第81射:屋内銃撃戦
屋内銃撃戦
Side:タダノリ・タナカ
ドンッ!!
そんな爆音が響くと同時に、俺は廊下へと飛び出る。
グレネードと共に突入するのはお約束だ。
「ちょ、田中さん!? わけわかんないよ!!」
だが、この事態についていけないルクセン君が反射的に俺について来ようとするが、今は邪魔でしかない。
「死にたくなかったらそこから動くな!! 窓の方に岩でも出してろ。撃ってくるぞ!」
「うそっ!?」
俺がそう言うと、驚いたような声を出して、追ってくることはなかった。
というか、わけわからないのは俺の方だ。
とりあえず、死んだはずのジョシーが相手なのは間違いない。
俺が所属していた傭兵団にいた女傭兵のジョシー。
容姿こそ女だが、中身はただの戦争バカ。
殺しは大好き、トリガーハッピーの気があって、奴とチームを組む連中は嫌がっていた。
場所がバレバレになるからな。
あとは、暇になれば男とやってたな。
そういうやつだ。
過去に何があったかは知らんが、あの性格のおかげで早死にしただけだ。
まあ、遺体は見つけていないが。
「……となると、こっちに呼ばれていた可能性は十分にあるか」
ちっ、死体を確認していない連中なんてわんさかいるぞ。
しかも見たところ、俺と同じような銃器を呼ぶ能力もある。
話が通じるマイケルの奴ならともかく、ジョシーが来るとはな。
俺はそんなことを考えつつ、廊下を走る。
グレネード返しをして飛び出したはいいが、やはりというか、すでにジョシーの姿はない。
撃ち合いに於いて、その場にとどまるっていうのはよほどじゃない限りはしない。
戦場では、敵と味方がお互い一人なんてことはないからな。
発砲音から位置が割れて、背後を取られることになる。
チームでカバーしているならともかく、ジョシーは一人だから、動き回っているんだろう。
この城の中では、ジョシーはただの侵入者だからな。
周りは、敵だらけの……。
「そういえば、発砲音がしなかったな? というか、あれだけ俺たちの部屋で発砲、爆発までしたのに、誰も来なかったな」
そんなことを考えていると、廊下に転がっている兵士を見つける。
よく見れば、ナイフで急所を一撃。
ああ、そういうことか。
考えれば当然だが、ジョシーのやつはここまで、城の兵士を殺してきたらしい。
まあトリガーハッピーの気があるとは言え、一度に全員相手したいわけじゃないからな。
暗殺するぐらいは考えるか。
そうでもなければ、あの戦場の前に死んでいるわな。
「しかし、仕事って言っていたからな。俺たちのことを教えられて、わざわざ殺しに来たってことだ。あれの依頼主を聞き出して、呼んだ手段を聞き出されば、何か帰る方法がわかるかもしれん」
まあ、ジョシーも俺の存在は意外だったのか、話はできたが、それでも多少だ。
相変わらず、女とみるとすぐに殺したがるやつだったな。
帰る手段だと言ってもこらえられたのは、最初だけ。
あとはすぐに引き金を引きやがった。
俺も敵認定してたからな。そこら辺も関係してるんだろうが……。
タタタンッ!!
「ぎゃあっっ!?」
近くから発砲音と悲鳴が聞こえる。
こっちにいたか。
てっきり、俺を撒いてあのガキ共を殺しにでも行くのかと思っていたが、そうでもなかったようだ。
それとも、兵士が案外優秀だったのかね?
そんなことを考えながら発砲音と悲鳴が聞こえる場所へと行くと……。
タタタッ……。
アサルトライフルを構えたジョシーが囲んでいる鎧兵士を撃っていた。
「囲め囲め!! 奴は妙な魔術を使うが、あの杖の先からしか攻撃はできんぞ!!」
へぇ、あの指揮官多少は見る目があるんだな。
だが、そんなことを言えば……。
タンッ。
ヘッドショットで指揮官は倒れる。
あれはわざと囲まれたな。
指揮官を呼び出すために、で、他の兵士は四散した。
まあ、ほぼ鎧は貫通。叱咤激励してくれる指揮官も死亡。
部下が踏ん張れるわけもないわな。
勝てるかもしれないから、頑張れるのであって、死ぬために戦う奴はそうそういない。
ま、そこはどうでもいい。俺はそこにめがけて、銃を……。
タンッ!!
