表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サヨナラの向こう側  作者: こころ龍之介
3/16

第三話 雛多ももせ 20XX 日本凱旋ツアー《宮城公演》

11時ちょっと過ぎにも関わらず、石巻漁港にあるみなと食堂“えびす丸”は、観光客で一杯だった。

どうやら東日本大震災の復興を願って大手旅行代理店がツアーを組んでおり、そのコースに入っている様である。

鮎美と綾は二十分待たされたが何とか席に案内され、向かい合わせに座る。

店内を見回すと、太マジックでメニューが書きなぐられ、地元宮城のFMが流れていた。

店員のおばちゃんに、鮎美は焼き牡蛎食べ放題を、綾は海鮮盛り合わせ定食を頼む。


綾は鮎美に顔を近付け、

「あら?食べ放題だけでいいんですか?裏メニュー食べないんだ。ふーん」

意地悪に笑った。

鮎美はちょっと膨れ、

「たっ、食べるわよ。ちょっと店員さーーーん」

立ち上がり、店員のおばちゃんを手招きし、

「さっきのに追加で、えーっと、ほら、綾、言いなさいよ。裏メニュー!」

綾は申し訳無さそうに、小声で、

「ガーリックバターの焼き牡蛎丼を追加で・・・」

おばちゃんは知ってるのか?と言った面持ちで、

「ガーリックバターの焼き牡蛎丼ね。大盛にされますか?お勧めですけど」

と追加情報を告げた。

鮎美は、目を見開き、

「それ、特盛で!」

と大声で叫んだ。

おばちゃんも負けじと大声で厨房に叫ぶ。

「ガーリックバターの焼き牡蛎丼、特盛入りました~~!」

刹那、店内がざわつく。

おばちゃんがメニューに無いメニューを叫んだからだ。

店内のあちこちから手が上がり、俺も私もと皆が注文をしだした。

おばちゃんはシマッタという顔をしたが、《儲かるからまぁいいや》と気持ちを切り替えた。

数時間後、このおばちゃんの失敗がSNSで拡散され、堂々の表メニューに格上げされるのだが、おばちゃんは未だ知らない。


暫くして熱々の焼き牡蛎と裏メニューガーリックバターの焼き牡蛎丼“特盛”が運ばれて来る。

通常では大盛でも牡蛎で丼のご飯が隠れているのだが、流石特盛であるガーリックバター風味の焼き牡蛎が山積みされていた。

その数、実に15個。

しかも、ぷりっぷりの特大の牡蛎がである。

鮎美は大声でいただきますを言い、これでもかという位口を大きく開けた。

パクリと一口食べ、

「んーーーーっ、最高っ!」

牡蛎の肉汁を堪能し、満面の笑みだ。

綾に丼の器を差し出し、

「アンタも一口食べてご覧。食べないと絶対後悔すっから」

実の処、綾は牡蛎が苦手である。

恐る恐る一つ取り、口に運んだ。

勿論、目を閉じて。

少しきつ目の潮の香りがして、瞬間、世界が変わった。

「何これ、スッゴク美味しい!」

「でしょお!」

鮎美はかなり自慢気だ。

綾が更に箸を丼に延ばすと、鮎美はサッと丼を持ち上げ、

「もう、食い意地が汚いんだから、綾も自分でたのみなさいよ」

意地悪に笑う。

結果、綾は単品でガーリックバターの焼き牡蛎を注文した。

自身の海鮮盛り合わせ定食がやって来たからだ。

その時である。

流れてくるFMで軽快に話すDJがコンサートの案内を告げる。

『今、聴いて頂いたのは、雛多ももせちゃんの新曲“Happy your smile”なんですが、彼女来月、仙台でコンサートされるんですよね。仙台来られたら、この藤城りかの“あおばハッピーレディオ”にも是非来て欲しいものです。え?どしたの元ちゃん?えー、すいません視聴者のみなさん。今、ディレクターから発表ありました。何と、この“あおばハッピーレディオ”に雛ももちゃん来てくれるそうです。イエィ!』

鮎美はふと食べる手を止め、

「綾ーっ。ウチね、今、ラジオで言った雛ももちゃんと会った事あるよ。浜松の救急救命センターにおった時」

綾は驚き、

「え?そうなんですか?私も好きなんですよね、雛ももちゃん。コンサートかぁ、行ってみたいなぁ。私、彼女の“月恋メランコリック”大好きなんですよね。切なくて、キュンキュンします。えへっ」

鮎美は不適に笑い、

「奥家君とのデートの時で良ければ、綾も来る?アンタも居たほうが、ほら、誘い易いじゃない?」

綾はテーブルで平伏し、

「お任せください。この仁科綾、お二人を持ち上げて、いい頃合いで消えさせてもらいますから」

でも、綾は未だ知らない。

このコンサートで綾は運命の人と再会し、過酷な運命が待っている事に・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