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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第68射:旅先の最後の夜

旅先の最後の夜



Side:ヒカリ・アールス・ルクセン



「そっかー。これでお別れかー」

「なんか、ごめんね」


そう言って、僕たちと話をするのは、オーヴィクのパーティーのラーリィとクコさんだ。

ラーリィは寂しそうに、クコさんは申し訳なさそうに、こちらを見ている。


「まあ、また会えるし、記憶もその時には戻ってるよきっと」

「ええ。そうですわ。記憶が戻っていなくても、私たちがお友達なのには関係ありませんわ」

「うんうん。覚えていないけど、お友達だよね」

「そうね。でも、いつか思い出して、笑い話にでもしたいわ」

「あ、ちょっとまって、でも思い出したら、オーガにやられたケガとか思い出すかも? やっぱりやめておいた方がいいかもよ?」


僕たちのことは思い出してほしいけど、それで嫌なことを思い出すのはあれだよね。

しかもほぼ致命傷だったし。


「うっ、ヒカル、怖いこと言わないでよ」

「うーん。痛いことを思い出すのは嫌よねー。頭部に一撃もらってたみたいな話だし」

「いえ。普通に腕や足も折れてました」


怯えるラーリィとクコさんに撫子は更に訂正する。

頭に一撃を貰っていたのを修正しないだけマシかな?

顔面半分潰れてたから。


「いつ聞いても、その話は致命傷よね。本当よく助かったわよ」

「本当よね。治療の腕も確かなら、無理にルーメルに戻らなくてこっちで一緒に働かない?」

「そうね。別にヒカルたちなら、というか大歓迎よ。命を助けてもらったんだし、腕も確か。文句ないわね」


嬉しい誘いをしてくれるが、はいといえる状況でもない。

僕たちは帰るために色々国を回っているんだ。

だから、その提案を受けるわけにはいかいない。

うーん、なんといえば納得してくれるかなー?

そう考えていると、晃と話していたオーヴィクたちがこちらに来て……。


「無茶を言うなよ、ラーリィ。彼女たちだって目的があるんだ」

「そうだ。そこら辺は慮ってやれ」

「わかってるわよ。ただ言ってみただけよ」

「そうね。目的が達成されて、それで暇になれば一緒に冒険しましょう」

「そだな。それならいいよな。アキラ?」

「あ、ああ。その時は一緒にパーティー組むか」

「ああ」


いきなり話を振られた晃は、オーヴィクに辛うじて返事を返す。

そこで改めて、僕たちはこの世界の人間じゃないんだよなーと思い出す。

クコさんが言ったように、僕たちの目的が達成されたその時は、僕たちは地球に戻っているので、クコさんたちと冒険に出ることはできない。

なんで、こんなに面倒なんだろうなー。

と、僕のそういう気持ちはいいとして、そんな風に別れを惜しんでいると、上の階から田中さんが降りてきた。

どうやら、グランドマスターのお爺ちゃんとのお話は終わったようだ。


「よお。若者たち。別れを惜しんでいるか? これが今生の別れかもしれないからな」

「いや、何を物騒な事言ってるんですか」

「別に冗談でもないけどな。まあ、いいか。報酬はほれこの通り預かって来た。ここで話すのもなんだし、オーヴィクたちが紹介してくれたところで食事でもどうだ? 奢るぞ?」

