第79射:荒唐無稽な話を聞く
荒唐無稽な話を聞く
Side:タダノリ・タナカ
「……信じてもらえるかわかりませんが、私は未来を見ることが出来るのです」
衝撃的というか、どう反応していいのかわからない答えが返ってきた。
その答えに、俺たちどころか、同席しているマノジルでさえ、目を点にしている。
どうやら、マノジルも知らない情報のようだ。
しかし、その荒唐無稽な話をしている割には、お姫さんは堂々としていることから嘘を言っているようにも見えない。
「すまないが、少し質問をさせてくれ。いいか?」
「はい。構いませんわ」
「その、未来を見るというのは、この世界ではよくある話なのか? まだこの世界にきて、間もないからな」
とりあえず、この世界の常識を聞いてみることにする。
地球で未来が見えるなどと、アホなこと言えば総スカン間違いなしだ。
まあ、歴史上でいなかったわけではないが、預言者といわれたのは、俺たちが勝手に言っているだけで、実際は色々現場を見てきて、その答えを出したのだから、預言とは違い、ちゃんとした理由があっての答えなわけだ。
ああ、案外、そういった確固たる理由があるのかもしれないな。
そう納得しかけていたのだが……。
「いや、そのような話は、私は聞いたことがありませんな」
マノジルから否定の言葉が入ってきた。
まあ、目を点にしていたから、知らないとは思ったけどな。
「マノジルは知らないようだが、リカルド、キシュア、ヨフィアは知っているか?」
マノジルが世の中すべての常識を知っているとは限らない。
というか、こういう研究者は大抵世の中に疎い方が多いからな、リカルドとキシュアという貴族に常識を聞くのはあれだが、聞かないよりはマシだろうし、ヨフィアもいるからそこら辺は補えるだろうし、この人数が知らないなら、メジャーな話ではないという判断もできる。
「申し訳ありません。浅学の身で、そういう話は聞いたことはありません」
「姫様申し訳ありません。私もリカルド殿と同じです」
「私もそう言う話は聞いたことは……」
と、ヨフィアも同じ言葉を続けるかと思えば、何かを思い出したのか固まった。
「何か聞いたことがあるか?」
「眉唾ものですが、フクロウババアから聞いたことがありますね。超珍しいスキルで使い勝手超最悪の未来予知スキル。まあ、鑑定スキルみたいに相手のステータスを覗き見するわけじゃないから、危険性は皆無らしいですけど。まず、ステータスは相手に見せるモノではないし、その未来予知スキルは不完全な発動で、予知できるのは断片的、情報不足極まりなく、いつどこでは基本的にさっぱりという話です」
「なるほど」
珍しいスキルで、一言で言えばつかえねー能力というやつだな。
ヨフィアも一応オブラートに使い勝手最悪と評したが、意味は伝わったようで、結城君たちは信用ならねーという顔になっている。
まあ、預言者を信じるとか、どこの怪しい宗教だよって話だな。
「で、全然驚いていないそっちのメイドさんは知っているようだな」
「ご挨拶が遅れました。姫様の傍付きをしております。カチュアと申します。以後お見知りおきを、勇者様方、そして、タナカ様」
ビシッと綺麗な挨拶をしたカチュアはそのまま俺の質問に答える。
「ご質問ですが、私は姫様のスキルに関しては存じております。しかしながら、ヨフィアの言うように予知が信用ならないという話は、フクロウなどから聞いておりますので、姫様の身の安全の為に隠しておりました。こういう予知は下手をすれば混乱をもたらしますので」
確かにな。
お姫さんがこんな予知を見て、動いてくれと言えば動かせる規模は、普通の人より大きいだろう。
そして、逆に予知の精度が高くても、予知を回避できなければ、災いを呼ぶなどと言われかねない。
「話は分かった。で、さっきの流れから察するに、今回の召喚は、お姫さんが何かの予知をして行ったということでいいんだな?」
「はい。それで間違いありません」
「つまりだ。隠しておくべき未来予知スキルをばらしてしまう可能性も覚悟し、汚名も被って、結城君たちを召喚したわけだ」
「その通りです。……しかし、意外と冷静なのですね。信じられない、あるいはそんなことでと怒るかと思っていたのですが」
俺たちの反応を見て驚いているお姫さん。
「ま、よくある話ではあるからな。結城君たちも同じだろう?」
「あ、はい。小説とかドラマでよくあるネタですよね」
「あるある。起こるか起こらないかでよく悩む話だよねー」
「しかしながら、起こってしまえばその被害はとてつもないものと分かれば、動かざるを得ないわけですわね」
「……異世界では予知能力というのは、よくある話なのでしょうか?」
俺たちの言葉に年相応の顔で首を傾げている。
