第74射:お姫様との邂逅
お姫様との邂逅
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
「まったく、朝起きて外に出てみれば、晃のハーレム計画を聞かされるとは思ってなかったよ」
「ですわね。全く驚きですわ」
「俺も驚いたよ」
「あははー。でも、いいと思いませんか? お2人とも?」
そう言って楽しそうに話してくるのは、ヨフィアさんだ。
まあ、悪意もないし、無理やりってこともないから、何とも言い難いんだけどねー。
「僕はまだ、そういうことは考えていないからなー。生きるのに精一杯だし、子供が出来ても守れる自信ないや」
「私もですわね。帰れる予定でもありますから、子供を伴って連れて帰れば、驚かれますわ。そして、その時、晃さんは社会的に死にますわね」
「確かに死ぬよねー」
僕と撫子を孕ませたとか、学校は退学、就職はできない、お先真っ暗の未来だ。
「私たちが晃さんとそういう関係になるときは、帰還をあきらめた時とか、こちらに子供を置いてくる覚悟をしないといけませんわね」
「そうなると、なかなか難しいよねー」
「いや、現実的に考えられてもな……。俺は反応できないぞ」
そこは、大丈夫だって言えばまだ僕の評価は上がるんだけどなー。
撫子は無責任発言で怒りそうだけど。
「理性があることは良いことですわ。ヨフィアさんの勢いに負けて、子供を作らないようにしてくださいね?」
「男女の関係をとやかく言うことはないけどさ、まあ、子供を連れて魔王退治は無理だと思うよ?」
子連れ狼にでもなれって話だよねー。
「あー、そこは大丈夫ですよー。ちゃんと避妊できるお薬はありますからー? どうです?」
「いや、しないから。まずは、ちゃんと仕事をしましょう」
「そうですねー。今はそうしましょう。ズコバコやっているのをタナカさんに見られたら寿命が縮みますから」
うん。それは同意。
というか、ヨフィアさんのズコバコ発言はセクハラなんだけど、ヨフィアさんが言うからなのか、全然いやらしい感じがしない。
健全すぎてびっくり。
あ、いや、案外わざとこういうことを話して、僕たちに耐性でもつけようとしているのかな?
「ヨフィアそういう話は終わりだ。そろそろ真面目に仕事をこなさないのであれば、私からタナカ殿に報告させてもらう」
「ですね。まあ、ヒカル様の言うように人の恋路にどうこう言うつもりはありませんが、公私混同はやめていただきたいですね」
「わかってますよー」
そんなこと話しながら僕たちは冒険者ギルドへと向かっていると……。
「よお。今からお出かけか?」
田中さんと道端でばったりと出会った。
「あれ? 田中さんはマノジルさんの所にいったんじゃ?」
「ああ、それはもう終わった」
「夜に起きてたのですね」
「丁度、一服しててな」
「ああ、タバコですか」
「そうそう。それでタバコをぷかぷか吸いながら、近況を話し合ってきた」
好きだねー。タバコ。
僕にはちっともわからないけどね。
あ、そう言えば、田中さんは旅の時は全然吸ってなかったよね?
あれってもしかして、僕たちに気を使ってたのかな?
