表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/523

第90射:尋問官

尋問官



Side:アキラ・ユウキ



地下牢の扉が開かれる。

扉から見える地下牢は薄暗くてひんやりとしていて、いかにも地下牢という感じの場所だった。


「よし、行くぞ」


田中さんの言葉に全員頷いて地下牢へと進む。

先ほどまでの微妙な空気は既になくなっている。

なぜなら、地下牢では……。


「なんだてめー!!」

「ここから出せよ!!」


なんて言葉と共に、牢屋の隙間から手が伸びてくる。

牢屋の向こうにはいかにもな、人たちがいて威嚇してくるのだ。

先ほど田中さんと兵士のやり取りでできた緩い空気はなくなっている。

そして、やはりというか、こういう連中が目をむけるのは、


「おい。そこの姉ちゃん。俺の相手しないか。ほれ、俺のものでひーひー言わせてやるよ」


そう言って、下半身を露出させるバカがいる。

流石にこれをお姫様に見せるのはためらわれるよな。と、納得してしまう。


「まあ、そこの小さいのでもいい……ぞっ!?」


そう言っていた男はいきなり吹っ飛んでひっくり返る。

いや、光が魔術で吹き飛ばした。


「死にたくなかったら、それ以上口を開かないことだね。その粗末なもの今すぐ切り刻んで燃やしてやるよ」


そう言って、光は分かり易いように、炎を掌に出現させて見せる。

すると、男は怯えて牢屋の隅に行って体を縮める。


「ふんっ。失礼な奴だよね。僕は将来ナイスバデーになるんだから」

「「「……」」」


流石にその言葉に反応できない。

何を言っても地雷にしかならない気がする。

というか、ナイスバデーになる前に、身長が圧倒的に足りていないよな?

あの身長で胸が大きくなってもバランスが……。


「ねえ。晃、言いたいことでもある?」

「いいやなんにも」


やばい。考えるだけも駄目だ。

何か意識をそらさないと、ドトゥス伯爵が死ぬ前にきっとここで死ぬ。


「ま、光のことはいいとして」

「なんだとー!! 僕は女に見えないだって!?」


やっぱり何言ってもダメじゃんか……。

そう思っていると、田中さんが口を開く。


「ま、そろそろじゃれるのはやめておけ。特にルクセン君は最悪ドトゥスを死なせないために治療してもらうからな。精神を乱すなよ。最悪尋問官と戦闘だ」

「うー……。わかったよ。後でこの話はきっちり決着をつけるからね」

「どう決着をつけるんだよ」


俺は地下牢でのことが終わってもげっそりしないといけないのか。

と、思っていると……、地下牢の一番奥に牢屋と違ったドアが設置されていて、そこに兵士が座っていて、俺たちを見ると席を立つ。


「何者だ!! って、姫様と田中様!?」

「そうです。ルーメル第一王女ユーリアです。ドトゥス伯爵に会いに来ました。伯爵はどちらですか?」


……なぜか、お姫様の後に田中さんの名前が出てくるのか非常に疑問だが、いまはそんなことを聞いている場合ではない。

お姫様もそこはわかっていて、スルーしているんだから、俺がツッコムわけにはいかない。

なぜだ。さっきからなんかギャグ寄りになっている気がする。

そんなことを考えていると、兵士がお姫様の質問に答える。


「はっ!! ドトゥス伯爵は奥から2番目の尋問室で尋問を受けております」

「尋問をしている人物は何人いる?」

「二名です」

「その人物の名前はわかるか?」

「いえ。尋問官は恨みを買わないように顔を隠して当たることになっていますので、それはわかりません」


あー、なんか聞いたことがある。

こういう恨みを買うような職業の場合は安全のために顔とか隠して仕事をするって。報復を避けるために。

とはいえ、それはそれで問題があるような……。


「ちっ、中身が入れ替わってもわからないってことか。というか牢屋番が顔を知らないのはまずくないか?」

「いえ、ちゃんと尋問官の許可証を預かっていますので。……この通り、王のサインがないと行えないようになっていて、勝手に処刑などできません」

「まて、この前の魔族騒ぎの貴族は処刑されたと聞いたぞ?」

「それは、尋問が終わった後に解放されてからですね。その内容については報告書に書いてあったはずですが?」


あれー? てっきり処刑されたのは尋問官がやったのかと思ってたけど、別の人?

