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23.客人

  





「だーかーら。大事なお話があるわけ」



 王都の城門へと転移し、目に飛び込んできたのは見慣れた黒服だった。



「我が王はお忙しい。一般人の面会は無理だ」

「一般人……っていうか、なんて説明すっかなぁ……」

「どのような説明でも一般人のお目通りは叶わない。意見は騎士に託してくれ」

「俺も急いでるんだって」

「忙しいのはお前だけではない」



 後頭部に手を当て「困った」と零す男性。

 色素の薄い金髪はやっぱり同じで。黒揃えの隊服は長身に良く似合う。



「お? ティアナちゃん!!」



 振り返った彼がニッと笑う。その瞳は深い、緑色。


 アレン=ザリッツ。

 客人が来たと聞いていたけど、まさか彼だなんて。


 アレンを見たレイが「彼が?」と確認してきたので、頷いて見せる。このタイミングで現れて、他にもアコットから来ている人がいるだなんて思えなかった。


 アレンが近づいて来て、レイが一歩前に出て。そうして次の瞬間、あたし達は室内へと移動していた。



「あ、れ?」

「立ち話する内容ではないだろう?」



 城内の客間に移動したのだと分かるのに少しだけ時間がかかり、アレンも突然変わった景色に目をぱちくりさせていた。



「ファーブル、マジすげえな!」



 興奮気味に声を上げるアレンにあたしは小走りで近づいた。



「お久しぶりですアレンさん!!」

「おう!! 元気だったか?」

「もちろんです! この間はありがとうございました!」

「いいって。一番頑張ったのはマティだし」

「そんな!! みんなのおかげです!」



 相変わらずの軽い感じに懐かしさを覚える。


 ファーブルに来られたのはマティアスを始め、ロデリック隊の協力があってこそ。

 あたしは皆にすごく感謝していた。皆は元気だろうか? 是非様子が聞きたい。



「――ティア、誰?」



 低い声で問うエリオットに、ご機嫌でアレンの事を伝える。

 ロデリックさんの部下でマティアスのお兄さん。そして――


 途端、エリオットの瞳に怒りが浮かんだ。



「――黒覆面!」



 うっかり覆面と同一人物である事を伝えたのがいけなかった。

 エリオットはあたしを背に庇い、アレンに敵意を向ける。彼の記憶はあの襲撃事件から更新されていないのだった。



「リオ!! 大丈夫だから!!」

「大丈夫なものか!! 二度に渡り襲って来やがって……!!」

「二回目はピンポンしただけじゃん」

「それでもだ!! ティアがどれだけ怖がったと思ってる!!」

「それはもう謝って、終わった話なんだな~」



 ね? ティアナちゃん? と、同意を求めるアレンに、コクリと頷く。確かに終わった話だった。


 エリオットが不満げにあたしを見る。

 「信用できるのか」と訴える瞳は(いぶか)しげで、和解の場に居なかった彼としては当然の反応だろう。

 心配してくれるのは嬉しい。でも大丈夫。アレンは信用できる人だ。


 あたしはしっかりと頷いて見せて、「後で詳しく説明するね」と、その場を収めた。

 エリオットも渋々といった(てい)だったが、納得してくれる。


 ……なのに、それをぶち壊す人がいた。



「嫉妬はダメだよ? 小さな騎士様」



 うんうんと、頷きながらエリオットの傍に近づくアレン。

 「騎士はいかなる時も冷静沈着。道はまだまだ遠いな!!」なんて言いながら、エリオットの頭をくしゃくしゃにする勢いで撫でまわした。……あ、それはマズイ。


 案の定、エリオットはその手を振り払い、キッと眉を吊り上げる。



「俺は常に冷静だ!!」

「冷静と言ってる奴こそ、暑苦しい程感情豊かなんだよな~」



 みるみるうちにエリオットの機嫌が急降下する。

 小さな(・・・)と、いう禁句のあげく、冷静さもないと指摘されれば、大人を公言している彼が怒るのは当然。気付いていないのはアレンだけだ。



「ちょっとアレンさ……」

「よし! ロデリック隊一番のクールガイ、アレン様が直々に……」

「結構だ!!」

「またまた~遠慮しない!」

「俺はその態度が気に食わん!!」

「――それぐらいにしておきなさい、二人共」



 レイの一言で、エリオットの表情から怒りが消える。

 そしてその変化をみたアレンがレイを振り返った。



「急ぎ、ではないのかい? アコットからの使者よ」

「っと。たしかに! 割と急いでる」

「おい、無礼だぞ!!」



 三者三様の反応を示しつつ、話は本題へと入ってゆく。



◆◇◆



「単刀直入に言います。精霊の愛し子、エリオット=マーカムに協力を願います」



