ボール球でも全力でバットを振っていくスタイルだった。

あと若干ロリコン気味。だから、特別可愛くなくても、イケる!と思った子には声をかけていた。



結果、ご近所の奥様方にめっちゃ説教された。

最後まで人として誇りを持って生きなさい、と。


俺は今年で31歳になる。人前に出る仕事だったからか、見た目はもう少し若く見られるんだが、見た目は見た目だ。

31歳にもなって、近所の奥様方に正座させられ説教をされる。なんと情けない。

旦那さん方や同年代の男たちには同情の目で見られる。畜生・・・



俺の夢は潰えたわけだが、その後も、拍子抜けするくらい平和な日々が続いた。

なんだかんだ可愛がってもらえていたようで、炊き出しや子供たちの世話をかって出ていたからか、それなりに重宝もされた。

夜中に可愛いあの子が訪ねてくるなんて妄想イベントは一切起きなかったが。


そうして、気が付けば迎えていた。最後の日を。



覚えているのは、衝突の瞬間だけ。衝突場所は太平洋の若干日本寄りらしい。

衝突の光を見て、思った。


俺は飽き性だ。仕事も趣味も、恋人にもすぐ飽きてしまった。

好奇心は強かった。だから、飽き性でも次々と興味の引くものを見つけた。だからきっと、他人よりほんの少しだけ物知りだっただろう。

後悔はなかった。いや、あったのだろうけど、1年という、短くも長い日々で、覚悟と共に消化していったのだろう。

光を見ながら、ああ、いい人生だった、と呟いた。

うん、いい人生だった。たくさんの事を知れた。見つけた。経験できた。

最後に素晴らしいものも見ることができた。手を取り合って、残された時間を精一杯生きようとする人たち。

争いの中ではなく、穏やかな平和の中で運命を全うしようとした人たち。素晴らしいものを見れた。

その中に居られた事を感謝した。


最後に可愛い女の子と一晩過ごしたかったけど、まぁ、それはそれで些細なことだ。悔いにもならない。

そんなことを考えて、俺って死ぬ瞬間まで、ぶれねぇ奴だなぁと、そう思った。



それは、俺が死ぬ瞬間、最後に思った事だった。

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