第83射:傭兵の在り方
傭兵の在り方
Side:タダノリ・タナカ
「あー、そこを気にしているのか。ま、仕事仲間ってだけで、敵対するなら殺す。それが傭兵のルールだしな。とは言え、無理に殺し合う必要がなければ戦いは避けるけどな。弾の無駄だし」
俺はそう言って、大和君たちを落ち着かせる。
3人は仲間を殺させてしまったと罪悪感を抱いているのか、それともまた別の感情なのかは知らないが、ジョシーの死に何か心を乱しているようだ。
戦場では当たり前の話なんだけどな。ま、こういうのは一般人には理解されないし、俺たち傭兵仲間だって、前に味方だったやつに銃口を向けるのは気が引けるってのは多々ある。
そういう時は、お互い見なかったことにすることが多いけどな。
お互いの事情が分かっているんだ。今後も協力できることがあるし、現場単位でも先ほど言ったように弾の節約になるからな。
こういう横のつながりってのは、傭兵には必要だ。
そうでもないとあっさり騙されて使い潰されるからな。
とは言え、必要とあらば殺す。そして後腐れは持たない。
まあ、裏切り関係は、容赦しないけどな。
誰も信用できない相手に背中を任せたりはしないからな。
だからそこ、あのジョシーもしっかりと俺たちを殺そうとしたわけだ。
性格は破綻しているが、仕事はこなす。
そうでないと、死ぬしかないからな。
どこの世界でも、働かないと飯は食えんのだ。
「……なんというか、本当に傭兵って物凄いんですね」
「だね。僕たちには想像もつかないよ」
「ですわね。しかし、今回のことで傭兵というのがどれだけ脅威かはわかりました」
「それが分かっただけでも良しとしておけ。結果的に生き残ったもの勝ちだからな」
戦場では生き残ったのが正義とまでは言わんが、死んだらそれで終わりだからな。
生き残ったことを喜ぶべきだ。生は戦場では得難いものだから。
まあ、次の戦場であっさり死ぬのも、よくある話だがな。
それは、大和君たちしだいだ。
「タナカ殿、お話の途中失礼ですが、質問をしても良いでしょうか?」
「ん? 話は終わっているようなものだからいいぞ。どうした、リカルド?」
「いえ、パッと見ただけなのですが、城の被害はどれほどの物かと……」
「ああ、そっちか。まあ、死傷者は結構でたな。城の損害はどういう意味で評価していいのかは分からんが、石造りだったのが幸いしたのか、さっきの部屋のドアといくつかの調度品が壊れただけで済んでいるな」
「……そうですか。兵が亡くなりましたか」
「しかし、あのジョシーという女があの部屋にくるまで静かでしたがなぜでしょう?」
「あー、そう言えばそうでしたねー」
「そりゃ、目標に感ずかれたら逃げられるだろうが。あれだけ騒がしくなるんだからな」
「「「ああ」」」
みんな俺の意見に納得する。
あれだけ、俺とジョシーがドンパチしてたんだから理解できるだろう。
「でも、そんなことを考えるようなタイプには見えなかったんだけどなー。もう、銃で人殺すのが大好きみたいに見えたよ」
「ルクセン君の感想は間違ってないぞ。あれは一種のトリガーハッピーだ。だが、仕事はちゃんとこなす。まあ、あれほどとは言わないが、多少は理性のネジが飛んでいないと、傭兵って仕事はできないからな」
「ということは田中さんもですか?」
「もちろん。こうして結城君たちと話してはいるが、今までの付き合いで、俺が普通の人とはかけ離れている所があるっていうのは、何度か経験しているだろう?」
自分が才能という意味では秀でているとは思っていないが、傭兵ということで、平和な日本に住む人と感覚はズレているのは自覚している。
「まあ、それは……」
「はい。違うなと思うことはありました」
「だが、心配するな。あそこまで壊れていることはない。あそこまで壊れているなら、すでに大和君たちは死んでいるよ」
「確かにそうですね」
「そこは心配してないけどさ」
