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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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89/524

第89射:捜査開始

捜査開始



Side:タダノリ・タナカ



「……で、時期的には……」

「そう言えば……は、どうなっていたのですか?」

「そこは……で、……に聞いてみるのが一番かと」


そんな感じで、喋っていることを書き留めていく。

意外かもしれないが、こういう情報収集を傭兵は得意としている。

俺たちを雇う連中もそうだが、戦う場所、敵の規模、特徴などは徹底的に調べる。

それをどれだけ行っているかで、勝負の行方が変わるからな。

準備を整えた方が勝つという話だ。

理想的には、本当に勝てると確信していくべきだろうが、人というのはそんな万全の態勢を整えられることはほとんどない。

手持ちの手札で何とかするしかないのだ。

その不確定な要素を少しでも減らし、自分たちの勝利をつかむためにもこうして情報を集めるのだ。

ジョシーですら、同じことをするだろう。あいつはトリガーハッピーなだけであって、殺人鬼ではない。

同じように聞こえるかもしれないが、別物だ。

平和な街中で発砲することはない。あくまでも戦場の中だけだ。

というか、そんな危険人物を抱えている傭兵団なんて雇用する側は雇いたくないからな。

まあ、そんなことも考えつつ、ノートの中は魔族と繋がっていた貴族の情報がどんどん書き込まれていく。

そろそろいいか。


「よし。いったんそれで、話を聞くのをやめよう」

「まだあるのですが、よろしいのですか?」

「ああ。まずは今ある情報をまとめて、なんの情報が足りないか、確認しよう」


こういうことはただひたすらに情報を書き留めればいいわけではない。

まとめて、情報の整理と関連性を付けることが大事だ。

そうでもしないと、敵の朝食の献立も調べないといけなくなるからな。

まあ、意外と朝の献立から何かがわかるかもしれないが、そこから推察できるほど頭は良くない。


「で、まずは、契約していた魔族っていうのは、俺たちを襲ってきたやつだと思っていいのか?」

「そこからですか?」

「そこからだ。別件だったとすれば、それこそ、大問題だからな。違うか?」

「……いえ。確かにその通りです」


魔族と繋がっている連中が、別に存在しているとなると、また別の魔族が存在しているかもという可能性が出てくる。

未だにこの王都は危険だということだ。


「しかし、私たちは話に聞いただけで、何も……」

「問題なのはそこだよな。全員が全員、誰かから聞いたという状況でしかない」


誰も現場を見ていないのだ。

魔族と手を組んでいたとされる貴族ですら、名前だけしか知らないありさまだ。

国家の一大事のわりには、抜けている。というか、勝手に始末されて対処していないっていうのが不味いよな。

随分部下が勝手に動いているってことだ。


「で、その報告をしたのは誰だ? 今までは、処刑された貴族の話しか聞いていないからな」

「……いえ、私は兵から聞いただけでして」

「姫様の言う通り、部屋に一般の兵士がきてそう連絡をしただけです。あとは、報告書ですね」

「その報告書はどこにある。現物が見てみたい。それに合わせて、その報告と報告書を渡してきた兵士を探そう」

「確か報告書なら、私の執務室にあるはずですが、兵士に関しては……、カチュア分かりますか?」

「いえ、兵士はこの城には多く勤めていますし、あの時の兵士が誰だったかは……」


ちっ、というか、まあ予想通りだな。報告書を運んできた兵士の名前を一々覚えているわけないか。

これが地球ならセキュリティーが厳しいから、誰が出入りしているか直ぐにわかるんだが、こういう中世ヨーロッパにそういうことを言っても仕方ないか。

紋章入りのナイフを見せるだけで、ジョシーを迎え入れた実績もあるから期待するだけ無駄だな。

それにこういう伝令兵の役は何を運んでいるかも知らないのが多いし、上官に頼まれたからなんてのはよくあることだから、問い詰めることは不可能だと思っておこう。