 あたし、エリオット、レイ、三人の間に言いようのない緊張が走る。

 先程の軽口を忘れてしまうような、アレンの(かしこ)まった態度は元より、その内容があたし達の動きを止めた。


 精霊の愛し子。その言葉を、アコットに住むアレンが知っているはずがなかった。


 ――彼の傍にその言葉を知る者が居なければ。



「やはり……」

「間違いないようだな」



 エリオットとレイが顔を見合わせ頷く。

 その言葉を発したアレンはと言うと、「隊長の言った通りの反応するなあ」と頭に手をやっていた。



「で、お願い出来る?」

「――まずは事情を説明すべきじゃないか?」

「はぁ……やっぱそうなるか」



 くしゃくしゃと頭を撫でたアレンは気を取り直すようにコホンと咳払いをして、真面目な表情を作る。大事な話が始まるのだと、あたしは背筋を伸ばした。



 ――数カ月前から、少し動きを変えたアコット政府。

 理由の詳細はわからないが、どうやら魔具を手に入れた事が発端らしい。

 マナの研究を加速させる為に、ヴァリュアブルの確保をに力を入れ始めたのが初夏。ただし、人材の不足は目に見えていた為、別の手を打つ――



「別の手……?」



 うっかり声に出したあたしに、アレンが困ったように頭をかく。

 話の腰を折ってしまったと、詫びればそうじゃないと彼は首を振った。



「ティアナ、君を保護しようとした理由、覚えてる?」



 コクリと頷けば、「本当は、あの時告げた理由が全てじゃないんだ」と彼は言う。



「――もう一つの理由は、政府の捕獲計画から守る為だ」

「ほ、捕獲??」

「連続誘拐事件、って言った方が聞き覚えある?」



 連続誘拐事件――ヴァリュアブルだけが狙われる、明らかにマナが狙いだと分かる誘拐事件。

 魔法の悪用を企む者の仕業で、ヴァリュアブルであるあたしは注意しなきゃとマリカと話をした事を覚えている。たしか、話題に上ったのは初夏だった。



「……誘拐していたのは、政府?」

「政府の見解は保護、だけどな」



 確かに政府に囲われれば、ある意味においては安全だ。

 衣食住も不自由ないし、同時に勤労の義務からも解放される。

 だけど、意に沿わぬ連れ去りは間違いなく誘拐。許されるはずがない。


 自分の国に失望を覚える。貴重な人材を確保したい気持ちは分かるけれど、それにしたって手段があんまりだ。

 アレンはあたしの心を見たのだろう。「ちょっと、擁護(ようご)させて」と、言葉を重ねた。



「そもそも保護、もとい、捕獲していたのは契約違反者たちばかりだ」



 あたしたちは選ぶ事が出来た。

 勤労を全うし、最期まで自由に生活するか、勤労を免除され、限られた自由を先に得て、残り時間を政府に捧げるか。契約をするのは後者であり、期日を迎えたら政府の管理下に入る義務が発生する。自分の身近にその道を選んだ人はいなかったが、決して悪い選択ではないと思う。だけど。



「今まで違反した人の話、聞いた事無いのだけど……」

「それは公開していなかったからだよ」



 『全ての情報を政府が公開している訳ではない』と、ロデリックの声が聞こえて。ハッとした自分が、この言葉の意味を真実理解していなかった事に気が付く。


 今までも期日を守らず逃亡したヴァリュアブルはいたのだとアレンは言う。

 だけど政府は敢えてその情報を外部に出さず、皆約束を守っているとすることで潜在的な逃亡を抑えようとしていたらしい。安易に違反しようという気持ちを起こさせない方法だ。


 それは一定の効果を上げていた。だが、急務が出来た事により変更を余儀なくされる。不足する人材の確保の為だ。



「――つまり、事件性のある誘拐なんてものは最初っから存在しない。必要だったのは学園に入り込む口実だったわけ」



 すとんと、腑に落ちた。

 突然始まったヴァリュアブルだけの講習。政府に賛同、協力してほしいという意図が見え隠れしていた座学。あたしは冷めた気持ちだったが、それは元々、彼らに良い感情を持っていなかったからだ。


 だけど、みんなはどうだった?

 初めの座学でマナの秘密を知り、戸惑いと興味を持った。

 繰り返される講義の中に織り込まれた政府の意図は確実に彼らの心を(さら)っていたのではないだろうか?



「……もう、何を信じていいのか分かんないや……」

「見聞きした事だけで真実が分かる訳ではないのだな」



 そうまでして進めたいマナの研究って、一体何なのだろうか。








いつもお読みいただきましてありがとうございます!!(*^_^*)

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