地球の思考実験の果ての物語などと言われても、よくわからんだろう。
特に日本はそういう、妄想物語の先進国だからな。
漫画は確かに面白い。
SF系とかは好きだ。あ、今度魔力で作れるか試してみるか。
と、そこはいいとして、説明をどうしたものか……。
そう悩んでいると、ルクセン君が楽しそうに説明を始める。
「んー。よくある話じゃないよ。物語でよくある内容なんだ」
「物語ですか?」
「そうそう。未来予知ができるけど、信憑性もなにもないから、誰も信じてくれない。でも、事故や事件を防ぐために行動をするってね」
「似たようなのもあるよな。考古学者が昔の預言書を見つけて、それが真実だと知って奔走するとか」
「誰にも信じられず、独力で困難を解決するという話は多いですわね」
ルクセン君の説明を受けて感心するように話を聞くお姫様。
「で、つまりは、お姫様は未来予知でとんでもない未来を見てしまった。だから、それを止めるために、悪いことだとは分かっていても、僕たちを召喚した。そういうことなんだよね?」
「あ、はい。その通りです。ですが、こんなにすんなり信じていただけるとは……」
ルクセン君たちの理解の良さと速さに驚いているお姫さん。
地球の妄想、想像文化の頂点、日本を舐めるんじゃないってところだな。
あの国は無機物でさえ、女性化とかわけのわからないことをするからな。
「まあ、理解はしたけど、僕たちが迷惑を被ったことには変わりないのは忘れないでね?」
「はい。それは理解しております。ちゃんと帰る方法は調べております」
調べているだけで、ちゃんと方法が見つかるとは限らないんだけど、これは言わない方がいいな。
お姫さんも必ず見つけますとは言ってないからな。自分でも難しいことは理解しているんだろう。
「で、問題は、その大きな事故?事件?って一体何を見たんですか? 俺たちを呼び出すほどってよほどですよね? 信じる信じないは別として、教えてくれませんか?」
結城君の言うことはもっともだ。
お姫さんがこんなバカな行動に出るほどのことを予知したということになる。
本当になるかどうかは別として、聞いておいて損はないだろう。
「……正直いつになるか、さっぱりわからないのですが、その時は確かに、アキラ様、ナデシコ様、ヒカル様がいて、大群という言葉も追いつかないほどの魔物の群れと対峙しておりました」
「私たちがですか?」
「はい。あの時ほどしっかり予知の人物の姿がみえたことはありませんでした。まあ、規模はちょっと想像もつかないことになっていましたが。今まではちょっとした近々の小さな出来事ぐらいだったのです。コップを落とすとか、鎧が倒れてけがをするとか」
「私も姫様に鎧が倒れて、下敷きになるのを助けていただき、話を信じるようになったのです」
なるほど。一応実績みたいなのはあるわけだ。
まあ、そうでもないと、ただの虚言癖に付き合っているだけだからな。
「そっかー。ちゃんと予知の実績もあるわけか。で、僕たちがその魔物たちと対峙しているのを未来予知で見て、呼び出そうとしたのかー」
「しかし、なぜ、召喚を? この世界に同じような人がいたのかもしれませんが?」
「その可能性も考えました。ですが、私が意味もなく人探しをするわけにもいきませんし、ならば、魔王を退治するため勇者召喚をするといえば……」
「ああ、大義名分にはなるし、お姫様から目的の人物を呼び出せるってわけか」
「はい。まさか、本当に異世界から勇者様たちが、それも未来予知で見たその人が来るとは思ってもいませんでした。なので、その、タナカ殿には失礼な態度を……」
「いや、話を聞いて納得だ。初対面の相手にあそこまで敵意を見せるのはおかしいと思っていたんだ。他の王や大臣たちも困惑している様子だったからな」
お姫様とその取り巻き、リカルドが暴走している感じだった。
で、その理由が、魔物の群れと戦うはずのアキラ君たちをお姫様というか、この世界そのものに対して文句を言う俺がいたわけだ。
そりゃー、何が何でも排除したくなるよな。
お姫さんの未来予知が本当だとすれば、俺はこの世界を破滅に導くような行動をとっているわけだから。
最悪逃げればいいってな。
「そういえば、田中さんはその未来予知で見なかったの?」
「はい。タナカ殿の姿は見ませんでした。だから……」
「俺はその状況になる過程で死んでいると思ったわけだ。で、その原因は……」
「私が暗殺の依頼をしたからだと思いました。敵を排除したんだと。まあ、命令を出したのはドトゥス伯爵ですが」
ま、動機は分かった。
未来予知スキルを信じるならな。
しかし、その話を聞いて結城君たちは難しい顔をする。
俺を暗殺しようと思ったことを警戒しているのか?
