第92射:国の為
国の為
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
ダンッ!! ダーン、ダーーン、ダーーーン……。
そんな音が地下牢に響いて、耳がキーンとなる。
というか、痛い!?
銃を地下で発砲するとこんなに五月蠅いとは思わなかったよ!?
宰相さんが黒幕で、僕たちを始末しようとかわかりやすい話だったんだけど、さっきの銃撃で全部吹っ飛んだ。
田中さんに撃たれた兵士の人は呻きながら地面を転がっているけど、そんなことを気にする余裕がないほど、耳がキーンとなった。
「くっ!?」
それは宰相さんも同じようで、痛そうに耳を押さえている。
その中で田中さんだけが、平然と立って……じゃなくて、いつの間にかヘッドホンみたいなの付けているよ!?
「さて、追加だ」
「貴様!?」
うげっ!?
田中さんはそう言って、今度はハンドガンからアサルトライフルに切り替えて、遠慮なく引き金を引いた。
ダダダダ……!!
僕たちはとっさに耳を塞いで伏せたが、アサルトライフルを知らない宰相さんたちはそのまま銃撃を受けることになる。
いや、宰相さんだけは逃げ出そうとしたが、鎧を着た兵士たちが狭い通路の邪魔をして逃げ損ねた。
狭いところなら、僕たちだけなら殺せただろうけど。
田中さんをそこに含むと、ちょっと無理かな?
鎧って頑丈そうに見えて、弾丸は通すんだよね。
剣で振ってぶつけても凹むほどで、そこまで厚くはない。
まあ、それぐらいの厚さじゃないと、鎧なんて着てられないからね。
ということで、鎧を着た兵士さんたちは、そのまま的のように撃ちぬかれて、倒れていく。
僕たちは銃撃の恐怖よりも、閉鎖空間で響く銃撃音に耳を塞いで耐えることで精いっぱいだった。
最初からこんな狭い空間で田中さん相手に距離を詰められるわけないってわかってたからね。
「……て、あらかた片付いたな」
田中さんがそういうのが聞こえて、銃撃が終わったことに気が付く。
耳がキーンとしていて、最初の言葉が聞き取れなかった。
「いや、狭いところに来てくれて助かった。こちらとしてもヤリやすかったよ」
絶対ヤリって殺りでしょ?
と、耳がようやくもとに戻ってきたかなと思っていると、宰相さんだけが無事に立っていることに気が付く。
「貴様。なぜその武器を……」
「ん? おいおい、ジョシーと俺がどうやって戦ったと思ってるんだよ」
「まさか、そのマジックアイテムをお前も持っていたのか!! なぜ、説明しなかった!!」
「いや、誘拐犯に手札を全部伝える必要もないだろう」
全く持ってその通り。
正論過ぎるね。
「さて、宰相さん。これからどうするつもりだ? 俺をやることは叶わないし、お姫さんたちにも今までの悪事というか、目論見がばれた」
「……私を突き出しては、国が混乱するぞ」
「だろうな」
田中さんにしては珍しく、悩むような感じで、アサルトライフルを消す。
何でだろう? こいつが悪い奴なんだよね?
そんな僕たちの疑問がわかったのか、田中さんが説明を始める。
「宰相をルーメル王の前に突き出すのは簡単だ。まあ、証人とか証拠をそろえるのに多少時間はかかるだろうが、どうせ屋敷か執務室でも調べればなんとでもなるだろう。でもなー。その時に起こるのは、ただ勇者が悪者をやっつけたというだけじゃないんだよな」
「そうだ。私という陛下を支える国の柱が無くなれば、ルーメルは混乱する。王は部下に裏切られてばかり、魔族の手を借りる者もいる。これが諸外国にばれれば、攻め込まれる原因にもなるだろう」
「いやいや。宰相さんが自分で言っちゃいけないでしょーに」
つい、僕は突っ込んでしまった。
なに普通に自然と自己弁護してるんだよ。
「話は分かりますが、それで周りは納得しますか?」
「納得しないからこそ、ルーメル国内は割れるだろうな。そして、素晴らしき内戦と、外敵を迎え入れるどうしようもない状態になるな」
田中さん、素晴らしきって、皮肉だよね?
本当の意味で素敵って言ってないよね?
