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トンネルの神様

作者: 銀の戦車

この町の裏山、隣町とつながっている道には、一本トンネルがあった。

トンネルのある山道は狭く、車一台通れる程度の幅しかなかったうえにトンネル内は明かりが無く、出口からすぐ木々が生い茂るカーブになっているので、昼でも真っ暗。

でもそんな道でも、地元の人にとっては大事な道、大きくて安全な道が出来ても「こっちのほうが、10分早く着くんだ」なんて言いながら運転している父を覚えている。

そんな、明かりもなく幅も狭く真っ暗なトンネルなのに、不思議と事故は起こらなかった。祖父は「あの山には交通の神様がおって、トンネルで事故が起こらんよう交通整理しとるんだよ」と、ニュースで交通事故のネタが出るたび言っていた。まぁ他の家族は「真っ暗で怖い道だから、みんな自然と慎重になるんだよ」とか、「いやいや、ハイビームの明かりで対向車は絶対気づくから」とか、思い思いの持論とつぶやいてたと思う。


そんな道の整備の話が出たのは、祖父が亡くなった次の年くらいだったか、俺もそろそろ免許を、とか考えてたくらいか。地域活性だか町おこしだか、観光客の利便向上の為だとか。

この地域の大きな道路は、対向四車線なのが一本だけ、町々を行き来する車は必ずそこを通る、なので週末は必ず渋滞している。最近車も増えてきて、増々渋滞が慢性化してるのが、観光産業にも悪影響してるんだとか。

そこで、脇道を整備し、車を分散したい考えで、この隣町へつなぐ山道もその一つとして選ばれたわけだ。

最近アスファルトも割れてきて劣化してたので、利用者的には願ったり叶ったりということで早速工事が始まり、アスファルトの補修と道幅の少し増量、トンネルに明かりがつき、ガードレールが新しくなった。

やれ、これで走りやすくなった、あそこ走ると揺れがひどくてねぇとか言って父が笑っていたが、そんな矢先、事故が起こった。


観光で来ていた大きめのファミリーカーと地元住民の車がぶつかったらしく、ファミリーカーの運転手は道の真ん中を走ってたところ、トンネル出口のカーブを曲がってきた車に気付かず事故った、幸いけが人は無かった。

この事故までにも、何度か危なかった場面があったらしく、道幅が車一台とちょっと分しかないのは、これから観光通路として利用してもらうには不便だねぇという意見も出て、一年後道幅を広げる大規模工事をするとのこと。

そして完成した道路は対向二車線の道幅へと変わり、さらにトンネル出口には発光する看板、反射材を使って車線を引き注意喚起したりキャッツアイを埋め込んだりと、とにかく徹底して安全に利用してもらおうと整備した。その甲斐あってか、山道は大きい道からの良い抜け道としてたくさんの車が行きかうようになっていった。しかし、またしても事故は起こった。


それも一件二件ではない、スピードの出しすぎ、過積載で横転、山道に路駐する車への追突など、様々なことが起こった、また車の増加により地元民にとって利用しづらい道へとなっていった。

そんな地元民の静かな怒りに油を注いでしまったのが、かつて道路脇にあった道中安全祈願のお地蔵様を、道路拡張の際取り除いてしまっていたという事実が露見してしまった事である。

地元民の怒りは炎となって、工事業者や行政へと向き、地元民以外を有料化して数を規制しろとか地蔵様の祟りだとか、騒動に発展した。

町も、今さら元に戻せないし、実績も出ている、それに迷信を真に受けるわけにもいかず、結局事態は平行線で解決せず、ついに……


ついに過激な地元民によって、道路への妨害が始まった、自分らが使えない道は要らない!とばかりに、通行止めの看板を置く、障害物を置く、そしてなんと車をトンネルの中で横転させるなど、約10年にわたり、そんな泥沼で誰も得しない暴動が続き、いろんな人が逮捕され、ついに町はその道を使用禁止にする措置を取った。大きい道の近くには、ここ最近高速道路が通り、渋滞は引き続き緩和される、とのことだった。

でも、その一報で喜ぶ人は、誰もいなかった。10年未整備でボロボロになったかつての山道だけが残った。


あれから何年も経ち、あの通行禁止の山道は、今でも通行禁止だが、案内人付きの場合の通行は特別に許可されるようになった。ボロボロで車は通れないが、オフロードバイクやMTBで走るには絶好らしく、それ目当てで来る観光客は多い、あのボロボロ具合と真っ暗なトンネルがいいんだとさ。

そういえば、通行禁止になったころに、地元婦人会があの道に新しいお地蔵様を立てたらしい、知らずに撤去されてしまった先代お地蔵様の供養もかねて……

意図せず、観光の目玉となったその山道、そこで遊んできた人はこう言う、「あんな真っ暗なトンネルのある危険そうな道なのに、全然走れるなぁ!」と。

私は知っている、だってあの山のトンネルには、交通の神様がいるんだから。

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