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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第96射:村の秘密と歴史

村の秘密と歴史



Side: アキラ・ユウキ



村へと入った俺たちは、まず話を聞く前に渡す物資を荷車から降ろしていた。

そして、その様子を村人が見ている。


「うわー、すっげー!! 今日は御馳走か!! かーちゃん!?」

「そうだね。今日は良いモノをたべようかね」

「やったー!!」


食べ物を降ろせば、そうはしゃぐ子供と母親。


「あっちの農具は頼んでいたやつだよな?」

「だな。これで、もう一人畑を耕せるな。しかし、良い鉄の道具だな。光が反射している」


農具を降ろせば村人の大人たちが、良い道具が来たと喜んでくれている。

一応、宰相の話じゃ、この物資から魔族に横流しする分があるとか聞いたんだが、なんか全部村で消費しそうな勢いだな。

しかし、今思ったけど、この村の人たちは、畑仕事を頑張っているせいか、日に焼けて肌が黒くなっている。健康的だな。部活動を頑張っている連中はこんな感じだったよなーと思い出す。

と、そんなことを考えながらやっていると、あっという間に荷物は下ろし終わる。


「村長。全部降ろしました。一応、こちらの注文書と間違いないか確認してください」

「はい。わざわざありがとうございます」


田中さんはそう言って村長さんを連れて荷物の確認をしていく。


「真面目だねー」

「いえ。こういうのは社会に出たら当然ですわよ? だって、1つ荷物がなければ、その分村人が困るわけですし、金額も損をしていることになるのですから」

「あー、そっか」

「逆に私たちも過剰に物資を渡してしまっては、ルーメル国の物資を多く減らしてしまうことになります。分かり易いたとえで言うならば、私たちの共有財産を無駄に多く渡すことです」

「それはだめだなー」


だから、ちゃんと確認をして不備が無いか確かめるのか。

大人って大変だなー。俺なら、もうあるだろうって数えたりしなさそうだ。

そんなことを考えている間に物資の確認が終わったようで。


「では、こちらの荷物はどうされますか?」

「そうですな。おーい、お前たち。自分たちで頼んでおいた分は持っていけ。それが終わったら、倉庫へ食料を運ぶから、すぐに戻ってきなさい」

「「「はい」」」


村長さんがそう言うと、すぐに村人たちが集まって自分の物を取り、田中さんと村長さんが資料を見ながら持っていくものを確認して、家へと戻っていく。

あの確認も勝手に多く持って帰ったりしたら、トラブルの元だからってことだよな。

上に立つ人って色々大変なんだと改めて認識する。


「うわーい!! お人形さんだー!!」

「こら、まだ家の荷物があるんだからじっとしてなさい!!」


荷物の中には何でと思う物もあったけど、そうか、人形とかは子供のおもちゃか。

こういうのも確かにいるよな。

そんな感じで、どんどん村人が荷物を持って行って、最後には食料品と農具だけが残る。

その中で少し疑問に思うことがあったので、田中さんと村長に尋ねてみる。


「あの、少し気になったことがあるんですけど、聞いていいですか?」

「俺はいいが、村長は構いませんか?」

「はい。かまいませんよ。なんでしょうか?」

「たいしたことではないんですが、今回の物資には武器になるようなモノはなかったのですが、大丈夫なんでしょうか?」


俺がそう聞くと、村長はキョトンとした顔つきになってから笑顔になる。


「いやはや、風邪で休んでおられる方の代わりにどんな人が来たかと警戒しておりましたが、貴方たちもずいぶんと人が良いようだ。辺鄙な村に上等な武器などあると他の兵士であれば、無用な警戒を抱くか、没収するのですがな。いや、気持ちの良い方々だ」

「その話から察するに、あまり武器は必要としてないんですか? こちらに危険などは?」

「ああ、失礼。その質問に答えていませんでしたな。まあ、そこまで必要ないですな。ここは辺鄙すぎるので、盗賊が狙うような商人もおりませんし、魔物の方も、こちらに来られるのでしたらご存じなのでしょう?」


……これは、魔族のことを言っているのだろうか?