そこが一番心配になる。
「でも、これからどうするんですか? お姫様はどう思われるんですか?」
と、晃の言葉で正気に戻り、お姫様を見ると怒っている様子ではあるが、沈黙している。
まあ、さっき宰相さんも言ってたけど、なりふり構わずって点から見ればお姫様も変わらないからね。
「……私個人としては、暗殺などという手段に走ったことは非常に不快です。なにより、カチュアはヒカル様がいなければ死んでいました」
確かに、あれはもう死んでたよね。
魔術ってすごーいと実感したよ。
そして、実際あんな目にあわされて怒るなというのは無理があるよねー。
「……ですが、私個人の感情で、この国を乱し、国民を苦しめるつもりはありません。よって、貴方のことは今は責めないでおきます」
「今は、といいますと?」
「宰相が私に言ったように、やったことは、罪は消えません。いつか償ってもらいます。それが早期隠居なのか、国民の前での斬首になるのかは、これからのあなた次第でしょう」
なるほど。執行猶予ってやつだね。
これからの行動をみて、処罰を決めるってわけか。
ま、今殺すわけにもいかないからね。
「……私を信じるのですか?」
「あなたが叔父様と仲が良かったのは存じています。私欲ではなく、魔族、魔王を倒して平和をといっていたことも」
「貴族一人を使い潰し、魔族を利用しましたが?」
「それを言うのであれば、私も立場はさほど変わらないでしょう。いえ、何も知らない勇者様たちを巻き込んだということを考えれば私の方が、悪といっていいでしょう。それに、ドトゥスの支援なくては、勇者様たちは呼べなかったドトゥスに指示を出してくれたあなたのおかげという考え方もできますわ」
「確かに。しかしながら、その勇者様たちは信用できますかな? これから逃げないと断言できるのですか?」
あー、それを聞かれるとちょっとつらい。
やばそうだったら逃げるし。
田中さんだってそれは当然のはずだ。
死ぬために戦うわけじゃないからね。
逃げられるなら逃げる。これが大事だと冒険者稼業とか田中さんに色々教えてもらって覚えた。
「宰相、逆です。逃げられないように、私たちが誠意をもって接するのです。助けてもらおうというのに、そんな態度で見られれば誰だって面白くありませんし、信用できません。姑息な手を使えばなおのこと、信頼は崩れるでしょう」
「……ふっ、この言葉には確かに実感がありますな」
実際、逃げられたからね、僕たちに。
というか、こんな状況でお姫様を挑発する余裕があるのはなんかむかつくなー。
「まあ、お前たちが対処するよりはましだろうさ。結局、そのごつい連中をつれて、必勝といっておいてその様だからな」
「……たしかに。君の強さを見くびっていたようだな」
「条件は何度も言うが、帰還への協力だ」
「ならば、魔王を倒してもらう」
「相手が攻めてくればな。わざわざ敵地に乗り込む必要性を感じない」
「それでは遅いのだ。攻めて来てからでは!!」
そう力説する宰相さんだけど、田中さんを筆頭に僕たちは冷めていて……。
「こっちから攻めていたから、報復が怖いか?」
「「……」」
田中さんの一言に、宰相さんもお姫様も口を閉ざす。
「なるほど。自覚があるだけまだいいか」
だね。
これで、自分たちが正しいとか抜かすなら、今後の手伝いは断ったね。
「今まで、俺たちも旅をして強くなるついでに情報を集めたがな、ここ約100年は魔王が軍を集めて攻め寄せたなんて話はないからな。お前たちが警戒しているのは、どちらかというと報復行為を恐れているってところか」
「……」
「……私は違います」
宰相さんは黙っていたが、お姫様は口を開いて否定する。
「私は、この国を、国民を守りたい。私のスキルで見た魔物の大群がこの国を蹂躙するのを防ぎたいだけなのです」
まあ、これは真実だよねという説得力はある。
いままでの行動をみてもそれはわかる。
「お姫さんの気持ちは分かった。で、宰相はだんまりってことは肯定と受け取るぞ。結局100年も何もまともに動いていない相手に対して、ちょっかいを出して、返り討ち。それから報復を恐れての戦力の強化、そしてまた攻め込むってことに聞こえるが?」
