第78射:久々のお城
久々のお城
Side:アキラ・ユウキ
「これはこれは勇者殿。各国への訪問、お疲れさまでした」
「あ、いえ。自分のためですから」
「流石、勇者殿は謙虚でいらっしゃる」
「あ、あははは」
こんな感じで、俺たちは今、ルーメルのお城に来ていた。
フクロウさんの情報で俺たちは城に行くことを決めたのだが、どう向かったものかと悩んでいると……。
『別に気にすることはない。堂々と行けばいい。それで襲われるなら、証拠もたくさん残るし、俺たちが逃げ出すのには十分な理由になるだろう。下手にこそこそ動くとそこに文句を言ってくる連中もいるからな』
という、田中さんの助言で、真正面から、ルーメルのお城に来たんだが、案の定というか、事前情報で調べた通り、俺たち勇者に離れられると困るのか、接待でべたべたしてくる貴族の人が多数いてその対応に困っている。
そして、無論、俺だけじゃなく……。
「ほほう。魔術に関してそのような知識を、ナデシコ様は聡明でいらっしゃる」
「いえ。もともと、故郷では当たり前のことでしたから」
「ヒカル様はまるで太陽のようですな。その笑顔に癒されます」
「どうもー」
と、撫子や光にも声がかかっている。
あからさますぎる対応だ。
どの連中もあったこともないのに、こっちにいい印象をというのが分かりやすすぎる。
「どうですかな? 勇者殿、私の娘と一度会っては下さりませんか?」
「いえ。そういうのはまだ。魔王との戦いもありますし」
ここまであからさまに、ハニートラップを仕掛けてくるとは……。
なんか、もう引っかかるとかそれ以前の問題だよな。
というか、お姫様に面会に来たのに、なんでこんな連中と話してるんだろう?
いや、堂々と正面から来たのが原因だろうけど。
まあ、この人たちは、俺たちに出ていかれないように必死に手を打っているだけなんだろうな。
で、一番警戒されているであろう、田中さんはというと……。
「タナカ殿。是非とも、リカルド殿と一緒に私に仕えてはくれませんか? 報酬は月……」
「いえいえ、それなら私の所へ。勿論、リカルド殿も一緒に、2人の武勇は聞き及んでおりますから、そんな端金ではなく領地つきで……」
とまあ、今までのことがびっくりするぐらいの好待遇を条件に勧誘されている。
召喚された時は物置部屋みたいなところに放り込まれていたのにな。
いや、まあ、田中さんの実力を知ってそっぽ向いたり、喧嘩を売る奴がいたらただのバカだけどな。
と、俺に掛かる勧誘や、田中さんたちの勧誘シーンを眺めていると、不意に綺麗な声が聞こえてきた。
「お待たせいたしました。勇者様方」
綺麗ではあるんだが、俺としてもどうも好きになれないこの声の持ち主は、ロビーの階段から降りて来ていたユーリアお姫様だった。
「おい。なぜ姫がこの場にくる。勇者殿たちが不快に思ったらどうるすつもりだ」
「また喧嘩でも売るつもりか? やめてくれ、そうなればルーメルは終わりだぞ」
そんな感じで、俺たちよりも、貴族の人たちの方がお姫様の登場に驚いていた。
いや、俺たちはそのお姫様に会いにきたんだけど、それを知らないのか?