ま、そこは気にしても仕方ないとして問題はマノジルさんと何を話してきたのかだ。
「田中さん。マノジルさんから何か情報は得られましたか?」
「まあ、それなりだな。細かいことを話すのは宿に戻ってからでいいだろう。周りの人に聞かれてちゃ不味い内容だからな。で、そっちはお出かけか?」
「あ、はい。これから冒険者ギルドへ行って情報屋の話などを聞いてこようかと思っています」
「そうか。なら、俺はひとまず宿に戻って寝るわ。あとでまたな」
そう言って、田中さんは宿の方へと行ってしまう。
「普通に無事でしたわね」
「ま、田中さんがどうにかなるとは思ってなかったけどねー」
「でも、城には警備の兵士がいるんだよな?」
「まあ、タナカ殿が正面から入れば普通に道を開けてくれると思いますが」
「そうなれば、大騒ぎでしょうから、きっと別の場所から忍びこんだのでしょう」
「でしょうねー。いやー、しかしあのままやってたら。見つかってましたねこのタイミングだと」
……本当に変態発言なんだけど、ギャグにしか聞こえないんだよなー。
と、それはいいとして、冒険者ギルドに僕たちはそのまま向かい、人探しを始める。
「さーて、ドラゴンバスターズの人はいるかなーっと」
僕はそう言いながら、冒険者ギルド内を見回すけど、そう都合よく見つかるわけもなく、仕方なくカウンターのお姉さんに話を聞くことにする。
「すいません。ドラゴンバスターズの人ってどこにいるかわかります?」
「ドラゴンバスターズですか? 確か昨日仕事を終えて戻って来たばかりですから、まだお休みになられていると思いますけど?」
「その宿屋を教えてもらえませんか?」
ということで、僕たちはドラゴンバスターズの泊まっている宿屋を聞き出して、冒険者ギルドを出たんだけど……。
「あれ? なんか人だかりができるな?」
「そうですわね。何かあったのでしょうか?」
「なんだろうー?」
冒険者ギルドが面する道の奥で人だかりができていた。
特に慌てている様子も見られないので僕たちもただそのやじ馬たちと同じように、何が来るのかを待っていると……。
「旗?」
「あれって、ルーメルの旗ですよね?」
「多分。リカルドさん、そうですよね?」
そう晃が言って僕たちもリカルドさんを見ると……。
「まずい。あれは、近衛隊の旗」
「ですね。すぐにここから移動するべきかと」
「見つかるとやっかいですよー」
そう言ってきた、えーと、近衛隊って言うと、リカルドさんが隊長を務めていた部署だよね?
つまり、兵隊。
で、確か、近衛隊って言うのはエリートって意味だったはず。
ん? 兵隊?
「逃げますわよ。トラブルの香りしかしませんわ」
「俺たちを捕まえにきたのかな?」
「田中さんがいるのに、わざわざそんなことをするかなー? でも、逃げるのは賛成」
何が目的で城下に出てきているかは知らないけど、面倒事でしかないよね。
ということで、僕たちはその場から逃げ出そうとしたんだけど……。
「あら、勇者様方、偶然ですわね」
逃げ込んだ路地で、ユーリアお姫様と出会ってしまった。
僕たちを召喚した張本人で、初日に田中さんと色々あってから、会うことが無かったお姫様だ。
正直、今でも会いたくない人だ。
利用する気、満々だったからねー。
「どうも、ユーリアお姫様ご無沙汰しております」
「どうも」
「元気そうだねー」
しかし、挨拶されたので、普通に挨拶は返す。
「リカルドも元気そうね」
「はっ。姫様もおかわりないようで。それに、近衛兵の皆も」
「「「はっ!!」」」
ユーリア姫の後方に控えていた兵士たちもびしっと挨拶を返す。
あれ? リカルドさんって更迭されて僕たちのところに来たんじゃなかったっけ?
このユーリアお姫様の期待に応えられなかったから。
「ユーリアお姫様なぜこのような城下に?」
撫子がそうわかりきったことを聞く。
僕たちの存在をどこかで聞きつけて、連れ戻しに来たに決まっているよね。
いまルーメルは魔族を招き入れた問題で揺れているから、僕たちがいないとまずいんだ。
だから、すぐに取り押さえにかかるに決まっている。
「光さん。私たちが時間を稼ぎますから、田中さんに連絡を」
「だな。光が一番すばしっこい。田中さんを呼んできてくれ」
「え?」
一瞬何のことか理解できなかったけど、そうだよね。
僕たちだけじゃ、まだ近衛兵相手をできるとは思わない。
まあ、強力な魔術でも撃つなら話は別だけど、この町の人たちに迷惑をかけるつもりはないんだよね。
となると、冷静に考えるなら田中さんを呼びにいくしかない。
「……わかったよ。でも、無茶はしないでね」
「ええ。向こうも私たちをあからさまに害することはないと思いますわ」
「まあ、洗脳とかされたらわからないけど」
「そこはこのヨフィアが何とかしますよー」
「……というか、ヨフィアや私、リカルドがどう扱いをうけるかが心配ですね」
あ、そうか。
僕たちは一定の安全は確保されているかもしれないけど、ヨフィアさんたちの安全は違う。
なにかあるかもしれない。
そんなことを考えているうちに、ユーリアお姫様が口を開く。
「城下になぜ? ああ、ご存じではないようですね。勇者様を襲わせるために魔族と契約をした愚か者が貴族の中でいたのです」
「姫様。それは……」
「いいのです。黙っていた方が不信感を抱かせます。そして私たちは勇者様たちと敵対したいわけではありませんから」
あれ? なんかあっさり喋った?
