第十二話 抱き締めた左腕の温もり
仙台市営地下鉄南北線のホームで、綾は手にいれたばかりの雛多ももせのセカンドアルバムを見つめ、
「買っちゃった。この子まだ18になって無いんだよね。で、ワールドデビューしてるんだから、凄いわ」
早くCDが聴きたくて仕方ない様子で、スマホを取り出すと、
《apple storeに有るかな?有ったらダウンロードしよ》
検索の結果は2曲有った。
1曲は“泣き虫うさぎ”で、もう1曲はアルバム“Fairlytale II”からの先行リリースで“モノクローム”という楽曲である。
《“モノクローム”か、どんな曲なんだろう?》
綾は鞄からヘッドフォンを取り出し、スマホに刺すと、
《とりあえず聞いてみよ》
操作し、“モノクローム”をダウンロードした。
到着したばかりのはやぶさから、慌てて優斗と芽久美が降りてくる。
北の杜の都はもう真っ暗で、ホームですら腕を組むには丁度いい頃合いだ。
優斗はちゃかす様に、
「しっかし、良ぉ寝てたなぁ。弁当二個も食うからや」
芽久美は膨れっ面で、
「もう、優斗の意地悪っ。仙台着く少し前に起こしてくれてもいいジャン。だって・・・」
優斗は子供の様にクスクス笑い、
「ははははは、だって何や?」
「二人でこれから住む街だよ。初上陸から記憶に留めたいジャン」
「そんなもんなんかな・・・」
何気にホームから街を眺める。
刹那、優斗の脳裏にノイズの掛かった記憶が見え、
《あれ?俺、この街知ってる気がする・・・》
改札口への下りエスカレーターに二人並んで載ると、
「芽久美、これからどーする?ホテル行ってチェックインするか?それとも暗いけど、店見に行って周りどんな雰囲気か確かめるか?」
優斗の問い掛けに、芽久美はニィっと笑い、
「ホテル行くのもいいけど、仙台で思い出沢山作りたいから、お店行って近くで晩御飯食べよ。泉中央だっけ最寄り駅。何あるんだろね?」
「泉中央やったら、牛タンのお店あんで。確か、“利休”やったかな?」
と言って優斗はハッとする。
《え?俺、今なんて?何で行った事の無い場所の店知ってんねん?》
優斗の不思議そうな顔に、全く芽久美は気にする事もなく、
「じゃあ、そこに行こう。アタシ、牛タン食べたい」
「そっか、仙台の牛タンはステーキみたいに分厚いで」
「そうなんだ。それ楽しみ」
芽久美はにやけ顔で優斗の左腕を抱き締めた。
まるで、この男性は私の所有物だとでも主張するように。