第8射:冒険者になろう!!
冒険者になろう!!
Side:アキラ・ユウキ
「「「うわー」」」
俺たちから出た言葉は、同じだった。
西洋の中世ヨーロッパの街並み。
実際目にすると、感動というモノがある。
一応、森へ訓練に行く道すがら、馬車の窓から見えたりはしたのだが、命懸けの訓練をするということがあったので、全然風景に気を配る余裕もなかった。
だが、今回は違う。
ようやく田中さんや、マノジルさんの許可がでて、冒険者になるために、自らの足でお城から、冒険者ギルドまで移動しているのだ。
まあ、お目付け役のリカルドさんや、御世話役でついてきたメイドのヨフィアさんがいるけどね。
この2人は、おそらく厄介払いということらしい。
リカルドさんは散々田中さんにボコボコにされて立派に更生され、メイドのヨフィアさんは田中さんと色々話していて、2人とも田中さんに囲みこまれたと思われているかららしい。
その証拠に、リカルドさんは、この同行を理由に、近衛隊長の座を解雇、勇者の専属護衛ということになってしまった。
メイドのヨフィアさんは元々捨て駒だったのか、役に立たないから、さっさと現場送りにして戦死させるのが目的ではと田中さんは言っていた。
俺もそう思う。ヨフィアさんは、戦闘はからきしとまでは言わないが、強くない。俺達でも十分に倒せる。
「お楽しみの所申し訳ありませんが、こちらです」
「「「あ、はい」」」
そして、監視役そして、お城への報告役として、鋭い目のキツメの騎士のお姉さん、キシュアさんが一緒に同行することになりました。
正直、マノジルさんが付いてくるのかと思ったけど、マノジルさんは俺たちを元の世界に帰すという約束があるのに加えて、魔術ではこの国のトップなので、そうそう切れる存在ではないそうです。
まあ、元々、切れ者だから、田中さん寄りとは思われない立ち回りをしているんだろうと、田中さんは言っています。
「ま、ズコバコやりたいなら、キシュアじゃなくて、ヨフィアにしとけ」
「何、言ってるんですか」
「いや、冗談抜きで、キシュアとそういう関係になると取り込まれる可能性があるからな。ま、それを承知でいくっていうなら止めないが、敵になったと判断したら、遠慮なく殺すぞ?」
「いやいや、まだ学生ですよ? 結婚とか考えられませんって」
「だからだ、女に耐性ないだろう? 誘われるなら断れるだろうが、場に流されてと言うのもある。性欲があるのは別に悪いことじゃないからな。だが、そこらへんの発散先は考えておかないと、食われるぞ。勇者って看板もあるし、種をまくだけでいい男だからな。大和君やルクセン君よりも、狙われやすい。王家以外の連中からもな」
なんかリアルで嫌だなー。でも、事実なんだろうな。
「かといって、娼婦館とかはやめとけ、性病検査とか無いだろうからな。ヤバイ。というか、そこに行くために一人になるからな。単独行動はやめとけ。勝手に女が妊娠したとか言うからな」
「ナニソレ怖い」
「そういうもんだよ。勇者様ってのはそれだけの価値があるんだよ。ま、結城君だけじゃなくて、後ろで聞き耳立てているお嬢さん2人もな」
田中さんがそう言って振り返ると、そこには思ったより近づいていた、撫子に光がいて、顔を真っ赤にしていた。
「な、なにも、き、聞いていませんわ」
「そ、そう、だよ。何も聞いてないもんね」
全然隠す気ないよね。
ああ、わかりやすいってこういうことか。
「ま、当分は最低でもツーマンセル。2人以上で動け。ついでに、男女のコンビがいいだろうな。偽りでもいいから、恋人とかそういう風に装えば、無駄なちょっかいは出ないだろう」
「「「……」」」
しかし、そう言われてすぐにそう振舞うことはできない。
だって、付き合った経験とかないからな。
それは、撫子や光も同じようで、沈黙している。
「しばらくは、団体行動な。それで慣れていけ」
そう言われて、頷く。
そんなことを話しつつ、気が付けば、ウェスタンな扉な建物にたどり着いた。
「こちらが、ルーメル王都にある冒険者ギルドです」
そう言って、キシュアさんを先頭に冒険者ギルドの中へと入って行くと、思ったより、ギルドの中は綺麗で、そして冒険者らしい人はまばらしかいなかった。
俺のイメージでは、いかつい男たちが酒でも飲みつつ、たむろしている場所ってイメージがあるんだけどと、辺りを見回していると、カウンターに座っていた人が声を掛けてくる。
「ん? おや、ルーメルの騎士様がこんなところに何か御用でしょうか?」
そう言ってきた人は、残念ながらかわいい受付嬢ではなく、ごついおっさんだった。
わかってますよ。そういうのは幻想だって、受付で可愛い子がいるなんて夢なんですよね。
「先日連絡しておいたはずですが?」
そういって、キシュアさんは用件を言わずに、キツイ視線をおっさんに送ります。
あれだ。敏腕秘書って奴かな? 実際見たことないけど。
「んー? ああ、確か、勇者を冒険者ギルドに登録するって、わけのわからんことを言っていた城からの使いがいたな。本当の事だったのか」
「本当です。今まで秘匿していましたが、基礎訓練が終わったので、経験を積む意味でも冒険者ギルドに登録という形になったのです」
「ふむ。話は分かった。だが、俺じゃ色々便宜を図ろうにも無理だ。ギルド長とそこらへんは話し合ってくれ。こっちだ」
そういって、俺たちは二階の個室へと通されると、すぐにダンディなおじさんが入ってきた。
「ようこそ。ルーメル冒険者ギルドへ。私がこのルーメル冒険者ギルドの長である、クォレンだ」
