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サヨナラの向こう側  作者: こころ龍之介
9/16

第九話 6月にハワイで挙式、だからパスポート

慶子は将大の部屋に一度下がると、図面ケースの筒を持ってきて、

「これでよかったかしら、将大さん?」

将大に差し出した。

将大は受け取り、直ぐさま芽久美と優斗に渡し、

「開けてみな。そこに二人をクビにしなくちゃいけねぇ理由が入ってあらぁ」

筒には“ブルームフィールド建築設計事務所”と書いてあった。

芽久美は気が立っているので、

「何よ、こんな物・・・」

だが、優斗は冷静で、

「これ、(なん)かの図面すね?」

将大はニヤリとして、

「優斗ぁ、察しがいいな」

優斗は頭を下げ、

「失礼します」

筒を開けると店の外観図と内装完成図のイラストが出てきた。

それぞれの図面の右下に“あ津眞(づま)・仙台店”と記入されていた。

優斗は未だ状況が掴めておらず、

「こ、これ、どういう事っすか?大将?」

刹那、将大はきっちり正座に座り直すと、頭を下げて、

「亜矢優斗くん、この芽久美を嫁に貰って、仙台の店で(あるじ)やってもらえないか」

芽久美は焦って、

「ちょ、ちょっと、パパ。いきなり過ぎだし、訳わかんない」

将大は至って冷静で、

「芽久美、お前俺の出身地知ってるな?」

「パパの田舎って、宮城よね?もう随分昔に、お爺ちゃんのお葬式に行ったっきりだから・・・」

「おうよ、宮城さ。でな、前の東日本大震災の時、車飛ばしてボランティアで炊き出し行ったが、それからずーっと東北の為に何か出来ねぇかって考えてたんだよ」

「そうなんすか、大将・・・」

優斗は頷く。

「おうよ。それで優斗、お前の恩人のウィリアム艦長のご友人で、ニューヨークで不動産のお仕事をされてる“マイケル・ブルームフィールド”さんて人物(ひと)が居てな。この前来店された時に、『仙台にビルを買ったんで店子を探してる。出来れば割烹がいいって』話があってよ。俺ぁ、考えたんだよ。横浜の店も順調だ。だったら、故郷に恩返しをしても良いんじゃねぇか?って。だったら、東北の人に美味い飯も食べてもらえるし、人も雇ってやれる。そうは思わないか?芽久美、それに優斗」

芽久美と優斗は頷くしかない。

「つまりね、この将大(ひと)は、その大事なお店を二人でもり立ててやって欲しいの。だから、芽久美さんは本店の若女将を辞めるし、優ちゃんも一緒に宮城へ行くのよ」

慶子が話を纏めた。

将大はジャケットの懐から分厚い封筒を取り出す。

厚みからして、百万円は在るだろうか。

すっと、芽久美の前に差し出し、

「だからよぉ、明日から芽久美と優斗、二人で東北旅して新しい仕入れ先探しや、どんな物が好まれるかも調べてきてくれ。ちょっとした婚前旅行のプレゼントだ」

将大は改めて頭を下げ、

「頼まぁ、優斗。男手一つで育てたから、至らない処も多々ある我儘(わがまま)な娘だが、根は本当に優しい娘なんだよ。このとおりだ」

父親の親愛の思いに芽久美は心打たれ、

「パパ、そこまでアタシの事・・・、ありがとう」

芽久美の頬を一筋の涙が伝う。

又、優斗は優斗で、

《父親の娘への愛って、こんなんなんや・・・。でも、エエんかな?俺、ここまでしてもろて》

未だ受け止めきれずにいた。

将大は頭を上げて胡座をかくと、少し照れて、

「あー、いい忘れたが、今度の6月にハワイで俺達とお前らの結婚式を挙げるから、パスポート用意しとけ」

芽久美と優斗はお互いに顔を見合せ、

『え"ーーーーーーっ!』

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