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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第69射:警戒する帰還

警戒する帰還



Side:タダノリ・タナカ



「アキラー!! また一緒に冒険しようなー!! 今度は忘れないからー!!」

「おー!! 今度は忘れるなよー!!」

「ヒカルー!! 今度はまた違うものを食べにいこー!!」

「ラーリィー!! 楽しみにしてるー!!」

「ナデシコはあんまり考えすぎないようにねー!!」

「クコさんも、自分のことを考えて体をいたわってくださいねー!!」


そんなことを叫ぶいい大人、でもないか、若者たち。

これぞ青春って奴かもしれない。

そして、青春が通り過ぎたおっさんである俺と、サーディアはお互い頷いて、それで終わりだ。

また会えるなら会おう。

それだけだ。

これにて、俺たちのリテアの旅路、観光は終わりを告げたわけだ。



「さて、感傷に浸っている所悪いが、俺たちはルーメルに戻ったら戻ったで色々ある。そこは気を引き締めて置いてくれ。いいな?」


俺がそう言うと、全員頷く。

結城君たちだけでなく、リカルドたちもだ。


「今回のリテアの旅は大体一月半はかかっている。ルーメルの情勢がどう動いているか不明だ」


そう、既に一か月半ほどリテアで過ごしてきた。

この一か月半を短いとみるか、長いとみるかは人それぞれだが、事件が起きて収束するには十分な時間だ。

ルーメル王都貴族の闇ギルドを使った件の後始末もある程度できているはずと、考えたいが……。


「まずは、ルーメルに到着しても登城はしないで、冒険者ギルドのクォレンと会って情報を集める。バラバラで動くの今回無しだ。魔族を裏で手を引いている貴族もいることだしな」


事件が収まっていないかもしれないし、他の事件が起きている可能性も捨てきれない。

そんな中、バラバラで動くというのは各個撃破してくれと言わんばかりの話だ。

それは、結城君たちやリカルドたちも理解しているようで、口を挟むことはなかった。

さて、ルーメルはどうなっていることやらと、思いをはせながら、俺たちは馬車に揺られ、ルーメル王都を目指す。



そして、5日後。


「おー、見えてきたよー」

「久しぶりですわね。でも、意外ですわ。思ったより、ここが始まりの場所だという感覚があるのか、帰って来たという気持ちになりますわね」

「だなー。不思議だけど、そう思える」


俺たちは何事もなく無事、王都ルーメルを目前としていた。

帰り道に何かしら襲撃を受けることもなく、不思議なほど平和な帰り道でここまで来れたことに正直驚いている。

今まで、100%の確率で何か起こっていたからな。

それは、リカルドたちも実感しているのか……。


「今回は何もなくてよかったな」

「ええ。ですが、本来はこういう旅路が普通なのでは?」

「ですねー。私たちは別に人が通らない道を通っていたわけでもないですし、主要街道を進んでいたんですからー」


そうか、これが普通なのか。

俺は今回の外国への旅路で何かしら襲われるのが当たり前だと思っていたぞ。

この世界は物騒だという印象しかない。

とまあ、そんな話を聞いている内に、王都の門前へとたどり着く。

人が王都へ入るために並んでいて、以前と変わらない様子だ。

何か大きな事件などが起こった様子はない。

最悪、俺たちを見つけたとたん、兵士たちが集まって捕縛に掛かるぐらいのことはあり得るかと思っていたが、そんなことはないようで助かった。

襲われるなら、隣で並んでいる、一般入場客を巻き込んで撤退するしかないと思っていたからな。


「では、門番に説明をしてきます」


いつものように、リカルドが馬車から離れて、門番へ貴族枠での先行入場の手続きを始める。

その間に俺は、一般列に並んでいる、馬車を持っている商人らしき人物に声をかける。


「なあ、ちょっといいか?」

「はい? なんでございましょう? 貴族様にお見せできるような品物はございませんが?」


声をかけた商人は意外そうな顔をして返事をする。

ああ、そうか。俺たちは一応貴族枠だったな。

いや、俺以外は貴族枠だな。

俺は下男の扱いだったからな当初は。今では自由にやっているが。

と、そこはいい。俺が欲しいのは情報だ。


「いや、ちょっと話を聞きたいんだが、いいか?」


そう言って俺は銀貨を一枚渡す。


「これはこれは、私が知っていることでよろしければ」

「別に大したことじゃない。ほら、俺たちは今戻ってきたばかりでな。ここ一か月でルーメル王都は騒がしかったって話があっただろう?」

「ああ、随分ひどかったらしいですよ? 闇ギルドを冒険者ギルドが潰したらしいんですが、それで、闇ギルドを利用していたお貴族様たちがわかって、粛清で多くの貴族が爵位を剥奪されたとか……」

「意外と、厳しいな。てっきり罰金だけで済ませるかと思っていたが」

「いや、それがそうでもないんですよ。その爵位を剥奪された貴族様の処罰は軽いといわれたほどですからね」

「なんでだ?」

「どうやら、魔族と契約していたらしいのです」

「魔族と?」


となると、ガルツの帰り道で襲ってきたあいつか?

その依頼主が分かったってことか?