「でも、田中さんはこうして生きてるから、多分。お姫様が見た未来の時もきっと別行動していたんだと思う」
「ですわね。田中さんが敗れたなど信じられませんわ」
「今となっては、私も同意です。まさか、闇ギルドですら壊滅させてしまうとは……。レベル1だからと言って弱いわけではないのですね」
お姫さんが言うと、俺がラン○ーとか0○7みたいに敵組織を単独で壊滅させたような感じでこまるが、レベル1だからと言って弱いわけではないは同意だ。
現に俺がいるし、当時も俺と同じようなレベル1で固定する人は稀にいるような話は聞いたからな。その人たちだって普通に生きているんだから、レベル1という数字の面だけではないんだろう。
「ま、俺が強いか弱いかはいいとして、そのドトゥス伯爵の甘言に乗ったのはわざとだとして、恨みは買っていないのか?」
今の話を聞けば、ドトゥス伯爵の野望をかなえるのに加担したのに、裏切ったわけだ。
恨まれて当然だと思うが?
「このことはドトゥス伯爵は知りませんし、私も暗殺依頼のことに関しては、まとめて処罰をうけていますので、恨みを買うということはないかと」
「そっちの危険はないと。じゃあ、ドトゥスが何か魔術師を集めているっていう話の狙いはなんだと思っている?」
何か企んでいるんだろう? という感じで聞いたのだが、お姫さんは何も知らないようで、小首をかしげ……。
「それはいったい何の話でしょうか?」
「知らないのか? 昨日、フクロウから聞いた話で、ドトゥスが……」
そこまで言って、懐かしい音が耳に入ってきた。
ガシャン。
装填準備音、視界には敵はいない。なら、ドアか!!
射角には、お姫さんだけ。
「全員伏せろ!! 銃撃来るぞ!!」
俺はそう言いながら、お姫さんに飛びつく。
「きゃっ!?」
「無礼者!! 姫様になに……」
ズドンッ!!
カチュアの声は発砲音に遮られ、ドアは粉々に吹き飛び、破片が空中を舞う。
この威力、ショットガン系か!!
俺はそう思いながら、ハンドガンを取り出し、ドアの方向へと構える。
そこで確認できたが、結城君たちは無事のようだ。俺の指示を聞いてかがんだのが功を奏したようだ。
が、お姫さん側はそうもいかなかったようで……。
「うぐつっ……」
「……」
「か、カチュア!? いやぁぁぁ!!」
マノジルは足に被弾。
メイドのカチュアは……駄目だな。ドアと姫さんの射線にはいって、原型をとどめているだけましか。
姫さんの盾になれたんだ。本望だろう。
「おや? 外したか」
そんなことを考えていると、のんびりとした口調で女がゆっくりと入ってくる。
「はっ、ドアの外でわざとらしく装填音をさせて置いて白々しい」
「ははっ。いや、凄腕がいるって聞いたからな。どの程度のもんか見てみたくてな。いや、異世界の人間を殺してほしいって言われてどんなもんかと思っていたが、銃のある世界の連中でよかったよ。これで終わったら興ざめだからな」
そう言いながら女はショットガンを肩にかけつつこちらへと振り向く。
その顔には見覚えがあって……。
「ジョシー」
「ん? なんでお前、俺の名前をって……ダストか? お前」
そこにいたのは、先日見た夢、昔の戦場で死んだはずの仲間だった。
「未来がわかるんです」
そんな言葉を聞いて、信じられる奴は色々まずい。
だが、まあ日本の方が割かしましだろう。
だって、そういうネタはよくあるから。
ジョシーを女に変更




