第十話 好きは好きゃねんけど・・・
夕暮れのちらほら雪が降り始めたJR仙台駅一階のロータリーに、真っ赤なトヨタ・アクアが入って来る。
鮎美の運転するアクアだ。
牛タン通りの近くに停車すると、助手席からショートカットの女性が降りる。
薄いブルーのSamantha Tiaraのバッグを袈裟懸けにし、右手には石巻と書かれた紙袋を持っていた。
中身は干物だ。
おそらく、家族へのお土産だろうか。
「綾ーっ、ここで良いの?家までじゃなくて?」
ステアリングを握って鮎美が問い掛ける。
綾はペコリと頭を下げ、
「ええ。ここで大丈夫です。帰りに、そこのパルコのタワ・レコ寄って、“雛もも”ちゃんのセカンド・アルバム買って帰ろうかと・・・」
鮎美は納得したのか、
「“Fairlytale II”ね。ウチも聞きたいから、又貸してね」
「いいですよ。鮎美サンには特別に“無料”で貸してあげます。くすっ」
にこやかに微笑み、別れを告げた。
「じゃぁ、明日、病院で」
鮎美のアクアは静かにロータリーから出ていく。
鮎美を見送った綾は、少し寂しそうに、
「仙台駅来るの久しぶりだな・・・」
ポツリと呟いた。
何か物思いに耽っている様子である。
「売り切れて無かったらいいのにな。“雛もも”ちゃん・・・」
足をパルコに向け歩きだした。
その数時間前、東京駅の東北・北海道新幹線のホームにはキャリーバックを引っ張る一組のカップルの姿が在った。
優斗と芽久美である。
平日ということもあり、ホームはそんなに混んでもいない。
優斗は芽久美からもらった腕時計をチラリと見て、
「お腹すいたなぁ。発車迄時間在るから、弁当買ってきてーや、芽久美。車内で食べよ」
芽久美は鞄見ててと言い、売店に向かって走り出す。
心なしか後ろ姿はウキウキしてる様に見えた。
《何か楽しそうやなぁ・・・》
優斗は優しく芽久美を見つめるが、
《でも、ホンマに俺でエエんかな?》
流されていく自分に、まだ気持ちが整理出来ずにいた。
《好きは好きゃねんけどなぁ・・・》