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2 ゴーレム作成

暗がり迫る森をぬけ集落に着いた。村ではなく、集落だ。


 現在、集落は家が余っている。30を超える民家。それに対しあまりに少ない集落民。それでもボロく狭い家を充てられる僕はどれだけ嫌われているのだろうか。商人が来れば、大勢の下っ端ですし詰め状態。だがそれも1年に一回あるかないか。ケチケチしないで欲しいものだ。


 そんな廃墟になるまであと一歩の集落には、不相応なものが1つある。それがこの寺だ。 


 薄暗い森に目が適応していたのか。日夜ついたままの篝火(かがりび)照ら・・された寺の門が、今日は殊更に眩しく輝いているようだ。__蓋を開ければ暗く淀んでいるくせに。



 寺の門を開けると、本殿までは光がささない。暗がりから、のっそりとした人影が近づいてくる。


「ご苦労じゃった。木の実はいつもの場所に置いていきなさい。卑しき身なれど、来世には往生できる身に生まれるじゃろう。」


このお坊さんは寸誉という。身長は低いが、威圧感がにじみ出ている。殺生を頑なに禁じ、面白半分に兎を殺した村長の息子を半殺しにしたこともある程に狂信ぶりだ。


 節々に嫌みが出てくるが、この集落の長の様な役割を担っている。



 振り返るのは、去年に起こった村の焼き討ち。


 燃えさかる家屋。響き渡る悲鳴と欲望にまみれた声。戦の前の景気付けにと許された暴力は、村を地獄へと変えた。

 暴れ回る地獄の鬼の横には、村長家族もいた。軍勢を先導し、隠れた家々の場所を伝え多くの村民が犠牲になった。


 軍勢が村から出て行っても地獄は続いた。十数人の兵が軍を抜け出し、村長の息子と共に村に残った。寸誉は自ら率先して暴力を受け、片目を失った。

 ……漫画だとかっこいい片目キャラ。だが、しわしわの年寄りがつけると、眼帯はめちゃくちゃ怖い。


 『血筋だけが取り柄の無能はすぐに破れる。機はすぐに来る。』

 そう、村民に言い続け耐えに耐えた。


 数日待つと、その軍が退却したことがわかった。脱走兵達は逃げだした。命を弄んだとして。自分だけが助かろうとしたとして。村長、いや元村長の息子は和尚自らが殺した。


 それから、村長に代わって皆を率いてきた男がこの年寄りだ。



「熊が出たんです。」


「ほう。怪我はないかえ。明日は集落の手伝いでもするかえ。」


 隠しているつもりだろうが、心配する気配が欠片もない。世界を何度も救った者もいるのだ、五歳児を舐めないで欲しい。自分から、山に行かせるつもりだろうがそうはいかない。自分の「いのちだいじに」だ。


「そうします。」


「そうかのう。とはいえ、冬になるまでに少しでも食料を貯めておかなくてはならん。お主が行かぬなら、代わりが必要じゃのう。話は変わるが、お主は弟に山の話をしていると聞くのう。」

 

「うっ。」


「もちろん、何かあったらお主の責任じゃ。この意味、わかっておろうのう。」


「和尚さん、待ってください。行きます。」


「ほう。明日もいってくれる様だのう。良き哉。良き哉。」



 下げたくない頭を下げ、家に向かう。子供一人と集落全体を秤にかける。リーダーの非常な決断だとでもいうのか。


 どうすればいい。逃げ出すべきか、死ぬべきか。そもそもなんで僕なのか。


 集落とはいえ、寸誉以外は子供と女性と出家した弟子達。そして、和尚が交渉して手に入れてきた元敗残兵の奴隷が13人。まさにハーレムといえる状況。


 ビッグダディこと寸誉。彼のファミリーに入れていないのは、自分と弟の一人氏三みつうじだけ。新参者であった自分たち家族でも、自分たち二人だけが天狗の子と受け入れてはもらえなかった。いわゆる、不満の捌け口いけにえと言ったところか。


 だが、なんで僕なのか。


 この時代ではありふれた不合理なのだろう。受け入れるべきだろうか。……だが、もし。もし 明日を生き残れたら。好き勝手生きてやろうと思う。


 死ぬのは阿呆だ。こんな時代だって。流される阿呆に、抗って踊る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃそん、そん。偉いやっちゃ偉いやっちゃ。




 家に帰ると欠けた土器によそわれたお米じゃない粥を食べる。それとなく弟に土を食べさせようとしたが、親に殴られて終わった。


 寝床に入ると、死の恐怖と全力のダッシュでの疲れが出る。眠りの世界に急降下。




 ふと、目が覚める。月影が顔に差し込んでいる。土を食べた昨日のようだ。家族は寝静まったまま。


 月をみて、ただただ自分の境遇を呪う。せっかく2度目の生を満喫できるのに、フラグの立った状態。気分は12段目の階段を上った死刑囚だ。


 明日までには覚悟を決めなくてはならない。気が立っているであろう熊がいるのだ。しかも、冬に備えるこの時期に。


 思い出すのは、口の臭さと腕の重み。そして、背後から聞こえた絶叫。あれは今怒り狂っているのではないだろうか。


 とはいえ、土を投げたおかげで今を生きている。次会ったときの対抗策は1つ。こう土をもって、こう、シュバッと。これしかないよなぁ。…もう少し生きたかったなぁ。


ガサッ。


「おわぁ。」


 土を投げた先では、高さは90cmほどの土人形がこちらを覗いている。形状は5等身のちょっと変わった人間型。頭部が肩幅と同じくらい膨れあがり、両腕は地面を引きずるほど長く指はない。腕は太く全体が関節のようになっている。


 うん。化け物だ。これは熊よりまずいかもしれない。


 ひとまずやれることは1つ。こうもって、シュバッと。


 再度砂を投げると、土人形は土に変わった。一息つく。すると、また気がついてしまった。そこには先ほどの土人形、いやゴーレムの姿がそこにはあった。




 その後、外に出て試してわかったことがある。

 ・片手いっぱいの土を投げると、出るなと思っても出現する。

 ・1体が出現すると、今までの一体は土のかたまりに戻る。

 ・念じることで命令することが出来るが、口頭の方が細かく伝えることが出来る。

 ・表面に傷を付けてもすぐに元に戻る。


 よしよし。これなら、あの熊たちを熊鍋に変えてやることが出来る。秋の食いだめ?油が乗ってうまそうじゃないか。極楽往生の手伝いをしてやろう。


 え?殺生?いやぁ、素直な五歳児なら、罪を告白して謝るんだろうけど。誰が自分に不都合なことを教えるだろうか。




 朝日が山際に差し掛かり、森の暗がりを追いやっていく。


「かか様。山さ、行ってくる。」


 そう呟き集落に背を向ける。


「弥平。これはととぉがお前に残したもんだ。」


 そういうと、母は彼女の服のようなボロ切れを渡した。中から出てきたのは、精緻を極めた小太刀だった。


「弥平、元服だったか。お上のことはあーんまり覚えてねえ。けんどお前は今日から弥平じゃねえ。」


「うーん。よーわからん。」



 よくわからないが、いいものをもらった。頑張れ、ということだろう。帰ってきたら、詳しく聞けばいい。


 小太刀を背中に、足取り軽く。熊を退治に向かっていった。言葉の意味を深く考えずに。



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