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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第75射:懐かしい夢

懐かしい夢



Side:タダノリ・タナカ



「……というわけなんです」


そうユーリアお姫さんと出会ったことを説明する結城君。

いや、意外だね。

あのお姫様がわざわざ巡回に出て人心を落ち着かせようとしているとは。

まあ、俺が知っているお姫様なんざ、初日に会ったお姫様だけしか知らないから、あり得ないとは言えない。


「で、こちらを無理に連れ戻すようなことはなく、去っていったわけか」

「はい。よければ一度お城に来てくれと言って」


マノジルが言ったように、甘言に乗せられていたことは認めていたようだし、さて、これを信じるか演技とみるべきか悩むところだな。

しかし、俺たちのことを知って行動を起こしているなら、結城君たちと俺が分かれている時は最大のチャンスだったわけだが、その場面で特にがっつくこともなく引き返して行くってことは、あまりこちらをだまそうという意思は感じられないな。

まあ、城に行った途端……っていうのは否定できないけどな。

いやー、人は初対面が肝心だというのがよくわかるな。


「田中さんはどうするべきだと思う?」

「別に急ぐ理由もないだろう。急かされたわけでもない。まずは、予定通りに情報を集めよう。お姫さんがわざわざ城下に下りて巡回をしているなんて話は聞かなかったしな。そこらへんが不思議だ」

「そういえばそうですわね。あれだけ人だかりができて、昨日はそんな話を聞いたことはありませんでしたし」

「まあ、城下町の人全員に聞いたわけじゃないから、耳に入ってなかったという可能性も十分にあり得るがな、そこら辺の情報も含めて情報屋とか飯屋の店長に聞いてみるほうがいいだろう」

「そうですね。それがいいですね」

「それしかないよねー。じゃ、僕たちはドラゴンバスターズの泊っている宿屋に行ってこよっか」

「田中さん。お休みのところすいませんでした。私たちは情報を集めに行ってきます」

「おう。でも、気を付けておけよ? これで安全だと決まったわけじゃないからな」


俺がそう釘をさして、再び結城君たちは情報収集へと出ていく。

それを宿屋の窓からタバコをふかしながら見送る。


「ふぅー。思ったよりも、上はこの事態を重く見ているのかね? お姫様をわざわざ巡回に出しているなんてな。それとも、勇者たちである結城君たちに対するアピールかね? これで戻ってこなかったら、姫様の献身?を知っている国民は勇者を非難するかもしれないな」


案外ありそうなネタだな。

しかし、俺という平民を権力で威圧してきたあの姫様がねー。

この作戦を理解して協力したとも思えないから、国王や宰相が手を打ったってところか?

いや、ルーメルの状況が悪いというのは理解していたのか、マノジルは親ばかではなかったか?

