第七話 呼び止められた理由
芽久美は顔を真っ赤にして、
「もう、パパってサイテー!」
拗ねて台所から出ていってしまった。
優斗は芽久美の背中に声を掛ける。
「芽久美、15分したら、車に来いよ。来ーへんかったら、俺、独りで築地行くし、スタバもあれへんからな」
芽久美は自室の引き戸を閉める前、
「絶対行く!」
そう言ってピシャリ戸を閉めた。
優斗はヤレヤレといった感で緑茶をいれ、将大と美幸ママの前に差し出した。
「お嬢さんも普段は愛想いいんですが・・・、すいません」
頭を下げ、美幸ママに詫びた。
将大は不思議そうな顔をして、
「おいおい、優斗。そこは俺が慶子に謝る処だぜ。その口調、まるで旦那だな」
何だか頼もしげに笑った。
優斗は再び頭を下げ、
「大将、俺、今からお嬢さんと築地に八角仕入れに行ってきますんで・・・」
立ち去ろうとした瞬間、
「帰ったら大事な話がある。お前と芽久美で俺の前に来てくれ。二人揃ってだぜ、絶対」
将大は言い放つと、美幸ママに膝枕をしてもらい寝てしまった。
「ほな、失礼します」
深々と頭を下げ、優斗は居間を出て行った。
首を傾げ、
《何やろ?大事な話って・・・。俺、ヘタうったかな?この前、煮物焦がした事かな?それとも、鍋綺麗に洗わんかった事かな?何やろ・・・。うーん。まぁ、芽久美も一緒やから、怒られる事は無いよな》
何処までも呑気な優斗であった。
直ぐ様、美幸ママから声が掛かり、優斗は居間へ引き返す。
将大は膝枕をいつの間にか座布団にすげ替えられ、気持ち良さそうにイビキをかいていた。
表情から察するに、余程嬉しい事があったのだろう。
「美幸ママ、どしたんすか?」
声を掛けるなり、慶子は優斗の両手を取り、握り締め、
「あのね、優ちゃん。お願いがあるの」
「何ですぅ?俺で役に立つんやったら」
慶子はコクンと頷き、
「そう。優ちゃんしか出来ないこと・・・。あのね、私と芽久美ちゃんの仲を取り持って欲しいの」
「何でまた?」
優斗は不思議そうだ。
「理由はね・・・、今はまだ言えないけど、あの人が『優ちゃんと芽久美ちゃんに話ある』って言ってたのに関係がね。その時に全て判明するから。だから、お願い」
ギュっと優斗の手を握り、潤んだ瞳でじっと見詰めて訴え掛ける。
「ま、まぁ、反対する理由もあれへんし、出来る範囲でやったら」
戸惑いながら優斗は応える。
慶子はぱあっと破顔して、
「優ちゃん、ありがとう。これで安心出来るわ、私」
ハンカチを取り出すと、溢れそうになっている泪を拭いた。
しかし、優斗は見逃さなかった。
慶子の左手薬指にキラリと光る真新しい指輪を。
《ん?アレって、まさか、アレやんな?せやから仲取り持って欲しいんか・・・》