となると、残っているのは……。


「お姫さんの執務室だな。そこに魔族と繋がっていた報告書があるなら、それは見てみたい。そっちを確保しよう」

「分かりました。今から取ってきます」


そう言って、お姫さんとカチュアは席を立つと、俺たちも一緒に席を立つ。


「どこかに行かれるのですか?」

「いや、最初の話を思い出せ。単独行動は危険だ。一緒に動く」

「ああ、なるほど。ではこちらです」


流石に私室だと嫌がるかもしれなかったが、執務室なら特に問題は無いようだな。

未だにこの世界の常識はわからんな。

普通は他国者を簡単に自分の仕事場には迎え入れないものだがな。

特にお姫さんとなれば、それなりの機密事項も抱えているだろうに。

いや、既に俺たちはルーメルの関係者ということになっているのかね?

まあ、協力するとはいっているし、仲間、身内と見られている感じか。

となると、気が付いたらルーメルの国民だといわれかねないな。

そこはあとで、結城君たちに釘を刺しておこう。

いつの間にか、ルーメルの臣下にされていたり、貴族位を貰っていたりとかないようになってな。

と、そんなことを考えている内に、お姫さんの執務室へ着いた。

中は綺麗に整えられていて、書類もピシッと置かれている。

俺の仕事場は書類で溢れていたけどな。

そんな感想を持ちつつ、その場で待っているが、お姫さんは机から離れずずっと探している。


「……おかしいですわね。確かにこの引き出しに入れたと思っていたのですが」

「いえ、間違いございません。勇者様たちに魔族を向けたことに関しては最大の問題でありますから、確かにこちらの引き出しにしまっているのを私も確認いたしました」


……話を聞く限り、報告書が紛失しているようだ。

嫌な予感がひしひしとしてきたな。


「お姫さん。報告書を受け取ったのはいつのことで、いつまでその報告書が引き出しに有ったのを確認している?」

「確か、報告書を受け取ったのは、勇者様たちがリテアに向かった後のことですから、一か月から半月前ぐらいかと、そして報告書を最後に確認したのは、勇者様たちと城下でお会いした時ですわね。魔族のことも話さなければともう一度目を通していました」

「はい。姫様が魔族のことをどう説明したものかと悩んでおられていたのをよく覚えております。貴族も処刑されてしまったことも含めて」

「となると、大体3日ほど前ってことか。管理はそこのドアのカギかかかるだけか? 机のカギは?」

「ドアのカギはかけましたし、机の引き出しにカギが付いていることを知っているのはそこまでいないはずですが……」


二重ロックが抜かれて、部屋に荒らされた形跡なし。

無くしたにしては、書類が重要すぎるし、まずありえない。

これは……、そう嫌な予感が過っていると……。


「これって、やられた?」

「恐らくそうですわね」

「ちょいまち。そうなると、ドトゥス伯爵もやばくないか!!」


結城君たちも同じ結論に行きついたらしく、慌てて声を上げる。


「え? どうされたのですか?」


状況について行けないお姫さん。

とりあえず、簡潔に説明しよう。


「ジョシーの襲撃は証拠消しの為の可能性が高い。あの襲撃の隙に報告書を回収したってことを考える方が自然だ。普通、お姫さんはこの部屋にいるんだろう?」


俺がそう告げると、キョトンとした綺麗なお姫さんの顔がきりりと眉が吊り上がり……。


「まさか!! ドトゥス伯爵が消される!? 私たちへの襲撃が囮だったと!!」

「可能性は高い。まずはドトゥス伯爵の身を確保するぞ。報告書の件を知っているとしたら、ドトゥス伯爵だろう?」

「確かに、もしかして最初から!?」

「それを確かめるためにも、ドトゥス伯爵の身柄を確保する必要がある。周りは今信用できん」

「……こっちです!!」

「姫様!?」


流石にコケにされているようなものだから、頭に来たのか、直ぐに部屋を飛び出し、俺たちも追いかける。

まさか、ここまで考えて襲撃してきたとは思っていなかった。

いや、正直ジョシーがやられることは予想していなかっただろうが……。

しかし、あのドトゥス伯爵の落ち着きようから考えると、手引きがあると分かっていたからか?

