第十四話 呼び出された理由
「綾、こっちーっ」
綾がカフェテリアの扉を開けると、部屋の奥の方から友人が呼び掛けてきた。
宮城県仙台市郊外にあるクララ会・仙台北総合病院。
11階に在るカフェテリアで高校時代の友人、矢神結と待ち合わせていたのだ。
本来ならば、国分町辺りで待ち合わせれば良かったのだが、綾が午前中で勤務を終えるので、一緒にランチを食べようと結が連絡を入れてきたのだ。
何か話があるらしい。
綾は電話でもいいじゃない?と思いはしたが、結が直接会わないと説明しづらいと言ったので、今日に至るのだ。
「で、結。吹雪とは上手くいってんの?」
吹雪は結と綾の高校時代の友人で、今は横浜でプロのサッカー選手をしていた。
結は左手薬指の指輪を見せ、照れながら、
「プロポーズされちゃった、吹雪に」
「本当に?結、良かったね、おめでとう」
綾は目を細め、自分の事の様に喜ぶ。
結と吹雪、綾と優斗は各々高校時代サッカー部に所属しており、青春の日々を過ごしていた。
結はチラリと眼下の先に見える母校を見て、
「あん時は汗臭かったけど、楽しかったね」
そう囁いた。
結がこのカフェテリアを選んだのは、母校が見えるからなのだが・・・。
「もう卒業して5年か・・・」
綾達四人は仙台市北の富矢町に在る県立仙台北高校に通っていたのだ。
卒業後は綾は母親に習い看護師に成るため宮城医科大学看護学部へ、結はモデルを目指すので東京の城南大学へ進学。
そして、吹雪は地元仙台のサッカーチーム、仙台F.C.に入り、優斗は地元企業のサッカー部より誘いを受けたにも関わらず、それを蹴り漁師見習いになっていた。
その理由は誰も知らない。
綾はペペロンチーノを食べあげ、
「呼び出したのは、その報告?」
「それだけなら、電話かLINEで済ませたわよ。じゃないから、綾、貴女を呼び出したんじゃない」
「へっ?」
「へ、じゃないわよ。貴女“達”の事だから、呼び出したの」
「達って?」
結は軽くため息を吐き、
「相変わらず、天然ね。綾は・・・。貴女“達”。つまり、綾と優斗に関してだから呼び出したんじゃない」
じっと結は綾を見詰め、
「もし、優斗が生きてたら、綾、驚く?私見たんだ。優斗によくにた男」
「ち、ちょっと、結。それ何?どこで?東京?仙台?」
綾の問い詰めに結は首を横に振り、告げる。
「ううん。違う。横浜」