それはそれで、こちらも話が通じるって意味だから、助かるんだけどな……。

そんなことを考えている内にタバコがかなり短くなる。


「おっと、そろそろ寝るか」


俺は、タバコの火を消してとりあえず睡眠をとって体調を整えることにする。

休めるときに休む。

兵士の鉄則だ。

ということで、お休み。

やっぱり疲れていたのか、横になると直ぐに意識が遠くなる。

宿屋なので、そこまで周りに警戒しなくていいせいだろうなーと、落ちる寸前で思い。


「はあ、俺も、丸く……なった、な」


とつぶやいて意識が途切れる。



ダーンッ!! ドドドド……。バラララ……。


懐かしい音が聞こえる。


「おい、起きろ。ダスト」

「ん? なんだ?」


俺がその声に目を開けると、懐かしい顔がそこにあった。

粉末上のコンクリートを浴びて真っ白になってはいるが、見間違えるはずもない。


「どうかしたのか、マイケル」


全くありきたりな名前だが、こいつが俺の所属している傭兵部隊の隊長だ。


「銃撃音が激しくなってきている。動きそうだ。仮眠をとっている連中を起こして来い」

「了解」


俺はそう言って、体を起こす。


「しかし、こんな中でお前も良く寝れるな」

「誰かさんのおかげでこういう仕事は初めてじゃないんでね」

「ははっ。言うじゃねえか。じゃ、さっさと仕事を頼むぜ、ダスト」


俺はマイケルとそんな軽口を言ったあと、直ぐに仮眠中の連中を起こして回る。


「死にたくなかったら起きろ。敵が来るぞ」


大声でもないのだが、個々の連中がこういうことには敏感なので……。


カチャガチャ……。


返事をすることなく、腕に抱えていた銃器を直ぐに腰に持ち構える。

いつでも殺れる体勢だ。


「状況は?」

「銃撃音が激しくなっている、動きそうだと。マイケルが」

「隊長がそう言うならそうなんだろう」


1人がそう言うと、周りも頷いて直ぐに立ち上がり配置につく。


「さて、昼間で動くとなると、夜は飲めそうか?」

「どうだろうな。それか、お前が決定打を入れてくるか?」

「馬鹿いえ、先頭に立つ奴は死体になるだけだ」

「違いない」


そんなことを言いながらも、しっかりと索敵範囲を見ている団員たち。

俺も同じように索敵範囲をしっかりと見つめる。

未だに敵の動きは見られない。

まあ、ここら一帯の敵は全部やったからいないはずだ。

主戦場は別のところにあって、そっちの戦闘音が激しくなっているわけだ。

そんなことを考えていると、耳にノイズが走る。


『ザザッ……、Mより各隊員。上からのお達しだ。敵をあと一押しで押し切れそうなので移動を開始して、祭りの援護をしろとのことだ。予定通りのラインで押し上げていくぞ』

「うひゃー。こりゃ、俺たちに先頭を行けってことだよな?」

「さあな。本当に本隊が押し切れそうなのかもしれないぞ?」

「ないない。前の調べで、こっちの勝ち目は薄い戦場だったろう? このうちの何人死体になってると思う?」

「ボーナスは山分けだな」

「「「わははは……」」」


死ねと言われている命令でも、笑っている馬鹿共。

三度の飯より戦争が好き。

そんな連中だったな……。


『Aチーム、Bチーム前進開始。Cチーム警戒援護』


マイケルの命令で俺たちは動き始める。

さあ、お仕事だ。いっちょやりますか……。



「……踏み出した瞬間に目が覚めるとか、どこの映画だよ」


俺はいざ前進を始めようという時にパッと目が覚めた。

外はもうすぐ夕方と言ったところか?


「妙な夢を見たもんだ。戦場にいたころの夢とか、最近は見たことが無かったんだがな」


起き上がって体をほぐす。

別に体調に違和感もない。すこぶる良好だ。


「ま、こういうこともあるな」


しょせんは夢だ。

普通の人はトラウマになるらしいが、俺にとってはあそこが生活の場所だったからな。

懐かしい夢というやつだ。


「しかし、あの夢は夢というより記憶だよな」


夢とは荒唐無稽で脈絡のないことを見るはずだが、あの戦場は実際経験したことがある場所だ。

いや、意外と都合のいいように改変されているか?

それとも、あれか? 予知夢というやつ?


「いやないな」


生まれてこのかた、超能力とか心霊とかには縁がない。

特に幽霊の方はな。

いや、こっちの世界ではゴーストがいるんだっけか?

