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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第87射:結局のところ

結局のところ



Side:タダノリ・タナカ



「……なるほどな。兄の魔王討伐に執着しているか……。確かに、あの討伐に加わっていたものは多い。あながち、あり得るな。私たちを炊きつけるために、宿敵を利用すると考えると納得はいく」


何となくだが、お姫さんが言っていた状況になりそうな理由が出てきたな。


「まだ確定というわけじゃないが、可能性は高いように聞こえるな。そこはそっちで調べてみていてくれ。こっちはお姫さんと行動を一緒にして極端な行動に出ないようにしてみる」

「……迷惑をかける」

「今更だ。何かあれば呼んでくれ」

「わかった。私が言えた義理ではないかもしれないが、死ぬなよ」

「なんとかやるさ。で、ドトゥスから押収したものを見ることはいいのか?」


色々あって話がそれたが、元々はドトゥスの件についてだ。


「そうであったな。では……」


ということで、ドトゥスの屋敷から押収してきた品を見せられて、見覚えがあるかどうかという話になって、結局のところ、俺たちが見たことがあるものはなく、ドトゥスが俺たちと関係があったのは、闇ギルドの暗殺依頼契約書と、ジョシーの雇用契約書だけだった。


「えー。あの女の人、雇用契約書とか書いてるんだ」

「……非常に意外ですわね」

「だなー」

「別に不思議なことじゃないさ。傭兵業はビジネスだ。お互いに契約書があるから、拘束力もあるし、安心もできる。冒険者ギルドがクエストという依頼書を用意しているのと同じさ。ま、ジョシーがそういうのを書いているのは意外かもしれんがな」


俺がそう言うと3人とも頷く。

まあ、気持ちはわかる。

だが、これが出来ないと報酬無しとかもあるからな。

あ、因みに契約書を交わして、報酬を支払わないというパターンはあるが、その時はお互い命がけだ。

依頼主は今後依頼料を支払わなかったと悪評を広げられその手の依頼を出すのは難しくなるし、傭兵側は命がけでやったのに報酬がなくては生活ができないし、傭兵として舐められるというのは今後の傭兵業に支障をきたす。

となると、お互いに消そうとするわけだ。メンツや今後のために。

そういう悪質な依頼主は、傭兵仲間の間で評判にはなるけどな。


「ジョシーが契約書を書くのはいいとして、内容は……、ドトゥスの命令を聞く代わりに生活や情報の支援だな。汚いフランス語で書かれているから、ジョシーの字で間違いない。そっちにはこっちの言葉でドトゥスの筆跡で間違いないか?」

「うむ。これは間違いなくドトゥスの筆跡だな。しかし、押収した書類の中にこうも堂々とあると、奴は本当にごまかせると思っていたのか?」

「そこは俺に聞かれてもな。まあ、尋問しているんだ。そこらへんは聞き出しておいてくれ」

「わかった。押収した物の検分も終わったようだし、今日はもう休んでくれて構わない」

「そうか。じゃ、ルクセン君たち行こう」



ということで、俺たちは会議室から部屋に戻ってきたが……。


「とりあえず会議はしたけど、結局、これからどうするの?」

「まずはドトゥス伯爵の尋問の結果がでるまで待機では?」

「ま、そうだよなー」


3人はお茶を用意して飲みながら、今後の予定について話を始める。

そこで不意に結城君が俺に話しかけてくる。


「あ、そういえば、田中さん。お姫様のフォローするって言ってましたけど、どうするんですか? カチュアさんは追いかけたままだし」

「そっちはデリケートではあるからな。放っておくのも手だが、お姫さんが勝手に動かれても迷惑だからな……」


気が付いたら、魔物の群れの前にいましたとか、俺は勘弁願いたい。

それはルクセン君たちも同じようで、妙な想像でもしたのだろう。

体を少し振るわせて、口を開く。


「それで厄介なことになるのはいやだね」

「となると、やはりお姫様を放っておくのはよろしくないですわね」

「俺もそう思うな。リカルドさんたちはどう思います?」


俺だけでなく、リカルドたちにも意見を求める。

正しい行動だ。俺だけが全てを見通せるわけでもない。

多数の意見を聞いて、考察して、結果を出すことが大事だ。

まあ、そんな時間もない時もあるけどな。

で、リカルドたちはお姫さんを今後どう対応した方がいいと判断するのかな?