「少し、田中さんが心配になります。そのネジが外れているというのはどんなところか分かりますか?」
「そうだなー。まあ、せいぜい人の生き死にぐらいで、動揺しないことだな。そんなこととは言わないが、そこで動揺していると、死ぬからな」
仲間が撃たれて倒れたら、安否を確認するんじゃなく、まずは物陰に隠れて相手の位置を確認する。それが大事だ。
まあ、平和な国で過ごしている人からみれば、感情のないひどい奴に見えるんだよな。
「俺のことはいいとして、リカルド。城の話はこれでよかったか?」
「ええ。後はこれから私たちはどうなるのでしょうか?」
「あ、そういえば聞いていませんでした。俺たちはこれからどうするんですか?」
「ああ、俺たちはこの城で待機だな。あれだけのことがあったんだ。戦力としても確保しておきたいんだろうし、大和君たちが襲われたなんてことを言われるのは困るからな」
「「「ああ」」」
再び3人は納得したような声をだす。
俺たちがここに来た理由はともかく、ルーメルとしては、大和君たち勇者をこの国にとどめておくために歓待するつもりだったのだ。
それが、この始末だ。
というか、このメンバーには黙っているが、お姫さんは危うく首を斬られるところまで行った。
王様が流石に激怒したからな。
この国を滅ぼすつもりか!!ってな。
まあ、ドトゥス伯爵の件も考えれば当然の話だよな。
怒って無理ないと思う。
とは言え、今回のことはお姫さんに非がないのは襲われた時に理解しているし、俺たちが帰る方法を知っていることもあるので、処刑はやめてもらった。
もともと、召喚を止めなかったそっちにも問題があるし、貴族の管理ができていないのは、お前さんも同じだって言ってな。
というか、召喚の方法の情報管理ぐらいしとけって。今度はこんなレベルのが来るとは限らんぞってな。
そう言ったら、慌ててドトゥスの屋敷に兵を向けたってわけだ。
当然だよなー。勇者を呼ぶ召喚術かと思えば、あんな戦争馬鹿を呼び寄せるんだから、召喚術か装置かはしらんが、何がくるのかわからないトンデモ箱だったってわけだ。
あと、俺がこんな厄介なのを送り返すのも必要だから真剣に研究させろってことにも頷いていたから、よほど今回のことは堪えたんだろう。
まあ、城の兵士はジョシーと交戦?した連中はほぼ死んだからな。
生き残ったやつも、腕や足の機能が死んで兵士はやめないといけない状態だ。
胴体に穴が開いた奴は? いや、それは全員死んだ。
ルクセン君レベルの回復魔術を扱えるのはやっぱり珍しいらしい。
だから、胴体に風穴の開いた重傷者のほとんどは死んだ。
ルクセン君に治療してもらえれば何とかなるかもしれんが、そこまでしてやる義理もない。
エクストラヒールの実験もカチュアでできたからな。
とまあ、こんな腹黒い大人なんだよな。
これがまともか?といわれると、平和を知っている人としてはやはりおかしいだろう。
「ということで、俺たちはドトゥス伯爵の件が片付くまで、このお城で待機ってわけだ」
「あ、でも、そうなると。また田中さんがいやがらせ受けるんじゃ?」
「別に今更いやがらせを受けてもな」
この状況で俺にいやがらせができる奴がいれば、それはそれで根性ありそうで、俺としては面白い展開になるな。
ジョシーの被害を見て、それでも敵対してくるとか、破滅願望か、状況が読めていない馬鹿野郎だろう。
まあ、一連の責任を俺たちに押し付けて始末し、なかったことにするっていうのもあるだろうが、それはかなり分の悪い賭けになるな。
俺を殺すのは中々苦労するだろうし、大和君たちも、始末されるとなれば、ここ最近の経験で殺すことに躊躇いはないだろうからな。
というか、そうなったときに、この城が原型をとどめているか想像つかんな。
後先考えなければ大和君たちの火力のほうが俺より上だ。
……後先か。ちょっとまて、下手すれば、さっきジョシーに襲われてた時、ここら一帯消飛んでたのか?
