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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま
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第7射:次なる一手

次なる一手



Side:タダノリ・タナカ



いやいや、意外だね。

もっと、グダグダになるかと思えば、最近の若者たちも捨てたもんじゃないらしい。

ああ、なんか大学の講師から聞いたな。

大昔から「最近の若者はなっていない」という言い回しはあったそうな。

つまり、先に生まれたということに鼻を掛けて、年下を見下している、年上の驕りってことだよな。

これだけ、世界に人がいるんだ。できるやつもいれば、できないやつもいる。

それだけな話だ。

そういう意味では、3人はできる人間なんだろう。

というか、勇者様として呼ばれたんだ。潜在的に耐えられるから呼ばれたって可能性も無きにしも非ずだな。


それとも、人間慣れる生き物ってことかな?

どんなに苦手でも、その状況に突っ込めば人間ヤレルってことだ。

あれだ、泳げない人間を海に突き落とせば意外と泳ぐって話がある。それと同じだ。

出来なければ死ぬって状況になると、大抵やれるようになるって話か?

そうでなれば死ぬだけ。

ま、わかりやすい二者択一だよな。

しかも、安全に一週間近くもやったんだ。普通なら慣れるか?


とまあ、難しいことを考えたが、3人の若者たちは、無事に生き物を殺すことに慣れた。

しかも、今日は群れに対してしっかりと戦術を組み立てて、若者なりに頑張って、無傷で倒してのけた。

まだまだ荒い部分はあるが、平和な日本からやってきたんだ。一週間近くでああなれば上出来だろう。

剣も魔術も、勇者様っていう補正のおかげで、人外の力を発揮している。

しかもレベルが上がるたびにその力は増していくと来たもんだ。

今や、既にレベルは5を超えて6、7だ。都合よく倍々とはいかないが、それでも、地球の人間の平均は圧倒的に上回っているだろう。

地球からしたら、この環境は垂涎ものだな。

生き物を殺しただけで、才能が伸びるとか、筋力トレーニングの意味がない。

あるのは、精神的に鍛えることぐらいか。レンジャーとか特殊部隊の根性訓練。

ということで、マノジルとの今後の教育方針は実戦経験をさらに積ませるということで、上も合意した。

もっとも、ルーメル王はともかく、姫さんの方は形ができてきた勇者たちを各国へお披露目したいらしいけどな。

流石に礼儀などはまだまだ後回しなので、止められた。

が、いずれは各国を回ることになるだろうな。俺たちが元の世界に戻るためのヒントを探すために。


「ゲギャ!!」


そんなことを考えていると、不意に下品な声と共に、ゴブリンが襲い掛かってくる。

いかん。ちょっと気がそれたな。

俺はそう反省しつつ、懐からM11を引き抜いて、引き金を引く。


プシュッ。


そんな音が響いて、ゴブリンは倒れる。

ピクリとも動かず、脳天には穴が開いている。


「……しかし、サプレッサーってもっと音が響かないと思っていたが、そうでもないな」


サプレッサーは、騒音ありきの場所で意味があるのであって、こんな物静かな場所で使うものじゃないか。

まあ、それでも銃声を盛大に響かせるよりはいいが。

俺はそんなくだらないことを考えながら、ゴブリンの頭に開いた傷にコンバットナイフを差し込みぐりぐりと銃創を消していく。

弾丸はそのまま中に残しておく。中途半端な証拠隠滅な気もするが、どうせ弾丸もひしゃげているから、同じ業種でもなければ、頭の中に残っている弾丸の残骸を見てもわからないだろう。ついでに、この森では死体は他の生き物が喰ってしまうらしいからな。