そのことに気が付いたのは田中さんも同じようで、お姫様に視線を向けて……。


「どういうことだ?」

「いえ、尋問官が処刑したとしか書いてありませんでした」

「どこかですり替えが起きたということになるな。まあ、いまはいい。まずはドトゥス伯爵に話を聞くのが優先だ。とりあえず、君。俺たちはドトゥス伯爵に用があってきた。それは言うまでもないだろう?」

「はっ、姫様及び勇者様たちへの暗殺行為ですね。どうぞ、お進みください」


この兵士はお姫様を引き留めることもなく、すぐに道を開ける。

どういう基準なのかね?

まあ、あの通路を平気な顔をしてここまで来たから平気だと思っているのかな?

そう考えているうちにすぐにその尋問室の前へとやってくる。


「入るが、お姫さんは覚悟しておけよ」

「問題ありません」

「じゃ、みんな戦闘になる可能性もあるからな油断はするな。行くぞ」


そう言って田中さんが尋問室の扉を開けるとそこには……。


「おい。やりすぎだ。回復だ」

「ちっ、このデブ。何を待っているのかしら?」


明らかに暴行を受けた感じで、座り込んでいるドトゥス伯爵と、それを何かの被り物をした人が見ているように見える。

でも、死ぬような傷でもなく、治療を施されているように見える。

なんかイメージ的に、死にそうな状況まで拷問しているイメージがあったんだけどそうでもなかったので、なんか拍子抜けの気分だ。

でも、殺しそうにもないから、話しかけるタイミングが無くなったなーと思っていると、田中さんが普通に声をかける。


「仕事中すまない」

「ん? 誰だ? 許可をしてないのに入るのは機密事項を盗んでいると判断されて極刑だ。覚悟はできているな?」


そういうと、尋問官の一人がこちらを振り向いて、イノシシの被り物をしていることがわかったのはいいが、剣を引き抜いてこちらに近づいてくる。

あ、うん。そりゃーこういう仕事の邪魔をしちゃいけないよね。

でもどうするかなー。話を聞いてもらえるような状況には見えないけど、とりあえず、話してみるしかないよなー。

と、半ば戦闘覚悟で話しかけようとしていると、不意に尋問官の一人が止まり……。


「ちょっと待ちなさい。姫様では?」

「は? 姫様? ……姫様でしょうか?」

「そうです。あなたたちが尋問官で間違いないですか?」

「「はっ。陛下より尋問官の仕事を拝命しております」」


流石にお姫様を知っているかすぐに敬礼する。


「私がこの場に来たのはドトゥスに用があったからです。私たちが尋問しても?」

「はっ!! あ、いえ。陛下の許可がなければ……」

「……私たちでは判断できることではございません」


まあ、そりゃそうだよな。

勝手にやられちゃ困ることもあるし、王様直属って感じだから、お姫様よりもある意味仕事上の立場は高いはずだ。

さーとどうしたものかと思っていると、田中さんが口を開く。


「それなら、ルーメル王に許可をもらってきてくれないか?」

「陛下のでしょうか? 田中殿」

「俺のことを知っているなら話が早い。ここに来た理由としては、そちらから受け取った魔族と繋がっていた貴族の報告書がお姫さんの部屋から紛失しているのに気が付いたからだ」

「報告書が紛失? そんなばかな。それを無くされたのですか?」


信じられないような猪のマスクで覆われて表情は見えないが、信じられないといった感じの声でお姫様に視線を向ける尋問官たち。

あ、これってお姫様がただ失くしたと思っている感じだ。


「誤解があるようですが、私が無くしたという可能性は低いのです」

「私は姫様のメイドをやっておりますカチュアと申します。私も姫様が報告書を鍵付きの引き出しにしまわれるのを確認いたしました。メイドのいうことは信用ならないとおもいますが、姫様のことですから、私は……」

「あ、いえ。メイド長が嘘をつくとは思ってませんよ」


カチュアさんの真剣な声に、なぜか柔らかい声で返事を帰す、尋問官さん。

いや、中身は声から女って分かってたけど。メイド長っていっちゃったよ。

この尋問官さん。普通はメイドさんか……。


「おい。素がでてるぞ」

「こほんっ。貴女が嘘を言っているようには見えないので安心してください」

「……その気配。……いえ。ありがとうございます」


カチュアさんもそれを感じ取ったみたいだけど、ここは空気を読んで問い詰めることはなかった。


「二人の話から分かると思うが、施錠した部屋に施錠した引き出しを壊すことなく開けて、報告書を盗み出した可能性があるわけだ。しかも、その報告書には貴族は尋問官に処刑されたと記載されていたそうだ」