チュイン。
おっと、こっちのことはばれていたようだな。
即座に照準合わせてきやがった。
「ダストー。分かりやすい所からでてくるなよ。本当に腕が鈍ったなー」
「あえてだよ。意表が付けただろう?」
「まあ、ダストと遊んでも仕方がないとは思い始めたかな」
ガチャ、カチャン。
装弾しているな。
ここが俺の狙える隙かね?
そう思いながら、俺が移動をしたとたん。
バラララッ!!
「おらっ!! そのままハチの巣になりな!!」
おうおう、ドアがあっという間に穴だらけに。ドア一枚越しから覗くもんじゃねーな。
強度がまるで足りていない。
俺がいないと分かったとたん、直ぐに廊下に出てきて……。
「もうそのまま死にな!!」
「やなこった」
俺はそう言いながら廊下をひょいと曲がる。
チュイン、チュン!!
この時代錯誤というか時代遅れの城にも利点はある。
レンガ、岩づくりの城なので、銃弾が貫通する場所は意外と少ない。
なので、銃撃戦をするときに、壁の強度を心配するようなことはなくて済むわけだ。
戦場では壁越しに撃たれて死ぬってのはよくあるから、助かる構造だ。
とはいえ、このまま逃げるのも芸がない。
なので俺も仕掛けを施すことにする。
「いい加減に諦めっ……」
ズドン!!
俺を追ってきたアホは置き土産の手榴弾に引っかかる。
部屋での意趣返しだ。
とは言え、そんなことで……。
「面白い事やってくれるじゃねえか」
引っ掛かりはしたが、死ぬわけがないか。
確認した瞬間直ぐに体を引いてよけたな。
だが、意趣返しだと言っただろう?
キーン!!
奴が顔を見せた瞬間にまた転がしていたフラッシュグレネードが炸裂する。
よし、これで……。
バララ……!!
うぉ!?
とりあえず撃ってやがるな。
自滅覚悟の乱射かよ。
これじゃ怖くて近寄れん。
仲間がいればこの限りじゃないが、俺しかいないからな。牽制撃ちぐらいはできるか。
ここはイチかバチかで踏み込むよりも、確実にするために移動するか。
「ダストー!!」
後ろで叫びながら乱射する馬鹿をよそに俺はその場から離脱する。
どうせ、あの状況じゃ、あいつが行く場所はあそこしかない。
「ま、対応できるなら、それでいい」
ジョシーを殺せるなら、これから普通に生きていけるだろう。
問題は対応できなかった時だ。
その時は文字通り全滅するだろうから、それは阻止しないとな。
とはいえ、普通にやっては避けられるよな。
「となると、あれを使うか」
俺はそうつぶやいて、空を見つめる。
さて、あとは俺の準備が間に合うか、それともジョシーの方が早いか。
そういうことで、俺はさっそく準備を始める。
ダンダン!!
ダーン!!
ズドーン!!
俺が準備をしている間も、銃声と手榴弾の音が響くから、あいつの動きはわかりやすい。
仲間が嫌がるわけだ。
どんどん結城君たちのところに近づいて行っているな。
さっさと、準備を終わらせて、俺はドローンを複数空へと飛ばす。
ドローンの調子を見つつ、モニターで結城君たちがいた部屋を眺めると、案の定ジョシーが部屋にやってきて、ドアに近づいていた結城君を撃つ。
「ドアを塞いでなかったか。いや、案外正解かもな」
下手すると、RPGとか持ち出してくるかもしれんからな。
で、そのあとは特に抵抗というか、結城君がやられて、怒ったのか大和君が何も考えずに突進して、これもまた撃たれる。
これで無事なのは、ルクセン君、リカルド、お姫さん。ぐらいだ。
ヨフィアは立ち上がっているようだが、まあ、戦力に考えない方がいいだろう。
というか、3人とも茫然自失って感じだな。
こういう経験がない限り、動けっていうのはさすがに無理があるか。
そんなことを考えている間に、ジョシーはルクセン君に銃口を向ける。
さて、そろそろやるか。
俺はドローンを操作し、載せていた銃を発砲させる。
流石にアサルトライフルの反動には耐えられず墜落するドローンは消して、待機させておいたほかのドローンが次々と撃って、ジョシーを穴だらけにしていく。
「お前が生きていた時は、ああいう小型無人機はなかったからな。あと、弱点を狙いすぎだバカ」
最後はヘッドショット。
いや、運がいい。
これからはドローンによる狙撃も考えるか?