「……私としては、姫様の能力が本当かどうかは判断が付きませんが、私をタナカ殿や勇者殿たちのお供につけてくれたというのは、それだけ信頼してくれてのことだと思っております。なので、私は姫様のスキルではなく、姫様を信じたいと思います。ですので、姫様と共にあることをお勧めします」


リカルドはいかにも軍人らしいというか、近衛兵らしい意見だ。

主君を信じる。

立派だな。俺と初対面で散々罵倒してくれたのも、こういう信頼関係があったからこそかもな。

とは言え、相手の力量を見切れなかったのは残念だった。

あ、いや、それも主従そろってと考えると納得か。

で、次はキシュアだ。こっちはただ税務管理官を解任されただけだからな。


「私もリカルド殿の意見に賛成です。まあ、理由は違いますが。今まで独断で動いて来て、勇者殿たちが呼ばれたり、タナカ殿への暗殺未遂、そして今回の事件もと問題をかなり起こされています。当事者である勇者殿たちが今後、不意なトラブルに巻き込まれるのを避けようとするのであれば、一緒に行動するべきではと思います。未来予知のスキルに関しては私は何とも言えません」


こっちも納得の理由だな。

意外とキシュアは感情論ではなく、冷静に現状を分析しての答えだ。

そして、最後はヨフィアだが……。


「個人的にはアキラさんたちに迷惑をかけたんだから、放っておきたいですね。でも、そうなると下手な行動を取られてトラブルに巻き込まれる可能性もありますから、そこをどう見るかですね」

「ヨフィアさんとしては?」

「陛下も苦労為されているようですし、最悪、行方不明になってもらう方が周りの安全になるかなーと」

「「「……」」」


ヨフィアの意外というか、鋭い意見に沈黙するメンバー。

ま、暗殺もありだよな。

事の発端はお姫さんの未来予知スキルが原因だ。

つまり、未来予知がなければ、お姫さんはこんな行動には出なかっただろう。

だから予知を阻止するために、能力を持っているお姫さんを殺せばいいという、実にシンプルな話だ。


「ヨフィア!! そのようなことを口にするとは何事か!!」

「そうです。流石にそれは……」


真っ先に正気を取り戻して反対意見を口にしたのはリカルドとキシュアだ。

まあ、ルーメルの所属の騎士なんだから当然だよな。

主君殺しを是とするなんて、職場的に間違っている。


「まあまあ、お2人とも落ち着いてくださいよー。ただの意見ですよ。それに、お姫様をやっちゃったら、アキラさんたちが帰れないじゃないですか。私はアキラさんたちとついていくって決めてるんですからそんなことをしませんよー。チョコとか美味しかったですしー。でも、私ごときが考え付いたんですからって思いません?って話です」

「「「!?」」」


ヨフィアの話を聞いてみんな驚く。

俺の方は別に不思議に思わず、別にあり得る話だよなと思う。

あそこまで国を引っ掻き回しておいて、何も罰がないのはおかしい。

まあ、今のところは本当に勇者を召喚したという実績があって有耶無耶にされてきたんだろうが、今回のジョシーによる王城襲撃でかなり立場が悪くなった。

お姫さん本人がやったわけではないが、部下というかお姫さんの支持者であったドトゥスが召喚知識を悪用しての犯行だ。

ルーメル王が裁かなくても、前の王かは知らないが、亡くなったルーメル王の兄の信奉者がいることから、そこら辺を警戒して、現体制を維持するために、部下が勝手に動くというのはよくある話だ。

身内にひっくり返されるっていうのは、現代でも良くある話だからな。


「あのー、みなさん? 大丈夫ですかー?」


そして、固まっているメンバーにヨフィアが心配になって声をかけると……。


「はっ!? ちょっとまって、ヨフィアさんの話だと、今単独で動いているお姫様って危なくない!?」

「その通りですわね。今のヨフィアさんの話で気が付いたのは間抜けですわ!!」

「すぐに探さないと! リカルドさん。お姫様の居場所ってわかりますか?」

「はっ、そこに姫様がいらっしゃるかはわかりませんが、行きそうな場所には心当たりがあります!!」

「では、さっそく探しましょう!! 勇者様たちだけで城内を歩き回るのはあれですし、私とリカルドを案内役として二組に分かれて探しましょう。くれぐれも荒事は控えてください。姫様のお立場が更に悪くなります。一応、表向きはお城の案内ということで」