それをお姫様も察したのか、俺たちへ向かうのをやめて、その場に立ち止まる。
「我がルーメルの高潔な貴族の皆さま、ご安心くださいませ。私は勇者様たちのご希望でこちらに訪れたのです。そうですわよね? タナカ殿」
「ああ、その通りだ。何かトラブルがあったかのように言われているが、あれは兵を鍛え直す話だったんで、誤解が広がったんだろう」
「足早に、他国への顔見せに行かせたのも原因ですわね」
「「「……」」」
その言葉にびっくりする俺たち。
一体どこで口裏を合わせたのかというぐらい、スムーズな会話の流れ。
「それに、立会人として、マノジルもいますので、御心配には及びませんわ」
そう言われて気が付いたが、隣にはマノジルさんがいて、紹介されて頭を下げる。
「……どういうことだ? 姫様はタナカ殿と色々あったはずだが……」
「リカルド殿たち近衛隊がやられたことが、訓練?」
うん。なんか色々無理があるよな。
貴族のおじさんたちの会話にとても納得するが、そんなことは無視して、お姫様は田中さんの前に立ち……。
「お部屋をご用意させて頂きましたわ。そちらで今までのことをお聞かせくださいますか?」
「そうだな。ここじゃなんだし、其方で話をしよう」
「では、こちらへ」
そういうことで、俺たちはお姫様に案内されて、綺麗な応接室へと通される。
「どうぞ、お座りになってください」
そう言われて、俺たちはソファーに座ると、お姫様はリカルドさんたちに視線を向けて。
「リカルド、キシュア、ヨフィア、貴方たちも座っていいのよ」
「いえ。私は未だルーメルの騎士であります。なので、騎士として、姫様たちの会談を守らせていただきます」
「同じく。ルーメルの騎士として、私もこの場の警護に当たらせていただきます」
「あー、お2人は勤務熱心ですねー。じゃ、私はお姫様のご厚意にあまえまし……」
そう言って、ヨフィアさんらしい答えで、俺の横に座ろうとしたのだが……。
「おや、メイドがまさか、主人の断りなく座ろうとするのですか?」
「いえ。そんなことはございません。傍に控えて、主の命を待ちます」
「よろしい。流石はヨフィア。私が目をかけてきただけはあります。フクロウもずいぶん驚いたと連絡がきました」
あー、この人がヨフィアさんをメイドに育て上げた人か。
あれだ、スーツとか着せたら、バリバリのキャリアウーマンになりそうな人だ。
というか、フクロウさんとも知り合いってことはこの人も凄腕なんじゃ……。
「ありがとうございます。おかげであのババアに一泡吹かせることができました」
「……ま、フクロウが気に入らないというのは分かりますが、そう言う言葉遣いは気を付けるように。そして、姫様。彼らにも立場というモノがございます。それを考えて発言していただきたい。断れば非礼、されど受け入れれば増長者と取られかねません」
「カチュア、ごめんなさい。私もちょっと意地悪をしたいと思ったのかもしれないわ」
「「「……」」」
そう返すお姫様に警戒してしまう俺たちは悪くないだろう。
「姫様。お気持ちはわからなくはないですが、もとはといえば、ご自身の責任であります」
「そうですぞ。姫様。彼らは被害者なのです。そういう物言いは……」
「ええ。わかっていますとも。今回のことは自業自得。ドトゥス伯爵の甘言に乗った私が悪いのです」
カチュアさんとマノジルさんから、注意を受けて、反省しているような物言いをするが、どうにもちゃんと反省しているようには見えない。
何か、演技のように見えて仕方がないのは俺だけだろうか?