いや、風向きがわからんから、狙撃は向かないか?
せいぜい200から400ってところか。
と、そんなことはいい。呆けているルクセン君を正気に戻さないと、助かるかもしれない結城君と大和君が確実に死んでしまう。
『光。呆けている暇があったら、晃と撫子の治療をしろ。死ぬぞ』
「あ、うん!!」
無線機を事前に渡していて正解だったな。
今後はこういう囮作戦も行けるかもしれん。
本人たちは嫌がるだろうがな。
さて、ドローンはさっさと消して、俺も戻るとしよう。
しかし、今回は突然の事とはいえ、やばかった。
現役と退役傭兵の差はかなりあったな。
ジョシーが特殊ということもあったが、俺が鈍っているのも事実か。
無駄に会話していたしな。普通なら問答無用に穴をあけていたはずなんだが。
「ジョシーが仲間になるかもと、淡い希望を抱いたからなー」
あれは仕事って言ってたから、依頼主を裏切ることはないのにな。
傭兵に大事なのは信用だ。
まあ、向こうも俺を最初は仲間にと考えたかもしれないがな。
お互い水と油だったってわけだ。
そんなことを考えながら、部屋に戻ると……。
「いてて……」
「銃に撃たれると、なんというか、力が抜けますのね」
「二人とも、動いちゃだめだよ。そのまま自分で回復魔術をかけておいてね」
どうやら、結城君も大和君も無事だったようだ。
「よお。二人とも。いい経験が出来たな」
体に風穴開けられて生きているってのは、なかなかないことだ。
ジョシーが俺を殺すために、手加減したのが功を奏したかな?
「あ、田中さん」
「ルクセン君もよく頑張ったな。君がいなければ、銃撃を受けた連中は全員死亡だ。というか、ヨフィア、大和君はもうちょっと考えて動け。銃を相手に正面からとか自殺志願でしかないからな? まあ、大事な人がやられたというのも分からないでもないがな」
とはいえ、冷静さを失えば直ちに死体になるだけだ。
そこは教えておかないといけない。
まあ、2人ともそれは分かっているようで、直ぐに謝ってくる。
「すみませんでした。つい、あははは……」
「私も晃さんが撃たれて、どうにも頭に血が上ってしまいました。このジョシーという女性の言動があまりにもあれでしたし、それで意味もなく撃たれて……」
「まあ、ジョシーは特殊すぎるからな」
意味はジョシーだけが分かるものだ。
きっとコレにも、アレなりに判断基準があったんだろうなとは思う。
「と、そうだ」
俺は咄嗟に銃を取りだし、ジョシーに銃を撃ちこむ。
頭部に一発、胸部に二発、両足に一発ずつ。
「ちょっ!? 田中さんなにやってんの? もう、その人死んでいるんだよ? 流石にそれは……」
俺の行動にルクセン君が非難の声を上げる。
「死体に鞭打つってのは、世間的に褒められたモノじゃないが、戦場では別だ。ちゃんと止めを刺さないと、こっちが殺される」
止めを刺したつもりで生きてましたーってのは最悪だ。
そのミスで仲間が死ぬ。
敵には必ず二発撃ちこめって言うぐらいだからな。
「特にこれが生きてたら、次はまとめて吹き飛ばされるからな」
「「「……」」」
俺の言っていることが理解できたのだろう。文句を言うメンバーは誰もいなかった。
「……ごほっ!! ごほっ!!」
「カチュア!? カチュア!! ああ、よ、よかった!!」
と思えば、死者が息を吹き返した。
いや、流石に助かる傷じゃなかったと思うがとよく見てみると、損傷が消えている。
「ルクセン君。もしかして……」
「うん。エクストラヒールをやってみたよ」
「なるほど。良い判断だ。これで、俺たちには死傷者なし。まあ、銃撃をくらったが、治っているし、いいだろう。ま、城の被害はとんでもないが」
「「「あ」」」
今そのことに気が付いたようだ。
カチュアの復活はある意味感動的だが、ほかでは沢山の死者が出た大事件だ。
ジョシーの死体を俺は今すぐ細切れにして燃やしたいが、そうもいかないよなー。
と、今後の面倒を考えて途方に暮れるのであった。
こうしてジョシーを殺害。
田中の方は、こうして結構殺伐な話になっております。
能力差もあることながら、まあ、傭兵だしね。