そう認識したとたん、背筋が寒くなった。
やべえ、囮にするのは今後無しだ。俺の命が危ない。
爆発物を誤射して死亡とか、まあないこともないが、嫌な終わりかたで間違いはない。
「どうかされましたか? やはり何かいやがらせで気になることでも?」
俺が背筋を凍らせているのに気が付いたんだろう。
大和君がこちらを心配して覗いてくる。
とは言え、本当のことを言うと、機嫌を損ねるのは目に見えているな。
「いや、腕が落ちたと思ってな。ジョシー相手にはなかなか厳しい物があった。最後に止めを刺したのは、俺の腕というより、技術の進歩に助けられた感じだからな」
戦闘用無人機とまでは言わないが、民間用の高性能ドローンを使っての銃撃。
まあ、これも案外もう軍事用と言っていいのかもしれないがな。
銃の反動に耐えられるタイプの開発は進んでいないわけではないが、俺は触ったことが無いので取り出すことはできない。
と、そこはいいとして、こんな感じで言訳を言うと、今度は驚いた顔になる。
「え? 技術の進歩ってどういうこと? ジョシーを撃って倒してくれたのは田中さんじゃないの?」
ルクセン君は不思議そうに首を傾げいてる。
まあ、隠すこともないので、普通にネタ晴らしをする。
「ほら、前に見せたドローンに銃を乗せて、遠隔操作で撃ったってやつだ。あの時の配置を覚えているかは知らないが、あの高さの部屋に銃撃を入れるには、同じ高さの建物が残念ながらなかったからな」
「あー。ドローンですか」
「なるほど。それで攻撃させたんですわね」
「ジョシーが消息不明というか、死んだと思われた時期は7,8年前だからな。まだドローンが普及する前だ」
「だから、知らなかったと?」
「そういうことだな」
俺がそう言うと、ルクセン君が思いだしたように声を上げる。
「ってちょっとまって!! そういえば、呼ばれた時間もバラバラって言ってたよね? ジョシーさんは、田中さんの中では昔に戦死してたってわけ!?」
「ああ、そういえば、詳しく言ってなかったな。まあ、生きてたかもしれないが、俺の傭兵団とは合流しなかったからな。今の今まで死んでたと思っていた。時間がでたらめってのは俺の想像だな。でも、ジョシーが年食ったようには見えなかったしなー」
「「「……」」」
俺がそう言うと、女性陣が睨みつけてきた。
女の年齢の話は禁句か。
「ごほん。まあ、ドローンを知っていて、警戒しなかったのはおかしいからな」
「あ、ああ、そうですよね」
結城君がとっさにフォローを入れてくれて、何とか場は持ち直した。
死体に鞭打つよりも、女性の年齢の方が禁句だな……。
「今度、呼ばれたやつがいれば話を聞いてみるといいかもな」
「いや、駄目でしょそれって」
「そんな人がいないことを祈りますわ。そして、その時ジョシーみたいな人であれば、被害がどれだけでるか……」
ま、今度もジョシーが出てくれば、時間軸どころか並行世界も考えないといけなくなるな。
それとも過去のジョシーとするなら、今度は逃げ帰ることは決定しているってやつか。
と、そんなSFな話はいいか、大和君が言っているのはジョシー以外の傭兵や殺人鬼が来たらって話だよな。
「そういえば、銃は陛下に献上されなかったのですか? あれだけの威力がある武器を放っておくわけがないと思いますが?」
話を聞いていたキシュアが鋭い質問を飛ばしてくる。
「ああ、それな。みんなは瀕死の重体で気が付かなかったかもしれないが、ジョシーが死んだからかどうかは知らんが、銃はおろか、弾丸も見つからなかったな」
「え?」
「つまりだ。ほかの貴族たちは銃という武器は魔術の一種だと思っているみたいだな。助かる限りだ」
俺はそう言って笑う。
これで、俺を殺して武器を奪おうというアホな考えをする奴は限りなく減るだろう。
つまり、大和君たちの安全にもつながるわけだ。
それから部屋の案内が来るまでこれからの事を話し合うのであった。
敵と味方ははっきりとわける。
元が味方だろうが、敵なら普通に殺す。
戦場はそういうもの。
ほれ、スポーツはたとえ友人であっても、いや友人だからこそ全力で戦うべきだろう?
そういう感じ。