でも、なんか種類違いだよな。

で、地球でよくある恨みとかの呪いのなんぞが存在するのなら、俺は疾うの昔に呪い殺されているな。

何人も殺ってきたしな。

超能力者なんてのもなしだ。

そんなものがいたとしたなら、戦場で多大な影響を与えてきたはずだ。

それが投入されていないということは、いないのか、それとも能力がしょぼかったのか。それだけだな。


「とりあえず。結城君たちは戻っていないようだな」


部屋を見渡してみる限り、書置きなどもないので戻ってきていないのだろう。


「しまったな。こういう時のために無線機でも渡しておくべきだったか?」


あれはこの世界ではオーパーツすぎるから、下手に見つかると厄介かと思って、貸したあとはすぐに回収していたんだよな。

そもそも、あれ以降別行動ってすることがなかったからな。


「この世界の不便さに慣れてくるってのも考え物だな」


危険なのを当然だと思い始めている。

それに慣れてしまうと危険だ。

危険なことは危険だと理解していなければ、いつか足を踏み外すし、致命的なミスにつながる。

傾向と対策を怠っているということは、慣れによる意識の欠如だな。


「姫さんと出会った時も俺に即座に連絡できたはずだからな。ここは俺のミスだな」


ここは反省しておこう。

もっと対処のしようがあったと。

この城下を出る前は無線の存在は知らせる気がなかったが、今は違うしな。

多少、マシになってきたんだ。渡してもいいだろう。


「ま、見つかったら見つかったでそれでいい。それはそれで無線機の実用性を理解しているやつか、それとも故郷の人間かもしれないからな」


まあ、故郷の人間が見つかったからと言って、味方と決まったわけじゃないからな。

寧ろ、俺たちが一番警戒するべきは、地球から来たとかいう連中だな。

他にいるのかはいまだ不明だが、素直に信じるのは危険な世界だ。

と、思考はいいとして、そろそろベッドから起きよう。

意外と、もう帰ってきてるのかもしれないからな。

そういうことで、ササッと着替えて、ロビーに降りる。

何か問題があったのなら、それはそれでわかるだろうからな。


「特に、何もないな」


ちょっと高級な宿に泊まっているので、ロビー、フロントはキレイで人もそれなりにいるが特に誰かを待っている様子はない。


「すまない。タナカというモノだが、何か伝言を受けてないか?」

「いえ。なにも」

「ありがとう」


そう言って俺はチップを渡してフロントを離れ、宿の外へと出てみる。


「まあ、まだ調べていてもおかしくない時間か?」


夕暮れ時が近いからか、道を行きかう人々は家路を急いでいるように見える。

いたるところから煙もたち登っているから、これから夕食というやつだろう。

しかし、こんな人混みで結城君たちを探せば入れ違いになる可能性が高いと思った俺は大人しく、部屋に戻ることにした。


「こっちの方が何かと連絡が来るだろう」


遅かれ早かれな。

暇なので、タバコをふかしながら銃の整備は必要なのだが、整備をして暇をつぶしていると廊下側から人が歩いてくる音が近づいてくるのに気が付く。


「田中さん。起きてますか?」


と、ドア越しに声が聞こえてくる。

どうやら、結城君たちが戻って来たようだ。


「起きてるぞ」


俺がそう返事をするとドアが開いて、結城君たちが入ってくる。


「田中さんちゃんと寝てた? ずっとタバコ吸ってたりしてなかった?」

「少し匂いますわね」

「少し吸ったのは本当だ。だがちゃんと寝たから心配するな」


タバコの匂いは意外と簡単にばれる。

女性は特に気にするよな……。


「ということで、俺はいつでも出られる。そっちは情報は集まったか? それとも何かあったか?」

「いえ。特には問題ありませんでした。あったのは、お姫様のことだけですね」

「うんうん。普通に宿屋に行って、情報屋の場所は聞いてきたよ」

「少し飲んでいたので本当なのか怪しいですが」


飲んでたか、それはちょっと怪しいな。

さて、こうなると保護者としてついて行った人に話を聞くべきだな。


「怪しいか。リカルドたちはどう見た?」

「嘘を言っているようには見えませんでしたな」

「酔っぱらってはいても、自我が飛ぶようなものではなかったですね」


2人は信じられると。


「最後にヨフィア。知っている情報屋か?」


冒険者のヨフィアが知っているなら確実だ。


「もちろん。私が利用したことのあるところですよー。場所は変わっているようですが、いい腕の情報屋は場所を変えないと消されますからねー」


これで情報屋が本物かは分かったわけだが……。


「まずは、食事だな。おっさんに挨拶も兼ねてな」

「おー!! おじさんの料理だー!!」

「ああ見えて気を使って料理を作ってくれますからね」

「でもさ、食べる方で行くのはなんか妙な感じだよなー」

「「「あははは」」」


さて、とりあえずは飯だ。

情報はそのあとか、明日になってから。

まずは俺が何も食ってないから飯しかありえない。





久々に見る戦場の夢。

これが意味するところは?


そして、お姫様の動きはなんだろう?



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