「そんなことは致しておりません。私たちは法に従う尋問官です。勝手に処刑をしては法に反してしまいます」


確かに、尋問官とか処刑人ってイメージ悪いけど、ちゃんと国から認められた仕事なんだよな。

地球で言えば裁判官みたいなものだから、そういうルールは守るのは当然か。


「その答えから見ると、ちゃんと報告書を書いて渡したってことになる」

「……つまり、伝令が報告書を入れ替えたと?」

「ああ、それに加えて、お姫さんの部屋を開けて、的確に報告書が入っている引き出しから盗み出したってことだな。だから……」

「可能性としては、このドトゥスということですね」


そう言って、全員が気絶しているドトゥス伯爵に視線が集まる。


「というわけで、本人に事情を聞きに来たんだが、その様子だと全然口を割らないようだな」

「はい。不思議なぐらいにかたくなです。陛下の情報では、そこまで粘ることはないと思っていたのですが」

「……案外、化かし合いはお姫さんよりも、ドトゥスの方が上だったのかもな」

「それはどういう意味でしょうか?」

「いや、こいつが実は我慢強かったんじゃないかってことだ」

「まさか……とは言えない状況ですね。どうしますか? タナカ殿が代わるというのであれば、私たちは構いません」

「ですね。私たちでは知らない方法を知っていそうですから」

「……人を何だと思っている。というか、なんだその絶大な信頼は」


いやー、すごいですね。

今までの行動の結果ですよ。

とは、声には出して言えないよな。


「まあ、そんなことより、気絶しているやつを起こす前に確認しておきたいことがある。いいか?」

「はい。私たちにわかることであれば」

「まず。本来の報告書の内容を聞きたい。覚えている限り教えてくれ。そして報告書を渡した連中も教えてくれ」


あ、そっか。わざわざドトゥスから聞き出すより、報告書を書いた本人から聞いた方がいいに決まっているよな。

喋りそうにないし、答えてくれる人から聞いた方がいいに決まっている。


「ああ、なるほど。では、失礼して……」


そういうことで、尋問官さんから、報告書の内容を聞かされたのだが……。



「私刑による暴行で死亡か」

「はい」


どうやら、魔族と繋がっていたと目されている貴族は尋問されたあとに証拠不十分で一時自宅謹慎を命じられたのだが、その間に、ほかの貴族たちから囲まれて私刑、つまりリンチされて死んだそうだ。


「勇者に対する裏切り行為であり、なにより人類にとって敵である魔族と結託していた事実を周りが許容できなかったとみています」

「このことを、ルーメル王は予想していないかったのか?」

「予想はしていましたが、思惑があり、容疑者レベルでした。しかもその貴族の経済状況を考えても、魔族と繋がる理由がないのです。そして、勇者殿たちを襲う動機もです」

「経済状況的に?」

「はい。王都の貴族ではありますが、別にお金持ちでも、他所に土地を持っているでもありません。勇者殿を襲ったところでその貴族の取り巻く環境が変わるわけでもないのです」

「なるほど。お金も昇進もない。なのになぜということか」

「はい。これは、誰かが囮にしているというのが、わかりきっていたので、その貴族を処刑してしまえば、思惑に乗ってしまいますので……」

「あえて釈放したら、こうなったわけか」

「はい。そしてそのことも含めて報告書を出したはずですが……」

「それが改変されていたと。……なるほどな。そう言えば、報告書を出した相手を聞いてなかったな」


田中さんがそう聞くと……。


「姫様以外には、陛下、宰相ぐらいですね。機密情報になりますので」

「そうか。現物は後で王か宰相に見せてもらうとして、そろそろドトゥスから話を聞くとするか」


そう言って、田中さんが視線をドトゥスに向けると……。


「……ぐっ、ん? 寝ていたようだな」


ドトゥスが目を覚ましていた。






尋問官とか処刑人とか悪いイメージある人もいるけど、立派な職なんですよ?

地球でいう裁判官と同じ感覚かな?


まあ、職が職だけに色々恨みは買うけどね。

彼らがいるからこそ法が守られている。

そういう話。


あと、田中さんの知名度は高い。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