「え? いや、自分たちの分は出しますよ」


生真面目なオーヴィクはそう言って遠慮するけど、田中さんはそういうのは気にも留めないで話を続ける。


「気にするな。別に俺たちの送別会ってだけでもないからな。オーヴィクたちの快癒祝いでもあるし、アロサやミコットも呼んでやらんと泣くぞ」

「「「あ」」」


アロサとミコット、助けた子供たちのことすっかり忘れてた。

ルルアさんがその後は引き受けてくれたから、安心しきってたっていうのもあるし、オーヴィクたちも記憶を無くしたりして色々あったしね。


「私たちは構いませんが、その、アロサとミコットはオーヴィクさんたちのことでショックを受けないでしょうか?」

「あー、私たちがナデシコたちと一緒に世話をした孤児院の子だっけ?」

「……うーん。子供たちにショックを与えるのはどうかしら?」

「とは言え。オーヴィク君たちはこれからもリテアで活動するんだろう? その時に知られるよりは、こうして場を整えていた方がいいんじゃないか?」

「まあ、そう言われるとそうですね。サーディアは覚えているんだし、いけるかな? どう思うサーディア?」

「タナカ殿の言う通りだと思う。子供たちも私たちのことは気にしているだろうから、顔を出すべきだろう。タナカ殿たちが出ていくのであればなおさらだ。記憶のことは正直に言って納得してもらうのがいいんじゃないか?」


サーディアさんのその意見で、オーヴィクたちは子供たちと会うことに決めた。

まあ、オーヴィクたちはお店で席を確保して、僕たちがアロサとミコットを迎えに行くことになった。

オーヴィクたちは覚えていないからね。そこら辺のことを事前に説明しておく必要もあるよね。



で、たどり着いた孤児院はキレイになっていた。

前訪れた時は、ボロボロだったのに。

そう思っていると不意に後ろから声が聞こえてくる。


「横領していたシボールはこうして孤児院をみすぼらしくして、頑張っていると喧伝していたようです」


振り返るとそこには立派な鎧を着こんだ兵士さんが立っていた。


「やあ、クラック殿」

「ご無沙汰しております。タナカ殿。そして勇者の皆さま方」


ん? どこかで会ったことがあったっけ?

僕は思い出せずに悩んでいると、撫子がボソッと教えてくれる。


「聖女様の傍で控えていた兵士の人ですよ」

「あー」


そういえばいた気がする。たぶん。

思い出せないけど、撫子がいうなら間違いなだろう。


「で、クラック殿はどうしてここに?」

「いえ、こちらの最高責任者は私になりましたので様子を見に来たのですよ。無論管理する人は別にいますが。それで、タナカ殿たちは、子供たちに会いにでも?」

「ああ。アロサとミコットにな。そろそろリテアを離れようと思って、別れの食事にでもと誘いに来た」

「そうですか。もう旅立たれますか。聖女ルルア様は皆さまと再びお会いできることを心待ちにしておりますが?」

「いや、それは遠慮しておこう。治療院で働くことになりそうだ。勇者がそれじゃだめだからな。次の機会でもあればということにしておくさ」

「そうですか。では、その時を楽しみにしておくとしましょう。アロサとミコットでしたか、少々お待ちください。連れてきます」


そう言って、クラックさんが孤児院の中へと入って行く。


「あれ? 僕たちも直接行った方がよくない?」

「いや、光、それはだめだよ。他の子を全員食事には連れていけないし」

「あー……」


2人だけ特別扱いって感じになるよね。

こっそりが必要なのか。

それがわかっていたから、クラックさんは1人で呼びにいったのか。


「ま、気にするなら、手土産でも渡せばいい。初めて会った時みたいに」

「そうですわね。それがいいですわ」


そんな相談をしている内に、クラックさんがアロサとミコットを連れて戻って来た。


「ヒカルたちじゃん」

「あー、おにいちゃんたちだー」


どうやらリカルドさんは誰が来たとかは伝えずにつれてきたみたいだ。


「では、この子たちを頼みます。私は今から他の子たちと食事の約束ができてしまいましてね。ああ、2人とも、タナカ殿たち今から話があるそうだ、時間を取らせる代わりに今日は御馳走してくれるそうだよ。楽しんでくるといい」

「やったー」

「え? でも……他の皆が」

「大丈夫。ちゃんとご飯はあるから。ミコットは少しアロサを見習うといい。彼女たちは君と食事がとりたいって言ってるだけだよ。別に他の子たちを仲間外れにしたいわけじゃないよ」