「……間違いではない。だが、後の禍根を断つためには、それしかないのだ」
「一人残らず殲滅するなんてできないぞ? というか、そういう差別意識が魔族とか魔王という敵を作っているんじゃないか? 現に魔族とは話が通じて、俺たちを消しかけたんだからな」
「だからこそだ。魔族を一人確実に殺してしまった。それを知っての報復行為は必ずあるだろう」
あー、そうか。
そういう意味でもあるのか。
「魔族は仲間意識が強い。数が少なくあの魔物が強い大森林の奥の山々に囲まれた盆地に国を持つからな。協力していかなければ生きていけないのだ」
「そこまで知っていて、魔族を敵というお前たちの溝がどれだけ深いのかは分かったが、歩み寄りをしなければいつまでも敵だぞ。というか、やはり魔物と魔族は繋がっていないか」
「使役するものはいるが、それは全体的な魔物の数から比べるとごくわずかだ。魔物が魔王の配下なら、一斉に号令をかけて国を滅ぼせばいいだけだからな」
その話は田中さんも言ってたね。
魔物の主が魔王や魔族なら、既に攻めているって。
「まあいい。宰相の処罰を決めるのは俺たちだけじゃない。このことはルーメル王にも報告させてもらう。それに、これ以上ここで立ち話していると、そろそろ死ぬ奴が出るかもしれないからな」
そう言って、田中さんは地面に倒れている兵士たちを見る。
そういえば、なんかうめき声を上げているから、生きているのはわかる。
あの状況で手加減してたんだ。
「無暗に殺して恨みを買うのは避けたいが、今後宰相に付くより、俺に着いた方が生存率が上がるぞって教えるためだな。そして、ルクセン君たち治療をしてやれ」
「あ、はい」
「なるほど。私たちが彼らを助けて恩を売るわけですね」
「そうだ。俺はともかく、勇者である君たちに無暗に武器は向けられないようになるだろう。尋問官の2人は人を呼んでくれないか?」
「「はっ!!」」
尋問官さんたちは即座に返事をして部屋を出ていく。
すっかり部下のような感じだよね。
「リカルドたちは、兵士の武装解除。治療している時に襲われたらたまらないからな。ルクセン君たちはリカルドたちによって武装解除された兵士から随時治療だ」
「「「はい」」」
そして、リカルドさんたちも田中さんの指示に従って、倒れている兵士さん武装解除をしていき……。
「これはちょっと血を流しすぎですね。アキラさんこの人の治療を優先でお願いします」
「はい。分かりました」
「ナデシコ殿。こちらの方を頼めますか?」
「ええ。かまいませんわ」
「ヒカル様。この方は危険です。至急手当を」
「はいはーい」
ということで、僕たちが治療を開始している間に尋問官さんが人を呼んできてくれて、けが人の搬送をしてくれて、最後の人が運ばれて行くと入れ替わりにルーメルの王様が入って来た。
「宰相。いや、フォアマン。お前が魔族と組むとはな」
「陛下。これも、我が国の為を思ってのことです」
「だろうな。まあ、今すぐお前の首を切ることはできない。それも予想してだろうな」
「……」
「やはり兄と比べて頼りないか?」
「いえ、そのようなことは決して。あの大被害時から今までルーメルを支えてきた陛下が頼りないわけありませぬ。ただ、勇者様が召喚されたからには……」
「後の禍根を絶ちたかったか。自ら生み出した狼煙を消すことも含めて」
「はっ」
なるほどね。
本当に宰相さんも国を思ってのことなんだね。
これをみてお姫様と似ているなっていうのはよくわかる。
だけど、それで巻き込まれた僕たちには関係のないことだね。
ルーメル一国の安定のために、他の国の王様を殺すとか、どこのスパイ映画だよって感じ。
と、そこはいいとして、ひとまず、犯人捜しは終わったのだった。
さーて、あとはこれからまたどう動くかだよねー。
結局この人も国のため。
自業自得でもあるが、それでも国のためにということ。
とはいえ、巻き込まれたアキラたちからすればふざけんなってところではある。
あと、結婚お祝いのコメントを多数いただきまして、本当にありがとうございます。
この場を借りて御礼申し上げます。
そして、何度もいいますが
「小説はこれからも書くよ!!」
これだけは誓いを守っていく所存であります。




