第88射:新たな仲間と次の問題へ
新たな仲間と次の問題へ
Side:ナデシコ・ヤマト
「皆さんに心配をかけましたね。申し訳ございませんでした」
そう言って、私たちに謝るのはユーリアお姫様。
先ほどの会議で王様に意見の違いで怒られ、出て行ったのですが、無事でよかった。
「ふう。無事でよかったよー」
「ええ。本当に」
「だなー」
私たち3人はお姫様を見つけて安堵していました。
ヨフィアさんの話でお姫様が殺されるかもしれないという可能性を示唆されて、慌てて探しにいったのです。
まあ、お姫様は無事田中さんが残っていた部屋にやってきたので、私たちの捜索は無駄となっていましたが、本当に何事もなくてよかったです。
未来予知のスキルはどういう物かはわかりませんが、お姫様が頑張っているのはわかりますからね。
誰にも理解されないというのはつらいです。
とは言え、私たちもその未来予知のおかげでこんなことに巻き込まれたんだぞ。と言われると苦笑いするしかないのですが、誰かが不幸になって終わりというのも受け入れられない甘ちゃんです。
結局、私たちは根っこから非道には成れないのでしょう。
日本人として、誇りに思うべきでしょうか? いえ、今は答えが出ませんね。
「とまあ、こんな感じで、結城君たちは別にお姫さんをどうこうするつもりはないから、当面は安心しろ」
「当面ですか」
「そりゃ、これからお姫さんの予知では、大群に向かうことになるんだろう? それがわかってきたら、逃げ出すのも手の一つだからな」
「……そこは嘘でも、最後まで一緒にと言うべきでは?」
「嘘をついても仕方ないからな。逆に疑われて後ろから刺されるよりはましだ。そうならないためにも、協力して、そういう場面になっても結城君たちが逃げださないように説得するとか、仲良くなっておくことだな。ああ、わかりやすい話としては、今のところ俺たちを元の世界に戻す手段に近いのはお姫さんとマノジル殿だけだ。帰りたいなら、協力しろっていえるぞ?」
「それでは反発を招くだけですわ。私は勇者様たちと敵対したいわけではありません」
「でも、協力を得られないのなら、手段を選ぶつもりはないんだろう?」
「……これでも選んでいるつもりです」
選んでこれですか。と、文句を言うのはたやすいですが、それでは何も解決しません。
「下手をすれば国が無くなる事態なのです。これが、ただの怪我ですむなら、誰も異世界から人を誘拐しようとは思いません」
「まあな。特にたいした理由もなく、俺たちを呼んだのなら、もうパーンだ」
田中さんはそう言って、お姫様に指先を向けて銃の様に動作させます。
「っつ」
田中さんの動作を見たお姫様は、一瞬体を硬くします。
まあ、撃たれる恐怖を味わったばかりですから仕方ありません。
銃の真似されるだけでも身構えてしまうでしょう。
私だってそうなると思います。
というか、下手な一般人はトラウマになるのではないでしょうか?