それで証拠はなくなるだろう。


「ともあれ、こういう狩場があるのはいいよな」


俺は銃の確認をしながら、そう呟く。

この森は結城君たちの為だけに用意したのではない。

俺が、思う存分練習するためでもある。

夜中に抜け出して、こっそりというのが条件だがな。

昼間は、剣とか槍とか、時代遅れの武器を使うことしかできないからな。

俺もここ一週間結城君たちの面倒、教育を考えていたわけではない。

俺の魔力代用のスキルをより深く調べるために、この森で実験と勘を取り戻すために来ていたわけだ。

その成果というのが、このサプレッサー。消音器機。

いや、そのほかにも、色々作ってみて、分かったこともある。

俺がスキルで作り出した物は俺の意思で出し消しできるのだ。

例えば、初日は色々作ってベッドの下に隠していた道具だが、今では消して、隠し場所には困らなくなっていた。

まあ、いつこのスキルが使えなくなるかわからないので、どこかで個人の倉庫などが借りられればとは思うが、今はお城の兵士の監視下にあるので、そういうわけにもいかない。

ま、弾倉も弾薬満タンのままで出現させられるので、ありがたい限りだ。

銃撃のゲームとかは弾倉満タンのままを何度も補給できるが、現実は弾を込める作業がいるし、持ち運べる弾倉にも限りがあるので、ゲームのような挙動はまずできない。

戦場で弾倉を持ち歩いてもせいぜい4つ、6つがいいところだ。

しかし、このスキルがあればゲームのように、無限に弾薬の補給ができるということだ。

ま、その前に銃がいかれるだろうが、その銃も入れ替えればいいだけという至れりつくせりだ。

地球に帰ってこの能力があれば、武器弾薬費用は考えなくていいから、ありがたいよな。


「しかしながら、金銀財宝は作れないと来たもんだ。どういう基準で選ばれているのかわからん」


こっちの世界でもお金はあればあるほどいい。

だから、金銀財宝が呼び出せればと思ったんだが、そういうモノは呼び出せないらしい。


「なぜか、地球の外貨は呼び出せるけどな」


そう呟いて、手のひらにスキルを使うと念じると、日本円が乗っている。

だが、この紙幣は地球の日本だからこそ価値があるものであり、この世界ではただの紙切れだ。

多少は細工の細かい絵としての価値は認められるかもしれんがそれだけだ。

というか、下手に地球の金貨などは呼び出せないんだよな。俺の存在がばれかねん。

俺の存在がばれなくても、特殊な金貨を持っている奴がいると噂になれば面倒なことになる。

なので、ただの金の延べ棒が欲しかったのだが、そういうことはできない。

お金一つ稼ぐにも、色々気を遣わないといけないというのが、実に悲しい。


「……楽をするより、普通に稼いだ方がいいか?」


幸い武器は今の所、何も損耗率を考えなくてもいい状態だ。

いつこの状態が切れるかもわからんし、ギルドだったか? 職業斡旋所みたいな所があるらしく、魔物を退治して証明部位を持っていけば、お金を稼げるとのことだ。

そこでお金を稼ぎつつ、人脈と、情報を集める方がいいか?

隠れ蓑もちょうどいいのがある。勇者様が大活躍!! という言い訳もできるからな。


「王家から離れるいい理由かもしれんな」


城で過ごす分は大したことはないんだが、いちいち殺気とか見張ってますって言うのを見逃すのも面倒なんだよな。

国としても勇者召喚できたって言いたいみたいな話はマノジルから聞いてたからな。

よし、この方向性で話をまとめてみるか。

姫さんとか特に、俺が城で大きな顔をしているのが嫌らしいし、そこら辺をつつけば、外出許可が出るだろう。


「ガウッ!!」


プシュ!!


「キャン!?」


ウルフが帰る道すがら襲ってきたが、普通に銃で撃退。

しかし、狼じゃなくて、ウルフはともかく、熊とかになるとハンドガンで致命傷は厳しいからな。


「……ハンドガン以外の武器をメインに使うためにも、やっぱり旅に出たほうがいいな」


銃というこの世界では破格の武器を姫さんとかに知られたら、必ず奪いに来る。

ま、自由に出し入れできるから、奪われることはないが、どう考えても政治的利用しようとするだろうしな。

それに抵抗するためにも、やっぱり俺独自のパイプが欲しい。


「というか、そもそも帰るのが目的だしな。遅かれ早かれって所だろう」


俺は今後の方針を決めて、ウルフの死体偽装をしてから城に戻る。

城は相変わらず静かで、俺がこっそり出ていることに気が付いてないのな。

それとも、分かっていて放置しているのかね?