そんなことを考えていると、田中さんが口を開いて……。
「で、そういう前置きはいい。俺たちが話を聞きに来た。そしてお姫さんはこうして席を設けてくれたということは、話を聞くつもりはあるということでいいか?」
「相変わらず。歯に衣着せぬ物言いをしますわね。タナカ殿」
「わかりやすくていいだろう?」
鋭く睨むお姫様を相手に、軽やかに言葉を返す田中さん。
こっちとしてはまたトラブルにならないか冷や冷やなんだけどなー。
「はぁ、ここでタナカ殿に私たちの流儀を説いても仕方はないですし、非は確かにこちらにあるのも事実ですね。で、何を聞きに来たのでしょうか? 残念ながら、いまだ送り返す方法は見つかっていませんわ」
「おや、探してくれていたのか?」
「ええ。勝手に誘拐したのは理解していますし、人としての常識はありますので」
「となると、ドトゥスの甘言に乗せられたってのは嘘か。何が目的だ?」
「本当に、歯に衣着せぬ言い方ですね。もうちょっと聞き方というのがあるのでは?」
「こっちも、何度も言うが、わかりやすくていいだろう?」
バチバチとお姫様から火花が散るような視線が送られるが田中さんはそれに気にした様子はない。
その様子を見て無駄だと悟ったのか、睨むのをやめてお茶を一口飲んでから、喋り始める。
「しかし、よく気が付きましたね。私がわざと甘言に乗った振りをしたと」
「いやな、そこのマノジルとかに話を聞くと、そこまでバカじゃないって話だし。この前結城君たちと会ったときも冷静な対応だったからな。ほら、バカなら見つけた瞬間連れ帰りそうなもんだろう?」
「……なるほど。そこを評価していただいたと」
「ああ。よかったな。人心の安定の為に外出しておいて、おかげで結城君たちの評価を得られて、現状だ。喜ぶべきことだな」
「そうですわね。これで最初のタナカ殿との問題が無ければ本当に良かったのですが……」
そう言ってお姫様は俺たちと、いや田中さんと喧嘩?をしていることを悔やんでいるようだ。
でも、田中さんを排除しようとして、喧嘩を売ったのはお姫様のはず。
怒られて反省したのか? でも、召喚した際の俺たちが誘拐された事実については認めていたよな?
分かっていてやった事なんだから、何を今更?
そう思っていると、田中さんが口を開く。
「いや、案外、俺と喧嘩をしたのは正解だったな。魔族の件。お姫さんの仕業ってわけでもないんだろう?」
「当然ですっ!! 我が国を滅ぼすようなことをしますか!!」
田中さんの言葉にお姫様は怒鳴るように答える。
そして、怒鳴ったことに気が付いたのは、直ぐに冷静になり……。
「失礼いたしました。しかし、これだけは信じていただきたい。私は決して、勇者様たちを害そうなどとは思っておりません」
「だよな。邪魔なのは俺だけだからな。俺個人を闇ギルドで殺すようには依頼しても、魔族と手を組んで結城君たち勇者をっていうのは、最初の行動から矛盾している」
「……そこまで知っているのですか」
驚きの表情をするお姫様。
どうやら、田中さんの暗殺依頼をしたことは間違いないようだ。
「闇ギルドが壊滅したのは偶然だと思うのか?」
「……まさか、そこまで」
「ま、こっちは情報を全部冒険者ギルドに流しただけだがな」
「思った以上に強かですわね。そんな伝手もなかったはずですが……」
「挨拶がてら、色々世話になってな。あと、勘違いしているが、伝手は作るものだからな。無ければ伝手を頼ることもできない」
うん。当然の話だ。
伝手は作るもの。俺たちもガルツやリテアで色々な人と知り合ってきたからな。
「で、闇ギルドや俺たちの伝手はいいとして、魔族のことは予想外だったみたいだな」
「ええ。全くの予想外です。まさか、魔族と繋がっているような貴族がいるとは、何のために勇者様たちを呼んだのか……」
そう言うお姫様の顔には怒りがにじんでいるのが分かる。
田中さんの時よりもよっぽどだ。
「……その様子だと、お姫さんは本当に魔王を退治するために結城君たちを呼んだんだな?」
「私はそのつもりです」
「しかし、魔王は全然動いてないようだが? 何でそんなに急に?」
そうだ。魔王との戦いなんてのは既に100年以上も音沙汰がない。
なぜ、わざわざ俺たちを呼んだんだろう?
撫子や光も気になっているのか全員の視線がお姫様に集まり……。
「……信じてもらえるかわかりませんが、私は未来を見ることが出来るのです」
……なんかいきなり胡散臭くなってきたな。
本人はいたって真面目なんだろうけど、未来を見るとか、SFかよ。
と、俺は思うのであった。
そして、出てくるトンデモ話。
まあ、SFとか超能力系ではよくある話だよね。
で、これがどう話に関わっていくのかな?




