第70射:アレから
アレから
Side:ナデシコ・ヤマト
田中さんは、クォレンさんと話しに行きましたし、私たちは誰に話を……。
「あら、ナデシコたちじゃない?」
そう声をかけられて振り向くと、そこにはドラゴンバスターズの方たちがいました。
男性3人女性2人の冒険者の人たちは。
闇ギルドとの戦闘で大けがを負ったところを、私たちが治療した人たちです。
「遠征から戻って来たみたいだな。凛々しい顔つきになってるぜ、アキラ」
「そうですかね? あんまり実感ないんですけど?」
「まあ、本人はそういうもんだろうな。だが、俺たちから見れば見違えたよ。なあ」
「ああ、前よりも立派になった」
「もう新人じゃないな」
晃さんのほうは、男性のメンバーと話しているようですね。
なら、私と光はこっちの女性2人と話すことにしましょう。
「ええ。お久しぶりです。あれからガルツに、リテアと回ってきました」
「へー、結構回ったのね。でも、ひと月ぐらいでしょう? 移動を考えるとあまり滞在しなかったんじゃない?」
「リテアの方が長かったかな? ガルツの方は戦争って感じだからあまり長居はしなかったよ」
「それが懸命ね。なんか戦争は激化するんじゃないかって言われているし……」
どうやら、ローエル将軍が目指す平和はまだまだ遠いようです。
あの強い真っすぐな人が命を落とすことが無いといいんですが……。
「で、そっちはどうだったの? お姉さんたちはあの後、養生してたかんじ?」
「いえ、私たちの方もヒカルと同じで長期で他の国へとまではいわないけど、村とかの依頼を受けて殆ど王都にいなかったわ」
「なんで?」
「ほら、冒険者ギルドが闇ギルドに襲撃しかけたじゃない? 私たちを助けてくれた時のはなしよ。それで、闇ギルドから押収した書類にルーメル貴族の名前もあってね。なんかかなり上が揉めたみたいなのよ」
ふむ。どうやら、その話は伝わっているようですね。
まあ、商人さんも知っていましたから、周知の事実なのかもしれません。
「で、それはいいのよ。問題はそれで報復があったのよ」
「報復?」
「ええ。ギルドに2回ほど殴り込みがあって、それは防いだんだけど、闇ギルドの襲撃で活躍した冒険者が3人ほど闇討ちされて、町中で死んでるのが見つかったのよ」
「闇討ち?」
「そう。闇討ち。多分、闇ギルドからの報復だと思うけど、別の噂では、この事件で闇ギルドを使用していたことがばれて、処罰された貴族がって話もあるわね」
「そう言う理由で、あの仕事に関わった冒険者とかはあまり王都に長居しないのよ。私たちはそこまで活躍していないけど、それなりに倒したりはしたからね」
なるほど。
結構揉めているようですね。
しかし、町中で闇討ちですか。それはかなり不味いのでは?
「人死にが出ている割には、あまり街の人は騒いでいないように見えるのは?」
「まあ、スラム路地で人が死んでるなんてのは、よくあることだからね。あまり街の人たちは気にしていないのよ。でも、浮浪者とかでもない、腕利きの冒険者が死んでいるのはおかしいでしょう?って冒険者たちは話しているわけ」
「あー、確かに。でもさー、何で死んだ冒険者はスラム路地なんかに? 普通は警戒して行かないよね?」
スラム路地というのは、ルーメルに存在する浮浪者などが集まっている路地、地区を指します。
そういうところには犯罪者も集まっているので、私たちには危険だからと近づかないようにと言われている場所です。
そんなところに冒険者が行くのは光さんの言う通り、確かにおかしいです。
「うーん。そこは言いにくいんだけど、ああいうところには情報屋とかいるからね」
「掘り出し物とか、出所の怪しいものを売っているところがあるから、そこに行ったとか言われているわね。まあ、冒険者もそういうところを利用するのよ。腕のいい冒険者ならなおさら、そういう独特の伝手はあるでしょうし」
「そっかー。確かに、田中さんとかはクォレンさんから色々聞いているみたいだしねー」
ふむ。蛇の道は蛇といいますか、そういう関係でですか。
「それで、冒険者の方々は警戒しているということですね?」
「そうね。でも、町の人たちには関係のないことだから、話に上がっていないって感じかしら?」
「それでは、私たちも長居しない方がいいのでしょうか?」
「うーん。ナデシコたちは、治療してただけだし恨まれるようなことはないと思うわ。それに、最近はそんな話は聞かないのよね。事件があったのはナデシコたちが出て行ってから数日と経たない時の話だからね。私たちもだけど、受付の方は冒険者が普通にいるでしょう? そろそろ安全と思って戻ってきてる感じかな?」
「ええ。私たちも、落ち着いて戻ってきたくちだから」
「とは言え、油断は禁物だからね。個人で歩いたり、路地裏に行ったりするのはおすすめしないわ」
そんな貴重な話を聞かせてくれて、ドラゴンバスターズの皆さんは仕事の清算をして、宿へと戻っていきました。
「ねえ。晃の方はどうだった? 何聞いた?」
「私たちの方は、冒険者ギルドへの襲撃に、冒険者への闇討ちなどを聞きましたが……」
「同じ。まあ、あとは一時期衛兵が街に多くなったって話もあったっけ?」
「衛兵が?」
「見回りが増えたって話。でも、冒険者が闇討ちされたからじゃないかなって、言ってたな」
まあ、人死にが出たんですから、当然見回りは多くなるはずですわね。
そんなことを考えていると、不意に後ろから声をかけられます。
「それも理由の一つだが、まだ別に理由もある」
後ろには、クォレンギルド長と話をしていた田中さんの姿がありました。
しかし、いつも思うのですが、なんで私たちは田中さんに声をかけられるまで田中さんの接近に気が付かないのでしょうか?