俺がそう考えていると、田中さんが口を挟む。


「村長。このような所で、喋っていいのですか? 周りに人目がありますが?」

「ん? ああ、詳しくは知らないのですな。まあ、言っても信じてもらえないと思ったのでしょうな。では、私からご説明いたしましょう。あなた方は信用できる」


そう言って村長は一旦言葉を切り、目の前でおもちゃを持って駆けまわっている子供を見つめながら……。


「この村の住人は全員、魔族と呼ばれる種族です」

「は?」

「え?」


唐突な発言に俺どころか、田中さんも驚いている。


「一度私たちも魔族を見たことがありますが、肌がもっと青白かったような……」

「ああ、それは元がエルフなどではないでしょうか? 比較的青白くなりやすいですからね。まあ、魔族は青白くなりがちですが」

「……待ってください。元が? というのは?」

「そうですね。これを知っている人も少ないですな。魔族は元々人族、エルフ族、獣人などから魔力の高い人物が魔族へと種族が変わるといわれております」

「ちょ、ちょっと待ってください」


それだと、魔族って元は普通の人ってことか?

え、なんでそんな人たちを目の敵にしているんだ。

そんな感じで俺が混乱しかけていると、田中さんが肩に手を置いて話しかけてくる。


「落ち着け。歴史が長いんだ。色々あったんだよ。人種差別の一種だからな。昨日今日で始まったことじゃない。だから、今お姫さんたちや、ルーメルの人たちを責めても何も始まらない」

「あ、はい」


そうか。田中さんが言ってたじゃないか。こういうのは人種差別の一環で、地球でもよくあっていることだって。


「まあ、自分は生まれた時から魔族でしたからな。他種族から魔族になることはよほど珍しいことで、10年に1人2人と言われておりますな」

「生まれた時から魔族というのは? ご両親がということでしょうか?」

「ええ。両親が魔族だと魔族が生まれるようです。ですがこちらも絶対ではなく、普通の種族の子供も生まれることもありますな。とは言え、ラスト国で生まれたからには、差別なくということで皆魔族として扱っております。他種族だからと排斥しては、私たちを追い出した他の種族と変わりがありませんからな。ですが、ある日突然種族が変わっていることを知って、驚かないでいるのは難しいことだとは思いますな」

「「……」」


……そうか、生まれた子供のステータスが魔族に変わっていたら、色々驚くだろうな。

元の人をどこかにやったと思ってもおかしくない。

でも、事実は変化したってことか。


「おっと、そんな悲しそうな顔をしないでくだされ。こうして、あなた方のような優しい人たちもいます。いつか、手を取り合える日が来ますよ。今もこうして、ルーメルの端とはいえ、住まわせてもらっていますから。宰相様には感謝です」

「「……」」


宰相はこの人たちも含めて殲滅するつもりだったのか?

宰相はやっぱり、殺した方がいいんじゃないか?


「ねぇ、田中さん」

「まて、気持ちはわかるが、どういうつもりだったのかはわかっていない。憶測なだけだ。魔族の立場が可哀そうというのはわかるが、これから魔族側に立って戦うつもりもないだろう?」

「それは、そうですけど……」

「俺たちが、魔族側についたら、なおのこと戦いが激化するだけだ。しかも、結城君たちは魔族のために呼ばれたからな。魔族もそれだけ警戒するだろう。背中を気にしながら戦うのは苦労するぞ。それに俺たちの目的は地球に帰ることだ」