「ええ。とはいえ、文章、契約書だけでして、魔族本人は見つからなかったのです。なので、虚言ということになりまして、死刑には……となったようで」

「爵位を剥奪されただけになったのか」

「はい。本人はほかの魔族を探り捕まえるためだと言い張ったようで。勝手な行動を咎める形になっただけですね。まあ、爵位剥奪と同時に財産も没収されましたから、大掛かりなことはできないでしょうが」


……その貴族、気になるな。

魔族が見つからなかったのは、こっちで仕留めたからだ。

魔族のことはギルド長のクォレンに報告しているから、やはりまずは冒険者ギルドだな。


「ありがとう。これは追加でお礼だ。受け取ってくれ」

「いやいや、これはありがとうございます」


俺が銀貨を渡すとすぐに受け取って懐にしまい込む。

ま、商人ならこんなところか。


「で、話ついでだが、旦那は何の商品を扱っているんだ?」

「私は、食料品ですな。宿屋や酒場に卸しているんですよ」

「なるほどな。なにか今回はいいものはあったか?」

「いやー、先ほども言いましたが、貴族様に提供できるようなものはないですな。安宿や居酒屋の食料品なので……」

「いやいや、見ての通り、俺は下男でな、それなりに給金だけあってな。酒の一本でも売ってもらえないか?」

「ああ、なるほど。それでしたら……」


そう言って、男は馬車から酒を一本取り出してきた。


「ルーメルの大樹海の近くにある村で、作られた果実酒です。ちょっと値を張りますが、まあそう高い物でもありません」

「そうか。じゃ、それをもらおう」

「はい。お代は銀貨3枚ですね」


日本円で約3万近くの酒はたけーよ。

案外ぼったくりで言ったのか、それとも安いとはいえ、それなりなモノなのかは、俺には判断付かんから、とりあえず支払って、お酒を確保する。

そんなことをしている間に、リカルドが話を通してきたようで……。


「お待たせしました。馬車を進めてください」

「じゃあな。世話になった」

「いえいえ」


そう言って、商人と別れて、馬車に乗り込むとルクセン君が


「ねえ、田中さん。なんでお酒買ったの?」

「ん? 手土産を忘れてたからな」

「「「あ」」」


俺が普通に答えると、3人も忘れてたと言わんばかりに口を開ける。


「まあ、気にするな。別にお土産を渡さなきゃいけないような相手はいないからな。俺の場合はクォレンの口を割らせるためだ。高い酒だと遠慮するだろうしな。こういったのがいいと思っただけだ」


そう言って、焼き物のビンに入ったお酒を振る。

蓋の方からわずかにアルコールの香りがするから、間違いなく酒だろう。


「ついでに日持ちしないからな。この世界は。リテアで買ってきたとか言っても飲んでもらえんだろう」

「あー、そっか」

「お酒も腐るんでしたね」

「冷蔵庫は偉大な発明でしたわね」


そう言って3人は寂しい顔になる。

その気持ちは分かる。食材、食料が簡単に腐ってしまうこの世界は寂しいよな。

ただし、結城君の言っていることは間違いだ。

お酒は基本腐らない。

まあ、これはちゃんとした地球の技術があってのことだけどな。

それも、腐るか腐らないかの話で、味の劣化はするから、日持ちしないと答えた。

俺が買ったこの果実酒や、この世界の酒は未だに殺菌などの処理の概念がないし、高純度のアルコール、スピリッツ系やウォッカ系はないので、腐るだろう。

そう言う意味では、結城君の言葉はこの世界では間違っていない。


「で、俺の酒の説明はいいとして、リカルド。兵士の反応はどうだった?」

「何もありませんでした。普通に任務お疲れさまでした。と挨拶してきただけです。特に訝しいことはありませんでした」

「キシュア。ヨフィア。王都を見た感じ何か違和感はあるか?」

「正直に言って、ただ馬車から王都を眺めただけでは何ともいえません。少々王都の人々の声に耳を傾けてみないと」

「ですねー。というか、入った瞬間に空気が変わっているってわかるレベルはもうだめじゃないですか?」

「まあな。だが、それぐらいだと分かりやすくて助かる」


市民が目に見えて浮足立っているとかなれば、もうその場所はだめだ。

為政者の統治能力はなきに等しい。

大体、内乱が起こる国はそんな感じだな。

幸い今のルーメルにはそんな様子はない。

闇ギルドから始まった貴族のいざこざは、国民にはさほど影響を与えずに処理しているみたいだな。


「あ、ギルドが見えてきたよ」


ルクセン君の言葉で全員、荷台の方へ視線をむけ、その奥に佇む建物を見る。

確かに冒険者ギルドだ。


「特に変わりはないみたいだな」

「ですわね。普通に人が出入りしていますわ」

「懐かしいなー。……裏手で闇ギルドと戦った、人たちの治療をしたのを思い出したよ……」


そういえば、そんな事あったな。

まあ、あの時は魔物との戦いじゃなく、人と人の戦いだったし、結城君たちは後方で治療だけだったからな。

ん? ちょっとまて、ここでは治療をした実績があるってことだよな?


「嫌な事思い出すなよ」

「……あの時も救えなかった人はいました。でも、今度はきっとあの時よりももっと救えるはずですわ。だって、光さんがエクストラヒールを覚えましたから」

「えー? でも秘密じゃない? というか、再現できるかもわからないし」

「秘密にしたまま治療すればいい。ここなら別に治療してて怪しまれることはないし、奇異の目で見られることもない。ギルドの方の許可は、今からそこにいるクォレンと話してくるから問題ないだろう」


そう言ってギルドの受付を見ると、ルーメルのギルドマスターことクォレンが立っていた。


「俺がクォレンと話している間に、6人は下の冒険者相手に情報収集。お互いが見えない位置には動くなよ?」


俺がそう言うと全員が頷いたのを確認して、酒を片手にクォレンへと近づく。


「よぉ。土産だぞ」

「そうか、なら上で飲みながら話すか」


ということで、俺たちはルーメルの近況を調べることとなった。









久々のルーメル。

田中たちが召喚された地は今どうなっているのか?


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