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18.行ってきます!!

 





 『一緒に来て』

 飲みこんだ言葉。だって、言えないよ、そんな事。


 エリオットはファーブルに残る。

 それは聞かなくても分かっていた。


 マナの量が均一になって。国を行き来する為のマナの証明が理論上出来なくなるって分かって。

 それなのに、いざ、この瞬間まで、エリオットと自分が離れ離れになる事を想像出来ていなかった。


 離れたくない、もう二度と。

 小さなエリオットを抱きしめた時、あたしはもう離さないって思った。

 あの時は彼を守らなきゃって、見当違いな庇護欲があった事はわかっている。


 でも、今もあたしは彼と離れたくない。


 だったら、答えは決まっていた。



◆◇◆◇



 重なった呼びかけ。同じ選択。

 たとえ今、離れ離れになっても、必ず道は繋がる。

 そう確信できるほど、あたしたちは同時にその未来を描いた。


 笑顔が広がる。

 別れの時間がどんどん近づいているのに、あたし達は笑っていた。


 なんなんだろうって、思う。

 以前なら泣いて、我が儘を言って、きっとエリオットを困らせた。


 あたしたちはお互い選ぶ事の出来ない、同じぐらい大事な人を抱えている。

 全てに優先順位を付ける事は本当に難しくて、きっと皆、あたし達と同じように同列一位を持っている。


 それでも分かれ道に差し掛かった今、どちらかに負担を強いるのではなくて、笑って、一時的に別の道を選ぶ事が出来るのはすごいんじゃないかって、思うの。


「大魔法使い様、だもんね?」

「宝の持ち腐れ、だっただけだもんな、ティアは」

「そ、それは失礼なんじゃない!?」

「やればできると、褒めているつもりなんだけどな」


 いつもと同じ、軽いノリの会話。

 もう会えないなんて微塵にも感じさせないやりとり。

 そう、あたしは、あたし達は諦めない。絶対に、また会えると信じている。


「じゃ、お褒めにあずかったから、あたしが来てあげるね」

「別に待っててくれていいんだぞ、ティアナ姫?」

「なっ!? 何よ、それ!!」


 急に振って湧いたような話なのに、そんな風にからかうなんて!


 もう! と、エリオットの胸を叩こうとして――……振り上げたその手を引かれる。

 想像していなかった力にバランスを崩したあたしは、そのまま彼の胸にぶち当たった。


「いたっ……! もう、一体何を」

「俺が行くから」

「え」

「今度は俺が。必ず、迎えに行くから」


 耳元で囁く低い声。

 熱を帯びた言葉と共に伝わってくる、燃えるような体温。

 離さないと態度で示すかのように、彼はあたしを力一杯閉じ込める。


 胸がきゅうっと苦しくなった。

 彼の決意が、想いが、こっちにも伝染してしまったようで。あたしは自分の顔が熱くなってくるのがはっきりとわかった。


「えっ、と。その……」


 エリオットに抱きしめられたまま、あたしは身じろぎをする。

 驚いて、頭が真っ白になって。

 何を話せばいいのか分からない。


 心の中に想う事はある。確信に近い、くすぐったい想い。

 温かくて、幸せで。お互いの思いが通じれば、この幸せが無限に広がるだろう予感。


 でもそれを、ここで話して良いのか。

 彼を、困らせないか。


 そんな事をぐるぐると考えている間に、エリオットがそっと手を離した。


 離れてゆく温かさ。

 思わず手を伸ばして、捕まえたくなる。離れたくなかった。


「――続きは、再会した時にとっておく」

「つ、続き!?」


 焦るあたしを他所に、エリオットは「そろそろマナが……」と、光の先を気にした。

 そうだった。今を逃せば、あたしはアコットへ渡る事が難しくなる。


「じゃ、じゃあ行くね」

「ああ」

「レイとズリエルさんの事……」

「大丈夫。この国の王と宰相なんだ。できない事なんてないさ」

「シュートやメリルお婆さんにも会いたかったな」

「今度があるさ」


 エリオットが一歩、また一歩と距離を取る。

 僅かでも離れたくないのに、それを詰める事が出来ない今がもどかしい。


「――ホントに、行くね?」

「ああ」


 引き止めて欲しい。

 本当は困るクセに、そんな事を思う自分がバカみたいだった。


 お互いの選択は揺るがない。

 きっと……いや、絶対また会えると信じて。

 一度は分かれる道を選んだ自分達を、後悔なんてしない。


 ――ただ。

 寂しいと思う気持ちも本当で。

 お互いその想いは心にあるはずなのに、やけにさっぱりとしているエリオットに軽く嫉妬する。


 だから。


 あたしは地面を蹴った。光の伸びる方向とは逆向きに。

 どんっとエリオットの胸に飛び込み、彼の首に両手を回して。思いっきり背伸びをした。


 短い時間が、永遠のようにゆっくりと流れ。

 あたしは願った。



 ――贈ったキスが、少しでも彼の心に残りますように。



「……っ!!」

「行ってきます!!」



 今度は彼に背を向けて。一目散に駆けだした。


 あたしは前だけを見る。

 キラキラ光るマナの道。幅はもう、人が一人通れるほどまでに狭くなっている。

 このまま駆け抜けて、あたしはアコットへ帰る。リアムやマリカ、みんなが待っているあたしの国へ。


 ――振り返らないのは、決心が揺らぐからじゃない。


 クスリと笑う。

 思い浮かぶのはもちろんエリオット。


 カッコ良くって、なのに、かわいくて。

 年上だって忘れちゃうぐらい、ぎゅうっと抱きしめたくなる。

 あたしの、とても大切な(ひと)


 最後に見た、彼の真っ赤な顔は最高のお土産。


 ――必ず、迎えに来てね。

 来なかったらまたあたしが迎えに行くからっ!!


 心の中でエリオットに語りかけ。

 あたしは満面の笑みを浮かべたまま、光の中に飛び込んだ。







お読みいただきまして、ありがとうございました!!

次話が最終話です。お暇がありましたらよろしくお願いします(*^_^*)

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