銃口を向けられるというのは、それだけ恐怖なのです。明確な死を突きつけられているのです。
ですが、お姫様はそれに耐えて、この場にしっかり立っています。
まあ、故郷が無くなるかもしれないのです。
しかも、大事な人たちを巻き込んで悲惨な形で終わるかもしれない。
そんな未来を知って、傍観、あるいは知らないふりをできる人はいないでしょう。
誰だって、せめて知り合い、家族だけでもと思うのは想像できます。
それが一国のお姫様なら、なんとしても国を、国民をと思うのは当然でしょう。
そういうところは私たちを誘拐したことを除けば褒められることだと思います。
私たちを誘拐したことを除けばですが。
「で、俺たちの話は聞いていたんだから。これからどう動けばいいと思う?」
と、そうでした。
私たちがこれからの方針を決めなくてはいけません。
「田中さんとお姫様の話から察するに、ドトゥス伯爵は本当に独断で動いたということですから、お姫様は今度単独で行動するのが危険だという可能性があるというのはどう思われていますか? それによってどう動くか変わってくると思いますが……」
私は単刀直入にお姫様に話を聞く。
というか、一度ジョシーという女に襲われているんだから、二度目はあると思います。
それは、お姫様も分かっているのか、少し沈黙して……。
「……私の知らない勢力が動いているのは、ジョシーという女で実感しました。おそらく魔族を勇者様に差し向けた勢力でしょうが」
そんなこともありましたわね。
正直魔族よりも、あのジョシーという女が一番脅威でしたが。
それが、あの魔族を送って来た者たちと繋がっているのであれば、納得ですね。
「そういえば、その魔族を差し向けた貴族はその、ちょっぱんされたって聞いたけど、詳しい話はどうなっているの?」
「そうですわね。処罰されたとは聞きましたが、どこでどう魔族と知り合って付き合いがどれだけなどは聞いていませんでした」
光さんと私が魔族の件に関して詳しく聞くとお姫様はゆるゆると首を横に振るだけでした。
「私は何も話を聞くことはできませんでした。当初は悪い影響があるから、私に会わせるわけにはいかないというのを信じていましたが、今になると怪しいですね。どうやら、お父様も気が付いたら処刑されていたという感じでしたから」
「怪しいねー」
「怪しいな」
「怪しいですわね」
死人に口なしというやつですわね。
どう見ても口封じ。責任を全部背負って始末されたとみるべきですわね。
そして、私は意見を求めるように、田中さんへと視線を向けると……。
「じゃ、その裏を洗うところから始めるか。お姫さんの方はどう思う? 放っておいて、魔物の動きの方を調べる方がいいか?」
「いえ。まずは背中を安全にしないと、安心して戦えません。まずは、ナデシコ様の言う通り、魔族と繋がりがあった貴族のことを調べるべきだと思いますわ。私が入ればそれなりに事情聴取は捗るでしょうし、こちらの方が私も手伝えることが多いと思いますわ」
お姫様も私たちと一緒に調査するつもりのようだ。
「姫様。一緒に調査をするというのは……」
「今、勇者殿たちの傍を離れることの方が危険よ。違うかしら?」
「……」
カチュアさんは止めるが、お姫様の正論に何も返せなくなる。
2人目のジョシーが来ないとも限らないですからね。
その時、2人だけでしたら確実に死ぬしかありません。
私たちというより、田中さんと一緒にいれば生き残る可能性は高くなりますね。
「心配ならカチュアもついてくればいい。身の回りの世話をする人もいるだろうからな」
「よろしいのですか?」
「その代わりというのはあれだが、あちこち歩き回るからな。そこだけは疲れるぞ?」
「その程度、メイドはいつも歩きまわっておりますので、ご心配は無用です」
カチュアさんがそう強く返すと、横にいたヨフィアさんが……。
「……いやー、お城仕えの歩きと、情報とか冒険する歩きって違うんですけどねー」
「何か言いましたか?」
「いえ、何もありませんよ。でも、メイド長が抜けるとそれはそれで問題なのでは?」
「メイド長といっても、お姫様のお世話と、雑務のメイド長ですからね。陛下のお世話をするメイド長もいますので、問題はありません」
「あー、あの人ですか」
どうやら、このお城にはメイド長が複数いるようです。
話を聞く限り、なんというか、各部署、委員会の委員長という感じでしょうか?
