表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/71

25.貴方の元へ

  





「つ、着いたーっ!!」


 今までとは違う景色を眼下に収め、あたしは一人叫ぶ。


 ありがとうみんな!!

 良くやったあたし!!



「いやあ、褒めてくれていいんだよ。この偉業!」



 さあ、どうぞ! とばかりに頭を差し出し、得意げな顔をする。


 ……が、しかし。当然の事ながら頭を撫でてくれるような人はおらず。

 あたしはそっと自分の頭を撫でた。



「あとでリオに褒めてもらおう……」



 マリカには目覚めた後で話そうと心に決める。

 その第一歩は、エリオットに会って無事を確認する事。

 それがファーブルに来た最大の目的なんだから。



◇◆◇◆◇◆



 まず、あたしが取った行動は身を隠す事だった。

 といっても、壁に身を寄せただけだが、何もしないよりマシだろう。

 そうしてから状況を確認しようと、そっと壁から顔を出す。


 そこは広場だった。

 緑と白を基調とした景色は生えそろった芝生と白い石畳。

 その境目に等間隔で植えられた木々の背は低く、道が奥まで見通せる。


 前方には石像があった。

 丁度、十字路の中心に置かれている石像は、穏やかな笑みを(たた)える女神像で、彼女は両手で壷を持ち、目の前の大皿に向け壷を傾けている。


 優しく、さらさらと落ちる流水は大皿を満たし、溢れる水は地面に向かってカーテンを作る。その下には幾重にも別れた道が作られており、少しずつ水が花壇に向かうようになっている。



「うわ……なんか別世界……って、ある意味その通りか」



 計算された構図の美しさに『箱庭』という言葉が浮かんだ。


 一人、景色に圧倒され、キョロキョロと辺りを見回す。

 幸か不幸か、周囲には誰もいない。まずはホッと胸を撫で下ろした。



「とにかくリオを探さなきゃ」



 あたしは目を閉じる。

 エリオットが帰ってしまってから、一度も感じ取る事が出来なかった、彼のマナ。

 それを捕まえようと全神経を集中させる。


 辺りは静かだった。

 ざわめきも、風も、人の気もなく。ただ水の流れる音だけが、絶え間なく聞こえている。


 エリオットのマナは見つからない。


 もし、このまま感じ取れなかったら。

 そう思うと、とても怖かった。


 場所が違うなら仕方ない。追いかけて、近づいて行くまで。

 だけど別の理由で感じ取れないとしたら――……


 エリオットを襲撃したガーディーの存在。

 『反逆』と『危険』という二つの言葉。

 辛そうに別れを告げた彼の声が。まだ、耳に残っている。


 ――ねえ、リオ。どこにいるの?

 あたしはここにいるよ。

 貴方に会いに来たの。


 入国は成功した。

 皆で力を合わせて、エリオットの元へと願った。


 だから、きっと。


 マナが動き出す。

 漂うように、ゆっくりと。

 まるで今、目覚めた。というように。


 目に見えずとも体感するそれは、時間が経つにつれ、さざ波のように引いてゆき。

 求めているただ一つだけを残す。

 

 影の部分は琥珀(こはく)。光を通せば金。

 あたしが唯一判別出来る、エリオットの瞳と同じ色。


 ――見つけた。


 そう思った瞬間。

 突然マナが揺らめき、ばらばらに砕け散る。

 思わず息が止まった。

 

 

「な、なんなの……」



 目を開ける。

 不吉過ぎる現象に早くなる胸を押さえ、辺りを見回す。

 

 あたしを包むのは静寂。

 目の前に広がるのは美しい庭。――見えている景色は同じ。


 大丈夫。

 

 一度、深呼吸した。

 (はや)る気持ちを落ち着かせ、再び目を閉じる。


 選別されるマナ。

 色も形も大きさも。全て違うマナの中、オレンジ色の星屑だけがその場に漂う。


 ――消えては、いない。


 その事実にホッと胸を撫で下ろす。


 じゃあ、どうして砕けてしまったの?


 キラリ。と、マナが輝く。

 ふわふわと漂っているだけなのに、無為に動いているようには見えず。数を増やしたマナは、ある一点に引き寄せられるよう星屑の道を作って行く。


 導かれている。


 そう、確信した。



◇◆◇◆◇◆◇



「……警備は手薄。か」



 ガーディーの野郎。舐めやがって。


 風に励まされて、小一時間。

 目の前の魔具を検証しつつ、俺は魔法とも呼べない程の微弱のマナを外へ放っていた。


 分かった事は三つ。


 ここが王城ではなく、別の屋敷に備え付けられている牢である事。

 警備人数は通常の屋敷とほぼ同じで、特別俺を警戒していない事。

 魔具は呼吸をする様に、大気中および、周辺にいる人間のマナを吸い取る事。


 魔具の発動タイミングは十五分に一度。

 恐らく、一定量を吸収しないとガーディーに情報が行く仕組みだと予想される。


 この設定は実に奴らしい。

 時間経過で回復するマナより少し多めの吸収量は、脱出の希望すら奪うつもりなのだろう。


 じわじわと追い詰めてゆく魔法は奴の好み。

 ここでの滞在時間が増えれば増えるほど、脱出が困難になるのは明らかだった。


 俺は周囲のマナを集め、力を構築する。



『――遮断せよ。音も聞こえぬ、箱の庭』



 水晶の周りに壁を作り、一定量のマナを閉じ込める。

 逆に辺りのマナは一段と少なくなり、これ以上の使用は困難と判断する。


 あと使えるのは内包するマナのみ。

 しかしそれも、ほぼゼロだった。


 皆はマナの枯渇を避ける。

 それは内包するマナがゼロになると、回復に数倍もの時間がかかってしまうから。

 そしてなにより、魔法が使えない状態を恐れているからだ。



 ――だが。



「――『王の隼』を舐めるなよっ!」



 詠唱なしで、手枷と牢の鍵を破壊する。


 完全に枯渇する内なるマナ。

 眩暈を覚え、目の前の格子を掴んだ。



「こんな、物でっ、足止めしようなどと……!」



 崩れ落ちそうな体を奮い立たせ、鉄格子を押し開ける。

 重く、軋む格子はギィと耳触りな音を立てて、行く手から姿を消した。


 ちらり。と、台座を見やる。

 狙い通り水晶は無反応。

 

 俺は笑みをこぼし、ふらつく足を引きずりながら出口を目指す。








お読みいただきましてありがとうございました!!(*^_^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