第十三話 “モノクローム”
仙台市営地下鉄南北線・仙台駅のホームを優斗と芽久美が腕を組んで歩いている。
ホームは帰宅するサラリーマンやOLで混み合ってきていた。
芽久美は少し先に居るOLらしくない女性の手に持つ何かが気になったのか、
「ねぇ、優斗。あれ誰のCDだと思う?」
優斗は全く上の空で、
「誰のやろな?」
そう呟き、何故自分が行った事の無い駅の事を知っていたのか考えている。
《何でやろ?分からん。この地下鉄の駅もなんとなく覚えてる気がすんねんな・・・。この壁の色や売店で売ってた“河北新報”も懐かしさ感じるから、やっぱし仙台住んでたんかなぁ。ほな、俺なんで関西弁しゃべってんねん?ほんで、なんでまた、米軍に助けてもろたんやろ?》
考えながらフラフラ歩いていると不注意から帰宅途中のサラリーマンにぶつかった。
刹那、サラリーマンの鞄がCDを持つ女性の背中に当たり、女性はCDを落とす。
優斗はサラリーマンにだけスイマセンと頭を下げ、ホームの先を目指した。
芽久美は慌てて直ぐにCDを拾うと、女性に渡し謝る。
勿論、サラリーマンにもだ。
「もう、待ってよ、優斗」
そう呟きながら、優斗を追った。
『思い出すのはね いつだってあの初雪の日で 色鮮やかに~♪』
ヘッドフォンから流れる“雛もも”の歌に聞き入ってた時だった。
彩は背中に衝撃を感じ、思わずCDを落とす。
《!!!》
拾おうとした刹那、優しそうな女性が直ぐに拾い、
「ゴメンね」
と謝り、手渡してくれた。
ヘッドフォンを外し、
「あ、ありがと・・・」
彩はお礼を言おうとしたが、優しそうな女性はサラリーマンにも頭を下げると、聞き覚えのある、いや、絶対に忘れてはいけない名前を口にして、その名前を持つ男性の元へ駆け出した。
「もう、待ってよ、優斗」
彩はハッとして、優しそうな女性の先を見る。
その後ろ姿は、彩が知っている優斗に似ていた。
しかし直ぐにため息を漏らす。
髪型が決定的に違った。
視線の先に居た男性は角刈りなのだ。
《優斗は、ロン毛だったもんね・・・》
軽く首を横に振ると、ヘッドフォンをはめ直し“雛もも”の世界に又浸る。
ホームはいつの間にか帰宅する人々で溢れ、警告音と共に泉中央行きの白地に緑のラインが入った車両が滑り込んで来た。
芽久美が優斗に引っ張られ、先頭車両に乗り込む。
芽久美を抱き抱える様に反対側の扉に立つと、
「なぁ、芽久美。俺が仙台に住んでた事あるかも知れへん。って言うたら驚くか?」
耳元で囁いた。