「それに、私もタナカ様、勇者様たちに命を助けてもらいました。その恩を返すことに否はありません。私が心配したのは、姫様がそういう荒事に耐えられるかとということです」
「あら、私を子ども扱いするのですか?」
「姫様、そういう意味ではありません。色々あるのです。それは、あの女と向かい合ってわかったはずです。しかし、あれが普通というわけでもありませんが、姫様にとっては想像もつかないところもあるのです」
そうでしょうとも、あの女が普通に沢山いるような世界があってたまるものですか。
そして、お姫様にとって、この調査でショックを受けるかもしれないというのもわかります。
「ま、そこは徐々に慣れていくってことでいいんじゃない? ねえ、そう思わない撫子」
「そうですわね。私たちだって、慣れていったのですから」
「まあなー。人間慣れる生き物だからな」
不本意ではありますが、生きるためです。
私たちが出来たのですから、お姫様にできないことはないと思います。
元々こちらの人なのですから。
「調査にはお姫さんの協力があるとありがたいからな。やる気があるなら手伝ってもらいたい」
「はい。カチュアともども協力させていただきます」
「よろしくお願いいたします」
ということで、今後の方針は魔族と繋がっていた貴族を調べることに決定しました。
しかし、意外です。
お城を出たあとは、もう二度とまともに話すことはないだろうと思っていたお姫様とこうして協力することになるなんて。
ただのわがままお姫様ばかりかと思っていましたが、彼女は彼女で色々考えた結果、私たちを召喚した。
先ほども言いましたが、だからと言って許せる話ではありませんが、前よりはずっと納得でき、話してもいいと思えるようになりました。
このお姫様なら、誠実に私たちを帰す方法を探してくれると思えます。
まあ、田中さんの言うように、魔物の群れと対峙する未来を回避したとわかるまで、私たちを帰すことはないでしょうが、前よりはマシです。
「で、調べることになったのはいいのですが、どこからどう調べるのですか?」
お姫様という協力者を得たのはいいですが、何から手を付けるべきかさっぱりわかりません。
漠然と裏にいる組織を調べるような感じではあるんですが、なんというか今までやった事が無いので、実感がわきませんね。
「そうだなー。まずは、処刑された貴族のことを調べるのがいいんじゃないかな?」
「一番の証人は被害者っていうからな」
確かに、光さんや晃さんの言う通りですわね。
というか、なんか探偵や刑事ドラマみたいですわ。
「2人の言う通りだな。足で調べるにしても、まずは現状持っている情報をしっかりまとめよう。そこから、どう動くのか方針も決まるだろう」
田中さんがそう言うと、皆が頷きます。
それを確認した田中さんはノートを取り出して、広げます。
「こ、これは、か、紙ですか?」
なぜか、ノートに興味を示すお姫様。
「ん? ああ、お姫さんにはそういえば、俺の力を言ってなかったな」
「力? そういえば、あの女と同じような武器を扱っていましたね。あれはあの女から奪ったわけではないのですか?」
ああ、そういえば、お姫様は田中さんの能力については知りませんでしたね。
素手で近衛兵たちを潰していましたから。
「鹵獲は基本だよな。だが、残念。というか、俺がレベル1な理由かはわからんが、ほれ、俺のステータスに魔力代用スキルってあっただろう」
「……たしかそんなスキルがあった気はします。しかし、今更ではありますが、随分初めて会った時とは態度が違いますね。最初は、脅しの意味があると思っていましたが、其方が通常なのでしょうか?」
「そうだ。まあ、礼儀を払うべき場所では払うけどな。そこはいいとして、こういう風に俺が触ったことのあるものを即時に生み出せるのか、はたまたお姫さんみたいに召喚しているのはわからんが取り出せるわけだ」
そう言って、ノートをもう一冊取り出し、お姫様へと手渡す。
「見事に真っ白な紙ですね。それが何枚も」
「しかも、大きさや厚みも均等に見えますね。これはすごい技術です」
どうやら、お姫様たちはノートから見える地球の技術に驚いているようです。
そういえば、こちらで使っている紙は茶色で質の良くないものが多いですからね。
「そうか。まあ、珍しいのはわかったが、これ使って状況を整理したいと思う。みんなも協力してくれ」
田中さんはそう言ってペンを取り出して、話を聞く体勢にはいります。
確かに、今はお姫様に地球のモノを見せて反応を楽しむ時間ではありません。
魔族と手を組んでいた貴族とその背後にいる組織を見つけなくては……。
「失礼しました。このノートに関しては後にするとして、まず貴族の名前は……」
こうして、私たちは味方の中に潜む敵について調べ始めるのでした。
お姫様が仲間に入って、次なるクエストは犯人を捜せ!!
さあ、いったいどんな運命が待ち構えているのか。
世の中次から次へと問題がおこるよね。