そう言われると、何も言えなくなる。

周りをすべて敵に回すつもりはないし、帰るつもりなら、一から方法を探すより、ルーメルを味方にした方がいいはのわかる。

でもなー。何とも釈然としない。

と、そんな話をしていると、不意に泣き声が聞こえてきた。


「うわーん!!」


何だと思ってそちらを向いてみると、どうやらおもちゃで遊んでいた子供が転んだようで、地面にうつ伏せに倒れている。

すると、俺が動き出す前に、撫子と光が近づいていって、子供を助け起こす。


「大丈夫ですか?」

「あーあー、土だらけになっちゃったね」


そう言いながら服に着いた土を払ってあげ……。


「血が出ていますわね。お水で洗いますわよ」

「ちょっとしみるけど我慢してね」


丁寧に、魔術で水をだして、傷口をあらって、最後に回復魔術をかけて治す。


「うわぁ。回復魔術だ。お姉ちゃんたち使えるんだ」

「ええ。ちょっとぐらいですけど」

「まあねー」

「こら、お礼を言いなさい」

「あ、うん。ありがとうございました」

「すいません。ありがとうございました。お礼ですが……」

「あ、いえ。まだ見習いなので今のはただで結構ですよ」

「うんうん。僕たちが一人前には見えないでしょう? だからいいよ。でも、周りに気を付けて遊ぶんだよ」

「はーい」

「本当にありがとうございます。ほら、今度はおうちの中で遊びなさい。まだ、お姉さんたちはお仕事なんですから」

「わかった。お姉ちゃん。またあとで遊ぼうねー」

「はい。約束です」

「またあとでねー」


と、微笑ましい光景が目に入ってくる。


「いやはや、彼女たちのような若い子がなぜと思いましたが、回復魔術の使い手ですか。と、話がそれましたな。私たちが魔族の関係で、魔物使いの才能が高いものが多いのです。その関係で魔物が近寄らないようにしているのですよ。いや、この話を最初にするべきでしたな。老人の話は回りくどくて申し訳ない」

「いえ。貴重なお話を聞かせていただいてありがとうございます」

「ありがとうございます」


俺も田中さんに続いてお礼を言って、あとは残った食料や農具を倉庫へと運んでいくことになった。

その間に、撫子と光は見習い治療魔術師として、村で怪我した人や、病人の手当てをしていく。


「タナカ殿」

「おう。結城君、ほれ」

「はい」


そんな感じで、3人で俺が倉庫奥、田中さんが倉庫前、リカルドさんが他の村人と一緒に広場から荷物を運搬することになった。


「村長さん、この食料はどちらに?」

「そうですな。手間ではあるのですが、梯子を上がった上の方にお願いいたします。地面に直接置くとネズミが来ますので」

「ああ、なるほど」


地面はそう言うのがあるから、二階というか上の方は梯子だけからしか登れないのか、日本で言うならネズミ返しだっけ? なんか授業で聞いた気がする。

倉庫1つみてもこういう工夫があるのが、なんかすごいよなー。

色々大変な異世界生活だけど、こういう発見もあるから楽しくもある。

血なまぐさいのは嫌だけど。

とそんなことを考えながら荷物を運び終わる。

まあ、元々荷物が多かったわけでもないから、簡単に終わってしまった。


「お手伝いいただきありがとうございます。おかげで早く荷物の移動ができました」

「いえいえ。これも仕事ですから。で、次の物資に関してですが……」

「あー、そうですね。そちらは一旦皆から話を聞いてまとめております。そちらは自宅にありますので、とってきます」

「あ、いえ。急ぎませんので、其方の話は夜にでもゆっくり。まだ希望を聞いていないのなら、早い方がいいと思っただけでして」

「ああ、そうですな。ですが、こんな田舎の村は荷物が届く前に次の品物を考えていますので、心配はいりませんな。皆、暇というわけではないのですが、唯一の娯楽みたいなものですからな」


そう言って、村長が視線を向ける先には、届いた荷物を見て楽しそうに話す村人たちの姿があった。

ここはこんなに平和なのに、夜に内情を探るような話になることに内心、悲しくなったというか申し訳なくなってきた……。

自己満足だけど、せめてこの村だけは勇者としての名前を使ってでも、捨ててでも守ってやれればなと思った。







どこかのブラックジョークにありそうな話。

魔族が寄る村ではなく、魔族が暮らす村だったという話。

吸血鬼を探しにきて、村全員吸血鬼でしたという類い。

まあ、そこまで血なまぐさそうな気配はないですけど。


さて、この事実をしった若者たちはどう動くのか?


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