いえ、近づいてきているのをわかる時もあるんですが、何度かは全然気が付かないうちに声をかけられているんです。
まあ、私たちが話に夢中になっていると言われればそれだけですが、田中さんがわざとやっているような気もするのです。
まあ、後で聞いてみるのもいいでしょう。今はそんなことより、田中さんの情報です。
「あ、田中さん。クォレンさんから何か聞けた?」
「ああ、面白い話は色々聞けたぞ。その関係でルクセン君たちにもギルド長から話があるから、上に来てくれ」
わざわざ私たちを呼んでですか?
普通なら田中さんだけで終わらせるはずなのに、何か大きな話があるのでしょうか?
そんなことを考えながら、全員ギルド長の執務室へと入ります。
正直、ルーメルのグランドマスターの御爺様の執務室よりは狭いので、結構ぎゅうぎゅうのような感じがしますわ。
と、かなり失礼なことを考えていると、クォレンギルド長が私たちを見て口を開きます。
「なるほどな。タナカ殿が彼らに聞かせたいと言った意味が分かった。随分と成長したみたいだな」
先ほどあったドラゴンバスターの方たちにも言われましたが、そんなに変わったのでしょうか?
「本人たちには自覚がないがな。この部屋に入って狭いと失礼なことを考えるぐらいは余裕があるからな」
「グランドマスターの執務室と比べられてもな」
……顔に出ていたのでしょうか?
しかし、田中さんに言われて思い出しましたが、確かに最初はギルドの偉い人と会うと言われて緊張していました。
それが、部屋の狭さに不満を持つようになったというのは、確かに余裕が出てきたということでしょうか?
「まあ、座れないこともないから、かけてくれ」
そう言われて、私たちはソファーに座ります。
確かに、全員が座れないほど狭くはないのですから、一般的に考えると、クォレンさんの執務室も狭いわけではないですよね。
……最近の私たちが出会う人が大物過ぎて、感覚がズレているのでしょう。
「さて、君たちにも来てもらったのはほかでもない。今のルーメルの状況についてだ」
「ちょっと、面白いことになっているみたいだぞ」
田中さんは横でそう補足する。
「面白いことじゃないぞ。魔族のことで上は大騒ぎさ」
「まぞく? 魔族って言うと、ガルツの帰りに会った?」
「そうだ。その魔族と繋がっていた貴族が闇ギルドも利用していて、その流れでバレたそうだ。ご丁寧に契約書まで残していたって話は商人から聞いただろう?」
「あー、そういえばそんなこと言ってたけど、その貴族は文章だけで処罰は爵位剥奪だけだったんじゃないの?」
「それは表向きだ。処罰の理由はないからな。証拠となる魔族がいなかったんだからな」
まあ、それは当然ですわね。
証拠がなければ処罰はできません。
しかし、妙な言い方です……。
「表向きというのは?」
「魔族がいたというのは、君たちが実際に知っているだろう?」
「普通に襲ってきたからねー」
田中さんがあっという間にやってしまいましたけど。
「それを知っているのか、それともメンツのためなのかはしらないが、勇者を呼んだ国という手前、勇者を殺すために貴族が魔族を手引きをしたなんてバレれば、国民はもちろん、他国からも大きく文句を言われることになるだろう。なんて恥知らずなことをと」
「だからだ。その貴族は爵位剥奪後、殺されている。俺たちに敵意はないと示すためにな」
「僕たちのため?」
「ああ。周りが何と言っても、君たちがルーメルにいる限り、正当性は保たれる。ただの貴族が暴走しただけで終わるんだ」
「この状況でルクセン君たち勇者を失えば、ルーメルは大国の立場がなくなりかねんからな」
「立場どころか、魔王に組したといわれかねんよ。だから、始末したわけだ。真意がどうであれな。ということで、城に戻ればその関連で歓待されるだろうな。この国に是非ともいてもらいたいからな」
「だから、城に戻っても油断するなよって話だな」
……そういうことですか。
「じゃ、冒険者たちが襲われた話は?」
「そっちは、本当に闇ギルドの報復だな。ギルドにも襲撃が2度ほどあった」
「でも、闇ギルドは退治したんじゃ?」
「末端まできれいにやれたわけじゃないからな。そして、闇ギルドはルーメルだけに存在する組織じゃない」
「そこが報復してきたってこと? それって大丈夫なの?」
「別に襲ってきたやつらは返り討ちにしてとらえてるから、どこの手の者かはわかっている。それに、闇ギルドも別に冒険者ギルドと対決はしたくないみたいで、報復してきたのは、ただの末端だったからな。本格的な報復なら、まだまだ死人が出ているはずだ。まあそうなれば、冒険者ギルドと全面戦争になるから、そこまではしないようだ」
「では、冒険者ギルドの方は落ち着いているという感じでしょうか?」
「ああ」
「あとは、俺たちの接待をどうするかだ。クォレンの情報以外に何かあるかもしれないからな。まだ情報を集めてみるか?」
そう言われて、私たちは頷き、お城に戻る前にしっかりと情報を集めることにしたのでした……。
ルーメルの方も色々あったらしい。
そしてこれから田中たちはどうするのか?
情報を集めた先になにが……。