そう挨拶されたので、俺たちはすぐに自己紹介をして、そのあとキシュアさんが詳しい説明を始める。
「……話はわかりました。しかし、これはルーメル王家からのご依頼をということで、何らかの譲歩をしていただけるということですかね?」
「そうですか、冒険者ギルドは勇者様たちを優先的に使って仕事をこなすということをしないと仰るのですね」
「ご冗談を、勇者様たちはまだまだ訓練期間と仰っていたではないですか。難易度の高い仕事をこなせるわけがないでしょう。まずは地道な仕事をこなしてもらうことになります」
「それは当然でしょう。私が言っているのは、今後一切ということです」
「それでは経験させる意味がないのでは? 魔王討伐を目指すのに、難易度の高い仕事をしないのでは意味がありませんな」
「……相変わらず、よく口の回る」
「この程度で褒めていただき光栄ですね。で、ルーメル王家が用意してくれた報酬はなんでしょうか?」
「はぁ、税の一割軽減です」
「ほう。それだけ、勇者様たちの成長を願っているのですな。いいでしょう。引き受けました」
なんというか、大人の汚い攻防戦を見た気がする。
当の本人たちである俺たちが置いてきぼりなのはどうも違和感があるけど。
その視線に気が付いたのか、クォレンさんはにこっと笑って話しかけてくる。
「いや。すみません。彼女とはこうしてよくやり合うもので、お見苦しいものをお見せしました」
「……私も申し訳ありませんでした。つい、いつもの調子で」
意外なことに、キシュアさんも俺たちに頭を下げてきた。
なんか、クォレンさんと仲良さげだなーと思っていると、田中さんが質問していた。
「よくということは、キシュア殿とはお知り合いで?」
「ええ。王家とギルドの間でいつも胃の痛い思いをしているんですよ。彼女は。先ほどのことも、一応やらないと上がうるさいのでね」
「……騎士として、命には従わないといけないのです」
そう言いつつ、キシュアさんは少し疲れた顔をする。
それを見た田中さんが納得したような顔で。
「その様子だと、キシュア殿もリカルドやヨフィアと同じで厄介払いですか?」
「……ええ。騎士団での交渉役だったのですが、どうも、上は私のやりようが気に入らないようで。今回の件も税の軽減などの条件はなんとかもぎ取ってきたんですが、それが決め手だったようで」
「彼女以上にまともな交渉ができるとは思わないんですがね。無報酬で手伝いなんてできるわけがないのに、最近のルーメルの上層部は何を焦っているのか」
なんか、話を聞く限りダメダメな国だな。
お金も払わないで、ただ働きしろとか、そりゃストライキされても文句は言えない。
「……」
同じような感想を持ったのか田中さんも考え込むように沈黙している。
「ま、このようなことを勇者様たちに聞かせても仕方がない。キシュア殿。何かあれば、ギルドを頼れ。君なら安心して雇える。ああ、受付になりたいなら。多少笑顔の練習をしてもらわないといけないが」
「相変わらず、一言多いです。私は国に忠誠を捧げた騎士です。そのようなことにはなりませんので、ですが、万が一の時はお世話になります」
なるほど。キシュアさんは自分にも周りにも厳しいタイプか。
で、そんな話をした後は、手早く俺たちの冒険者としての手続きを済ませて、リカルドさんとの訓練などの証言から全員ランク2からとなった。
ランクは1から10まであり、1が基本的に町中の手伝い。2から3までが外での採取や弱い魔物退治。4からは盗賊退治、つまり人殺しができるか。これが冒険者としては一人前らしい。5は熟練者。6から10は、かなりの功績を出して、冒険者ギルドや果ては国からの許可があってなるランクらしい。
基本的に5の熟練者が冒険者としての一種の到達点らしい。
6から10は英雄って呼ばれる部類だそうだ。
ま、英雄と言っても、戦争に参加して活躍するっていうのが主だから、人殺しで英雄になってもなー。
ちなみに、魔王を退治できればランク9は固いらしい。となるとランク10は一体どんなことすればいいんだよ。と思ってしまう。
なので興味で現在いる冒険者で最高ランクは? と聞いたら、8だそうだ。小国で活躍している冒険者であちこちの戦争に参加しては功績を上げているらしい。
近場の方では、大国の一つであるガルツ王国の町にランク7のパーティーがいるようだ。
このチームは変わり種で、魔物の大氾濫。大量発生があった時、町を守るため、皆を奮起させて先頭に立って戦い街を守りぬいたそうだ。こういう方がいいよな。
あ、リーダーの名前はモーブって言うらしい。人呼んで守りの英雄だってさ。俺はこういうのがいいな。
「で、一通り説明したが、何か仕事を受けるかい?」
そらきた!! なんかようやく、異世界に来たって感じがしてきた!!
色々、暗い話ばかりだったけど、ここから俺たちの冒険が始まる!!
受けますよね!! って感じで、田中さんへと視線を向ける。
「まあ、期待のまなざしもあることだし、とりあえず、今日のうちに終わりそうな仕事があればなんでもいいから、見せてくれないかな?」
「ん? なんでもいいのか?」
「ちゃんと現実は見せてやらないとな。というか、人気取りにはいいだろう? 特に壁に貼ってあった奴とかな」
「そっちを選ぶか。ははっ、いいな君は。そうだ、人気取り、信頼は大事だからな。そっちを中心に持って来よう」
「頼む」
「「「???」」」
その意味はよくわからなかったが、こうして俺たちの冒険者生活は始まるのであった。
ようやく、異世界ファンタジーらしい冒険が始まるぜ!!