そんなことを考えながら、ドトゥスが尋問を受けているとされる地下牢へとたどり着く。

ドトゥスがとらえられてから、まだ一日も経ってはいないが……いるか?


「これは姫様。このようなところに何用でしょうか?」

「ドトゥス伯爵の尋問を聞きに来ました。伯爵はこちらにいるのでしょう?」

「はっ。ドトゥス伯爵は確かにこちらに収監されております。しかし、姫様がお聞きになるようなことは……」

「今回の件。私も殺されそうになったのです。それでも私が聞くようなことがないと?」

「いえ。姫様のおっしゃる通りですが……。その、あまり見られたものでは……」


やはり、この世界の尋問は拷問ってところか。

というか、これは……。


「お姫さん。口封じされている可能性がある」

「……わかっています。今すぐ通しなさい。そんなことは百も承知です」

「しかし……」

「私が通るといったのです」

「はっ!!」


最後には地下牢の前に立っている兵士は道を開けた。

これは、妨害ではなく、本当にお姫さんを気にしている感じだな。

となると、こいつは中立だ。


「ちょっと待ってくれ。聞きたいことがある」

「そちらの兵士にですか?」

「ああ。いいかな、君?」

「はっ。私にわかることであれば何なりと」

「今日、この地下牢への出入りは何人いたかわかるか?」

「出入りですか?」

「特にドトゥス伯爵が地下牢に入ってからだな。伯爵はお姫様を暗殺しようとした。その仲間が接触する可能性があるからな」


口止めや記憶が薄れる前に聞いておいた方がいいだろう。

最悪、この兵士も口封じされる可能性があるからな。


「なるほど。……そうですね。ドトゥス伯爵が収監されてからは、尋問官の2名と看守である私ともう1人だけです」

「伝令役などは?」

「それも私ともう1人が尋問官からの報告書をそのまま伝令役の兵士に渡す手筈になっていますので、中には4人しか入っておりません」


なるほど。こういうところはしっかりしているか。

まあ、牢屋番が席を外すとかありえないからな。

とは言え、いるだけの仕事が基本ではあるから、退屈極まりないんだが。


「そうか。ありがとう。しかし、その関係で君たちにも危険があるかもしれないから注意だけはしておいてくれ。いざという時は逃げろ。生きて情報を渡すのが大事だ」

「はっ。タナカ様のご忠告しかと胸に刻みました!!」


……はい?


「近衛隊を下したあの強さは我ら下っ端のあこがれですから」

「そうか。ありがとう。だが、日々の訓練が大事だからな。そこは怠るなよ」

「はっ!! 何かありましたら、何でも申し付け下さい!!」


とりあえず、そう流して、俺たちは地下牢へと続く階段を降りていく。


「「「……」」」


全員が沈黙して、階段を下りる。

なんだこの空気は。

そう思っていると不意にルクセン君が口を開く。


「……もうさ。田中さんってお城歩き回るのに、誰の許可もいらないんじゃない?」

「……だよなー。というかリカルドさんたちを下してから、なんか大人しかったよな」

「2人とも、今はドトゥスの事ですわ」

「「「……」」」


そうだな。大和君の言う通り、ドトゥスのことだ。俺の評判がどうなっているかを確認するのはまた後日でいい。

しかし、案外、俺で勢力作れるかもしれないな。

なんてことを考えつつ、俺はドアに手をかけるのであった。






そして、捜査を開始する、勇者探偵団。

果たして、お姫様暗殺の真犯人を突き止めることはできるのか?

報告書の改ざんは何を意味するのか!?


そして、田中の立場は実際どれぐらいなのか!!

次回をまて。


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