あの腹黒お姫様が?
なんで?
「……ユーリアお姫様は、私たちを連れ戻しに来たのでは?」
「私としてはそれを願っていますが、タナカ殿がいる限りそれは厳しいでしょう」
「タナカ殿? あれ? お姫様って田中さんこと嫌ってない?」
「ええ。嫌いですとも。礼儀を知らず王家の者と勇者様の会話に割って入るなどと。普通なら無礼討ちですが、それを実行する力が私たちにはありませんでした。まあ、それにドゥトス伯爵の甘言に乗って言ったというのもありますが。今では、勇者様たちを無理に引き留めようとは思いません。それをやれば、今度こそ勇者様たちとのご縁は切れてしまい、ルーメルは存亡の危機に立たされることでしょう。現実を知ったというか、世界は広いモノです」
そう言って、ちょっと遠い目をしたいユーリアお姫様。
まあ、田中さんは特殊だと思うけどねー。
あ、因みに、ルーメルが存亡の危機にさらされるというか、田中さん一人に脅かされると思うよ?
「では、その魔族を探すために城下へと?」
「ええ。いえ、探すというより、巡回ですね。私がその巡回役をお父様から仰せつかっています。私がでることで、国民も安心するということもありますから」
なんだ。このお姫様も別に悪い人ではないのかな?
国を守るためにやったことだったのかな?
でも、魔王の侵攻なんてないし、甘言に乗ったっていうのは事実なんだろうけど、根は悪い人じゃないのかな?
「国民ですか。……ですが、私たちはユーリアお姫様の召喚でこちらに来ることになりました」
「……そうですわね。確かに、今冷静に考えてみれば、タナカ殿や父上の言うようにただの誘拐でしかないですね。そこは申し訳なく思っています。そして、それを国のためと言い訳をして呼び寄せたのもまた事実です。そういう意味で考えれば、タナカ殿の言い分ももっともだと思っています。あの実力があって私の首がつながっているのは幸運なのでしょう」
確かに、田中さんならあっという間に首を取れそうだけど。
そこは、面倒になるから、やってないんだよね。
僕たちがこの世界で生きにくくなるから。
「まあ、ナデシコ様たちさえよければ、タナカ殿を説得して、一度お城にいらっしゃってください。その時に落ち着いてお話が出来ればと思っております。いまだにこの国を出ていないというのは、それなりにルーメルに思うところがあるからと思っておりますので。では、私は巡回がありますので、失礼いたします」
そう言って、お姫様は僕たちの前から去っていった。
「なんか印象が違うよな」
「ですわね」
「うーん。とりあえず、田中さんと相談してみようか?」
ということで、僕たちは一度田中さんと話すために宿に戻るのであったが……。
「寝てたらどうする?」
「「あ」」
どうしよう?
なんというか、意外な反応。
お姫様の狙いはなんなのか?
お城は一体どうなっているのか?
田中の方は無事なのか?
あと、ウィザードリィタイプのゲームの妄想をするをブログにまとめているので、みんな見て知恵を貸してくれ。
ゲーム作成のまとめ
http://snowbookman.diary.to/archives/cat_267287.html
こっちで、色々作戦を考えていければと思っています。
活動報告や、何か個人的な質問もブログで受け付けていますので、気軽にどうぞー。