ま、それはいいとして、朝まで休むか。

年寄りには徹夜は辛いからな……。



「……ということで、冒険者にでもなって、各国巡りとか、魔物退治の経験でも積もうかと思っているんだが、どう思う? マノジル殿?」

「ふむ。悪い話ではないと思うが、勇者殿たちと田中殿だけというのは無理ではないか? ルーメルとしての手札であるのだぞ?」

「やっぱりそう思うか?」

「ああ、間違っても逃げられては困るのだ。他国へ亡命などされてはかなわんからな」


翌朝、結城君たちが訓練の最中に、昨日考えていたことをマノジルと相談していたのだが、なかなか厳しそうだ。

まあ、戦力として確保したいだろうからな。逃げられたら目も当てられない。


「帰還方法を探すって言ってるし、それで俺たちは必ず戻ってくるってのは?」

「そもそも、田中殿は帰還方法を大人しく教えてもらえるとは思っていないだろう?」

「まあな」


そんなにあっさり帰してくれるなら、最初から帰しているわな。

あの姫さんの態度から見て、教えてもらえるとも思っていないわ。


「……ふぅむ。各国を巡るのはまだまだ先の話じゃな。今は出来て、多少の兵士、監視役を連れて、ルーメル国内で経験を稼ぐことぐらいか。それで、ルーメルの勇者だという名声を広めれば、各国への道も開けるかもしれんのう」

「ああ、既にルーメルの手札ですよってのをはっきりさせてからか」

「うむ。そうなれば、そうそう他国も亡命させようとは思わないはずだ。戦争になりかねないからな」

「ついでに、ルーメルの評価も上げられるってわけか」

「ああ、他国に赴き、魔物退治でもしてくれればルーメルとしてはありがたい話だろう」


ルーメルの勇者たちは優秀ですよってか?

ま、そういう理由でもないと、他国には出してもらえないだろうな。

信頼関係は最初からマイナスだし、地道に行くしかないか。


「よし、そこらへんが妥当だな。マノジル殿。監視はついても構わないから、冒険者ギルドで活動する話をしてくれ」

「うむ。わかった」



正直、多少ごねるかと思ったが、俺がいなくなるというのが案外喜ばれたのか、すんなりOKがでた。


「ということで、明日から、冒険者ギルドに行って冒険者活動をすることになった」

「「「ええー」」」


いきなり聞かされた結城君たちは驚いている。


「ま、経験を積むって言うのは悪いことじゃない。どうやら、冒険者ギルドの方にも貸しを作っておきたいって思惑もあるみたいだしな」


冒険者ギルドは国に所属するのではなく、冒険者ギルドという一組織として各国から認められていて、兵士たちの手のとどかないことを冒険者が代わりにやっているという側面もあるので、民というお客の取り合いになっているそうだ。

ま、兵士よりも冒険者の方が役に立つとか言われたら、国の面子丸つぶれだしな。

そういう思惑もあって、俺たちはルーメルからの代表ということで、冒険者をやることになったわけだ。


「やることは特に変わりない。まあ、仕事をこなして、お金がもらえるってことぐらいだな。誘拐されはしたが、ただ飯を食っているだけはそれで色々文句言われそうだし、そういう意味でもちょうどいいだろう」

「あー、なるほどですね。俺は賛成」

「私も賛成ですわ。自分で稼ぐというのは大事ですし」

「それに、ようやく、異世界の町を見学できるしねー」


とまあ、こんな感じで、結城君たちは前向きに冒険者になることを承諾してくれた。

さて、同行者は誰が来ることになるのやら。

俺の武器を説明できない馬鹿だと良いんだがな。






こうして、勇者たちと田中は冒険者となるためにギルドへと……。


ここでようやく定番の物語になってくるのかな?

まあ、どっかのRPGみたいに、100ゴールド渡されて、魔王退治に逝けと言われるよりは、遥かにマシな状況なのは間違いない。

いや、鬼畜だよね。あの設定。



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