「あ、はい。じゃ、行ってきます」

「はい。行ってらっしゃい」


そう言って送り出してくれるリカルドさん。

口が上手い。

ああいう風に言えば罪悪感は減るんだなー。

そう思いつつ、僕たちはアロサとミコットを連れて店へと向かう。

その道中で、オーヴィクたちが記憶喪失になっていることを説明する。


「はー、記憶喪失かー。よくわからん」

「うん。オーヴィクお兄ちゃんやラーリィお姉ちゃんが私たちのこと忘れちゃったのかな? 会えば思い出してくれるかな?」


案の定というか、二人にはいまいちピンとこないみたいだ。

まあ、当然だよねー。

記憶喪失になった人なんて僕だって初めて見たし。

ショックを受けないか心配だなー。



「へー。本当に覚えてないんだ」

「アロサ君だったかな? ごめんな」

「ラーリィお姉ちゃんたちも?」

「うーん……。ごめん。思い出せない」

「ごめんね。サーディアは覚えているみたいだけど」

「ああ。二人とも元気そうだな」

「おう。サーディアのおっちゃんも元気そうでよかったよ」

「うん。サーディアおじさんは覚えていてくれたんだね」

「……おじさんか」

「「「あははは」」」

「「?」」


どうやら、一番ショックを受けたのはサーディアさんで、アロサとミコットはそこまでショックを受けなかったようだ。

いや、わざとああいう風にしたのかな?

ま、そのおかげでオーヴィクたちも緊張することなく、私たちも気を遣う事無く、リテアでの最後の食事を楽しむ。


「そっかー。ヒカルたちは、ルーメルに戻るんだな」

「おうちがあるなら。もどった方がいいよ」


意外と、二人はさばさばしているというか、帰る家があるってことは大事だと思ってくれたみたいだ。

まあ、実家でもないし、帰って喜んでくれる相手なんて、マノジルの爺ちゃんぐらいしかいないしね。

そんな感じですんなり、僕たちがリテアを離れることを受け入れてくれて、楽しい食事会は終わった。


「また、来てくれよなー」

「うん。また会おうねー」


そう言って、孤児院の前で手を振る二人に見送られながら、僕たちは宿屋に戻り、リテアで過ごす最後の夜を迎える。


「じゃ、また明日。朝は見送るよ」

「だな。出るときは声をかけてくれ」

「そうね。黙って出ていくのは無しよ」

「ええ。お友達だしね」


そう言って、オーヴィクたちも各々の部屋へと戻っていく。

それを見送ったあと、僕たち3人は部屋に集まってリテアでのことを振り返ることにした。

無論、田中さんたちにも許可をもらった。


「なんか、色々あったねー」

「最初は穏やかな旅路かと思ったのですが、違いましたね」

「ああ。なんか、一番色々やったんじゃないかって思う」


うん。本当にいろいろあった。

オーヴィクたちがオーガと戦っていたと思ったら、撫子はグランドマスターと戦うしさ。

そのあとは、教会に行って聖女様と会うし、オーガ退治に森の探索。

孤児院の現状もひどかったし、冒険者の死も目の当たりにした。

いや、本当に色々やったし経験した。


「まあ、戻ってからどうなるかわからないけどさ。とりあえず、ここでのことはいい経験だったかな。ほら、良い思い出もあれば悪い思い出もある。修学旅行って感じかな?」

「ああ、わかる。夜ぬけだして、バレて廊下で正座とかね」

「……そんなことしたのですか?」


そんな感じで、僕たちのリテア最後の夜は更けていくのだった……。






こうにぎやかに描いたものの、自分は廊下に立たされるとかはしたことありませんでした。

しかし、修学旅行で一人二人はこういうのがいたのは覚えている。


やつらには穏便に過ごすということはできなかったのだろうか?

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