「じゃ、男子はリカルドさん。女子はキシュアさんについていくってことで行動開始!! あとでこの部屋に集合!!」


そうルクセン君が言って、さっさと部屋をでて行ってしまう結城君たち。

それについて行かずのんびりしている俺。そして、微妙な顔をしているヨフィアだけが部屋に残っている。


「あのー、タナカさん。ついて行かなくていいんですか?」

「別に、昨日の今日で、お姫さんがこんな短時間に殺されるなら、現体制はもう持たんよ。上を無視して下が勝手に動いているんだからな」


部下をまとめられない部隊は瓦解するしかない。

それは国も同じだ。そして、代わりの者が出てくる。

この国がそうなるかどうかは、お姫さんが生きているかどうかだな。

いま不安定なお姫さんをどう扱うかで、今後の行く末は変わってくるだろう。


「話はわかりますけど、今ルーメルが無くなるのはこまるのでは? ほら、さっきも言ったように故郷に帰るためにも、お姫様の協力は必要ですし……」

「困るのは確かだが、まあ、当初はそこまで高望みしていなかったからな。ほら、わざわざ誘拐までした兵士を使わずに帰すなんて、ありえないだろう? それだけ、費用も掛かっているんだしな」

「うわぁー。本当にドライですね。でも、いまは陛下もちゃんと帰すって言ってるじゃないですか。その可能性が無くなるんですよ?」

「その代わりに、ルーメル王国の内戦に巻き込まれる可能性がでてくるからなー。そこをどう考えるかだ。結城君がお姫さんを守るんだって言って、魔王の前に戦うことになるかもしれん。あのお人よしの結城君が腹黒い貴族を相手にできるかねーとな」

「あ、駄目です。お姫様のことはあきらめましょう」


お前も大概に決断早いし、ドライだよ。

いままで一応世話になっただろうに。

そう思いつつ話を続ける。


「そこまでして、ルーメルにある召喚技術にこだわる理由はない気がするんだよな」

「全然こだわる必要はありませんね」


別に帰る方法はルーメルだけしかないというわけでもない。

まあ、召喚の方法に関しては、マノジルから聞いて、理論などや道具は全部データとして記録しているから、研究しようと思えばできるだろう。

というか、正直帰還については、何か奇跡やズルでも起こらないかぎり俺は不可能に近いと思っているからな。

結城君たちの手前そんなことは言わないが。


「じゃあ、逃げるんですか?」

「内戦になれば、な。でも、そういうことはそうそうなさそうだぞ?」

「え?」


俺がそう言うと、部屋のドアが開けられて、カチュアとお姫さんが入って来た。


「貴女が薄情だというのはよくわかりました。ヨフィア」

「うげっ!? メイド長!?」

「私が攻撃され瀕死になった時は、あれだけ怒ってくれたのに。薄情ですね」

「よしなさい。カチュア。私と関わりたくないというのは当然でしょう。死地へ赴くようなことです。それで大事な人を係わらせたいとは思わないでしょう」


お姫さんは思ったよりも落ち着いてこちらに話しかけてくる。


「こっちの話を聞いて落ち着いて何よりだ。あの時結城君たちが、逃げると言ったらどうなったかな?」

「……気が付いておられましたか」

「さてな。なんのことやら。まあ、ここで全滅するって結果じゃなくてよかったじゃないか。ドトゥス伯爵は無事に逃がせたか?」

「私はそんなことはしておりません!! ドトゥスとあの女のことは……」

「そうか。その反応なら本当なんだろうな」

「なっ!?」


こっちが試した引っかけたことに気が付き驚いている。

ここまで素直な反応だと、ルーメル王とのやり取りもマッチポンプというわけでもなさそうだ。


「が、これでお姫さんとドトゥスは繋がっていないことになるな。本当にさっきの話が本当になりかねないってことか」

「……まさか」


お姫さんは信じられないようだが、実際にドトゥスは動いてしまっている。

これで終わりと思う方がバカだろうな。


「さて、そういうことで、ヨフィア。これからよろしくお願いしますね」

「あ、あははは……」


ヨフィアもこれで多少は大人しくなるかな?

俺にとっては、これが一番得したことかもな。

だが、結局流れは、お姫さんが見たものに近づいて行っているな……。





流れはユーリア姫が見た通りに進んでいるように見える。

さあ、これからどうなる!!

田中たちはユーリア姫が見た未来を回避できるのか!!


みんな、ドキドキワクワクだよね?

未来なんてわからないもんね!!



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